ゲームフェイズ1:『14』節制3
「昇格……?」
「おう。悪魔にも昇格試験があるらしい。……俺も、特別警備隊に所属してた時には、時々こういう知識も使ってたんだがな。まあ、知らない奴の方が多いだろ」
バカは、『ほええ』とため息を漏らしながら……悪魔の『昇格』に思いを馳せる。
やっぱり悪魔も、お給料が上がったり下がったりするのだろうか。……デスゲーム運営サポートは薄給だと牡牛の悪魔が嘆いていたが、牡牛の悪魔も昇格していたら、もっとお給料を貰えていたのだろうか!
「ほら、天使の資格検定試験みてえなもんだ」
「あっ!それなら分かる!」
が、四郎の説明は分かりやすい。バカは『それなら知ってるぞ!輪っかだろ!』と大いににこにこした。
……天使は、数々の資格を取得することによって輪っかを貰うことができる。現場作業中には、資格保有者であることを明示するため、皆、頭の上に輪っかを浮かべておくものなのだ!『主任現場監督智天使』の資格保有者が居ないと、現場が大変なのである!
「悪魔もそういうモンだからな。あいつらはあいつらで、魂の取り扱いできる範囲とかが級によって違うんだとよ」
「ほええー……大変だなあ」
バカは『悪魔も色々あるんだなあ』と頷く。尚、バカ自身は簡単と言われる『スカウト大天使』の資格すらまだ取得できていない『輪っか無し』なので、悪魔にちょっぴり尊敬の念すら抱きそうである!
「ま、その悪魔の昇格試験ってのは、こういうデスゲームの中で行われることもあるらしい。……参加者として入って、そこで一定の条件をクリアすれば昇格、ってことだ」
バカは、うんうん、と頷いた。
……そして、『あれ?ってことは、もしかして木星さんって、悪魔になるためにデスゲームに参加してたのかなあ……』と、ちょっと思いを馳せた。
前回デスゲームでの木星さんは、『悪魔にならないか』と悪魔にスカウトされてデスゲームデザインに参加し、デスゲームの参加者としても動いていたが……あれも、悪魔の昇格試験の一種だったのかもしれない。まあ、木星さんについては、詐欺だったわけだが……。
「で、このデスゲームで、悪魔の昇格の条件は……『22枚のカードを集めること』らしい」
「わあ」
……そして、バカはいよいよ、四郎からこの情報を聞くことができた。
『悪魔は、22枚のカードを集めようとしている』。
これを四郎が口走っていたことがあったが……それはどうやら、こういうことだったらしいのだ!
「そんなの、よく調べたなあ……!」
バカが『ほええ』とびっくりしていると、四郎はにやりと笑った。
「へへへ。ま、元々は『特別警備隊』の所属だしな。ツテは色々ある。それに……元天使が悪魔とつるんじゃいけねえなんてことはねえだろ?俺にも飲み友達の悪魔がいんのよ」
成程。どうやら、四郎はとんでもない情報通らしい!悪魔すら情報源にしてしまっているところを聞くに、相当なやり手である!
「分かる!俺も、とんかつ揚げてくれる悪魔の仲間が居る!」
「とんかつ……?」
「とんかつ!あっ、あいつ、から揚げも上手だぞ!揚げ物全般、めっちゃ上手いぞ!」
そしてバカは、今日もキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の社員食堂で働いているであろうとんかつの悪魔に思いを馳せる。彼はデスゲーム運営の職を正式に辞して、いよいよ本格的にとんかつの悪魔になろうとしているが……思い出したら、お腹が空いてきた!
「ま、そういう訳だ。俺は何としても、ここの悪魔をとっちめて……復讐してやる。悪いが、止めてくれるなよ、樺島」
さて。
そうして、四郎の事情は分かった。
分かっちゃった以上……四郎を止めたくはないなあ、と思うバカなのだが……同時に、『でも、止めなきゃいけない』とも、思う。
だが……バカはバカなので、そこら辺を説明することができない!
否、頑張れば説明できるのだろうが、それには多大なる時間がかかる!少なくとも、ゲーム開始前の説明タイムよりも長い時間がかかると見込まれる!
そして何より……上手には、できないだろう。
それが分かっているから、バカは前を向き、四郎を真っ直ぐ見つめた。
「あのな、四郎のおっさん。俺、このデスゲームには、ちゃんと仕事で派遣されて来たんだ」
「ん、そうか。まあ、そうだろうな。……で?お前はどこの所属だ?」
バカの告白にも、四郎は特に驚かない。まあ、天使の事情が分かっている人なので、当然である!
