ゲームフェイズ2:『20』審判2
それから少し時間を置いたら、デュオが起きた。『無敵時間』の効果が切れたらしい。
デュオは、『えーと、これ、どういう状況かな……』とぼやきながら起きてきて、むつとヤエを大層驚かせていた。『死んだと思ってた!』ということであろう。が、まあ、デュオはこういう奴なのだ。素晴らしいことである。
デュオへの説明は、七香と海斗がやってくれた。その間、バカはタヌキとくっついて、ちょっとしょんぼりしながら待っていた。
「なんか……上手くいきません、ねえ……」
「うん……」
五右衛門も四郎も、死んでしまった。ヤエは、まだ泣いている。……この光景を見ると、只々、『上手くいかなかった』という気持ちばかりが、強くなる。
それに……海斗のことも、気がかりだ。
海斗は、『僕じゃなくて五右衛門さんがヤエさんと話すべきだ』と主張していた。バカも、『五右衛門とヤエが2人で話す時間が必要だよなあ』とは、思う。だって、多分、五右衛門はヤエに罪悪感があって……そして、ヤエもまた、五右衛門に対して罪悪感があるようなので。なら、彼らが互いにしか救えない。
だから、『五右衛門とヤエが話す』のが一番いいだろう、とは、思う。思うのだが……。
「……海斗、大丈夫かな」
「へ?海斗さん?」
バカが零すと、バカの隣に居たタヌキは『何故海斗さん!?むつさんやヤエさん、デュオさんでもなくて!?』と不思議がっていたが……バカのしょんぼりとした表情を見て、何か、思うところがあったらしい。
「……何かあったんですか?」
「うーん……何かあるのかもしれない、って、ちょっと、考えてるんだ」
バカはバカなので、どう説明していいのやら分からない。だがそれでもなんとか、言葉にまとめるべく考える。
「その……海斗は、ヤエのことが好きなんじゃないかと、思ったんだ」
結局、思ったことをそのまま言うことにする。が、それでもタヌキは『ほう!ほう!それで!』と、興味津々に聞いてくれるので、ちょっと話しやすい。
「でも、俺がやり直しちゃったら、またヤエのこと好きになるかどうか、分かんねえよな、って……。ヤエが海斗のことどう思ってるのかは、分かんねえけど……ヤエが海斗のこと、好きになるかもしれないのを、消しちゃうことにも、なるかも、しれなくて……」
バカがしょんぼりとそう言うと、タヌキは『あー……』と漏らしつつ、しゅん、と耳と尻尾をしょんぼりさせた。
「成程なあー……。私達全員のハッピーエンドの為には、樺島さん、やり直さなきゃいけないですよね。でも、海斗さん個人のハッピーエンドは……もしかしたら、ここかもしれない、と。そういうことですか」
「うん……いや、海斗も、今のままがいいとは、思ってないんだ。ヤエが悲しんでるし、五右衛門も四郎のおっさんも死んじゃったし……海斗は、それは、悲しいんだよ」
バカには分かる。海斗は人が悲しんでいることを喜ぶ奴ではない。……特に、ちょっと好きな子が悲しんでいるなら、尚更悲しいはずだ。
だから、海斗は『次は五右衛門さんがヤエさんと話すべき』と言っているのだ。自分がどうこうじゃなくて、自分が好きになった人達がどうこう、という話をしている。……ヤエのことをもう一度好きになることよりも、ヤエと五右衛門が悲しくないことを、選ぼうとしている。
「俺も……気持ちは、分かるし……それがいい、ってのも、分かる、けど……うん……」
バカだってそうだ。皆が幸せでいられたらいいな、と、思う。
だからこそ……海斗が自分の気持ちや記憶を……或いは、ヤエから海斗に気持ちが向くかもしれないきっかけを、『やり直し』で捨てることに同意していることが、悲しい。どうしようもなくて、仕方のないことだと分かってしまうから、悲しい。
……そうして、バカがじっと黙っていると。
「その……私、ほら。七香さんと、元々知り合いだったみたいじゃないですかぁ。それで、七香さんはその時の私がデュオさんじゃなくて本当に私だった、っていうのを、このデスゲームで初めて知った訳ですけどぉ……」
タヌキが、ふと、ぽつぽつ喋り出した。バカは、『おや?』と思いながらもタヌキの話を聞いて……。
「……それが良かったことなのかは、分からないですよねえ」
タヌキがそんなことを言うものだから、バカはびっくりした!
