ゲームフェイズ1:『4』皇帝
「おい樺島ァ!なんで脱いできた!?」
「ごめぇえええん!なんか、なんか、脱げちゃってぇええええ!」
タヌキが『あああああああああ!』となっている横では、海斗がさっとヤエとむつの前に立ち、彼女らの視界にバカと四郎が入らないようにしながら怒っている!でも怒られたってしょうがないのだ!服はもう、爆散してしまったのだから!
「海斗ぉ!服貸してぇ!」
「サイズが合う訳ないだろうがこのバカ!」
海斗はそんなことを言いながら、自分の上着を脱いで、ぺいっ!とバカに投げつけてくれた。
が、当然、バカの腕の太さは海斗の腕の太さと全く違うので、袖に腕が通らない。当然である。
海斗は『貸してやるから下半身だけでももう少しは隠せ!』と言ってくれたので、バカはありがたく、海斗の上着をもそもそと腰巻にした。
「……で、なんで2人とも、そんな格好に……?」
デュオに聞かれて、バカと四郎は顔を見合わせる。
2人とも、羽はもうしまってあるのだが、半裸はしまえていない。そして、『羽を出したらこうなりました』と言っちゃうのはまずいだろう!
……ということで。
「気合いで……」
「気合いで……」
「気合いで……?」
バカと四郎は、しょんぼりしながら、『気合い、出しすぎちゃったから……』と反省するのだった!当然、周囲は困惑しているが!
さて。
「あー……このままだと、四郎さんはまだしも、樺島は困る、な……?」
「俺はこのまんまでもいいんだけどぉ……」
「困れ」
バカは海斗に怒られてしまった。『困れ』と言われちゃったので、困ることにする。はっけよーい、こまった!こまった!
「そうよ!そんな恰好じゃ、周りが嫌なのよッ!んもうッ!それにしてもムッキムキねえアンタ達!」
一方、五右衛門はそんなことを言いながら、ばしばし、とバカと四郎の背中を叩いている。とはいいつつ、『どう鍛えたらこうなんの?』と、ちょっと目をキラキラさせているので、そんなに嫌ではないのだろう……。
とはいえ、女子達は困っているだろう!と、バカは心配になったが……。
「ヤエちゃん、むつちゃん、大丈夫ぅ?」
「あ、はい。部活でよく、脱いでる男子、居たし……ここまで鍛えてる人は、居なかったです、けど……」
「あ、あー……うーん、まあ、別に、ちょっと目のやり場に困るけど、それだけ、かなあ……?」
「……あ、そーお?ならいいんだけど……」
……意外と、女子は強かった。五右衛門が戸惑うほどである。
が。
「見苦しいわ」
……一番、この状況が嫌なのは、七香であったらしい!バカは『そんなあ!』と嘆いた!
七香に『見苦しい』と断じられてしまったバカと四郎であるので、ここはひとつ、服が欲しい。
だが、謎収納を持っているタヌキも、服は持っていないらしいので……。
「……服がありそうな部屋、無いかな。えーと、『4』の『皇帝』とかはどうだろう……。他には、『愚者』『魔術師』『女教皇』『女帝』『教皇』あたりかな……?他は、『隠者』とか『死神』とか……?」
デュオが指折り数えて教えてくれる横で、四郎が『よく覚えてんなあ……』と感心していた。そうなのだ。デュオはすごい奴なのだ!
「それ、服ってより、服を着た誰かが居そうじゃなーい……?」
「うん。まあ……服を着た誰かが居るなら、交渉次第で服を借りられるかもしれないから……」
五右衛門の疑問に、デュオはそう答えて……それから、何とも言えない笑みをバカに向けてきた。まあ、『力づくで剥ぎ取ってこい』ということなのだろうが、バカには意味が分からないので、『分かった!交渉してみる!』と意気込むバカであった。
「ま、いいわ。もし行ってくるっていうんだったら、チャチャッと行ってきちゃいなさいよぉ……。こっちもチーム分けはし直さなきゃいけないんだし……」
そうして、五右衛門が『さっさと行ってらっしゃい!』とやってくれたので、バカはにこにこ頷いて……四郎の腕を、ガシイ!と掴んだ!
「分かった!よし!四郎のおっさん!行くぞー!」
「ま、待て。行くったって、お前と俺は別々に行かねえと腕輪の合計が……」
「あっ、そうだった!海斗ぉー!腕輪、預けとくー!」
「分かった分かった。さっさと行ってこい。そして服を手に入れて、早く僕の上着を返してくれ」
……そして、バカは腕輪を『バキイ!』と引き千切り、海斗に『ほい』と渡すと、海斗は『行ってらっしゃい』とばかり手を振ってくれたので、バカはニコニコテケテケと、四郎を引っ張って『4』の部屋へと向かうのだった!
