ゲームフェイズ2:大広間5
「腕輪を外す、方法……?」
「そうだな。僕もそう思っていた」
バカがぽかんとする中、海斗はそう言って、むつの言葉に頷いていた。
「このバカがバカ力なのは、まあ、当然、こいつの異能だからな。運営側としても、想定してはいるんだろうが……このバカが引き千切る以外にも、腕輪をどうこうする手段が用意されていない、というのは、あまりにもアンフェアに思える」
海斗の言葉に、むつは『我が意を得たり!』とばかり、うんうんと頷いた。
「だよね?だよね?だからきっと、まだ探索してない場所に、何か『0』のアルカナルームの秘密があると思うんだけれど……」
むつはそう言って、ちら、と天井を見た。
……確かに、天井はこのゲームの『ゴール』のようなものだ。バカ達がそこに到達したのは、まだ、一度だけ……七香がデュオから『駒井つぐみ』の記憶を奪ってしまった、あの時だけだが。
「腕輪、か。……さっきの『20』の部屋では、腕輪が新たに生成されたわけだよね?俺はそっちも気になるな」
一方、デュオはまた別のところが気になるらしい。バカは、『頭がいいとあちこち気になって大変だよなあ……』と思った。
「アレの意図は、『同じ数字の腕輪の奴を殺して成り代われ』ってことだと思うんだけれどね。まあ、部屋のエレベーターを動かす都合上、大広間に戻ってこられる腕輪の総数が変わることは無いけれど」
バカが『どういうことだ……?』と首を傾げていると、海斗は『腕輪が増えたら数字が増えるから、エレベーターが動かせなくなるだろ』と教えてくれた。そういえば、そうだった!
「まあ……『腕を切り落とすことで腕輪を外す』っていうのは、想定された解法の1つなんじゃないかな、とは思うけどね」
「ええええええええええええ!?」
「ナイフや短剣の類を置いてある部屋はあるみたいだからね。それに、まあ……今回の参加者の半数が、異能を使えば腕を破壊することができる人達だから」
デュオが物騒なことを言うので、バカは大変びっくりした!こわい!こわい!
……だが、よくよく考えてみると、四郎はでっかい氷柱で七香の腕をやっていたことがあったし、五右衛門は手が鋏になるんだから腕ぐらい切れそうである。そして、七香だって腕を引き千切るくらい、できてしまうのかもしれない。それに、ナイフの類は確かに、ところどころ、見ている気がする。
そう考えると、確かに腕を切り落とすことは、案外可能なのだ。……だからといって、それを実行する気にはならないが!
「まあ、腕を切り落とさなくても何とかなるようには、なっていると思うよ。そして、それがあるとしたら、『エレベーターに乗らなくても到着できる場所』かな、と思ったけれど……」
「えっ?なんでだ?」
「……樺島。腕輪が消えたらエレベーターが動かせないだろう。さっき言った話だぞ、これは」
「そうだった!」
バカは『皆、頭いいなあ……いや、俺がバカなだけかなあ……』と思いつつ、さて、確かにデュオの言う通り、『エレベーターに乗らなくても到達できる場所』に、何かあるのだろうとも思う。
「そう考えると、天井裏、というのは十分にあり得そうだよね。腕輪関係なく、自分以外の誰かが生きてさえいれば、到達できるんだから」
「え?」
「……誰かが起動したエレベーターが、アルカナルームから大広間に戻ってくる時、そのエレベーターが出てくる位置に立っていれば、エレベーターの上に乗って天井裏に運んでもらえるんじゃないか?ということだ」
バカは、『ああー!それやったことある奴だ!』と納得しつつ、『すっかり忘れてた!』とにこにこした。傍から見たらただにこにこしているだけなので、不気味である。
「じゃあ……折角だし、天井裏、行ってみる?」
「うん!行ってみる!あっ、俺、先に行っておいていいか?天井這っていったら多分、エレベーター無くても行ける!」
「天井を……這うの……?え?私、なんか聞き間違えたよね……?」
「むつさん、すまない。聞き間違えじゃない。こいつは壁も天井も這い回るんだ」
むつが『嘘ぉ……』と言っていたが、バカは『この通り!』と、壁を這い回り、天井も這い回ってみせた。カサカサ動くと、むつになんとも言えない顔をされてしまった。
……そんなむつの顔を見て、バカは『そういや、前、ビーナスに気持ち悪いって言われたことあったなあ……』と思い出したので、そっと床へ戻ってきた!