「うん!キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部!」
「……そうか」
が、バカの職場を聞いた四郎は『マジかよ……』という顔になってしまった!天使ですらこういう顔をしちゃう、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部!
「あー……うん、まあ、じゃあ、アレか?このデスゲームの解体がお前の目的か?だったら共闘できそうだな」
「ううん、それだけじゃないんだ」
だが、バカはここで止まれない。バカは……ここで何としても、バカが四郎を捕まえて……頭脳担当に繋がなければ!
「俺達……友達の弟を、探しに来たんだ。だから、四郎のおっさんも協力してくれ!」
ということで。
「それで、海斗と一緒にここに来て……で、俺が探してる奴が、デュオの彼女の弟でぇ……あ、それで、タヌキがデュオで、七香はこれからタヌキの恋人になるかもしれない人で……」
「ま、待て待て待て待て待て!何の話だ!全く分かんねえぞ!?」
バカは説明を試みた。そして一往復で四郎は音を上げてしまった!『お前、説明下手だなあ!?』とのことだが、まったくもってその通りなのである。バカはしょんぼりするしかない!
「あの……海斗は俺より頭いいんだ。説明も上手で、事情もちゃんと、分かってるんだ。それから、デュオもめっちゃ頭いい。七香も頭いいし、タヌキは……タヌキは、なんか、めっちゃいい奴なんだ!あと、ふわふわなんだ!」
バカは、『タヌキ!ふわふわで!すっげえ触り心地いい!』と必死にアピールした。アピールのしどころが、下手!
「だから、俺達に協力してくれねえかなあ!その方が絶対いいってぇ!な!な!」
四郎は、『ああ、こいつはこいつなりに頑張って説明してるんだろうなあ……』と、優しさと呆れに満ち溢れた生温かい目でバカを見つめていたが……。
「……つってもよぉ、お前ら、もう過半数だろうが。そこと組む、ってのは、それなりにリスクだぞ」
そう言って、ちょっと渋い顔をする!バカはフラれたらしい!嗚呼!
「え?かはんすん……?」
「過半数、だ。もう、面子の半分以上、お前らだろうがよ」
バカは頭の中で『かはんすん……下半身……?』とやっていたのだが、ひとまず、四郎の説明で理解した。ありがとう!
「そ、そんなこと言ったってよぉ……仲間が居ないと、俺、駄目だもん……。それに、仲間にしないと、デュオと七香が人、殺し始めちゃうしぃ……四郎のおっさんも人、殺し始めちゃうしぃ……」
「待て待て待て待て!本当に何の話だ!?」
……そうしていよいよ、噛み合わず空回りし続けるバカに、四郎は両手を挙げた。『降参!』のポーズである。
「……分かったよ!ああくそ!成程な!お前と話してても埒が明かねえ、って訳だ!」
「そう!そういうことぉ!」
四郎はちょっと苛立ち混じりの様子だったが、バカは『分かってもらえたぁ!』とニッコニコなので、たちまち、四郎は毒気を抜かれたような顔になってしまった!嗚呼!
「……とりあえず、あー、その、誰だ?誰に聞いたら、もうちっとはマシな説明になるんだ?」
「おすすめは海斗ぉ!でも、海斗は五右衛門とヤエを仲直りさせなきゃいけないんだ。だからデュオの方が暇かも……あ、でも、デュオも七香とタヌキと上手くやらなきゃいけないんだった……」
そして、バカはここまで漕ぎつけたのに、困ってしまった。
何せ、引き継ぐ相手が……忙しいのだ!
そう!頭脳派である海斗とデュオは、バカの頼れる仲間達であるが……その頼れる仲間達に、それぞれヤエと五右衛門、七香とタヌキを振り分けてしまっているため、引継ぎ先の頭脳派が居ないのである!
