ゲームフェイズ1:『10』運命の輪3
「お前……も、氷を出せる異能、なのか……」
「うん……四郎さんの異能見て、これはナイショにしとかなきゃ面倒なやつだなあ、って思ったんだけど……」
四郎がぽかんとする前で、むつは非常に気まずそうにしている。
……四郎は、『とりあえず、異能は見せてもらったわけだし……』とか何とか言いながら、すすすす……と、氷柱をひっこめた。バカは、『この氷柱って、引っ込むんだあ……』と、なんだか不思議なものを見た気分である。
そして。
「……お前、俺と何か関係があるか?その、親戚とか、か?」
「え?うーん、無いと思う……。いや、私だって、自分の親戚全員把握してるわけじゃ、無いと思うけど……」
四郎は、なんとなくまごまごしながらむつに聞いてみるのだが、むつには全く心当たりが無い様子である。
「……俺の娘だったり」
「しないよぉ……。私、両親ちゃんと居るもん……」
「そ、そうか。すまん。妙なことを聞いちまった……」
……四郎はいよいよ参ってきている様子であるが、それでも『どういうことだ……?つまり、ただの他人の空似ってことか……?』と頭を抱えつつ、冷静に考えようとはしている様子である。
バカは、海斗の方をチラッと見た。海斗はちょっと首を傾げて、ちょっと肩を竦めてみせてくれた。つまり、『分からない』という意味だ。
……本当に、むつの異能は何故、四郎の異能と同じなのだろうか……。
……ということで。
「あー……まあ、うん。そうか。俺と同じ異能……うーん……?」
四郎が首を傾げている一方、むつもまた、『なんで私の異能、四郎さんと似てるんだろうなあ……』と言って首を傾げている。2人がお互いに首を傾げ合っているものだから、バカと海斗としては、どうしていいものやら分からない!
「……まあ、とりあえず大広間に戻ろう。皆、もう戻ってきているかもしれないからな」
が、よく分からない状況でも、海斗は冷静であった。
「もし、むつさんが悪魔ではないということなら、他の誰かが悪魔だ、ということになる。或いは、『9番の腕輪の誰か』がどこかに潜んでいる可能性もある訳だ。それらも探さなきゃいけないとなると、どのみち、ここに籠っているのは非効率的だ」
海斗の言葉に、四郎は『お、おう。そうだな……』と納得し、そしてむつも、ちょっと緊張気味の顔で頷いた。
「さて……樺島。一旦、上に戻ったところで少し時間をくれ。お前と相談しておきたいことがある」
「ん?分かった!」
そしてバカも海斗の言葉に頷いて、『海斗が話したいことって、なんだろうなあ……』と首を傾げるのだった。
そうしてバカ達が大広間に戻ると、そこにはまだ、誰も戻ってきていなかった。
……バカ達はなんだかんだ、なぞなぞを解いただけなので、他のチームの方がそれなりにてこずっている、ということだろう。或いは、お喋りしているところかもしれない。何せ、デュオと七香とタヌキのチームも話すことがいっぱいあるだろうし、五右衛門とヤエもいっぱい話さなきゃいけないだろうし……。
「さて……じゃあ樺島。ちょっとこっちに来てくれ。あー、四郎さん、むつさん。すまないが、樺島をちょっと借りる」
「え、あ、うん。行ってらっしゃーい……」
早速、海斗がバカの腕を掴んで歩いていくのを、むつが首を傾げながら見送ってくれた。四郎はまだちょっと、思い悩んでいる様子だったが……まあ、大丈夫だろう。
さて。
「じゃあ樺島。一旦、情報の整理をしたい」
「あ、うん。いいぞ!」
海斗の真剣な眼差しを受け、バカは元気に返事をし……そして。
「……まず、四郎さんについてだ。あの、樺島。お前はもうすっかり四郎さんに懐いているようだが、四郎さんは一体、何だったんだ……?」
……バカは思い出した!『そういえば、まだ海斗に四郎のおっさんの正体、言ってなかった!』と!
そう!海斗は今の今まで……四郎のことを、『突然服を脱いだ謎のムキムキ。何故か樺島と急に仲良くなった』としか認識していなかったのである!
