ゲームフェイズ2:大広間6
「まず、前提として『異能は魂に結びついている』ものだ。それはいいかな」
デュオはそう、声を潜めて言った。
「だから、四郎さんとむつさんの異能が同じ、ということはあり得ない。2人が同一の魂を持っている、ということも、流石に考えにくい。勿論、『よく似ているけれど別の異能』の可能性も捨てられないけれど……もう1つ可能性がある」
バカが、『もう1つの……?』と首を傾げていると……。
「『コピー』の異能を使うことだ」
「……あっ!」
そう!バカは確かに、それを知っている!
『コピー』は……たまの異能だ!
「氷の異能が四郎さんと同じ、ということなら、『コピー』の異能で四郎さんの異能をむつさんがコピーした可能性があるよね」
デュオの話を聞いて、バカは思い出す。たまは、木星さんの異能をコピーしたことがあったし、バカの異能をコピーしたこともあった。何より、土屋の異能をコピーしたこともあった!土屋の異能をコピーした時には……出来上がった盾がちっちゃくて、『そっかぁ、異能って、使う人によってこういう風に変わるんだぁ……』と思った覚えがある。
ああいう風に、『コピー』が使われたなら……確かに、氷の異能を2人が使っていてもおかしくないのである!
が。
「……ん!?つまり、むつはたま!?」
「早計すぎるぞ樺島!」
バカには難しい話なので、バカは『あれ!?でも、むつはたまじゃない……たまじゃないよなあ!?』と混乱してしまった!
「あー……うん。えーとね、まずは、『悪魔が何らかの方法でコピーの異能を使った』っていう可能性を考えたんだけれど……ははは」
デュオは苦笑しながら説明してくれる。やさしい!
「そこで、『悪魔』ということか……」
「うん。四郎さんの異能が2つ存在しないのと同様に、当然、つぐみの異能もつぐみのものだ。つぐみの異能を使っているなら、それは魂を扱える悪魔だ、ということになるんじゃないかな」
バカは、『なるほどなあ』と頷いた。
……今ここに『宇佐美光』が『デュオ』の形で存在しているのだから、きっと、『駒井つぐみ』もどこかに存在しているのであろう。『たま』と『かにたま』の間の彼女の魂が、多分、どこかにある。
そう考えると確かに、つぐみの魂を使って『コピー』をする悪魔が居てもおかしくない、とは思う。バカもそこは理解できた!
「ん?つまり、悪魔の中にたまの魂がある……?」
「……魂が肉体に入っているとも限らないと思うよ。そもそも、複数の魂が1つの体に入ることって可能なのかな……」
「魂……かにたまには、たまと木星さんの魂が入ってたこと、あったんだけどなあ……あったよなあ……?」
「ああ……うん、あのな、樺島。そんな顔で僕を見られても、僕は『かにたま』というと、たまさんの魂が入っただけの……陽気な性格の、あのロボットしか知らないんだぞ」
「あ、そっかぁ……。海斗は、かにたまとバトルしたこと、ないんだよなあ……」
バカは、『魂がいくつもある状態ってかにたまに似てる!』と思ったのだが、海斗はそれを知らない!それはそうである!バカがやり直した末に、かにたまはただ、たまの魂がかにかにしているだけの平和なロボになってしまったのだから!
「あー、俺は分かるよ。えーと、まあ、ほとんど見ずに『無敵時間』を使っちゃったから、詳しいことは分からないけれどね。あははは……」
「そっかぁ……。うん、あのな、魂がいくつも入ると、めっちゃ怒りっぽくなるみたいだぞ?でも、むつは怒りっぽくないから……魂、1個だと思うぞ……?」
バカは『むつよりは四郎のおっさんの方が怒りっぽい……』とか、『でも、仲がいい魂だったら一緒に入っててもいいんだっけ……?』とか、色々と考えたが、まあ、結局何かの結論に至ることは無かった。
バカの考え、休むに似たり、という奴である!
「少し、いいだろうか」
そこで、海斗が小さく手を挙げてきた。なのでバカもデュオも、『どうぞどうぞ』とやる。すると。
「僕は、『四郎さんがむつさんの異能をコピーした』可能性もあると考える。一応は、可能性として、な。……まあ、むつさんの方がコピーした側だと思いたいが」
「えっ、なんでぇ!?」
「あ、そうだね。俺もそう思う」
「なんでぇ!?俺だけ分かってねえ!ごめん!」
……バカだけ置いてけぼり!でも大丈夫!デュオも海斗も優しいので!
