ゲームフェイズ2:大広間1
「四郎ー!」
バカ元気に四郎をお出迎えした。
四郎相手にするのはちょっと気まずいが、こういう時こそアタックである。人の懐にはぐいぐい潜り込みに行くものである。特に、四郎みたいなタイプには、ぐいぐい行っちゃっていいのである。バカはそれを今の職場で学んだ!
「……そっちはもう終わったのか」
そして、個室から出てきた四郎は、ちら、とバカ達を見て、そんなことを言った。……お喋りしてくれるらしい!バカは大いに喜んだ!
「うん!終わった!これ!」
ということで、バカは尻ポッケに海斗が入れていたカードを取り出して、四郎に見せる。四郎はカードをちら、と見ると、興味を失ったように顔を背けてしまった。……四郎は、カード自体には本当に興味がないのかもしれない。
……と、思ったのだが。
「おい、タヌキ」
「エッ私ですか!?」
四郎がタヌキに声を掛け始めたので、タヌキがものすごくびっくりしてしまった。当然、バカもびっくりする!
「俺と『7』に入らねえか」
更に、四郎がそんな誘いをタヌキに掛け始めたので、タヌキは『ええええええええええ!?』とびっくりの声を上げ始めたのであった!
「エッ!?なんで!?なんで私!?」
「お前が3番だからだ」
「いやそうなんですけどぉ!ううーん!そうなんですけどぉ!そうじゃなくてぇ!」
タヌキはおろおろしながらその場でくるくる回り始めてしまった。バカは、『ああ、タヌキが混乱してる……』とタヌキを温かく見守った。
「ここで決断するなら、付き合ってやる。……お前が『7』に入る方法は、俺と組む以外にねえぞ」
「ええー……」
タヌキは、『そりゃ確かにそうですよねえ……』と言いながら、こて、と首を傾げて……。
「……うーん、やめときます!だって、七香さんと樺島さんが入った方が安全だと思うので!」
「……そうかよ」
タヌキがアッサリと断ったので、四郎は舌打ちして、ふい、とそっぽを向いてしまった。だがタヌキは『いやーすみません。でもやっぱり、2人っていうのは怖いですし!』と遠慮が無い。タヌキの良いところである!
だが。
「いや、ちょっと待ってほしい。僕も加えて『8』はどうだ?」
……海斗がそう言い出したので、話がややこしくなってきた!
「えっ、海斗、行くのか?」
「まあ……ヤエさん1人で行くよりは、良いだろうと思ったんだが」
海斗はそう言って、ちょっと何とも言えない顔をした。
「『8』が『樺島が入ったらまずそうな部屋』ということなら、お前とヤエさん、という訳にはいかない。となると、僕と七香さんか、僕とタヌキと四郎さん、或いはタヌキと五右衛門さん、デュオとむつさん、僕とデュオと五右衛門さん……という組み合わせにしかならない。なら、まあ、3人で入れるのは悪くないだろう」
海斗がさらさらとそう言うのを聞いて、バカは『ほげえ』となった。バカはすぐに計算ができないので!
「そ、そっかぁ……?うん、まあ、海斗がそう言うんなら……」
バカは、『まあ、カードを集めないと全員でここから出るってのができないんだったよなあ……』と考えて、よし、と頷いた。ここは海斗に任せてしまっても大丈夫だろう、と。
……という話をしていたところ。
「あっ!?向こうのチームも戻ってきたみたいですよ!」
ふぃーん、とエレベーターが動く音が響く。どうやら、デュオ達も帰ってきたらしい。
「いやあ……すごい部屋だったね」
「ええ、本当に」
しれっ、と涼しい顔で戻ってきたデュオと七香、そして『すごい部屋だった……』とやっているむつの3人は……なんと!色とりどりの宝石やぴかぴかの黄金なんかを抱えているのである!
