ゲームフェイズ2:『6』恋人2
「え!?ど、どうすんだこれぇ!?駄目じゃないのか!?駄目なんだったよなあ!?」
「ど、どうしましょどうしましょ!?あああああアタシ、やらかしたわよねぇ!?これぇ!?」
「そ、そうだな!?大いにやらかしているが、ちょ、ちょっと待て!ちょっと待って落ち着いて考えよう!」
ということで、バカ達は大いに慌て、大いに慌て、そして大いに慌てた。あわわわわわ。
……慌てるバカ達の周りでは、かわいい女の子達が、五右衛門が林檎を分けっこしちゃった女の子に『おめでとう!』『よかったね!』と声を掛けていた。気まずい!とても、気まずい!
そう。気まずい。あまりに気まずいので……。
「ここならきまずくない……」
「気まずいが……?」
……ということでバカ達は、林檎の木の上に座って、話し合いすることにした。
何も解決していないが、女の子達からちょっと離れた分、ちょっとはマシになった。そう思うことにしたバカなのである。
「ど、どうしましょ……アタシ、ルール読まずに林檎なんか食べるから……」
「な、なんで食べちゃったんだよぉ……」
「そう言われても……断ったら悲しそうな顔、するんだもの……。なんかあの子、ヤエちゃんに似てたし……それで、つい……。それに、林檎食べるくらい、いいでしょ、って……樺島君も『林檎食べ放題の部屋』とか言ってたし……ああああんもおおおおお!」
五右衛門は『バカバカバカ!アタシのバカ!』とやっているが、バカは『俺俺俺!?五右衛門は俺!?』と混乱している!バカ!
「……で?あのルールを読む限り、アタシ、もうここから出られないのね?」
「そうだな……」
五右衛門が『あーんもう』とやっている一方、海斗はなんとも神妙な顔をしている。
「本来なら、まあ、僕と樺島も出られなくなっていたところだ。『5』の腕輪ごと五右衛門さんが出てこられないんだったら、僕も樺島もエレベーターを起動できなくなるからな」
「えっ!?ここ、そういう部屋なのか!?」
「そういう部屋だ」
バカはぎょっとした。なんと、この部屋……かなり怖い部屋であったようである!誰かがうっかり林檎わけっこをやっちゃったら、チーム全員が出られなくなってしまうとは!
「だが、まあ……幸いにして、樺島が居る。『腕を切断する』ということは考えなくてもよさそうだな」
「腕を切断!?こっわ!こっわぁ!」
更に海斗が怖い話を始めたので、バカは『怖い!怖い!』とジタバタした。バカのジタバタに合わせてリンゴの木がゆっさゆっさと揺れるため、海斗が『大人しくしろ!揺れる!』と怒った。バカはすぐぴたりと止まった。海斗の指示にはちゃんと従えるバカなのである。
「……ま、そうね。じゃ、やってもらいましょうか……。はいどーぞ」
「あ、じゃあ、腕輪、壊せばいい、のか……?」
「そういうことだ。やれ」
バカはちょっと遠慮がちに五右衛門の腕輪をぱきんとやった。五右衛門は、『本当に腕輪って破壊できちゃうのねえ……』と何とも言えない顔をしていた……。
「さて。これで僕達は出られる訳だが……五右衛門さん、どうする?」
「どうする、って言われても……アタシ、もうここから出られないんでしょお?ならどうしようもないわよねえ……?」
海斗の問いに、五右衛門は何とも言えない顔で、チラッ、と林檎の木の下を見る。すると、そこにはそわそわもじもじ、五右衛門を見上げ続けていたヤエ似の女の子がいて、五右衛門がそちらを見た途端、ぱっ、と表情を明るくして嬉しそうにするのだ!ああ、かわいい!
「えーと……まあ、アタシ、あの子とここで暮らす、ってことになる、のよね……多分」
「そう、だな……」
五右衛門は苦笑しながら木の下の女の子……つまるところ、五右衛門の『恋人』になってしまったその子に、ひら、と手を振った。それだけでその子がなんとも嬉しそうにするものだから、なるほど、とてつもなくかわいい。
「……ま、アタシはここで脱落、ってことでいいわ。元々、脱出したいってわけでもなかったし」
五右衛門がそんなことを言うものだから、バカはちょっと困ってしまう。どうせなら、バカは五右衛門も連れて脱出したいのだが……。
「……あの、五右衛門の願いって、何だったんだ?」
「へ?」
だからバカは、聞いてみる。
何事も、ストレートに聞くのが一番早いことが多いのである!それで上手くいくかは、さておき!