「『コピー』した異能には、制限がある。例えば、つぐみは『コピーした異能は次の鐘が鳴るまでの間しか使えない』っていう制約を持っていた。……これは、まあ『コピー』が『コピー』である以上、当然の措置かな、と思うよ。無限に異能を複製して使えたら、その、あまりにも強すぎるからね……。はははは……」
バカは、『コピーには、制限……』と考えた。
……確かに、そういうものかもしれない。『書類をコピーしたものをコピーして更にコピーしてもう一回コピー……』とかやっていると、なんか、線がガビガビの書類が出来上がるのである!バカは前にこれをやってしまって、先輩に『樺島ぁ!ちゃんとコピー用の原本からコピーしなきゃ駄目だぞ!』と教えてもらった。
まあ、つまり、『コピー』っていうのは、『原本』よりもちょっとガビガビ。そういうことなのであろう。
「そうだな。四郎さんについては、氷の異能を使って戦う様子を、お前が何度も確認しているらしいから……それを考えると、まあ、『オリジナル』の方が四郎さんだと考えた方が妥当だと思う。むつさんの異能が観測されたのが初めてだというのなら、猶更そうだな」
「ほえええ……」
バカはなんとなく理解しながら、頷いた。やっぱり、頭のいい人達って、すごい!
「そういう訳で、俺は『四郎さんがコピーした側』という説を捨ててるんだけど……まあ、そもそも『つぐみのコピーの異能と似ている異能』が存在している可能性だってあるし何とも言えないところではある、かな」
だがまあ、結局のところ、頭のいい人達が考えたとしても、完全にコレが正解!という結論は出ないらしかった。
「或いは……その」
……更に。
「本当に、むつさん、が……つぐみ、なんじゃないかと、思わないでもない、んだよな」
デュオは、そんなことを言い出したのである!
「……海斗の話だと、『陽とたまはこのデスゲームに参加することができなかった』んだよね?『陽』については、俺が居るから、っていうのが分かるんだけれど、『たま』についてはそうじゃないから……この会場のどこかに、つぐみの魂が、あるんじゃないか、と、思ってて……」
デュオはそう言うと、ふ、と表情を曇らせた。
「……俺が、『たま』に会いたいだけかな」
「いや……どう、だろうな……」
海斗は『どう反応したらよいものやら』というような顔でちょっと視線を彷徨わせてから、答え始めた。
「その、僕としては、突飛な発想だと言わざるを得ない。何せ、少なくとも『かにたま』から聞いた限り、『たま』の魂としてどこかのデスゲームに参加したなんて話は聞いたことがない。となると、まあ、少なくとも、彼女自身が参加している、とは考えにくい」
「……そうか」
海斗の言葉を聞いて、デュオは『俺も、ちょっと冷静さを欠いたかな』と、ぼやく。
……その顔を見て、バカは、『デュオも辛いよなあ』と思った。……彼は、大好きな恋人を救うためにずっとずっと戦っている人だ。そして、『本来』なら……その恋人に再会できるまでに、あと30年ほどかかる、のだろう。それは、とても辛いことである。
そんなデュオなので、あちこちにたまの幻を見てしまう、というのは、まあ、分かる。分かるのだが……。
「……俺も、むつはたまじゃない気がする」
バカはなんとなく、そう思うのだ。
「そうか……。ええと、樺島君はどうしてそう思うのか、聞いていいかな」
デュオに問われて、バカはこくんと頷いた。言葉にする、ということがバカはあまり得意ではないが、それでも頑張る所存である。
「あのさ、もし、むつがたまだったら……多分、海斗に何か、言うと思うんだよぉ。デュオは、海斗のこと見て、『前一緒だった奴だ!』ってなったんだろ?」
まず、バカはそれを挙げた。が、そう言った途端、デュオにも海斗にも、何とも言えない顔をされてしまった!バカは、『俺、なんか変なこと言ったかぁ!?』とおろおろしたが……。
「……樺島の割に、鋭いことを言うじゃないか……」
「確かに、そう、だよね……。ははは……」
……どうやら、そういうことだったらしい。バカは、『俺が鋭いこと言うこと、あるんだ……』と、自分のことなのに妙にびっくりした!びっくりしすぎて、ちょっと浮いちゃった!