「な、なんでぇ……?」
「そりゃー、私がタヌキのままかもしれないこともそうですし、私がタヌキから人間のボディに戻ったところで、寿命が近いから……ですかねえ」
更に、タヌキがぽんぽこぽんぽこ、どんどん悲しいことを言うものだから、バカはすっかり『ひえええ』と慌ててしまった!
「……私自身は七香さんに知られないまま、死んでた方がよかったのかもしれないんですよ。七香さんにとっては」
「そ、そんなこと、ないと思う……ないよぉ、そんなのって……」
「そうですかねえ……でも、一度手に入れちゃったものがもう一回消えちゃうのって、多分、とってもとっても、辛いことですよ」
タヌキは、ちょこん、と首を傾げて、そんなことを言う。
……バカにも、分からないでもない。分からないでもないのだ。本当に。
『出会えてよかった』があるのと同じくらい、『出会わなければよかった』も、きっとある。
何がその人にとって幸せなことか、なんて、分からない。その人本人にしか分からないし、その人本人にだって分からないことも、あるだろうし……。
「……でもまあ、だからこそ『先送り』にしちゃいましょ、ってことですよね!」
が、そこでタヌキは、ぽこぽん!と元気に尻尾を立てて胸を張った。
「未来には希望があると信じて!問題を!先送りする!これが私のやり方!」
……バカは、ぽかん、とした。
問題を先送りにする、というのは……悪いことではないだろうか!少なくともバカは、職場で『今日できることを明日に延ばすな!ただし定時で上がれ!』と言われ続けているのだが……。
「なんかね、私、『可能性』ってものはすごいなあ、と思う訳ですよ」
タヌキは、ぽん、とその場に座り直して、ろくろを回すようなポーズを取り始めた。なのでバカもなんとなく、同じようなポーズになってしまう。2人ならんで、ろくろ回しである。バカの方はさしずめ、『陶芸教室にやってきた初心者』であろうが……。
「今、どうしようもない問題も、寝かしつけちゃってですね。未来にもう一回起こしてみたら……すぐ解決する、ってこと、ありません?」
バカは、頭の中で海斗とヤエと五右衛門を寝かしつけてみた。色々と違う。
……が、バカの頭の中ですやすや眠った3人は、やっぱりバカの頭の中でむにゃむにゃと起きてきて……その時にはなんとなく、部屋のカーテン越しに朝陽が差し込んでるんじゃないかな、という気がしたのだ。
「ほら、考古学とかでも、あるじゃないですか。『今の技術では破損せずに中を見ることはできないけれど、遠い未来にはその技術が生まれるかもしれないから、資料を廃棄せずに残しておく』みたいなやつ」
「あ、それは知ってる!なんか、壁画の修復やってるおっちゃんが教えてくれたことある!」
バカは色々な職人さんの話を聞いたことがあるので、知っていることもある。
……その中の1人が、『自分達にはどうしようもねえ、っつって未来に先送りしてくれた過去の奴らのおかげで、この壁画は綺麗によみがえったってワケよ!』と教えてくれたことがあるのだ。あれは、良い『先送り』だった。
「そう!だから……問題は、とりあえず『取り返しがつかなくならないように』ってところで、保留しとくのもアリなんじゃないかと、私は思う訳です!だってきっと、未来は明るいからっ!」
タヌキは嬉しそうにぽんぽこ跳ねながらそう言って……それから、ちょこん、と樺島の膝の上に乗ってきた。
「樺島さんも、そういうタイプじゃないですか?なんかこう、私達、ちょっと似てるとこ、ありません?」
「あ、うん、ちょっと思う……」
バカは、『俺はタヌキみたいに器用じゃないし、タヌキみたいにかわいくもないけど……』と、ちょっと首を傾げた。でも、楽天的で、未来に希望を抱いていられるところは多分、一緒である。
「ですから……先送りしましょ!ね!もし、海斗さんじゃなくて五右衛門さんがヤエさんとお話しして、それをきっかけにしてヤエさんが元気を出したとして……だからといって、海斗さんがヤエさんと仲良くなれなくなるってわけじゃ、ないですもん!未来ではきっと、全部、上手くいきますよ!」
「……うん!そう、だよな!そうする!」
バカは大きく頷いた。
今回上手くいったことが、次回、上手くいかなかったとしても。それでも、バカは諦めない。
何度だってやり直せばいい。一番いい『全部うまくいく未来』をつかみ取るまで、頑張り続ければいいのだ。粘り強さと根性は、樺島剛の十八番である!