「あのな、四郎のおっさん、元天使なんだ!四郎のおっさんも、羽生えてた!事故で片っぽしかなくなってるけど!で、もう退役してるんだけどぉ……!」
「は……?」
なのでバカは、一生懸命説明し始めた。
四郎の名誉のためにも……ちゃんと説明しなければなるまい!
……ということで、四郎の説明をそれなりにちゃんと終えたバカに、海斗は何とも言えない顔を向けていた。
「……樺島。その、一応聞いておくが……天使、というものは、その、全員が全員、筋骨隆々なのか……?」
「きんこ……?あ、筋肉あるかってことか?そりゃ、ある天使も無い天使も居るよぉ。事務のおばちゃん達はそんなにムキムキじゃねえもん!」
海斗は、『そうか、そうだよな……たまたま、こういうタイプの天使と元天使が被っただけなんだよな……』とぶつぶつ呟いている。海斗は四郎がムキムキなのがあんまり好きじゃないのだろうか!バカは心配になってきた!
「まあ……そういうことなら、理解できた。お前が急に四郎さんと打ち解けた様子だったのも、四郎さんがお前や僕のことを疑う様子が無いことも、そういうことだったんだな」
「多分、そう!」
バカが胸を張って答えると、海斗は『まあ、少なくともお前が四郎さんを信用していることは分かった……』と頷いた。
「じゃあ、むつさんについてだが……彼女の異能について、お前はどれくらい知ってる?」
「ん?えーと……俺、むつの異能、まだ2回しか見てねえからなあ……」
バカは頑張って思い出してみるが、むつの異能について分かることは、『小さい氷の欠片をぽこんと出すことができていた』ということだけである。前回も今回も、同じようなかんじで異能を見せてくれたわけだが……。
「うーん……そうか」
すると海斗は少し考え込んで、そして、よし、と頷いた。
「まあ……僕は、四郎さんがさっき言っていたことは参考になるだろう、と考えているんだが、ちょっと聞いてくれるか」
そして、海斗の考えを教えてくれたのである!
「まず、『その人が悪魔かどうか』を調べるにあたって……『悪魔にしかできないはずのこと』をやっていたら、当然それは悪魔だということになる。これは間違いのないことだと思う」
海斗がそう言うのを聞いて、バカはふんふんと頷いた。
「悪魔にしかできないこと、というと……魂の操作、か。僕も正直、よく分かっていないんだが……まあ、デュオとタヌキのあれこれを考えると、分かりやすいんじゃないか?」
「つまり、別の人の体に別の人の魂が入ってる、って状態のことか?」
「そういうことだ。アレが起きていたら、当然、そこには悪魔の力が働いていることになる。その力を使っている者が居たら、それは間違いなく悪魔だ」
バカは『魂を入れ替えてる奴が居たら、そいつは悪魔っぽい!』と覚えた!
「だが、同時にそれは極めて珍しい状況でしかないと言える。少なくとも、悪魔側が少し気を付けていたらそれだけで隠せてしまうようなものだからな」
が、海斗は中々に難しい顔をしている。
「……例えばだが、お前の目の前に居る僕が、本当に『辰美開斗』だと、お前は確証を持てるか?」
「ん?海斗、海斗じゃないのか……?」
バカは海斗の周りをくるくる回って海斗をじっくり見つめてみたが、海斗は海斗だ。海斗に見える。つついてみたが、海斗だ。匂いも嗅いでみたが、海斗だ。間違いない!
「……今、お前は恐らく僕の体について確認したわけだが……僕の体に入っている悪魔ではないと、どうしたら言える?」
「えっ!?海斗、海斗じゃないのか!?一緒にポケモンやったよなあ!?覚えてないのか!?」
「勿論覚えている。僕の相棒はメガニウム。最近のお前の相棒はオーダイルだ」
バカはにっこにこである。海斗はタイプ相性関係無しに相棒を選んだらしいのだが、見事にバカに強い相棒を選んだのである!それがなんだか妙に嬉しいバカなのだった!
「それから、お前のパーティ、他はギャラドスとファイアローとピジョット、あとタイレーツとチルタリスだったか……?序盤の電気タイプ相手に苦戦していたよな……」
「うん!……やっぱり海斗だ!」
バカはにっこにこである。そう。バカはタイプなど考えずに仲間を選ぶので、色々偏りがちである。それを海斗に指摘されたのも覚えている!やっぱり海斗だ!
