発表フェイズ1:大広間2
四郎に凄まれたヤエは、ぽかん、として、それから、小さな声で反論した。
「ち、がいます。私、悪魔じゃ……」
「じゃあ何だ?『叶えたいものが無い』ってのに、デスゲームに参加した、ってことか?それこそ妙じゃねえか」
だが、四郎の方が声がでかい。ヤエは四郎に圧されるようにして、視線を床に落とした。
「叶えたい願いもねえのに、死ぬか殺すかのデスゲームに参加してる。それで悪魔じゃねえ、ってんなら……目的は、『単なる殺し』か?」
四郎は一歩、二歩とヤエに近付いて、間近からヤエを見下ろした。
「言え。何を企んでやがる!」
だが。
「そこまでにしてもらおうか」
そこに割って入ったのは、海斗である。
「……ヤエさんは人間だ。それは僕が保証する」
海斗が四郎を睨み上げれば、四郎は少しばかり意外そうな顔をしたものの、ぎろり、とちゃんと海斗を睨み返した。
「へえ……保証、ね。どういう根拠だ?そりゃあ」
「こんなに悩む悪魔が居てたまるか、といったところかな」
海斗は少し笑ってそう返す。余裕があるように振る舞ってはいるが……海斗は今、緊張しているのだろう。バカにはそれが分かる。
「……何の根拠にもなりゃしねえ。言うならもっとマシな理屈をくっつけてみろ」
四郎は海斗に詰め寄った。海斗は少しばかり怯えながら、それでも、少し四郎をバカにしたような、挑戦的な笑みを浮かべて見せた。……これが、海斗の鎧なのだと、バカは知っている。海斗はこうやって、ちょっと嫌な奴になることで、自分を守ることがあるのだ。前回デスゲームの時も、そうだった。
「それならばそっちも同じことだ。あなたは余程、魔女裁判をやりたいらしいが……『願いが無いから悪魔だ』などと言ったら……まあ、僕も悪魔だということになるか。ついでに樺島も悪魔だ」
「えっ!?俺、悪魔なのかぁ!?」
……が、バカは急に『樺島は悪魔だ!』というところだけ理解して、びっくりした!バカなので!
「……樺島はさておくにしろ、どうする?僕も樺島もまとめて火炙りにでもするか?」
「炙り!?サーモン!?豚トロ!?あっ、カツオのたたきぃ!?……腹減ってきた!」
……更に、バカは急に『炙り』の部分に反応して、お腹を空かせた!バカなので!
バカが、『おなかへった!』と元気にソロコンテスト腹の音部門で優勝している中、そっと、海斗は四郎を見つめた。
「……すまない。樺島のことは一旦、横に置いておいてくれ」
「……そうだな。そうするか……」
どうやら、バカは横に置いておかれてしまうらしい!『なんでぇ!?』とバカは嘆くが、バカがバカであることに弁解の余地は無いのであった!
「とにかく、ヤエさんを疑う根拠としてもそれは薄いだろう、ということだ。僕からしてみれば、条件はほとんどイーブンだな。……四郎さん自身も含めて」
「……そうかよ」
四郎が渋い顔で海斗を睨むが、一応、海斗の言い分も分からないではないのだろう。一つ舌打ちして、それきり何か考えるように黙ってしまった。
「まあ……何か疑ってみないことには始まらない、という気持ちは分かる。四郎さんが悪魔殺しを目指している、ということも知っているから……それを止めるつもりはない。だが、できれば穏便にやってほしい。どうだろう」
海斗はそこへ畳みかける。が、四郎は少し考えて……。
「……穏便に、なんざやるつもりはねえ。そんな気ぃ遣ってられるかよ」
結局、そう、吐き捨てるように言うのだった。
「……そうか。残念だ。なら、僕らはあなたに協力できない。悪いが、こっちは全員生存、全員脱出を目指しているんでね。穏便にやってもらえないと、困る」
海斗がそう言ってため息を吐くと、四郎は訝しげな顔をした。
「全員……?おい、そりゃどういうことだ」
「そのままの意味だ。僕と樺島は、死者が出ることを望んでいない」
バカは、『そうだそうだ!』と海斗の後ろから声援を投げかけた。すると海斗に『ちょっとそっちで運動してろ』と言われたので、海斗からちょっと離れた位置で腕立てを始めた。腕立ての風圧でタヌキが吹き飛びかけて七香にそっとキャッチされた。
「……あのバカは置いとくぞ」
「ああそうしてくれ」
「……で、死者についてだが……死者は、お前らが望まなくたって、出るだろうよ。そうじゃなきゃ脱出できねえぞ。誰一人としてな」
バカは運動しつつも、ちゃんと耳は傾けている。なので、『誰か死なないと脱出できないんだっけぇ!?』と頭をフル回転させつつ、腕立てのペースを上げていく。益々風圧が高まってしまったため、七香に『やめなさい』と怒られた。……なので運動をプランクに切り替えた。
「そうだろうか。まあ……現時点で存在している10枚のカードの内、四郎さんが所有しているのは2枚。それ以外の全員が協力してくれたなら、既に8枚のカードが手に入ることになる」
「……なんだって、全員が協力する、だなんて言ってやがる?」
「それから、そうだな……僕が『1』を、樺島が『0』を攻略したら、あと2枚手に入る。デュオと七香さんとタヌキも協力してくれたら、同じ要領であと3枚。五右衛門さんはもう、『5』を攻略してしまっているから数えないとして……むつさんとヤエさんもそれぞれの数字のアルカナルームを攻略すれば、更にもう2枚か」
