ゲームフェイズ1:『10』運命の輪2
「……燕?」
むつのみならず、四郎もまた、バカを見て怪訝な顔をしている。
「うん。むつの友達なんだ」
バカは、四郎にそう説明した。……説明としてはあまりにもお粗末であるが、バカがあまりにも堂々としているので、四郎は『そ、そうか』とひとまずここでは詳しく聞かないことにしてくれたらしい。臨機応変に動いてくれる四郎なのである。
「……樺島さんって、何を、知ってるの?」
一方、『燕』の名前が出た途端、むつはバカを強く警戒し始めたようだ。睨まれつつ、バカは『何を、って言われてもなあ……』と、ちょっと困りながら考えて……。
「おっと。そいつは悪手だな。お嬢ちゃん、こういう時のやり取りってのは苦手か?」
そこへ四郎が割り込んできた。四郎もこういう時のやり取りが上手な方ではないのだろうが……少なくとも、四郎には、度胸があるし貫禄もある。
「いいか?俺はまだ、この氷柱をひっこめるつもりはねえ。俺の気分一つで、あんたの頭はぐちゃぐちゃだ」
「う……」
むつが半歩後ずさろうとすると、四郎はすかさず、むつのすぐ後ろの床から氷柱を生やした。……むつは、逃げ場を失ってまた、四郎を睨む。
「……あんたにできることは、『こっちの情報を聞き出そうとすること』じゃあねえ。『あんたが知る情報をこっちに話すこと』だ。分かったか?」
四郎がそう言えば、むつは少し迷ったように何か考え……しかし、話すことにしてくれたらしい。
「燕は……もう、居ないよ」
だが、むつの口から出てきた言葉は、そんなものだった。
「だって、燕は死んだんだもん」
「死んだ?」
「うん。……知らないの?」
「いや、うーん……すまない、知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らないんだが……僕達も、情報があまりに足りなくてな」
バカと四郎に任せておくと延々と話が進まない、と思ったらしい海斗が、むつの前に進み出た。バカも『海斗がやった方が多分、上手!』と分かっているので、さっさと海斗に場所を譲り渡す。
「僕達が知っていることは、『駒井燕』は『駒井つぐみ』の弟だ、ということと……このデスゲームに『駒井燕』が参加している、ということだけだ」
「このゲームに?燕が?でも、燕は……」
むつは只々、困惑していた。『駒井燕』のことは知っているが、彼がこのゲームに居る、ということは知らないらしい。
「そもそも、駒井燕は本当に死んだのか?」
更に海斗の質問が飛べば、むつはいよいよ、困惑しながら、答えた。
「……私も、詳しいことは知らないんだ。だから私、このデスゲームに参加したの」
むつの話を聞いて、バカは『うんうん』と頷く。むつは、確かにそうだった。燕の死の真相を知るために、このデスゲームに参加したのだった。それは前回、聞いた通りである。
「でも、燕はもう、死んでる。それは、間違いのないことで……」
むつはそう言って、視線を床に落とした。
「……あの、もし本当に、このゲームに燕が居るとしたら……燕が、悪魔、なのかも。だって、燕はもう死んだんだもん」
「そっかぁ……」
『燕はもう死んだんだもん』という言葉を零したむつは、どんな気持ちなのだろうか。
……むつは、もう燕のことを諦めているのだろうか。
「おいおい、その『燕』って奴が何なのか、俺は知らねえけどよ」
が、そこで出てきたのが四郎である。それはそうだ。四郎は燕のことを何も知らない!存在すら知らない!だって今回も『孔雀』は出てこなかったのだから!つまり、今、四郎だけ置いてけぼりなのである!
「このゲームにその『燕』って奴が追加で存在してる可能性があるのか?」
「あー……まあ、僕らが手に入れている事前の情報だと、そういうことになるんだが……」
海斗もまさか、『やり直しした結果、何故か孔雀が出てこなくなっちゃいました』という説明はできないらしい。よって、なんとも言えない話をするだけに留まってしまうのだが……。
「お前らの前情報なら、まあ、信用できる情報なんだろ?それがそうだっつうんなら、その『燕』って奴はゲーム開始前に死んだ可能性もあるんじゃねえか?」
「えええ……困るよぉ、死なれちゃ困るよぉ……」
四郎の言葉に、バカはおろおろするしかない。だが……バカは、知っている。『デスゲーム開始前に死んじゃった人』の存在を、やり直しの中で何度も見てきた。
そう……木星さんである!彼は、天城を殺そうとして自分が返り討ちにされる、ということを、バカのやり直しの間ずっと、繰り返していたのである!そのせいで、バカは木星さんの存在すら知らないまま、何度かやり直しをしていたのだ!
「あー……むつさん。どう思う?」
「そう言われても……そもそも、このゲームに燕が居る、っていうのがおかしいんじゃないかと思うけれど……」
むつは、燕の存在……或いは、生存自体に否定的であるらしい。まあ、彼女は彼女で、『駒井燕の死』をちゃんと確認しているのかもしれないから、当然といえば当然なのだが……。
「だが、『9』の腕輪のやつが居ねえ。このゲーム、『元々居たはずの奴が1人欠けてる』ってことは、確かなんだろうよ」
……それでも、四郎の言う通り。『孔雀』は居ないが、『穴』はある。本来、孔雀が居たはずのそこに、ぽっかりと1人分の穴が空いていて……それは確かに、『駒井燕がゲームに参加していたかもしれない可能性』として存在しているのだ。
「そうだな。『1人欠けている』ということは、間違いないだろう。そして、僕と樺島が前回参加したデスゲームでは、『ゲーム開始前に死ぬはずだった人』が確かに存在していたからな……。四郎さんの言うことも、十分にあり得るのではないかと思う」
海斗も四郎の話に乗れば、四郎も頷きつつ……『ところでお前ら、デスゲーム2回目なのかよ。大したもんだなあ……』と、ちょっと呆れたような顔をした!むつはちょっと、ビビッていた!
