ゲームフェイズ2:大広間4
……バカも海斗も、ぽかん、としてむつの手の上の氷を見つめた。
氷だ。氷である。
バカはその氷を、つんつん、とつついてみるが、ちゃんと冷たい。まあ、氷である。
「……氷だぁ」
「うん……氷なんだよね……」
むつも、氷をつんつんやっているが、まあ、氷である。
「……異能って、人によって違うんじゃ、ないのかな……」
「あ、うん……違う、と思う……」
「じゃあ、なんで私の異能、四郎さんと一緒なんだろ……」
むつは、困惑した様子である。バカも海斗も、ひたすら困惑している!
「……四郎さん、私と何か、関係がある人、だったのかな」
そして……むつの目が、ちら、と四郎の方を見た。四郎は、五右衛門と並んで、大広間の片隅に寝かされているが……。
「ううん、もう、考えても、わかんないけどさ……」
……四郎が死んでしまう前に、むつの異能について聞けていれば……何か、四郎からも聞けていたかもしれない。
だが、それも今となっては、どうしようもないことである。バカは、『上手くいかねえなあ……』と、またしょんぼりした。
それから、むつともう少しだけお喋りした。
というのも、海斗が『本当に、四郎さんと同じ異能なのか?似ている異能、というだけでは?』とアドバイスしてくれたからである。
「似ている異能、というものは存在しているらしい。『似ている人』が居るのと同じように、『似ている異能』がある、という話は聞いたことがある」
早速、海斗がそう話し始めるのを聞いて……バカは、びっくりした!
「俺、聞いたことねえ!」
「そうかそうか。そうだろうな。……まあ、僕はこれでもこのデスゲームに向けて色々と予習してきたんだぞ、このバカ」
成程。海斗の方が賢い。そういうことである。
……バカの職場には、『資料室』があり、色々な解体や建設の記録の他、悪魔のデスゲームについての記録も幾らか、残っていた。そして、同時に『異能』についての資料もあったので、確かに、調べて予習しようと思えば、予習できるというわけである。
が、それをやってこなかったのが、バカのバカたるところなのだ!
「そ、そっか。『似ている人』……」
「ああ。特に、血縁関係がある人同士で似た異能が出たケースはそれなりに報告されているらしい」
海斗がそう言うのを聞いて、バカはうんうんと頷いた。確か、職場の先輩にもそういう人が居た気がする!
「……えーと、じゃあやっぱり、四郎さんって、私と何か、関係があった、のかな……?」
むつは、心配そうに四郎の方を見ている。……これでもし、むつが四郎と血縁関係にあるということなら……もう四郎が死んでしまっている以上、あまりにも酷なことであるが……。
「いや……『他人の空似』があるのと同じように、異能もまた、全くの他人で近しい異能、というものはあるらしい。まあ、当然と言えば当然だろうが……」
が、海斗がそう伝えると、むつは、ちょっとだけ、ほっとした顔をしてみせた。
「似てる異能の人同士は、なんか性格とか似てることが多いって聞いたことある!」
「そ、そうなんだ……」
また、バカはバカで、『似てる異能の人同士は気が合う!』ということは知っている!なんか、それも職場の先輩から聞いたことがある!『俺、醤油作る異能!』『俺、豆腐作る異能!』『二人合わせて!チーム・ひややっこ!』とやっている先輩達も、知っている!豆製品同士だからか、滅茶苦茶気が合う先輩コンビだ!
「ただ、血縁関係があるにせよ、『他人の空似』にせよ……確かなことがあるとすれば、それは『似ていても、全く同じ異能はありえない』ということらしい」
そして、海斗はそう続けた。
……結局のところ、そこに尽きる。
『同じ異能を持っている』ということは、『同一人物である』ということに他ならないのだ。陽と天城、ついでにデュオが、そうであるように。
「そっか……。うーん、どういうこと、なんだろう……」
むつは、ちょっと考え込んでしまった。バカも頭を抱えて『なんなんだろうなあ……』とやっているところである!
「例えば、一卵性双生児であったとしても、異能は少しずつ違うものらしい。つまり、むつさんと四郎さんの異能も、どこかは異なるものである可能性が高い。効果の範囲であるとか、発動に必要なプロセスであるとか……」
海斗の言葉を聞いて、むつは、『じゃあ、どっか違う異能、ってことだよね……?』と呟きつつ、手を握ったり開いたりしている。
「なー、むつは、氷出す時、どういうかんじなんだ?」
「え……?なんかね、気合入れたら、出る……」
「そっかぁー……」
バカは、『四郎のおっさんも気合入れたら出てるかんじだったなあ……』と思った。
……まあ、つまるところ、『分からない』。これに尽きる。何せ、四郎はもう、死んでしまったので……。
「……もしかしたら、私、四郎さんとものすごく気が合うんだったのかなあ……」
「うん……そう、かもなあ……」
むつとバカは、並んで2人で、しゅん、とした。
……そして、思うのだ。やっぱり、四郎には生きていてもらわなきゃ、困るなあ、と……。
そうしてバカと海斗とむつで、並んでなんとなくしょんぼりしていたところ……エレベーターが動く。
「おっ!」
「デュオか!」
バカと海斗が立ち上がってそちらを見ると、むつも『え?え?』と戸惑いつつ、一緒に立ち上がって動いているエレベーター……海斗の個室であるそこを、見てくれる。
『デュオ、大丈夫だよなあ……』と心配しながら、バカはエレベーターを見守り……そして。
「ただいま。……結構、待たせちゃったかな」
……デュオが、ちょっと疲れた顔で笑って、バカ達のところへ戻ってきたのだった!おかえり!おかえり!
