ゲームフェイズ2:大広間2
「……ご、五右衛門!?」
バカはきょろきょろと辺りを見回してみたが、五右衛門は居ない。
海斗も見回しているが、何も見当たらない。
それどころか……五右衛門の『恋人』の子も、ぽかんとした直後、泣きそうな顔できょろきょろと辺りを見回して……しかし、やっぱり五右衛門が居ないのである!
「ど、どういうことだ……?この部屋には、何か、まだ仕掛けがあったっていうのか……?」
海斗が困惑しているということは、これは想定外の出来事なのだろう。バカはそう理解して、『何かあったら俺が海斗を守るんだ!』と決意を新たに、周囲への警戒を強める。
……が、何も無い。
何も無いのである。
五右衛門は当然のように見つからないし、それどころか、五右衛門が消えた理由も何も分からない。
この部屋には相変わらず、かわいい女の子達と林檎の木があるばかりだ。ルールの文にも変化は無い。
本当に何も無い。なのに、五右衛門がいきなり、姿を消してしまった。
五右衛門の落下地点の石に付着した血を見る限り、五右衛門は結構な勢いで石に頭をぶつけたことになる訳だが……それが何か、関係しているのだろうか。
だが、何かありそうではあっても、バカには何も分からない。何せ、バカなので!
「……これは、考えていても埒が明かないな」
やがて、頭脳派である海斗は眉間に皺を寄せながらも、そう結論を出した。
「あー……そこの君。ちょっと、いいか」
海斗が声を掛けたのは、五右衛門の『恋人』になった、ヤエ似の女の子である。彼女は五右衛門が居なくなってしまった地点に座り込んで、はらはらと涙を流していた。なまじヤエに似ているものだから……とても、気まずい!
「君、五右衛門さんを殺そうとしたのか」
海斗がそう問えば、ヤエ似のその子は顔を上げて、ふるんふるん、と首を横に振った。涙に濡れた目が、じっ、とバカと海斗を見つめてくる。……とってもとっても、気まずい!
「あー……違うのか。なら……ええと、五右衛門さんが何処に行ったか、知っているか?」
続いた問いにも、彼女は力なく首を横に振った。そして、しょんぼり、と俯いて、また涙を零し始めてしまう。ああ、ものすごく、気まずい!
「知らない、のか……?え、じゃあ、五右衛門さんが消えたのは、この部屋の仕掛けじゃ、ないのか……?」
海斗はいよいよ頭を抱えて……そして、バカの方を振り返った。
「……樺島。五右衛門さんの異能は、『手が鋏』なんだったな?」
「うん。それは間違いねえよぉ……。俺、ちゃんと見たもん……」
バカは、『そうだったよなあ』と自分の記憶をちゃんと確認する。そう。五右衛門の異能は、確かに『手が鋭い鋏になるやつ』だった。つまり、いきなり消えたり、いきなり移動したりするような異能ではなかった、と思われるのだが……。
「となると、まだ判明していない異能の持ち主が、何か介入した、のか……?いや、何のために……?」
海斗がぶつぶつと言っているのを聞きながら、バカは『そういや、まだむつの異能って分かってねえんだよなあ……』とぼんやり思う。それから、孔雀も……最初の周以来、一度も会えていないので、異能も何も無いのだが……孔雀のことも色々、分からないままだ。
……むつは、孔雀が何処に居るか知っているだろうか。
「……駄目だ。一度、デュオとも相談してみようか」
結局、海斗も『分からない』という結論に至ったらしい。深くため息を吐いて、それからそこら辺の枝から林檎をもぐと、ずい、とバカに差し出した。
「完食してくれ。そうしたらカードが手に入るんだったな?」
「あ、うん。俺が食っていいのか?」
「僕はなんというか……食べる前からお腹いっぱいの気分だ」
海斗はげんなりしてしまっていて、元気がない。『まあ、そういうこともあるよなあ』と納得したバカは、早速、大喜びで林檎を食べた。シャクシャクしていて、甘くて、瑞々しくて……おいしい!バカはちょっぴり元気になった!
バカが『うめえ!』とやっていると、バカの傍に女の子がやってきて、そっとカードを渡して、しょんぼりと帰っていった。
……そして相変わらず、五右衛門の『恋人』の子は、しくしく泣いている。とっても気まずい!
「その……元気出せよぉ」
なのでバカは、ぽふぽふ、と、その子の肩を叩いて励ましてやった。
……彼女は泣き止まなかったが、仕方がない。バカ達が五右衛門の代わりにこの子の『恋人』になってやる訳にもいかないことだし……バカ達はなんとも気まずい思いを抱えながら、ヤエ似のその子を残して、大広間へと戻るのだった……。
バカ達が大広間に戻ると、そこでは七香が1人、待機していた。
七香はバカと海斗が出てきたのを見て、少しばかり微笑んでいたが……五右衛門が居ない、ということに気付くと、表情を曇らせる。
「……五右衛門さんは?」
七香は足早に寄ってくると……少しばかり、疑うような目をバカと海斗に向けてきた。それはそうである。バカと海斗が居て、一緒に居るはずだった五右衛門が居ないとなれば、間違いなく何かあったということなのだから。
「ああ……その、嘘を吐いているように聞こえるだろうことは分かっているんだが……その、五右衛門さんが、消えた」
「……消えた?」
海斗の説明に、七香は眉を顰めて……警戒を強めた。
「それは……『消した』ということかしら」
「誤解だ!僕達は誓って何もしていない!そういう意味じゃないんだ!本当に、忽然と、姿を消したんだ!」
何やら盛大に誤解されていたところを海斗が必死に弁明すると、七香は『そう』とだけ言った。……もし本当にバカと海斗が五右衛門を『消した』のだとしても興味は無い、とでもいうかのような顔である!こわい!七香って……やはり、ちょっと怖い人なのである!