「何かに使えるかもしれないな、と思ったから……まあ、可能な限り持ち帰ってきたよ」
「すっげぇー!」
バカは目を輝かせた。デュオ達が持って帰ってきた宝物は、いっぱいである!両手にたっぷりと抱えたそれらを見て、バカは『すごくいっぱい!』と喜ぶしかない。やっぱり、たくさんのお宝、というものは、なんとも魅力的なものなのである……。
「え、なーにそれ、どういう部屋だったのよぉ……」
「えーと……まあ、宝物が沢山あって、いくらでも取っていっていいんだけれど、下手な取り方をするとその宝物の100倍の重さが降ってくる、っていう……そういう部屋だったよ」
デュオが簡単に説明すると、五右衛門は『そんな部屋があるのね……?』と、なんとも羨ましそうな顔で頷いた。
「頭がいい人って、すごいね。今回の部屋、全員が何も持たずに部屋を出れば、リスク無しで全員助かったんだけれど……デュオさんと七香さんが色々考えてくれてね?それで、全員無事で、こんなに沢山宝物、持ってこられちゃった!」
むつがちょっと興奮気味にそう喋るのを聞いて、ヤエが『すごい』とぱちぱち拍手をしている。タヌキも『すごい!』と拍手をしている!ついでにバカも『すごいんだよなあ!頭がいい人って、すごいんだよなあ!』とにっこにこでぱちぱちやっておいた!
そうして。
「はい!タヌキさんにお土産!」
「わぁー!冠!すごい!絵に描いたような冠ですねぇ!」
「うんうん!似合う!絶対に似合うと思ったんだ!えへへ……」
……デュオと七香とむつが持って帰ってきた宝物から、『皆にお土産!』として、色々と分配され始めた。
タヌキは早速、頭に冠を乗っけてもらって王様タヌキになっている。四郎は『俺はそういうのに興味ねえ』と言っていたが、デュオに『まあまあそう言わずに』と押し切られて、金貨を数枚、ポケットに突っ込まれていた。
そして……バカと海斗のところへ、デュオが『はい、お土産』といいかんじにピカピカの石や金の腕輪などを持ってきてくれつつ、こそっ、と声を潜めて、聞いてきた。
「そっちの進捗はどう?」
「あー……ヤエさんについては、なんとか。五右衛門さんの方は、分からないことも多い」
海斗が短くデュオに伝えると、『そうか』とデュオは一つ頷いて、それからちょっと考えた。
「そういうことなら、五右衛門さんの方をどうにかしてもらおうかな。次、3人で『6』に入ってくれる?」
「ああ……分かった。助かる。あと、『8』は樺島とヤエさん以外で攻略したい。できたらタヌキがいいと思う」
「成程ね。了解」
デュオと海斗は実に短い言葉でササッと意思の疎通をしてしまえたらしい。バカは『頭がいい人ってすごいんだよなあ!』と改めて実感した。バカにはできない所業である!
そうしている間に、五右衛門には七香から『どうぞ』と、ごっつい金のネックレスが贈られていた。
五右衛門は『……ゴツいわねえ。でも、似合うかしら?』なんてやっていた。七香は何も言わずに微笑んでいた。……多分、七香は五右衛門にネックレスが似合うとは思っていない。アレは単に、『換金するのに丁度いいでしょうから』と思っている顔だ!
……そして、ヤエには、むつがお土産を持ってきていた、のだが。
「あっ、ヤエちゃん、髪どしたの!?かわいくなってるじゃん!」
むつが持ってきたのは、髪飾りだった。繊細な金細工の、美しい代物だが……ヤエの頭には既に先客がある!そう!桜の枝が飾られているのである!
「あ……これ、五右衛門さんに、やってもらった……」
ヤエがちょっともじもじとそう言うと、聞きつけた五右衛門がウインクしながらむつにピースしてみせた。むつは『やるじゃん!すごい!』とにっこにこである!
「そっかぁ……じゃあ、お土産、ヘアアクセサリーじゃない方がよかったかなあ」
「あら、それも勿体ないし、こっちも使いましょ。大丈夫大丈夫。サイドをさりげなく留めとくのにこういうの使うのも可愛いのよぉー。前髪分けてみてもいいかも。どうしよっかしらぁー……」
五右衛門はむつの手から髪飾りを受け取ると、ヤエに断りを入れて、さっ、とヤエの前髪を右3分の1くらい掬い取って、ぱち、と髪飾りで留めた。
五右衛門が『どーお?』と微笑めば、むつが『かわいい!ちょっと大人っぽい!』と拍手を送るのだった!