「あの、それから、その……たまだったら、多分、デュオのこと、すぐ分かるよぉ。『つぐみ』は『光』のこと、大好きなんだもん……」
「そ、うか……」
それから、バカはもう1つ根拠を提示する。
……この根拠は、バカだけじゃなくて、デュオにも海斗にも理解できるものだろう。
『つぐみは、光のことが大好き』。それは、ここにいる3人皆が知っていることだ。……そして、デュオがちょっとだけ、忘れていたことだ。きっと、そうだ。
「……そうだね。つぐみだったら、俺のこと、分かる、か……。うん、そうだった」
デュオは、そう言って深く深く、ため息を吐いた。そんなデュオの肩を、海斗がぽんと叩いてやっている。
……バカは、『デュオは、つぐみのこと自分で好きなばっかりで、つぐみは自分のことそんなに好きじゃない、って思ってたのかなぁ』と、ぼんやり思った。
自分の中にある愛は何度でも確かめられようが、相手から受け取った愛は、時が経つにつれ、消えていってしまうのかもしれない。
……だとしたら、やっぱり、デュオはすごい。天城も、とてもすごい。相手からの愛が記憶の中で色褪せて擦り切れてしまっていても、それでも、自分の中にある相手への愛だけで、ずっと頑張っているのだから。とてもとても、すごいことである。
なので……バカは、『デュオに、ちょっと思い出してもらえたんだったらよかったなあ』と、思った。
ということで。
「その……俺、海斗に『陽が居るとしたら誰だと思う?』って聞かれた時、すぐ、『あっ、デュオだ』って分かったんだ。でも、むつがたま、って聞いても、なんか……うーん、上手く言えねえんだけど、なんか、違う気がするんだよなあ……」
「……樺島はバカだが、勘はぼちぼち鋭いからな。まあ、僕としても、むつさんに対する感覚は樺島の感覚と一致する。どうだろう」
「成程ね……。確かに、むつさんがつぐみそのもの、というのは、早計か」
バカと海斗の説明を聞いて、デュオは腕を組み、ちょっと天井を見つめて小さくため息を吐いた。……むつがたまだったら、デュオとしては、とっても嬉しかったのだろうが。だが……まあ、そう上手くはいかないものである。多分。
「結局のところ、『つぐみのコピーの異能』があるのか、それとも、『コピーの異能によく似た性質の異能』があるのか、『ちょっとずつ違う氷の異能』が2つあるのか……それは、分からないんだけれどね。ただ、『悪魔が居る』と明示されている以上、悪魔は居るんだと思う。だとすると……まあ、むつさんか四郎さん、どちらかが悪魔だ、と考えるのが分かりやすいかな、って。ついでに氷の異能の話も片付くし」
デュオはそう言って、深くため息を吐いた。
「まあ、俺はそう思うよ、というだけで……いや、その、四郎さんが死んでしまったから、ということなんだけれどね」
「僕もそう思う。四郎さんが悪魔だとしたら……あまりにも、下手だろう。こう、動き方が」
バカは、『四郎のおっさん、動き方が、下手……!?』と愕然とした!バカには分からない話である!
「それから、『孔雀』については気になるところだけれど……そっちも手掛かりなし、だからなあ。参ったね」
「先に四郎さんの情報を手に入れて裏取りした方がいいか……あ、樺島。これはお前のための『次』の話だぞ」
「いつの間に!?」
バカが愕然としている間に、話がバカのための話になっていたらしい!否、今までずっとバカのための話だったのだが、バカはそれに気づいていないのであった!でも大丈夫!今気づいたから!
「ということで、樺島君は次、四郎さんと仲良くなってくるといいと思うよ」
……そうしてバカの『次』の目標が提示されたので、バカは『よし!がんばる!』と意気込んだ。
元々、バカは『次』で、四郎と仲良くなるつもりでいた。だって、まだ四郎とは仲良くなれていない!……最初の1周目が一番仲良くできていた気がする!大変だ!後退している!
が、『よし!がんばる!』だけでなんとかなればよいのだが、そうはならないことをバカはよく知っている。
「四郎のおっさん、どうやったら仲良くしてくれるんだろうなあ……」
……あのおっさん、結構、気難しそうなのである!仲良くなるのは、大変だ!
「……そうだな。これは中々、難しいかもしれない。何せ、相手が元々、警戒を解いてくれないから……いや、でも、樺島ならいけるんじゃないか……?」
「なんでぇ!?」
一方、海斗は何故か、『樺島ならいける』と謎の信頼を寄せてくれているらしい!バカとしては困る!そんなこと言われても困る!
「ほら、デュオだって、お前に絆されたんだぞ」
「あー……俺?うん、まあ、そうだね。ははは……」
……海斗は『ほら見ろ』と言わんばかりにデュオを見せてくるのだが、バカは『だってデュオは陽だもん!そりゃ当然、仲良くなれるに決まってるじゃねえかよぉ!』と抗議の声を上げるしかない。デュオは只々、苦笑していたが!
「えーと……俺は、まあ、樺島君の『やり直し』を信じてるけれど、それが無くても、つぐみについての有益な情報を齎されたから協力せざるを得ない。だからまあ、四郎さんにも同じ手が使えるんじゃないかな。彼、悪魔狩りなんだよね?だったら、悪魔に関する情報を出せば、少なくとも共闘はしてくれると思うよ」
デュオは苦笑しながらアドバイスしてくれた。バカは、ちゃんと正座して貴重なアドバイスを聞く!……だが!