……そして。
「たのもー!」
バカは、『4』のドアを『バアン!』と開けた。勢いよく開け過ぎたため、ドアの蝶番が逝った。
「なっ……何者だ!」
そして、部屋の中に居た『皇帝』は……バカと、後ろから『おいおいそんなに勢いよくドアを開けるモンじゃねえぞ』とやってきた四郎を見つけた。
「……ほ、本当に何者なのだ!?」
そう。
半裸のムキムキ2人組を、である。
……皇帝は、『頭が高い』などと言うことすらできず、ただ、ぽかん、と、バカと四郎を見つめた。それはそうである。何せ、半裸のムキムキ2人組である。およそ、デスゲーム中で見ることはほぼ無いであろう光景が、このデスゲームに存在している。その事実は、皇帝を大いに混乱させた!
が、バカと四郎は気にせず、『この絨毯、服にできねえかなあ』『流石に絨毯は駄目だろ。くそ、他に布はねえのか』などとやっている!全く、無意味!皇帝の混乱など、無意味!
「……お、おい。そちらの者達よ……」
なので、皇帝は、そっと……皇帝にしてはありえない程に遠慮がちに、声を掛けてきた。
「ああ?んだよ。こっちは服探すのに忙しいんだ。後にしてくれ」
「あっ、もしかして、服か!?服、くれんのか!?助かる!ありがとう!」
……そして、四郎には睨まれ、バカには『ありがとう!』と満面の笑みでお礼を言われてしまい……。
「……これを持っていくといい。そして、さっさと出ていけ……」
遂に皇帝は、自分のマントを外して、カードを添えると、そっと渡してくれたのであった!優しい!
ということで。
「ただいまー!」
「おかえキャーッ!」
「半裸にマント!余計に酷いじゃないのよォ!」
……すさまじい速度で帰ってきたバカ達は……怒られた!折角服を着たのに!
「樺島。その……いや、何でもない……」
「うん?そっかぁ?何でもないんだったらいいんだけどさあ……」
皇帝から貰ったマントは、バカが着ることにした。なぜならば、バカの方が露出が多いからである。そして……。
「あっ!そうだ!海斗ぉ!上着、返す!」
海斗に上着を返すためだ!バカとしては、自分の相棒がちょっと肌寒い思いをしているのはかわいそうで嫌なのだ!
「ああ……うん。その、樺島……もうちょっとマシな服は無かったのか?」
「ええー……人がくれたモンに文句言っちゃ駄目だろぉ……」
「……本当にもらってきたのか。あ、いや、いい。何も言わなくていい。どうせ、『皇帝』も、お前の勢いに気圧されてしまったんだろうし……」
海斗は、返却された上着に袖を通しながら、『妙に温かいな……』と、バカの体温の残ったそれに何とも言えない顔をした。
「とはいえ、下着だけの恰好にマントは……駄目だろう。こう、駄目だろう。駄目だ。もうちょっとなんとかしてこい」
「そ、そっかぁ……?」
「着方をなんとかすればもうちょい何とかなりそうですけどねぇー。五右衛門さーん、何とかなりません?」
「ううーん……できなくはないけど、一応ここ、デスゲームでしょお?動いても崩れないような状態にする、ってなると、結構難しいのよねえー……」
バカは、『駄目かなあ』と思うのだが、海斗に『七香さんじゃないが、やっぱりちょっと見苦しいぞ……』と言われてしまっては、やっぱりなんとかしなければならないのである。
ということで。
「他に服くれそうな人が居そうな部屋、ねえかなあ……」
「えーと……近いところだと、『5』が『教皇』だね。彼も服を着ているんじゃないかな」
「あの、デュオさん?本当にいいんですか?樺島さんを追い剥ぎにしようとしてません?」
「いいんじゃないかな。どうせ、このデスゲームの『スタッフ側』は全員悪魔なんだろうし……」
デュオに教えてもらって、バカは『そういえば、5番の部屋……五右衛門に嫌なこと言う奴が居たなあ』とぼんやり思い出す。……あいつはちょっと、嫌な奴だ。嫌な奴だが……頼めば、服をくれるだろうか。バカはちょっぴり心配になってきた!
そうしてバカが『大丈夫かなあ』とやっている横で、四郎はもっと手前の方を心配している。
「おいおい、なんだ?『5』の部屋に入るってか?ってことは、なんだ?俺が海斗と組むか、五右衛門が1人で入るか、はたまたデュオとタヌキに頼むか、ってことになるのか?」
そう。バカは『4の次は5!』ぐらいに考えているが、5番のアルカナルームに入るには、当然、腕輪の数字の合計を『5』にしなければならないのだが……。
「あ、いや、樺島君が居るからそれは必要ないと思うよ」
「海斗ぉ!腕輪、貸してぇ!」
「しょうがないな。ほら」
……バカは、海斗の腕から『バキイ!』と腕輪をもぎ取った。慣れてきたので、完璧なもぎりである!今のバカなら、女子の腕からも躊躇なく腕輪を引き千切れるかもしれない!
「こういうことだよ。じゃあ、俺達は引き続き情報共有してるから、そっちは行ってきていいよ」
「お、おお……」
「よかったぁー!じゃあ四郎のおっさん!行こうぜ!」
「ほ、本当にいいのか?うん……」
そうして、バカは戸惑う四郎の手を引っ張り、テケテケと元気に駆けていくのであった!
……教皇の運命や、如何に!




