ゲームフェイズ2:大広間3
そうしてバカ達は、一旦大広間へ戻った。
というのも、デュオは0番アルカナルームへ向かいたいし、そのためには一度大広間へ戻らなきゃいけないし、けれどデュオが大広間へ戻るためには他の人達も戻らなきゃいけないので……。
……ということで、それぞれ、来た時に乗ってきたエレベーターに乗って帰ることにする。四郎と五右衛門については、腕輪を破壊してからその遺体だけ、バカが担いで大広間へ連れて行くことにした。
死んでしまった四郎の顔を見ながら、バカは、『次は四郎のおっさんとも仲良くなれるかなあ……』と、しょんぼりしたのであった……。
さて。
そうして大広間に全員戻ってきたところで……バカがデュオの腕輪を破壊した。いつものことである。バカもなんとなく、腕輪破壊に慣れてきた!
腕輪無しになったデュオは、『じゃあ、ちょっと行ってくる』と『0』のアルカナルームへ向かっていった。バカ達はこれを『行ってらっしゃい』と見送り……。
「じゃあ、しばらく僕らは待機、だな」
そしてその間、バカ達はゆっくり過ごすことにした。……まだ、他にも攻略できる部屋はあるが、それらを攻略しに行けるほど、バカ達は元気ではないのだ。
特に……ヤエが。元気ではない。あまりにも。
今、ヤエはしょんぼりとベッドに腰掛けている。その両隣には七香とむつが座り、そして、ヤエの膝の上にはタヌキがぽんと乗っている。
ヤエはもう、泣き止んでいたが……しょんぼりと、どこか虚ろな目を床に向けているばかりだ。
……そんな中なので、むつに話を聞くのはちょっと、躊躇われた。今のヤエの隣から人を奪ってしまうのは、なんだかかわいそうな気がして。
だが。
「……むつさん。樺島さんが、話したいみたいだけれど」
そこで、七香がバカ達に気付いて、むつに声を掛けてくれた!七香はすごい!……突っ走っている時にはとんでもなく強い人という印象だが、こうしてサポート役に回ってくれると、細やかな気配りが大変ありがたい人材であった!
バカは、『やり直す度に、いろんな人のいろんな面が見える……』となんだか神妙な気持ちになりながら、むつがそっと抜け出してこっちへ来てくれるのを『こっちこっち』と呼び寄せるのだった!
「ええと……話、って、何?」
「その、こんな時にすまない。どうしても確認しておきたいことがあるんだ。本当は、もっと早く、タイミングを得たかったんだが……」
海斗は前置きをしつつ、ちょっと意を決したように一呼吸して……遂に、切り出した。
「……むつさんは、『駒井燕』を、知っているか?」
むつは、一瞬、何か考える様子を見せた。……だが。
「……燕を、知ってるの?」
その目に、緊張や警戒を……しかし、その奥には隠しきれない希望のようなものを煌めかせて、むつはバカと海斗を見つめ返してきた。
「……その反応を見る限り、やはり、あなたが『駒井燕』を知っている人だったんだな」
海斗はそう言って、ちょっと安心したように笑ってみせた。……バカは、『ん?むつが燕のこと知ってるのはもう知ってるじゃん?あれ?燕じゃなくて孔雀のことしかわかんねえのか!?』などと混乱していたが、まあ、つまるところ、海斗は『この周』のむつに警戒されないように話を持って行った、ということであろう。
「あの、なんで私が燕の事、知ってるって、思ったの……?」
「すまないが、事前に少し、調べていたんだ。僕らも僕らで、『駒井燕』については追っていたものだから、それで、むつさんについても、まあ、輪郭だけ分かっていた、というようなかんじだな」
そして、バカが『ほええ……?』とやっている横で、海斗はありもしない話をでっち上げていく。海斗はすごいのである!
「……あの、なんで燕について、調べてたの?」
だが、むつはやはり、警戒もしているようだ。じっ、とバカと海斗のことを見つめてくるが……これについては、バカだって答えられる!
「燕のねーちゃんに、頼まれたから!で、俺達、燕のねーちゃんと友達だから!」
……そう。バカも海斗も、結局のところは……駒井つぐみという、友達の為に、このデスゲームへ乗り込んできたのだ!