それで……海斗が忘れてしまっても、忘れないでいようと思う。
自分の親友が、多分、ちょっとだけ……恋をしていたことを。そしてそれを、相手のことを想って諦めたことも。
……バカは、『海斗って、本当にかっこいいやつだよなあ』と思った。
さて。
そうして、バカと海斗とデュオが集まって話すことにした。勿論、『次回』の話である。
……尚、むつとヤエにはまだ、『やり直し』の話はしない方がいいだろう、ということで、ここは保留である。その間、むつとヤエの方は、七香とタヌキが一緒に居てくれている。尚、タヌキは『女子会!』と元気にぽんぽこやっていたが……タヌキが入ったら女子会ではないのではないだろうか。バカは訝しんだ。
「えーと……俺の意識が無い間に、結構色々あったみたいだけど、まあ、概ねは把握できたと思うよ」
まず、デュオについては頭がいいので、既に状況を理解できてしまったらしい。早い早い。
「まず、小さな謎については……そっちの『6』の部屋の内容と、こっちの『20』の部屋の内容、か。『どうして6番アルカナルームで死んだ五右衛門さんが20番アルカナルームに突如現れたのか』ってところだよね」
デュオは『そうだなあ』と少し天井を眺めてから、ちら、とカードを見た。……どうやら、『20』のカードはデュオが持ってきたらしい。ちゃっかりしている!
「これについては……『6』じゃなくて、『20』の方の仕様だと思うんだ。何せ、『20』は『審判』であって……意味するところの1つは、『敗者復活』だから」
「そうなのかあ」
バカが『ほええ』と感嘆のため息と拍手を送ると、デュオは『樺島君、本当にいい人だよね……人がいいというべきか……』と同じようでちょっと違うことを言った。
「まあ、分からないけどね。『6』の部屋の方では、『死んだ人を取り込んで消す』みたいな効果があるのかもしれないし。こっちは間違いなく、『死んだ人を出現させる部屋』だとは思うけど」
「……ということは、誰か死んでしまっても、この部屋に来れば助けられる、ということか……?」
「海斗君。ここは『悪魔のデスゲーム』だ」
デュオは『海斗君も人がいい……』と苦笑して、それから、ちら、とヤエ達の方を見た。
「……五右衛門さんの腕、確認した?腕輪があったけれど」
「腕輪が?……おかしいな、『5』の腕輪は、僕らが破壊して所有していたんだが……」
バカが首を傾げ、海斗も首を傾げていると、デュオは声を潜めて、教えてくれた。
「……腕輪には数字があったよ。ただし、『5』じゃなかった。見た限り、『8』だったように思う」
「……ヤエの数字、か?」
「そうだね。まあ……多分、『今、部屋に居る人の腕輪の数のどれかがランダムでコピーされる』ってところじゃないかと思うけれど」
バカは、ギュッ!と目に力を入れると、その驚異的な視力で、倒れた五右衛門の腕を注視した。……確かに、『8』って書いてある腕輪がある!とんでもないことである!