「……エレベーターの起動は、七香さんにお願いしようか。それでいいかな?」
「あ、うん!私はそれでいいよ!」
結局は、エレベーターを使って天井裏を探索しに行くことになりそうである。バカは、『よし!』と意気込んだ!
……ちゃんとじっくり天井裏を探索するのは、これが初めてだ。
そうして、バカ達は七香に事情を説明して、天井裏へ行くための算段を付け始めた。
ヤエから七香も持っていってしまうのは申し訳ないのだが、ヤエ自身が『ちょっと一人になりたい』と言っていたので、そういうことなら、と、タヌキだけ残していくことにした。
……そう!タヌキは『あ、私は人カウントじゃなくてタヌキカウントですから、皆さんお気になさらず』と図々しくも居残った!……その図々しさにヤエはちょっと驚いていたが、タヌキが黙ってヤエの膝の上で丸くなると、ちょっと笑って、またタヌキを撫で始めた。
もしかすると……ヤエにはちょっと図々しいくらいの奴の方が、いいのかもしれない。
ということで、七香には『7』のアルカナルームへ向かってもらい、一旦エレベーターをひっこめてもらって、そして、すぐにエレベーターを再起動してもらう。
「お、おい!もう再起動が始まったぞ!急げ!」
「わ、わわわわわ、すごい、ほんとに乗れちゃった……」
……大広間へ戻ってくるエレベーターの上に乗っかっていると、ちょっと怖い。むつは、『高い……こわい……』と縮こまっていたが、海斗が『大丈夫だ。何かあっても樺島が居る』と励ましていた。尚、海斗もちょっと怖そうにしていた。何せ海斗は、高所恐怖症の気があるのだ!
「上を見ていると落ち着くかもね。……そろそろ到着だ」
が、デュオに促されて、全員、上を見る。
……天井に開いた穴へと、エレベーターが収まっていく。そうして、バカ達4人は天井裏へやってきた。
「暗いね……」
天井裏は、暗い。むつが少し不安そうに声を漏らしたのを聞いて、バカは、『俺も先輩みたいに発光できたらよかったのに……』と、ちょっと自分を情けなく思った。
尚、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部には、自力でピカーッ!と発光できる先輩が何人か居る。暗いところでの作業時にはとても便利な先輩方である。バカもいつか、ああなりたい!
「ああ……ランプ、持ってくればよかったかな」
「え?ランプなんてあったか?」
が、デュオの言葉を聞いて、バカは首を傾げる。確かに、光源があったら便利だろうが、そんな便利なものがいっぱいあるほど、今回のデスゲームは甘くない。のだが……。
「あっただろう。個室の中に。ほら、異能について書かれた紙を燃やすのに使っ……てないんだな?さては樺島、やってないんだな?」
海斗の言葉を聞いて尚、バカが頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべていると、海斗は『やれやれ』とため息を吐いた。
「……お前は自分の異能について説明している紙をどうもしていないんだろうが」
「あ、うん。読んで、そのままポッケ入れてきてる……。食べといた方がよかったかぁ……?」
「……まあ、お前のことだから紙を食べたくらいで腹を壊すことは無いだろうが……ああもう好きにしてくれ。とにかく、僕らの方は、異能の説明の紙の最後に『読み終わったらこの紙は燃やしておくことをおすすめする』とあった。僕もそうしたぞ」
「俺は残り5分で解散した時、個室に戻って燃やしたよ」
バカはさておき、どうやら、他の参加者達は例の紙……異能について説明されている紙を、個室で燃やしてきているらしい!すごい!
「紙を燃やせるように、わざわざキャンドルランタンが用意されてたんだろうね」
「ああ。あの蝋燭の火も含めて、ちゃんと舞台装置、という訳だ。無駄がないな」
バカは、『やっぱり、異能の取説、大事だよなあ……』と思いつつ、自分のポッケに入れてある紙を取り出して、先輩からの文章を見つめ、にこっ!とした。元気が出る!