「結論から言うと、『0』のアルカナルームは『可能性』の部屋なんだと思う」
……そうして、デュオからの部屋レポを聞いて、バカは頭の上にいっぱい『?』マークを浮かべることになった!
「可能性……?」
「ああ。恐らくあの部屋、『何を思って部屋に入ったか』によって、部屋の内容が変わる」
バカも海斗も、ついでにむつも、ぽかん、とするしかない。
尚、バカの『ぽかん』は、『どういう意味……?』というところで止まっているが、海斗の『ぽかん』については、『それはいいが、どうやってそれを検証した……!?そもそも、どうやって、その可能性に気づいた!?』というところまで進んだ『ぽかん』である!
「まあ……『愚者』だからね。色々、警戒したんだ。『天才』とか『可能性』とか『発想力』とか、色々な意味があるし、逆位置だと『注意欠陥』とかの意味もある。ウェイト版の図柄から考えると、『崖から落ちる』なんていう部屋になっている可能性もあり得た」
デュオはそう話してくれるので、バカは只々、正座して聞くしかない。そして只々、『デュオはすごい』と感嘆するしかない!
「で、その結果、『注意欠陥の状態にされて、気づいたら崖から落ちている』っていう部屋になった訳だ。それを如何にして切り抜けるか、っていうのが部屋の問題だったよ」
「えええええ……」
バカはゾッとした。バカは飛べるので問題無いが、デュオは当然、飛べない!普通の人間は、崖から落っこちちゃいけないのである!ましてや、『注意欠陥の状態にされている』というのは……とても怖い!
「まあ、俺は『無敵時間』でやり過ごせるから問題なかったけれど」
「よ、よかったぁあ……」
「あ、あの、デュオさんの異能って、その、そういう……?」
「ああ。まあ、一定時間だけ、無敵になれる、っていう……そういう異能だよ。さっき、俺が無事だったのもそういうこと。色々と制約もある異能だけれど、まあ、使い勝手は悪くないかな」
むつはデュオの『無敵時間』のことが気になったらしいのだが、デュオはサラリと説明して済ませた。……ちょっと、本当のことじゃないことを言っている気がする。が、まあ、それはデュオが判断することだ。バカは『これでよし』と頷いた!
「……で、まあ、そういうことで、俺は無事、崖の下に落ちたんだけれど、想定通りに行動したから無事で済んだ。そこにカードがあったから、拾って……それで、脱出しなきゃな、と思ったら、スルスルと縄梯子が降りてきてね。縄梯子を上ったら、出口だったよ」
バカは、デュオの話を聞いて『そっかー、よかったぁ』とにこにこした。
……が。
「……だから、引き返した」
「なんでぇ!?」
デュオの言葉がそう続いたので、バカは目ん玉が飛び散るほど驚いた!
「いや、あまりにも、俺が想像した通りに事が運んだものだから。……だから、『ああ、じゃあそういう仕組みの部屋なのかな』って」
バカは『意味わかんねえ!』と頭を抱え、海斗は『だからといってそういう発想になるか!?』と頭を抱えた。むつは、『わ、わああ……』と、とりあえずおろおろ、頭を抱えた!
「部屋の中に戻って、改めて、思ったんだ。『クイズ形式のゲームがあるんじゃないか』って」
「く、くいず……?」
「うん。折角なら、違う形式のゲームを生成できないかと思って。ただ……まあ、結果から言うと、それは上手くいかなかったよ。どうも、部屋に誰かが最初に入った瞬間、部屋の中身が決定してしまうらしいね」
デュオの説明を聞いたむつが、『それ、ええと……検証できなくない?』とひそひそ海斗に囁き、海斗は『あ、ああ。僕もそう思うが……』とひそひそ返した。それをのんびり眺めていたデュオは、『そうだね』と頷き……。
「……ということで、部屋の細部を探索することにしたんだけれど」
そんなことを言い出した。
「な、なんでぇ……?」
「俺の想像通りに部屋ができているなら、俺が想像『しなかった』部分や『できなかった』部分は、きっと出来が甘いだろうと思ってね」
バカは『ほげえ……』となるしかない。もう、デュオは頭が良すぎて何を言っているんだか分からない。尚、海斗は頭を抱えてじっとしている。こっちはこっちでキャパシティの限界を超えたらしい。バカは、『海斗が駄目なら俺が駄目なのは当たり前だった!』と勝手に安心した。無論、何も安心ではないのだが!
「……それで、どうも、部屋が幻覚っぽいな、というところまでは分かったよ。俺自身が注意欠陥状態になったのも、それの類だったのかな」
「幻覚……なんか、池があるあの部屋みたいなかんじだなあ……」
バカは、『七香がたまの幻覚と戦ったり、ヤエが桜を咲かせたりした部屋、アレも幻覚とかそういうのだったっぽいんだよなあ……?』と思い出す。まあ、実際の『0』の部屋がどんなものかはよく分からないが……ひとまず、バカには難しい部屋だということは分かった!
「そういう訳で、『0』の部屋についてはそんなかんじ。……やっぱり、部屋自体というよりは、『部屋に入るまで』が難しい部屋、ということかな」
そうしてデュオの報告が終わったので、バカはぱちぱちと拍手をしておいた。むつも一緒に拍手をしてくれたが、海斗は『なんてこった』とばかり、頭を抱えっぱなしである!
「うーん……あの、私、気になってるんだけれどさ」
そして、むつがふと、首を傾げた。
「あの、今回は樺島さんが、腕輪を引き千切ったよね?でも……本来、それって、想定されてるのかなあ、って……」
「……どこかに、腕輪を外す方法が、あるんじゃないかな」