海斗は指折り数えて見せて……そして、にや、と笑ってみせた。
「15枚あれば、7枚で脱出して、残り8枚でそれぞれの人を脱出させるように願うことができる。これで脱出完了だ」
「……何を、考えてやがる」
四郎は絶句していた。バカは相変わらずプランクしながら、『えーと!?10引く2は8!で、8足す3は……!?12!?』とやっているところである。追い付けていない。
「今言った通りのことを考えているのさ。『誰か1人に願いを託す』ということができるならば……僕らが信頼し合えるなら、このデスゲーム、誰も死ぬ必要が無いんだ」
が、海斗の言葉はちゃんと理解できたバカは、『よかった!誰かが死ななくてもいいならそれが一番いい!』とニコニコした。
「だというのに、あなたは何故、誰かを殺したがる?『悪魔殺し』は、一体、何の為だ?」
……海斗の言葉を、この場の全員が聞いていた。
そして、四郎は。
「私怨だ」
ただそれだけ言って、くる、と踵を返し、スタスタと歩いていってしまう。
「し、四郎さーん?どこ行くんですかー!?」
タヌキが追いかけようとするも、丁度そこで、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴る。……2回目のゲームフェイズが始まったのだ。
そして、四郎はタヌキが止める間も無く、むつの個室に入って行ってしまった。
「ティファレトの個室に入った、っていうことは……まあ、『4』のアルカナルームに向かったのかな」
デュオがそう言って『どうしたものかな』と呟くのを聞いて、バカは、『四郎のおっさん、どうしたらいいのかなあ』と困る。
……やはり、四郎は悪魔殺しをしたいらしい。だが、ここの人達の誰かが悪魔だというのなら……バカは、四郎を止めたいな、と思うのだ。
「ったく、失礼しちゃうわ!ヤエちゃんに『お前が悪魔か』だなんて!どうかしてんじゃないの、アイツ!」
一方、五右衛門は大いに怒っている。ぷりぷりしている様子を見るに、『本当はもっと怒っているけれど、怒ってみせたら周りを怖がらせるから』と意識して、控えめにちょっと可愛く怒ってみせているのであろう、と思われた。バカは、『五右衛門は、いい奴!』と改めて思う。
「まあ、四郎さんについてはどうにかしなきゃいけないけれどね……どのみち、彼が1人でどうこうできるのは、『4』のアルカナルームでだけだ。それ以外のアルカナルームに入ってカードを取得しようとしたら、当然、誰かと組まなきゃいけなくなる。話す機会は得られるだろう」
デュオはちょっと冷たい……理性的な目でむつの個室が沈んだところを見て、そしてため息を吐いた。
「あの、海斗さん……」
「ん?」
そして、その横では、ヤエがちょっと気まずそうに、海斗に声を掛けていた。
「さっき、ありがとう、ございました」
ぺこ、とお辞儀をするヤエを見て、海斗は『はて、何のことか……』と思ったようだったが、すぐ、『ヤエを庇ったこと』と思い当たったようだ。
「……ああ、いや、その、大したことじゃ、ない。出しゃばった、かもしれない」
「いえ、その……助かりました」
「……ならよかった」
ヤエがちょっとにこにこしていて、海斗がちょっともじもじしている。バカは、『海斗がヤエと仲良くなれたっぽい!ヨシ!』とにこにこ満面の笑みである!
「さて。じゃあ、次のチーム分けを考えようか。……ここから先、四郎さんの協力は期待できないかもしれないけれど、まあ、一応、彼と敵対はしなくて済むようにしたいね」
そうして、次のゲームの話が始まる。のだが……。
「……まずは、取り逃がしてきたっていう『17』のカードを取ってきてもらおうか」
「あああん……すみませぇん……」
「いや、タヌキが悪いんじゃないよぉ……。気にしなくていいよぉ、タヌキぃ……」
……バカ達の仕事は、まずはコレである!取り逃がしを!取りに行く!やり残した仕事はちゃんと片付けないと一人前になれないのだ!
「まあ、その間に俺とむつさんと七香さんで、『15』の部屋に行ってくるよ。そっちの方が早く終わるかもしれないけど、待っててくれると嬉しい」
「おう!じゃあそうすっかぁ!」
バカは『よっこいしょお!』とプランクから飛び上がって、くるん、と空中で一回転して、びたっ!と着地してポーズも決めた。むつとヤエとタヌキが大いに拍手してくれた!
「……ヤエ、もしかしたら、今度は何か、出てくるかもしれないなあ!」
「え?」
ポーズを決めたまま、バカは眩い笑顔でヤエにそう、話しかける。
……ヤエは、『何か、出てくる……?』と呟いて、それから、それが『願い』のことだと、気づいたらしい。
「行こうぜ!な!」
バカがタヌキを肩に乗っけてテケテケ走り出すと、海斗と五右衛門がヤエを誘ってにこにこ移動し始める。
「……うん」
……そして、ヤエもまた、歩き出すのだった。さっきよりずっと軽やかで、かつしっかりとした足取りで。