「俺、悪魔についての情報なんて言えねえよぉ……。知り合いの悪魔の情報出して、『じゃあそいつ殺す!』って言われちゃったら、やだもん……」
バカはまた、困ってしまう。だって、悪魔の友達を売るわけにはいかない!牛も双子の乙女もとんかつの悪魔も、今やすっかり、バカの友達なのだ!
「……言われてみれば、確かに僕らは悪魔の情報を碌に持っていないのか……。参ったな」
このゲームにも悪魔が居るらしいのだが、バカ達はその正体を知らない。むつが悪魔なのか、本当は四郎が悪魔なのか、はたまた、孔雀が何かしているのかもしれないし……。何も分からない!
よって、四郎に四郎が喜びそうな情報を出すことができないのだ。バカは『ごめんよ、四郎のおっさぁん……』と嘆いた!
……すると。
「なら、『敵の敵』だと認識してもらえれば、それでいいのかもしれない」
海斗がそう言って、ちょっと笑った。
「……そういう訳で、樺島。賭けにはなるんだが……次回、四郎さんに『羽』を見せてみるのはどうだ?」
……ということで。
「じゃあ、俺、次は……ええと、海斗のところにデュオとタヌキと七香を連れて行って、説明して……それから、五右衛門とヤエの説明もしてぇ……あれ?五右衛門とヤエはどうするんだっけ……?」
「……五右衛門さんとヤエさんについては、お前が一回、仲介に入れ。それで、全部暴露してこい。それだけでなんとなく、あそこはいい具合に進む気がする……。それで様子を見よう。駄目だったら、僕が入る」
「分かった!」
「で、早い内に四郎さんとなんとかして2人きりになれ。そこで羽を出せ。それでなんとか、話が進むことを祈るしかない」
なんとか、『次』の方針が固まった。
……むつについても、四郎についても、気になることは山ほどある。
2人の異能が一緒だったらとても不思議なことだし、似た異能だとしたら2人はきっと似た者同士だから仲良くなれる。
そして、もしどっちかがどっちかを『コピー』しているのならば……それはそれでやっぱり、気になることが沢山ある。
「じゃあ、頼んだぞ、樺島」
「おう!」
だが、今はとにかく、前進あるのみである。バカは元気にお返事して……そこで、ふと、気になった。
「……海斗ぉ」
「ん?なんだ」
「ヤエに、会いに行かなくっていいのか?」
……お節介かもしれないが、やっぱり、ちょっと気になった。このままやり直ししてしまっていいのだろうか、と。
「……お前が気にする事じゃない。お前は何も気にせず、やり直して……誰も死なずに済む方法を探してくれればいい」
だが、海斗はそう言って、『ほら、むつさんの気が逸れている間にさっさとやり直ししろ』とせっついてくる。
「うん……」
バカは、『そっか、そうだよなあ……やり直したらどうせ、全部なかったことになっちゃうんだもんなあ……』と、しょんぼりした。
……今、ヤエは『17』の部屋で、タヌキと2人、お花見しているところだろうか。
バカはふと、寂しく桜を見つめるヤエの姿を思い浮かべてしまって……『こうじゃない方がいいなあ』と思った。
「あのさ、海斗……これ、無事に解体できたら、皆でお花見パーティーしようぜ」
折角だったら、全員でお花見したい。寂しいのなんて何も無いまま、楽しく、賑やかに。
それで、皆、そこに居たらいい。誰も欠けることなく。
「……うん。そうしよう。楽しみにしてる」
海斗もきっと、そう思っている。だからバカは海斗と笑い合って、それで、『やり直し』の準備を始めた。
……すると。
「……あの、樺島」
発光し始めたバカに、海斗が声を掛けてきた。
「お前の、『10』の腕輪、くれないか。それで……その……お前が『やり直し』した後で、『17』に、行ってくる」
バカは、ぽかん、とした。
……同時に、『それ、できるのかなあ』とも、思った。
多分……バカが『やり直し』をしたら、本当に『やり直し』なのだ。どうも、それはバカがバカだからそうなっちゃうらしいのだが……だが、そういうふうにできている、らしいのだ。
だから、『やり直しした後』は、きっと、無い。
……無い、のだけれど。
「……うん!じゃあ、そっちは任せたからな、相棒!」
バカは、ケツのポッケに入れっぱなしておいたカードと、反対側のケツポッケに入れておいた腕輪の残骸を、海斗に渡した。
「ああ。……そっちは頼んだからな、相棒」
「おう!」
そうして、バカは海斗に見送られて『やり直し』をした。
……今回よりもずっとずっといい未来を、掴み取りに行くために!