「その……まあ、五右衛門さん自身によるミスはあったし、それによって彼は『6』の部屋から出られないことが決定した。だが……それとは恐らく全く関係なく、『消えた』んだ。本当に……」
……ということで、海斗がもうちょっと詳しく七香に説明した。すると七香は、やはり『そう』と言って、それから少し、考えた。
「……タヌキさんも、デュオさん達も戻ってきません。そちらでも、何か起きているのかしら」
七香からしてみれば、消えた五右衛門のことは当然気になるのだろうが、それと同時に、タヌキやデュオの安否は気になるのだろう。
それは当然、バカにも気になることである。『タヌキ、えっちな部屋で大丈夫かなあ……』と、非常にやきもきしている!
それに加えて……。
「……『3』は女帝。そして『20』は、『審判』ですね。何がある部屋なのか……」
七香がそう言って、心配そうに視線を彷徨わせているが……バカは、『あれ?20番ってなんだっけ?』と、やはり記憶の中を彷徨い始める。
「ああ……ジャッジメント、か。何がある、と言われると、よく分からないが……」
海斗が『推測するのが難しいな……』と唸る横で、バカは尚も、記憶の中をふらふらっ、と彷徨って……そして。
「……なんも無い部屋、だった気がする」
……そう、思い出した。
そうだ。『20』のアルカナルームは……『なんも無い部屋』だったのである!
「なんも無い部屋……だと?」
「うん。入ったことあるけど、なんも無いんだよぉ……」
バカは思い出す。そうだ。『20』の部屋は、なんも無かった。
バカが入った時もそうだったし、むつが入った時も、『なんも無かった』と報告してくれたことがあった。つまり、あの部屋は『なんも無い』のである!
「ま、待て。なんも無い、ということは……その、カードがただ落ちているだけ、と?」
「うん。床にただ一枚、カード落っこちてた!」
困惑する海斗にバカが『確かそうだった!』と元気に答えると……海斗の表情は、より一層、険しくなった。
そして、七香は……。
「でしたら、何故デュオさん達は戻ってこないのでしょうか」
……七香は焦燥を露わに、数歩分、歩く。そしてまた数歩、戻ってきて……行ったり来たり、落ち着かなげだ。バカも気持ちは分かるので、七香と一緒に行ったり来たりしてみた。……七香にはちょっと嫌そうな顔をされてしまった!
「……考え得ることがあるとすると、樺島が知っている情報と今回のデスゲームの内容が食い違う、という可能性か。いや、しかしそれよりは、異能の効果を疑った方がいい、のか……?」
海斗はまたしても頭を抱えて悩み始めてしまったし、七香も心配そうにうろうろしながら何やらぶつぶつと呟いている。
バカは、『俺、こういう時役に立たねえよなあ……』としょんぼりしながら、海斗のように頭を抱え、七香のようにうろうろするのであった……。
が、そんなバカ達の耳に、福音にも思えるようなエレベーターの駆動音が聞こえてくる。
バカ達が『デュオ達が帰ってくるのか!?』とそわそわしていると……。
「ただいまですぅー……。いやー……酷い目に、遭いましたよぉー……」
……帰ってきたのは、タヌキであった!ぽんぽこぽん!
「……タヌキか」
「タヌキだったぁ……」
「え?なんですか?この、海斗さんと樺島さんの反応は?あの、私でガッカリ、みたいなの、なんなんですか?ちょっと傷つきますよ?」
……バカも海斗も、『まあ、タヌキは無事だろうな……』と思っていただけに、『デュオ達じゃなくてタヌキだった……』と、ちょっぴりしょんぼりしてしまうのは仕方がないのである。タヌキには申し訳ないが。
「お帰りなさい、タヌキさん。ご無事で何よりよ」
一方の七香は、表情を綻ばせてタヌキを抱き上げた。タヌキは『ただいまです!七香さんは優しい!嬉しい!』と尻尾をぽんぽん振って喜びを表現している。
「えーと……あれ?デュオさん達のチームはまだです?」
が、タヌキはタヌキで、やっぱりこっちが気になるらしい。なのでバカは、『デュオ達のチーム、まだ戻ってきてねえみたいなんだよぉ……』としょんぼり告げた。そしてタヌキと一緒に『心配……』としょんぼりすることになってしまった!ああ、心配!
……が、そうしてしょんぼりしていたタヌキとバカを、海斗がちょこちょこ、とつついた。
「心配なら、様子を見に行けばいいだろう」
「へ?」
バカが『どういうことぉ……?』と首を傾げていると、海斗は『やれやれ』と言わんばかりの顔でため息を吐いた。……多分、ちょっと心配を隠すための『やれやれ』だ。バカには分かる。
「忘れたのか?お前は元々、『10』の腕輪を持っていたんだぞ」
「え?……あ、うん。そりゃ、そうだけどぉ……」
バカは、『それに何の意味が……?』と首を傾げる。バカはバカなので。
その横でタヌキと七香が『ああ、なるほど』という顔をしていたが……海斗は根気強く、バカに説明してくれた。
「だから、樺島。お前の『10』の腕輪を取ってこい。……それに、タヌキと七香さんを連れて行けば、合計は『20』になる。それで、『20』の部屋に入れるはずだ」
そうしてようやく、バカは『10+3+7=20』を計算することができ、そして、自分にできることを見つけることができたのだった!
……どうやら、バカ達は、デュオ達を迎えに行くことができそうである。




