ゲームフェイズ1:『10』運命の輪1
なんか回ってる。なんか、回ってる!
バカは『なんか回ってる!』と叫んで、それから、その回ってる何かを観察しに動く。
「んだこれ。ルーレットか?」
「縦のルーレットってあんまり聞かないけれど……あ、でも、赤い矢印があるのって、これ、『止まった時にここに書いてあった内容が適用される』みたいなかんじ、なのかな……?」
「景品が当たる、って訳じゃあねえんだろうな、きっと……」
四郎とむつがそんな話をしているのを横に聞きながら、バカはその優れ過ぎた動体視力をもってして、回り続ける円盤を、じっ、と見つめる。
……円盤は、高速で回転している。それ故に、常人には何が書いてあるのかなど、読めはしないだろう。だが……バカには読める!
「……蛇の絵と、脚が長い犬みたいなの!あと、エジプトの、あの、ピラミッドの横にいるやつみたいなの……?」
「は?」
「なんか、描いてあるんだよぉ……。でも、何の絵なのかわかんねえよぉ……」
……バカが『俺がバカなばっかりに!』と嘆くが、海斗が『絵に描いてみろ』と、ポケットからペンと手帳を取り出して渡してくれた。なのでバカは、見たものを絵に描いて……。
「……お前、絵、下手だな……」
「そんなあ!」
海斗にあんまりなことを言われてしまって、バカは天を仰いだ!ひどい!せっかく描いたのに!
そんなバカと海斗を横目に、四郎とむつは顔を見合わせる。
「……エジプトのピラミッドの横にいるやつ、って、スフィンクスのことじゃない?」
「あっ!多分それぇ!」
むつに言われて、バカは大喜びした!バカも流石に、『スフィンクス』という名前は聞いたことがあるし、知っている!
「蛇、は蛇なんだろうけどよぉ……脚が長い犬、って、なんだよおい」
「ええー、わかんねえよぉ……なんか、人間みたいに、スラッとしてんだよぉ……」
「余計に分かんねえよ、なんだそりゃ」
四郎には呆れられてしまったが、バカは一生懸命である。一生懸命ではあるが、だからと言って伝わるわけではない!
「犬……アヌビス神、か?だとすると蛇が……何だろうな。エジプト神話はあまり詳しくなくて……」
「お前、十分詳しいぞ。なんだ、アヌビスって」
「死の審判を下す神だ。犬のような頭部を持っているはずだから、樺島の証言と合致する」
「死……まあ、触らぬ神に何とやら、ってところか……」
海斗と四郎の会話を聞きながら、バカは『うーん、わかんない!』と考えることを諦めた。適材適所!
「……よく分からないけれど、じゃあ、この円盤、3等分されてて、3つの絵が描いてある、ってかんじ、なんだよね?」
「うん!」
が、一応、むつには必要なところが伝わったらしい。四郎と海斗も『まあ、そういうことか……』とそこだけ納得してくれた。よかった!
「ま、そういうことならこの円盤を止めろ、ってことなんだろうけどな……。どこで止めるのがマシだ?」
四郎の問いに、むつと海斗が、四郎と顔を見合わせる。
「ええー……蛇は絶対ヤバいやつだよ、きっと……」
「スラッとした犬ってのも気味が悪いだろうが」
「そもそもアヌビス神は死を司る神だ。止めた途端にゲームオーバー、という可能性すらあるぞ」
「じゃあスフィンクス?にしとくか?俺、これなら多分、見て止められるぞ!」
他3人の相談に割り込みつつ、バカは『いつでもやれる!』とにこにこ顔で準備運動を始めていた。バカは元気なのである!
……そして。
「じゃあ、樺島。スフィンクスのところで止めろ」
「それでいいのぉ!?」
3人の出した結論に、バカはびっくりしたのであった!
だが。
「さっきも言ったが、アヌビス神は死を司る神だ。何が出るか分からない。そして蛇は、そもそも何を指すのかすら僕にはわからない。つまり……スフィンクスが唯一、何が来るか概ね予想できる、ということだ」
「要は、殴って済みそうなのがソレなんだとよ」
「そっかぁ!ならそれでいいやぁ!」
殴って済むならしょうがない!バカは『いくぞー!』と、その動体視力とパワーで、回る円盤を『ガシイ!』と止めたのだった!
……すると。
「わ、わ、何か出てきた!」
もくもく、と煙が立ち込め、視界が悪くなっていく。バカはその煙を凄まじい肺活量を以てして、吹いて払ったのだが、そうすると『あの、ちょっと煙らせないと先進めないんで待っててもらっていいですか?』とばかり、より一層、煙がもくもくし始めたので、バカは何度目かで煙を吹き払うのを止めた。
……そうして、煙がもくもくしているのを、のんびり眺めて待っていると……。
「……海のものだが鰭は無い。爪も鱗も骨も無い。腕はあれども」
「よし!ぶん殴るぞ!」
「えっ」
……何かが出てきたので、バカは『ぶん殴って解決できそうなやつ!』と意気込み、身構えたのだった!
「あー……まあ、ちょっと落ち着け」
が、そんなバカを留めたのは四郎である。
「いいか?何かあっても殴ったら済みそうだがよぉ……それより先に、『正規の方法』ってのも試してみないとな」
四郎がそう言うと、スフィンクスはちょっと希望を取り戻したような顔をした。さっきまでバカが怖かったらしい。
「アレか?なぞなぞか?」
「なぞなぞである」
「なぞなぞだってよ」
「そっかぁ!なぞなぞかぁ!」
バカは、『なぞなぞだったら殴らなくても大丈夫かぁ!』とにこにこしてその場に体育座りした。『敵意は無い!』という意思表示である!