「アタシ……の、願い、ねえ……」
五右衛門は、ちょっと考えた。……考えている、ということは、答えてくれる、ということであろう。バカがドストレートに聞いたというのに、ちゃんと答えてくれるあたり、五右衛門はやはり、いい奴なのであろう。
「ま……ヤエちゃんが居る以上、ヤエちゃんがちゃんと無事に脱出できるように、っていうのは、願い、だけど」
「そ、っかぁ……?」
バカは、『確かに、五右衛門はヤエのこと、気にしてるんだもんな……』と思って頷いた。
……五右衛門だって、ヤエを轢きたくて轢いたわけでは、ないはずなのだ。けれど、そうなってしまった、という事実はあって……それが辛いのだろう、ということは、バカにもなんとなく、理解できる。できるから、バカもちょっと、悲しい。
「えーと、ヤエちゃんとあんた達、どういう話、したの?もしよかったら、詳しく聞かせてくれないかしら」
……一方、五右衛門は『ヤエが元気になった』ということが大変気になっていたようなので、海斗が詳しく話すことになった。
バカはそれをふんふん、と聞きながら、『海斗は説明が、上手!』と誇らしく思った。
そうして海斗の説明が終わって、五右衛門は『よかった』と微笑んだ。
「まあ……そういうことなら、アタシの願いは一部叶った、ってことね。ヤエちゃんが、前向きになれたっていうんなら……」
……五右衛門がなんだか満足そうにしているのを見て、バカはなんだか、『それじゃダメなんじゃないか』という気分になってくる。
「……あの、でも、五右衛門はヤエがここに居るっての知らずにここに来たんだろ?だったら……ヤエのことじゃなくて、何か、他に願い事があったんじゃないのか……?」
だって五右衛門は、ここへ来た。『悪魔のデスゲーム』へ来たのだから……ヤエのことじゃない、何かがあったはずなのだ。
だが。
「死にに来たの」
五右衛門はそんなことを言うのだ。
「……死ぬ言い訳が、欲しかっただけよ。本当に、それだけ」
「ずっと、仕事一筋だったのよ。アタシ」
五右衛門がそう、喋り出したのをバカは黙って聞く。掛けられる言葉がまだ、見つからないから。
「仕事のために生きてきたの。身につけられるものは何でも身につけようとしたし、勉強だってしてきた。それ以外だって、仕事取るために色々努力はしてきたし……そうねえ、仕事の為に始めたファッションオカマもすっかり板についたでしょ?」
「うん!」
「ま、元々素質あったのかもね」
五右衛門がおどけてウインクしてみせてくれたのに、バカもウインクを返そうとした。が、瞬きして終わった。ウインクはバカには難しいのである。
「……でも、まあ、なーんかね。上手くいかないもんでさあ……アタシがモデルさんに手ェ出したって噂になって……」
「出したのか?」
「出してないわよ。でも噂ってそういうモンでしょお?やんなっちゃうわよ」
バカはしょんぼりした。真実ではないことが真実として広まって、その結果、何も悪いことをしていない人が酷い目に遭う。そういうことが、往々にしてこの世界にはあって……それが、とても悔しい。
「……そしたら仕事、片っ端から切られてね。まあ、なんか鳴り物入りの『業界期待の新人』が来たっていうから、そっちに仕事振るためにアタシを降ろしたかったんだろうけどさあ……それにしたって、やり方ってもんが、あるでしょうに、って……」
五右衛門の声が少し震えて、そして、はあ、と大きなため息がくっついてきた。バカも、ひっそりと、ほふ、とため息を吐く。五右衛門の比ではないだろうが、それでも、五右衛門の辛い話から辛さをちょっと、お裾分けされているところなので。
「……それで、その頃に自動車事故よ。そしたらいよいよ、仕事全部吹っ飛んだからさあ……正直、賠償のお金も、それを稼ぐ手段も無いのよね。反省があっても償うためのお金が無きゃ、反省してることにならないし」
五右衛門は天を仰いで、ちょっと考えて……それから、笑った。
「だったら死ぬしかないじゃない?」
バカは、『そんな、何も死ななくても、いいんじゃねえかなあ……』と、思った。思った、のだが……。
「……そうだな」
……海斗はどうやら、五右衛門の気持ちが分かるらしい。沈鬱な表情で、こく、と頷いていた。