……が、ついでに、この紙は今後、ちゃんと処分しておいた方がいいだろう。皆がそうしているというのなら、バカもそうしておきたい。
バカは、『火をつけるのは危ないから……やっぱ食っとくのがいいかぁ』と一人で納得し、そして、もっしゃもっしゃ、と例の紙を食べておいた。
……むつが、バカのことを三回くらい見ながら、『えええええ……』とびっくりしていた。海斗とデュオは、最早この程度では驚かない!
「まあ、そういうことで……しょうがないな。ひとまず、『ダァト』の部屋を調べるだけなら、この暗さでもなんとかなるだろう」
さて。
光源が無いのは仕方がないので、バカ達はこのまま、天井裏の探索を続けることにした。
光源が無いとはいえ、一応、この空間にも光はある。個室と個室を繋いで『セフィロト』の図を作るように、床には光の線が走っているのだ。その線のぼんやりとした光に照らされて……天井裏には、1つ、個室が見えている。
つまり、これが隠された個室……『ダァト』の個室だ。
「お邪魔しま」
「あ、樺島君。それ、タックルしなくても開くよ」
「えええっ!?マジでェ!?」
そうして、早速『ダァト』の部屋のドアをタックルで破ろうとしたバカであったが、デュオに止められた。
……そういえば、この個室のドアって、タックルしなくても開くらしいのだった!バカはそれを思い出し、『やり方、聞いておかねえと!』と慌てて正座した。
「ドアに、セフィロトの模様があるよね?」
「あ、外側にもあるのかぁ」
デュオに言われて注視してみると、そこにはセフィロトの模様がある。
バカの記憶では、セフィロトの模様はドアの内側にはっきりとあるのだ。そして、個室のドアの開閉によって、模様が光るのだ!ちゃんと覚えている!
「……気にしてみないと分からないくらいの模様だな。内側の模様ははっきりしているから、内側の模様を見て、ここにセフィロトの模様があることを知っている者向きのもの、と考えられる」
が、海斗が眉を顰めてドアを撫でて呟く通り……セフィロトの模様は、ドアの外側には、ごく浅く彫り込んだものでしかないのである。
特に、薄暗いこの部屋の中では、ちゃんと『そこにこういう模様があるはず』と思って見ないと、見つけられない。中々よくできた仕掛けだなあ、とバカは嬉しくなった!
「じゃあ、自分のセフィラの位置に腕輪を翳してみて」
「せふぃら……?」
「……お前の担当は『10』のセフィラである『マルクト』だ。つまり、一番下の円がお前を示すセフィラだぞ」
バカはすっかり忘れた単語を聞いて、『そういやそういうの、あったなあ……』などと思いつつ、ちゃんと、セフィロトの一番下……『10』のセフィラの位置に腕輪を翳してみた。
すると。
「うわっ!?開いた!?」
「そうだね。開くんだよ。タックル無しでもね。あははは……」
……ドアが開いてバカはびっくりしたが、そもそも、ドアというものは開くものなのである!バカはすっかり忘れているが!
バカは、『次からはドア、タックルせずに開けよう……』と心に決めた。やっぱり、タックルで何でもかんでも破壊してしまうのは、その、ちょっと申し訳ないような気分になっちゃうので……。
「さて。中は……階段が上に続いてるね」
さて。そうして『ダァト』の個室の中に入ると、すぐ、『天井が高い』ということに気が付く。
……以前、この部屋に入った時と同じように、部屋の中には螺旋階段があり、そして、階段は上へ上へと続いている。……この先にカードを持っていくと、願いを叶えられる。それは、前、七香がやっていたから、バカも知っている。
だが、階段を上がる前の、この空間については……まだ、碌に探索していなかった。
バカは『そういやここ、何があるのかなあ』とのんびり眺めようとし……しかし、海斗に『樺島。お前が入り口辺りに居ると、室内に光が入ってこないから何も見えないんだぞ』と怒られたので、ちょっと部屋の外に出て待っていることにした!
……そうして、バカが『次までに発光できるようになりてえなあ……』と考えていると。
「樺島!ちょっと来い!」
海斗に呼ばれたので、バカは元気にテケテケと室内へ戻る。……すると。
「むつさんが見つけてくれたんだ。……これ、『そういう』ことだよね?」
……螺旋階段の裏に隠れる位置の壁に、エレベーターの操作盤のようなものがあったのである。
そして、本来、階層のボタンがあるであろう場所には……ただ、『→0』と書かれたボタンと、『21』のボタンだけが存在している。