……だが。
「では……海のものだが鰭は無い。爪も鱗も骨も無い。腕はあれども瞳は無い。泳ぎはしても這いはしない。さて、これは?」
スフィンクスがそう言ったのを聞いて、バカは、眉根を寄せつつ一生懸命考えて……。
「……わかんねえ!」
嘆いた!バカには難しすぎるなぞなぞである!
ということで。
「あー……海の生き物で、鰭も爪も鱗も骨も無くて、這うことはしない……だあ……?」
「お魚じゃないよね。鱗が無いんだし……あ、そもそも、骨が無いのかぁ……うーん、何だろ」
「腕はある、というのが大きなヒントのように思う。腕がある海の生き物は限られるはずだ」
バカは戦力外通告を受け、しょんぼりと部屋の隅っこで腕立て伏せをしていることにした。その間、四郎とむつと海斗が頑張って考えてくれている。
「イカ……か?」
「えーと、イカタコは骨、あったと思うよ。軟骨だけど……」
「……貝、はどうだろうか。殻は骨ではない、が……腕は無いか」
「そもそも、貝って目があるよね」
「貝って目ェあるのぉ!?」
バカがびっくりして声を上げると、四郎が『お前はちょっと黙ってろ!』と怒鳴り返してきたので、バカは『分かったぁ!』と、また大人しく腕立て伏せを始めた!
……そうして、バカが腕立てを終え、次の腹筋運動で暴風を巻き起こしてはまた四郎が怒鳴り、屈伸で床をめり込ませ始めたら今度は海斗が『床を大事にしろ!』と怒鳴り、そして壁を這い回り始めたら、四郎が『大人しくしてろ!このバカ!』と拳骨を落としてきた!痛い!
が、バカがしょんぼりと体育座りに戻って少しして……むつが閃いたらしい!
「あっ!クラゲ!クラゲは条件に当てはまるんじゃないかな!」
「ん、そうか……そうだな。確かにそうだ。おい、スフィンクス。答えは『クラゲ』か?」
むつが出した答えを四郎がすぐスフィンクスに告げる。すると……。
「よかろう」
スフィンクスは一つ頷いて、ひょこ、とカードを出してきた。そして、どろん、と煙になって消えてしまった!バカは、『消えた!すげえ!』とびっくりしつつ、残った煙を『この煙吸ったら、スフィンクス吸ったことになんのかなあ……』と思いつつ見つめるのだった!
「さーて。これでこの部屋はいいか。さっさと戻るぞ。時間食っちまったからな」
四郎はそう言って、カードを拾い上げると……ぴたり、と足を止めた。
「ああ、だが1つ、先に聞きたいことがある」
バカは、『ああ、来るぞ……』と、ちょっと緊張しながら、四郎を見つめ、そして戸惑うむつのことも見つめて……。
「むつ。お前、人間か?」
……そんな中、四郎はそう、切り出したのである!
バカは、『四郎のおっさん、ストレートに聞くなあ!』と、心底びっくりした!
「え?人間か、って……どういう、こと?」
「そのまんまの意味だ」
むつは戸惑っていたが、四郎は『さて、どう詰めるか』と言わんばかりの顔で、むつに一歩、詰め寄る。
「お前、人間に化けた悪魔なんじゃねえか?」
「そんなこと言われても……」
むつは困っている。困った顔で、バカと海斗の方をちら、と見て、多分、助けを求めている!
だが、バカだって助けを求められても困るのだ。バカも四郎と同じことを、むつに聞きたいのだから。
「あの、むつ。むつは悪魔なのか?昇格試験やってるとこなのか?」
「昇格試験!?えっ!?何の話!?悪魔って昇格するの!?」
……が、バカも一緒になってむつに質問してみても、むつは只々、困惑するばかりである。
この調子だと、バカとしては困ってしまう。四郎も困ってしまって、『どうしたもんか』という顔である。……四郎も案外、考え無しに動くタイプであるらしい!バカは、四郎にまたちょっぴり親近感を抱いた!
「あー……俺としては、お前を殺すことに躊躇はねえぞ」
「えっ」
「えっ!?四郎のおっさん、むつのこと殺しちゃうのか!?」
バカは慌てて四郎を見るが、四郎は『おう』などと返事をしてくるばかりである!……殺しちゃうつもりらしい!
「樺島んとこの5人組が全員悪魔じゃねえ、って仮定なら……一番怪しいのはお前だからなぁ!」
四郎はそう言うと、むつの頭上に巨大な氷柱を生み出してしまった。……1周目で、七香を圧し潰そうとした、例のあの氷柱である!
その氷の鋭い切っ先が自分の脳天に添えられていることに、むつは青ざめた。今、むつの命は四郎の手の中にある。四郎がやろうと思えば、今すぐにでも、むつは死んでしまうだろう。
「あの、俺、むつは悪魔じゃないと思うんだけど……」
……なので、バカはそう、言い出すことにした。
今回のデスゲーム、なんとなくひっかかるものがある。ここでこのままむつを殺されてしまっては、今回も『失敗』だ。
……情報が、欲しいのだ。『次』に繋がるような、確かな情報が。
だからバカは……真っ直ぐに、むつに聞いてしまうことにした。
「なあ、むつ。今、燕ってどこにいるんだ?その……燕が、悪魔、なんじゃないか?」
……むつの目が、揺れた。