バカはちょっとだけ、『そんなことない』と言おうか、迷った。だが、止めた。だってこれはきっと……バカがバカだから、見えていないものが沢山あって、だから、『死ななくても何とかなるんじゃないだろうか』と思ってしまうだけなのだ。
バカはバカなので、ぽけらん、と楽しく平和に生きている。よく分からないから、嫌なことに気付かないまま、生きていられることも多い。
それはとても幸せなことだが……全ての人が『ぽけらん』だと、この世界は破綻してしまうということを、バカは知っている。
この世界には、嫌なことに気付いたり、未来のことを考えたり決めたりする人が居ないといけない。そして往々にして、その役割を果たすのは頭のいい人達だ。彼らは嫌なことやどうしようもないことに気付いてしまうし、それとずっとずっと向き合っていなきゃいけない。
……バカがバカで、それ故に幸せであれる分、頭のいい人が割を食っている。多分、バカには分からない何かを知っていて、それ故に、バカよりも辛い思いをすることが、多い。……今の、五右衛門や海斗みたいに。
彼らが、『死ぬしかない』と思うのであれば、そうなのだろう。バカはバカだから気づかないだけで……少なくとも、五右衛門と海斗は、『死ぬしかない』と。そう思うのだ。
ならば、それを安易に蹴とばすことはしたくないな、と、バカは思う。自分には見えていないものがあるだけだろうから。そして、彼らが今、そう思っているという事実は、ここに在る訳だから。
「……ま、そういう訳で、アタシには願いなんて無かったの。まあ、もし生き残れるんだったら、『莫大なお金』ってのは、考えるけど……或いは、ヤエちゃんの脚が戻ったなら、それでもよかったわね」
五右衛門の話を聞いて、バカはしょんぼりと肩を落とした。
……五右衛門の願いも、ヤエと一緒だ。『無い』のだ。
ただ、それはヤエや海斗みたいに、『見つからない』のではなくて……きっと、『もう見えない』のだろう。
だが……一度でも見えていたものがあるのなら、バカ達は力になれるかもしれないのだ。
「……あの、五右衛門。あのな、お金のことなら、デュオがなんとかできるって言ってたぞ」
「は?」
バカは、五右衛門の願いを邪魔するものを、1つずつ退かしていくつもりで、そう、切り出してみた。
……五右衛門の願いが見えなくなっちゃったのが、ヤエの脚を奪ってしまった罪悪感と、お金に関する現実的な問題の2つなのだとしたら……その2つとも、バカ達に退かせるかもしれないのだ!
「ちょ、ちょっと。どういうことよ、それ」
五右衛門は困惑していたが、海斗は、はっとした顔をする。……そして、海斗もバカと同じように、『問題を退かせる』ことに気づいたのだ。
「その……実は、僕と樺島は、デュオが手に入れたい情報を持っているんだ。ついでに、僕と樺島はデュオと利害が一致する」
詳しい話は海斗がしてくれる。尤も、海斗が話しても五右衛門はぽかんとしていたが……。
「……情報料として、金銭を貰うことはできる。それを、五右衛門さんに回すこともできる。それから……こっちは、やってみないことには分からないが……僕らの知り合いに、『人の怪我を治せる異能』を持つ女性が居てね。ヤエさんの脚を治せる可能性がある。まあ、こっちはヤエさん次第ではあるが……」
「え、その、話が見えない、んだけど……?」
「その、つまり、だ。えーと……」
海斗が、『どう言っていいものか』と悩んでいる。……バカも、『説明が難しいよなあ』と思って……だが、本質は、変わらないのだ。
「あの、五右衛門は、『死ななくてもいい』状態になったなら、何がしたい?」
バカがそう聞いたら、五右衛門は、ぱち、と目を瞬かせた。
「アタシ、は……」
その時だった。
「あっ、ちょっと……」
五右衛門の体が、傾く。
……それは、ヤエ似のかわいい女の子……五右衛門の『恋人』になってしまったその子が、五右衛門の脚に飛びついたからだ。
その子が飛びついた勢いで、五右衛門は林檎の木から落ちていく。
そしてそのまま、五右衛門は地面へと叩きつけられ……。
「えっ?」
「あれっ?……五右衛門?」
……五右衛門は、消えた。
本当に、文字通り……忽然と、姿を消してしまったのである。
ただ……五右衛門の頭部がぶつかったであろう位置に丁度あった大きな石に、血の跡を残して。