「……となると、この『20』の部屋から脱出するためには、自分の腕輪がコピーした番号の誰かを殺さなきゃいけない。そうじゃなきゃ、腕を切り落として腕輪を外すか……」
「ひえええ……」
バカは慄いた!こわい!とてもこわい話である!
……流石は、『悪魔のデスゲーム』だ!
「……そうだな。まあ、『やり直し』する前に、俺を殺してくれればいいよ。それでここを覗いてみたら、まあ、それなりに安全に検証できるはずだから」
「うおおおお!?何言ってんだよデュオぉおおお!」
更に、バカはまだまだ慄く!こわい!とってもこわい!デュオまでこわい!もうやだ!
「俺は樺島君の『やり直し』を信じてるから。……いや、まあ、殺されたいわけじゃないし、やってくれるんだったら海斗君が代わりにやってくれてもいいよ」
「ぼ、僕か……。ま、まあ、うん……」
海斗は『嫌だ……』というような顔をしている!当然、バカも嫌だ!いくら『やり直し』すると言っても、海斗を手に掛けるようなこと、絶対にしたくないのである!
「まあ……この部屋の機能は、使わなくて済むなら使わないに越したことは無いから、このまま封印、ってことでもいいと思うけれど」
「うん!そうしよう!な!そうしよう!」
「……検証したとして、『スワンプマン』の問題が発生しそうだしな。どのみち、救済措置として使うには解明できない点が多すぎる。なら、触らぬ神に祟りなし、だ」
海斗もそう言っていることだし、バカも『俺は触らない!』とぶんぶん首を縦に振りまくっておいた。
試しにでも、誰かを殺すなんてとんでもないことである!はい!この話はもう終わり!
「じゃあ、このデスゲーム会場に関する謎は、ここ『20』の仕様……は置いておくにして、後は『0』の部屋はまだ、一度も確認してないんだったよね?」
「確認してない!」
「そうか。まあ……あれこれひっくり返すものが無いとは言えないし、見ておいてもいいんじゃないかな。できれば、樺島君以外の誰かが行ってくるのがいいと思うけれど……俺でいいか」
「デュオはもうちょっと自分のこと大事にした方がいいと思うぞ……」
バカは色々と、デュオのことが心配になってきた。
このデュオ……『宇佐美光』な訳ではあるが、『陽』よりも大分疲れ果ててしまっているし、その割に、『天城』のようには割り切れていないようである。そして行動力と頭脳が合わさって、とんでもないことになっている。実に心配である。
「まあ……うん。お言葉はありがたく受け取っておくけどね。あはは……」
「そう、だな……僕としても、デュオが『0』の部屋に行くことについては、賛成する。というか、樺島を未知の部屋へやるリスクが大きすぎるからな……」
だが、海斗も賛同していることであるし、ここはデュオに任せた方がいいだろう。
……デュオならば、信頼できる。その頭脳と機転があれば、『0』の部屋だって攻略してきてくれることであろう!
さて。そうしてデュオの単独行動が決まったところで……。
「じゃあ、俺は『0』の部屋を探索する。もし帰ってこなかったら、この『20』の部屋を探してみてほしい。『敗者復活』するかもしれないからね」
「わ、分かった!」
バカとしては、『デュオ、どうか無事で!』という気持ちなのだが、デュオ自身は『まあ、俺が死んだらそれはそれで悪くないか』などと言っている!本当に、自分を大事にしてほしいと強く思うバカであった!
「だから樺島君達はその間……そうだな」
が、デュオから仕事を振られるとなったら、やる気を出さないわけにはいかない。バカは『なんでもこい!』と身構える。
すると。
「……むつさんの情報を、聞き出してみてほしい。『駒井燕』と友達なら、何か知っているかもしれないし……何より、彼女は今までの『やり直し』でもずっと、異能を秘密にしているみたいだからね」
……デュオの視線の先、ヤエがまだ泣いているそこで……むつがずっと、寄り添っている。
彼女については、未だに分からないことだらけだ。
そろそろ、聞いてみてもいい頃だろう。