「え……?つぐみ、さん、が……?」
「うん!そう!」
一方のむつは、『まさか』という顔で驚いて固まっていた。
……確かに、クールなように見える、たまである。たまが必死になって弟の死の真相を知ろうとしている、というのは、意外なのかもしれない。
「あのな、俺達、前回のデスゲームで、つぐみと会ったんだ。それで、つぐみと陽と天城……えーと、つぐみの、彼氏と、つぐみの彼氏の進化系と一緒に、燕のこと探すようになったんだ!」
「か、彼氏の進化系って何!?」
「すまない。ああ、くそ、説明が難しい……んだが、その、まあ、色々あって『駒井つぐみの恋人の未来の姿』が一緒に居ることになったと思ってほしい」
「ええええ……?な、なにそれぇ……!?」
バカが話せば話すほど、むつは混乱していく。バカが説明下手なばっかりに!
……ということで、海斗が『ああ、これは僕が説明しなければならない奴だな……』と、頭を抱えつつ、戦線復帰した。
「そういうことで、僕達は『駒井つぐみ』さんの依頼を受けてここに来ている。このデスゲームに、『駒井燕』の情報があると聞いたものだから……。それで、まあ、『駒井燕』について調べているんだが……」
「そ、そっか……」
むつは、海斗の言葉を聞いてちょっと考える様子を見せた。
……そして。
「あの、私も一緒。私、悪魔にお願いして、このデスゲームに来たんだ。……『燕の死の真相を知りたい』って、いうことで……」
……むつから、そう、情報を得ることができたのである!
「……じゃあ、やっぱり君が、『駒井燕』について知る人、ということか……」
海斗がバカの方を見て、『やったな』という顔をした。なのでバカも、元気に『よかった!』と笑顔を返す。
「それで……えっと、燕って、その、死んだ……んだよね?」
が、むつにそう言われてしまって、バカも海斗も困ってしまう!
「……そうだな。僕達も、そう聞いている」
海斗はそう答えたが……バカの方を見て、『だが、居たんだよな?』という顔をしている。バカは、『居たんだよぉ……』と困った顔を返すしかない。
そう。駒井燕は、死んだのだ。
前のデスゲームの、『木星さん』こと井出に殺されてしまった、と聞いている。だから……燕が死んだことは、間違いない、はずなのだ。
だが……バカ達は、今回のデスゲームに、本当は『駒井燕の救出』を目標としてやってきている。つまり、やっぱり燕は生きている、ということになるのだろうが……そこらへんがどうなっているのかは、バカ達には分からないのである!
「……なんで、燕、死んじゃったんだろ……」
「あー……その、僕達が駒井つぐみさんから聞いた話では、『井出亨太』によって殺された、ということだった」
「井出、亨太……そっか……」
……むつは、しょんぼりとしている。その目が仄暗くて、バカは『ああ、むつの元気を無くしたいわけじゃないのにぃ!』と、慌ててしまう!
「あ、あのさ。俺達、燕のこと、直接知ってるわけじゃないからさあ……その、燕って、どういう奴だ?」
なので、バカはちょっとでもむつの意識を明るい方へ持ってきたくて、そんな話を持ち掛ける。
「え?えーと……ちょっと待ってね。うーん、どう説明したらいいのかなぁー……」
むつは、きょとん、としてから一生懸命考えてくれる。……バカは、『そういや、人の事を説明するのって難しいよなあ』と、聞いておいてから気づいた!ごめん、むつ!
「……あの、えーとね。まず……うん。燕は頭がいい奴だよ。ええと、ほら、お姉さんのつぐみさんも、東大に入ったでしょ?」
「うん!陽と一緒に同じ大学だって言ってた!」
バカは、『確か、陽もたまもめっちゃ頭がいい大学!』と頷いた。……その横で、海斗は『彼らは僕より成績優秀だからな……』と、ちょっと複雑そうな顔をしていた!
……別に、海斗の取柄は成績だけじゃないはずなのだが、海斗はどうも、自分の価値を成績とか学歴とかだけだと思いがちらしく、こうして『自分の上位互換』の話が出てくるとちょっと、コンプレックスを刺激されてしまうようなのである。バカは最近、海斗のそういうところが分かってきたところだ。バカには無い悩みなので、寄り添うのはちょっと難しい。何せ、バカはバカなので……。
「私、燕とは中学校までは一緒でね。でも、高校からは別。燕は進学校に行っちゃったから……だから、最近の燕のことは、あんまり知らないんだ」
むつは、そう言ってちょっと申し訳なさそうな顔をした。ああ、バカはやっぱり、むつには答えにくい質問をしてしまっただろうか……。
「え、えーと……その、燕って、つぐみに似てるか?」
「え?うーん……うん、そうだね。似てる、と思う。あのね、目のかんじとか、そっくり!ただ、燕は眼鏡、掛けてるけどね」
もうちょっと答えやすい話!と思って聞いてみると、むつからはそんな答えが返ってきた。
……目のかんじがたまにそっくりで、眼鏡をかけている男子。と、なると……いよいよ、孔雀が『駒井燕』ということで、間違いなさそうである!