バカは、『どうしよ、どうしよ……』と悩む。頭からぽやぽやと湯気が出てくる程度には、悩む。
……すると。
「あー……テメエの事情は、まあ、分かった。だが……ま、なんだ。お前らの説明を聞くより先に、先入観ナシで、物事を見定めてからにさせてもらうとするぞ」
四郎は、そう言って、ちょっと気まずげにぽりぽり、と首筋を掻いた。
「その、なんだ。お前の言い分だと、むつがあぶれるよな?」
「あ、うん。なんかな?デュオは、むつが悪魔だと思うんだってさ。俺はなんか、違うような気もするんだけど……よく分かんなくってさあ……」
バカは、『ここもどう説明したものか……』と悩んだが……四郎は、ほう、と一つ頷いた。
「ほー。そこまで分かってんなら、話が早いじゃねえか」
「ん?」
バカが首を傾げていると……四郎は、にやり、と笑って言った。
「樺島。次のチームは、俺とお前と、むつだ。……キッチリ、見定めさせてもらうぜ」
……バカは、『大丈夫かなあ、喧嘩にならないかなあ……』と、ちょっと心配になった。
だが、むつのことはバカも気になる。四郎も気になっていて、そこを確かめないとこっちに協力してくれないのかもしれない、ということなら、やっぱり、四郎とむつと一緒のチームでやってみるべきなのだろう。
だからバカは、『分かった!』と強く頷き……四郎の前に、手を差し出した。
すると四郎はまた笑って、『よろしく』とバカの手を強く握った。
……握手である!
つまり、バカは……この人の信頼を、ちょこっと勝ち取れたのだ!
それがなんだか嬉しくて、バカは背中で羽をぱたぱたさせた。四郎も、ぱた、とやってくれた!
だが。
それだけで、終われれば、よかったのだが。
「……ところでよぉ、樺島」
「うん!」
「俺達、服、どうするよ」
バカは、ふと、自分の恰好を振り返る。
……パンイチである。
振り返らずとも分かるくらいには、パンイチである!
「……うん!どうしようなあ!」
バカはバカだが、一応、常識はある。『パンイチで女の子の前に出ない方がいい!あと、パンゼロになったら誰の前にも出ちゃいけない!風呂は除く!』というくらいは、分かる!
「つーかよ、俺はまあ、羽出すのなんざウン年ぶりだから仕方ないにしても、お前はよぉ……現役だろうが。なんだって、羽出すの、そんなヘッタクソなんだ、おい」
「ごめんよぉ……。なんか、緊張しちゃったんだよぉ……」
バカはしょんぼりした。羽を出すついでに服を『バリイ!』とやっちゃうのは、羽初心者がやることなのである!
否、確かに、バカはまだまだ羽初心者。羽付きになってまだ半年くらいしか経っていない、ひよっこもひよっこのピヨピヨ天使である。
だがそれでも、こんな……服まで一気に『バリイ!』とやっちゃうことなんて、最初の2か月くらいしかなかったというのに!
「あー……うん、そうか。俺も緊張させちまったからな……悪かったよ、うん……」
四郎も、『どうすっかなあ』などと言いつつ、気まずそうにぽりぽりと頬を掻いている。……やっぱり、四郎はいい奴である!
ということでバカは、『服、服どうすっかなぁ……』と考え……そして、はた、と気づいた。
「タヌキが……なんか、ハチマキとか持ってた気がする!服も、持ってるかもしれねえ!」
そうと決まったバカ達は、速かった。
「よし!じゃあこの部屋、さっさと片付けるからなー!よっしゃー!」
「お、おおおおおお!?おいおいおいおい、いいのかよそれ!?」
「うん!前はこれでいけたー!へい、どぼーん!」
……固定されていたタンクをもぎ取り、固定されていた杯ももぎ取り、そして一気にドボンと沈めてしまえば、判定はクリア。見事、カードを入手することができた。
バカは、『俺、今ポッケねえから……四郎のおっさんにカード、預けとくよ……』と、四郎のズボンのケツポッケにカードをしまっておいた。つくづく、四郎が上半身しか裸にならなくてよかった!
「じゃあ行こうぜ!」
「お、おう!タヌキがなんか持ってりゃいいが……何も無かったら、どうする?デュオか五右衛門あたりに借りるかあ……?」
「海斗の服、俺、ちっちゃくて着られねえんだよなあー……どうしよぉ……」
そうしてバカ達は、『どどどどどどど』と走ってエレベーターへ向かい、『ずどん!』とボタンを押し、大広間へ戻っていく。
願わくば、女子達がまだ戻ってきていませんように!と強く強く祈りながら……。
そして。
「あっ、樺島君達も戻ってきたみたいだ、ね……?」
エレベーターのドアが開いた時。
そこには……既に全員が、待っていた!
「あ゜あ゜ーッ!?半裸のムキムキィーッ!?」
「タヌキぃいいい!服、持ってねえかぁああああ!?」
「無いですぅうううぅううう!いやァアーッ!?」
「無いのぉおおおぉぉおおお!?」
タヌキが『あああああああああ!』と悲鳴を上げる中、バカは『服、無かった!』と絶望した!嗚呼!