「ま、その『燕』のことは、いい。……要は、アレだろ?『9番の腕輪の参加者』が本当は存在していて、そいつが悪魔だ、っつう主張だろ?」
「うん。私は……本当に燕が居るとは思ってないけど、でも、『9番の腕輪の人』が居て、その人が悪魔だ、っていう考えには賛成する」
そうして、四郎とむつの意見はそういうところに落ち着いたらしい。四郎は、『成程な』と言って……そして。
「だがよ。俺はまだ、お前のことも疑ってるぜ」
やっぱり四郎はまだ見たことも無い孔雀より、むつのことを怪しんでいるらしい!
「お前が悪魔かそうじゃないかを証明する方法はあるか?」
「……そんなの、無いんじゃない?」
「成程な。まあ、そうだろうな。だからこそお前は、『自分以外の誰かが悪魔だ』っつう主張をするしかねえわけだ」
四郎はそんなことを言うと、ふと、嫌そうな顔をした。
「ま、このゲームはそういう趣旨なんだろうけどな。『自分が疑われないためには誰かを疑え』っつう……それだけなんだろうが」
四郎の言葉に、海斗が『まあ、そうだな』と頷いている。なのでバカも、『そうらしい!』と頷いておいた。
「俺は、まだあると思ってるぜ。『誰が悪魔か』を知る方法がよ」
「そうなのか!?」
そして、バカはよく分かっていないながらも、何やら四郎がすごいことを言っているらしいことだけは理解できたので驚く。
すると四郎は、ちょっと笑って、言った。
「悪魔は、魂を操れる。つまり……もし、魂を操ってる奴が居たら、そいつは悪魔だ」
「え、そうなの?」
尤も、こちらはむつにはなじみの無い話だったのか、ちょっと首を傾げているが……そもそも、悪魔のことを知っている人間はあまり居ないので、当然の反応である!
「ああ。……それから、もう1つ」
だが、四郎は動じなかった。
「嘘を吐く必要が無くなった時、それでも嘘を吐いている奴が悪魔だ」
……四郎の言葉に、むつは何も言わず、ただ、四郎を見つめ返している。
「弱い奴が嘘を吐くのは仕方のねえことだ。誰にだって、自分の身を守る権利がある。敵か味方か分からねえ奴らの居る中で、嘘を吐くなっつう方が無理筋だ」
四郎の話を、むつは静かに聞いている。バカも、大人しく聞いている!
「だが……『こいつは敵じゃない』と分かった上で、それでも嘘を吐くヤツが居たら、そりゃあ、そいつ自身が『敵』だっつうことだな」
バカは、『そういうもんかあ!』と感心していたのだが……海斗は『うーん』とちょっと難しい顔をしており、そして、むつは……。
「それ……結構、無茶苦茶じゃない?そもそも、『こいつは敵じゃない』って思えたかどうか、どうやって確認するの?」
むつは何やら、ロジカルに反論している。が、バカにはよく分からない話なので、バカは『そっかぁ!』と頷くばかりである。海斗には『お前、さては何も分かっていないな?』と気づかれた。その通りである!
だが。
「そりゃ、手っ取り早い方法がある」
そんな中、四郎はにやりと笑って、むつに一歩、近づいた。
「信用ってのは、一方通行のモンじゃねえ。双方が手の内晒してようやく築けるもんだ。で、それをしようとしねえ奴は、身を守るために嘘を吐いてる奴か、はたまた、こっちを騙すつもりで嘘を吐いてる奴……こっちと協力する気の無い奴だな」
……『信用』という、極めて暖かく力強いものの話をしているはずなのに、四郎の表情は非常に冷たい。
「『身を守るために嘘を吐く』ことは悪いことじゃねえ。だが、それをやられちゃ困るんだよ。なら……そいつを力づくで剥ぎ取るのが手っ取り早い!」
そして、四郎が異能を使うと……むつを取り囲むように、氷柱がめきめきと伸び始めたのである!
「さあ、お前の異能を見せろ。5秒以内だ。それができないなら、お前を殺す。俺は待たねえぞ。そっちのバカとは違って、俺は甘くねえからな」
……結局のところ、四郎の交渉術はこういうタイプらしい!バカは、『ひええ!』と悲鳴を上げた!
「5、4、3……」
そうして四郎がカウントダウンしていくと……。
「……あーもう、分かったよ!はい!」
むつは遂に、異能を使った。
だが、当然それは……ぽふん、と現れた、氷の欠片である。
「……は?」
四郎が、目を丸くしている。
「……私も、氷の異能なんだよ」
むつは、『だから言いたくなかったのに』と言いつつ、ちょっとむくれている。
「ほー……?」
……四郎は、目を丸くしたまま、固まってしまっている!
やっぱりこれは、四郎にもよく分からない状況であるらしい!