「……と、まあ、こういう風に、『本人しか知り得ないこと』を聞くのは、本人確認のための一つの手段だな。だが、もっと簡単かつ確実な方法がある」
海斗は一つ咳払いをすると、真剣な顔でバカを見つめて言った。
「異能を見ることだ」
「……どうせ、次の鐘が鳴るまでに使う機会はなさそうだから、今、使うぞ。『リプレイ』。対象は大広間の中央付近。タイミングは、樺島と四郎さんが『4』のアルカナルームに入りに行くために個室に入った10秒前からだ」
海斗がそう宣言すると、『リプレイ』が始まる。
……バカと四郎が『どどどどどど』と個室へ駆けこんでいくと、残された皆は何とも言えない顔でそれを見送った。
そして、エレベーターが動き出すと、海斗が頭を抱えてしゃがみ込み、デュオが海斗の肩を叩いて元気づけ、タヌキがぽんぽこと舞い踊って海斗を励まし……といった光景が再生される。
どうやら、バカ達が『4』のアルカナルームに入った後、こんな風になっていたらしい!バカはちょっぴり反省した!
「……まあ、この通り、僕は『リプレイ』を使える。つまり、少なくとも僕の魂は『辰美開斗』のものだと言える」
「すげえ!」
バカも流石に、理解した。
『異能とは魂に刻まれるもの』だ。だから、同一人物の異能は同一なのだ。同一人物だから、陽とデュオと天城の異能は一緒なのである!
「ということで……まあ、『見た目も異能もコピーする』という異能でもない限り、相手の顔を見て、異能を見れば、ほぼ確実に『本人である』と証明ができるだろう」
「うんうん!」
バカは『やっぱり海斗はすげえなあ』と拍手を送りつつ、『つまり、異能を見ればいいんだな!』と理解した。海斗も、バカが理解したことを理解したらしく、『分かってもらえてよかった』と、安堵のため息を吐いていた!
……そして。
「それから、『嘘を吐く必要が無いところで嘘を吐いた場合』に悪魔であることを疑う、というのは、まあ、有効ではないかと思う」
「うん?」
「少なくとも、『僕らの知らない、嘘を吐く理由がある』ということだからな。その『理由』が、悪魔であることに関わるものかもしれない。もっと別の、プライベートな理由があるのかもしれないが……まあ、『何も理由が見当たらない』のであれば、疑う価値はあると思う」
続いた海斗の言葉は、バカにはちょっと難しい。バカは、『つまり、どういうことだ……?』と首を傾げた。
「だから、むつさんが嘘を吐いているかどうか、しっかり確かめてみる必要があると思うが……目下のところは、異能について調べていけばいいんじゃないか?」
海斗はバカの無理解を悟って、早速、具体的な案を出してくれた。とても助かる。海斗はよい相棒だ。バカは海斗に感謝した!
「彼女の異能が本当に『氷の異能』ではなかったなら……それは、彼女がわざわざ嘘を吐いたことになる。逆に、もし本当に『氷の異能』なら、彼女と四郎さんの間に何か関係があるかもしれない。そこから嘘が何か、見えてくるかもしれない」
……バカは、ちょっと思う。
むつは多分、何か、嘘を吐いているのだ。
ただ、それはバカの勘でしかないし……そもそも、バカは、むつが本当に悪魔かどうかについては、『なんか違うんじゃねえかなあ……』と思うので、何とも言えない。
少なくとも、最初にむつと話した時……バカは、『あっ、むつっていい奴だなあ』と思ったのだ。悪魔ではない、と思いたいのだが……。
「まあ……まずは、彼女が『コピー』をしている可能性を疑ってみよう。僕はまだ、むつさんが四郎さんと同じ異能を『たまたま』持っているとは思っていない」
海斗は、一つため息を吐きつつ、ちら、とむつと四郎の方を見る。
むつと四郎は、2人で何か話しているらしい。まあ、異能が同じらしい者同士、話したいことは色々とあるのだろう。
「そういう訳で、樺島。お前の目標は……なんとかして、むつさんに異能を使わせてみることだ」
「……うん。分かった。やってみる!」
バカは、むつと四郎を見つめたまま、深く頷いた。
……バカはこのミッションを、何としてもやり遂げてみせる!