……と、そうしてバカが『やっぱり孔雀が燕ってことでよさそうだ!』と元気になってきたところで。
「ところで……その、むつさんの異能について、聞いてもいいか」
海斗が、そう切り出した。
「え?異能……?」
が、当然、むつは警戒する!めっちゃ警戒されている!バカは、職場の裏に居る猫に近づいた時のことを思い出した!
「ああ、すまない。その、警戒するのは当然だよな。だが……その」
海斗は両手を顔の高さに掲げて『敵意はありません』のジェスチャーをしてみせつつ……しかし、心を鬼にして、言った。
「……不躾ですまないが、僕らはむつさんが悪魔じゃないか、と疑わなきゃいけないところにまで来ていてね」
「悪魔……私が?」
「ああ。……『悪魔が一人居る』という情報は、まあ、嘘じゃないだろうと思う。デスゲームのルールは、嘘を吐かないだろうから」
むつはいよいよ、海斗を警戒している様子だった。だが、海斗はそれでも努めて平静を装って続けた。
「だから、全員を疑わなきゃいけない。そして、五右衛門さんは悪魔じゃなかっただろう、と確証を得ているんだが……まだ、何も情報を得られていないのが、四郎さんとむつさんなんだ。その内、むつさんについては、異能すら分かっていない」
海斗の説明を聞いて、いよいよむつは『追い詰められている』というような顔になってきてしまった。その目の、ちょっと険のあるかんじを見て、バカは『むつもたまに似てるところあるよなあ……』などと思った。
「……まあ、そちらの手の内を明かさせる以上、こっちも手の内は明かそう」
「え?」
が、海斗がそう言って、はあ、とため息を吐いたのを見て、むつの警戒も、ちょっと緩む。……そして。
「樺島の異能は、『筋肉』だ。そして僕の異能は『リプレイ』だな」
海斗はサラッとバカの異能について嘘を吐いて……そして、自分の異能は、正直に答えたのだった!
こういうことをサラッとできるから、海斗はすごいのだ!
「え?『リプレイ』……?」
「ああ。その、場所や時間、起きていた事象などを指定する必要はあるが……過去にその場所で起きていたことを、1分間だけ『リプレイ』して確認することができる」
むつは、海斗の異能について聞いて、ちょっと興味を持ったらしい。尚、バカの異能が『筋肉』であるところについては全く疑問すら抱いてくれないらしい!バカ、悲しい!この筋肉は自前なのに!
「あの、それって、どれぐらい前のことまで確認できるの?」
「え?……試したことが無いから分からないな……。その、日常で頻繁に使うような異能でもないし……本当に、日常で使えるような異能だったらよかったんだが……」
「あっ!最近だと、俺がスマホ自分の部屋の中でなくした時に海斗に『リプレイ』使ってもらって探したことあるよ!その時は半日前ぐらいのやつ、再生できてた!あの時はありがとなぁ、海斗ぉ!」
「そ、そっか……よかったね、樺島さん……」
バカがにこにこして海斗へ拍手を送ると、むつもつられてか、ちょっと拍手してくれた。海斗はなんか、ちょっといじけていた!
「……さて。僕らの手の内は明かした。そっちも、明かしてくれると嬉しいんだが……そうじゃないと、樺島が出ることになる」
「俺ぇ!?」
いじけた海斗は、ちょっとむくれつつバカを前面に出してむつに迫る。前面に出されちゃったバカとしては、びっくりである!……が、『よし!これが俺の役割!』とすぐ割り切った!切り替えの速さはバカの美点!
「え、えーとぉ……」
……が、むつは、なんか、渋る。
バカが目の前でポージングしているところで……渋る。なのでバカはポーズを何度か、変えた。リラックス!ダブルバイセップス!ラットスプレッド!サイドチェストォ!
……と、バカが非常にむくつけき様相を呈してきたところで。
「……絶対に、変に疑わない?」
「へ?」
むつがそう言ってきたので、バカはバックダブルバイセップスの姿勢から振り向いた。
「そのぉ……絶対に、なんか疑われるよね、って思って……隠してたん、だけどさ……」
……むつは、もじもじ、としながら……異能を、使って見せてくれた。
「私の異能も、『氷を生み出す異能』なん、だよね……」
むつの手の上に、ぽふ、と、氷の欠片が生まれて煌めいた。
……四郎の異能みたいに!