……この光景を見て、バカはちょっと、思った。
五右衛門って、要は、職人さんなのではないだろうか、と。
磨き上げた技術を駆使して、何かを生み出す。それが、誰かを笑顔にする。……バカのお仕事と同じことなのだ!
「五右衛門、すげえなあ」
「そう、だな。うん……技術というものは、誰も奪えない財産だとよく言われるが……正にそういうことだな」
バカと海斗も頷き合って、五右衛門の技術を称えた。……そして。
「樺島。この後、部屋割りになるが……僕とお前と五右衛門さんとで3人チームになる。そのつもりで居てくれ」
……どうやら、バカはまた、五右衛門と同じチームになるらしい。バカは『よし来い!』と、元気に気合いを入れた!
バカが気合いの屈伸運動を始めたところ、床が凹んだ。結果、方々から怒られちゃったので、バカは体育座りすることになってしまったが……その間も話は進む。
「えーと、もうオファーがあったらしいところ申し訳ないけれど……四郎さん、俺達と組まない?俺、四郎さん、むつさん、ヤエさん。この4人で、『20』だ。どうかな」
デュオがそう提案すると、四郎はちょっと、考え込んだ。
「……その間に、『7』を攻略する、ってことか」
「まあ、それでもいいね。どのみち、タヌキはあなたとは組みたがらないだろうし……」
四郎は渋い顔であるが、デュオの言う通り、タヌキは四郎と2人で『7』に入る気は無いらしいのだ。だからこれは仕方がないのである。
「勿論、この話は断ってくれてもいい。ただし、その場合、あなたが入れるアルカナルームはここから先、1つも無くなってしまうと思うけれど」
……が、デュオの話し方は、非常に、怖い。
交渉のように見えて、四郎には選択肢が与えられていないのだ。……バカは、『本気出した陽って、すげえこわいんだなあ……』と、ぷるぷる震えた!
……そして。
「……分かった。それでいい」
どうやら、四郎が折れたらしい。これで、『デュオ、四郎、むつ、ヤエ』の4人組が『20』に入ることが決定した。
「なら、五右衛門さん。僕と樺島と一緒に組まないか。『6』に入ろう」
続いて、海斗がここぞとばかりに五右衛門を誘いに行った。五右衛門は、ヤエを心配している様子だったが、海斗に話しかけられて、こっちに反応せざるを得ない。
「え?ああ……えーと、むつちゃんは、それでもいーい?あなたが1人で入れる部屋、私達が入っちゃうけど……」
「あっ、うん、大丈夫!私、流石に1人で入る勇気は、無い、から……あはは」
どうやら、むつは『6』の部屋を譲ってくれるらしい。ということで、バカと海斗と五右衛門は、3人で『6』の部屋を攻略することになったのである!
……が。
「となると……その、七香さんが、1人で、『7』を?」
「ええ」
……バカと海斗が五右衛門と同じチームになれるかわりに、七香が1人になってしまう。
尤も、七香は1人で『7』の部屋に入って攻略成功していたはずなので、大丈夫なのだろうが……。
……ちょっと心配なバカに、七香は、ふ、と笑いかけた。
「問題は無いでしょう。1人で入ることが想定されている部屋ですから。それに……私、負けるつもりもありませんもの」
七香の、いっそ不遜にさえ見えるような、堂々とした微笑み。それを見て、バカは『ああ、七香って、強いんだもんなあ』と納得した。……七香は、強いのだ。バカのタックルをちょっと止められるくらいには強いし……絶望の淵から這い上がれるくらいに、強い。異能も、心も、どっちも強い人なのだ!
「分かった。じゃ、七香……頑張れよ!」
「ええ。そちらも」
そうしてバカは、『7番は七香に任せる!』と覚悟を決めた。
大丈夫だ。七香は信頼できる仲間だから。
……と、バカ達がそれぞれに決意を固めていると。
「じゃあ、私も『3』を攻略してきますね!」
タヌキが、そんなことを言い出した。しっぽをピコンと立てて、堂々と胸を張っての宣言である。
……が、バカは思い出した。
『3』はえっちな部屋なので、駄目である、ということを!




