発表フェイズ1:大広間1
「うん!穴だらけで分かんねえから、出口んとこまでジャンプしてイッパツで行くぅ!いっくぞー!」
「え?え?え?」
「ああ、ヤエさん。心配しなくていい。こいつはバカだが、まあ、有言実行できるバカだから……」
ということで、バカはヤエと海斗を抱えたまま、ぐっ、としゃがみ……。
「でいやーっ!」
脚をバネにして、ばびゅん、と跳んだ。
海斗は諦めていて、ヤエは絶句していた。……が、まあ、無事、スタート地点まで戻ってくることができたバカである。
「よし!じゃ、戻ろ!」
……海斗とヤエを床に降ろして、るんるんとエレベーターへ向かうバカを、海斗は『やれやれ……』と呆れながら見つめ、ヤエは、『わああ……』と混乱しながら見つめていたのだった!
そうして、バカ達は無事、大広間へ戻ってきた。
すると。
「わ、私はもうやりませんよ!もうやりませんからね!真剣白刃取りみたいなのはぁ!ああーん!怖かったぁ!怖かったァーッ!」
「うん。そうだね。俺としても、もうやらせたくないよ……あははは……」
……タヌキが、ぽんぽこぽーん!とひっくり返ってジタバタしているところであった。
バカ達は、ぽかん、としながらその光景を暫し、見守った!
「あー……その、何があったんだ?」
「あっ!お帰りなさい海斗さん達!……いやー聞いてくださいよ!像が!襲い掛かってきて!私!その像がぶん回すでっかい剣を!こう!謎収納でキャッチする羽目になりましてぇえ!」
早速、タヌキ達の方へ向かってみると、タヌキがひっくり返ったまま喋り出した。非常に元気なタヌキである。
「あとちょっと異能のタイミングがズレていたら!私!お腹から真っ二つでしたから!ああ怖かった!怖かったぁーッ!うわあああああん!」
「相手が像だったのがよかったね。無生物だから……まあ、像ごと、収納できたみたいで」
「ええええええ!?そんなのアリかぁああ!?」
バカは思い出す。タヌキ達が言っている『でっかい剣を振り回す像』は……間違いなく、バカが対峙したことのある、あの像であろう!天秤の上のカードを取ると、剣をぶん回してくるアイツ!
なんと、タヌキはアイツを収納できちゃうらしい!とんでもないタヌキである!
「怖かった!怖かったです!もうやらない!私、もうやらないッ!」
「うんうん、怖かったね、タヌキさん……」
タヌキは『ああああん!怖かったぁああ!』とジタバタやっては、むつに横から『よしよし』とやられている。なんとも役得なタヌキである。
「まあ……なんとかなったなら、よかったか。やれやれ……」
海斗は『タヌキのジタバタはさておき……』というような顔でそう言うと、ふと、大広間を見渡して……首を傾げた。
「……で、僕らのチームは2番目の到着、ということか。五右衛門さん達のチームは……」
「ああ、まだ戻ってきていないみたいだよ」
……どうやら、四郎と五右衛門と七香のチームが、まだ戻ってきていないようである。
「七香さんが居るチームだから、まあ、大抵のことには対応できると思うけれど……」
バカも、『まあ、七香は強いもんなあ』と頷いた。あと、五右衛門も強い。そして四郎も強い。戦うことに特化した異能の3人が居るのだから、まあ、大抵のことには対応できるだろう。
……否。
「あの、喧嘩してねえかなあ……大丈夫かなあ……」
「ん?……ああ、まあ、確かに、どちらかというとそっちが心配な面子ではある、のか……」
バカはおろおろ、海斗もそわそわしながら、思い浮かべる。
……四郎と七香と五右衛門は、最初の一周目の最後、『8』の部屋で殺し合いをしていた仲である。揃いも揃って、3人とも戦うことに特化した異能だものだから、下手に喧嘩すると、それだけで死人が出かねないので……。
「……あー、デュオ。七香さん達が入ったのは『16』のアルカナルームだが、『16』は何のアルカナだろう」
「え?ああ……『16』ね。ええと、確か『塔』じゃないかな」
「塔、か……」
海斗は、ちら、とバカの方を見た。そしてバカは……。
……『海斗がめっちゃ走った部屋があった、って聞いたなあ……』と、ぼんやり思い出していた!
そうして少し待っていると、エレベーターが上がってくる音がした。バカが『そろそろだ!』とそわそわ待っていると、タヌキやむつも隣でそわそわし始め……そして。
「死ぬかと思ったわぁーん!」
……ぐったりと疲れた様子の五右衛門と四郎、そして七香が、降りてきた!
よかった!喧嘩するどころではなかったらしい!よかった!
「そう!それで、カードを取ったらすぐ、塔が崩れ始めたものだから、もー、走って降りる羽目になってぇ!大変だったんだからぁ!」
五右衛門が『16』のアルカナルームの説明をする中、タヌキとバカとむつは並んで座って『お疲れ様でした!』とやっている。
……実際、とても大変そうである。全力疾走すれば間に合うのだろうが、そうでなければ塔の崩壊に巻き込まれて死にかねないのだ。そんな中を走ってきた3人は、襟をくつろげていたり、すっかり疲れた様子で座り込んでいたり……とにかく大変そうであった!
「あー……そっちはどうだったの?」
だが、そんな中でも、五右衛門は、ちら、とヤエの方を確認しつつ、ひそひそとバカと海斗に尋ねてきた。尚、ヤエは今、むつと七香と一緒に何やら話しているところである。女子会である。タヌキも混ざり始めた。図々しさに定評のあるタヌキである!
「まあ、少しは話せた」
そんな女子会ウィズタヌキを横目に眺めつつ、海斗が少し笑って五右衛門に返す。
「どうも彼女、何が願いかよく分からないらしい」
「それは知ってるけど」
五右衛門は海斗の答えに少し苛立ったような、焦ったような、そんな顔をしていたが……。
「陸上競技に戻りたい、という意思も無いんだそうだ」
……海斗の言葉は予想外だったのだろう。ぽかん、として、黙ってしまった。
「彼女にとって、脚を失った意味は、『脚を失った』というものでしかない。『陸上競技選手としての意味』を周囲から言われるのが嫌だったそうだ」
「そう、だったの……」
五右衛門は小さくため息を吐いて、『アタシ、そんなの考えてもみなかった』と呟いた。バカは、『そういうこともあるよぉ』と、五右衛門の背をぽふぽふ叩いて励ましてやった。
「長距離走の才能を持っていることは、彼女にとって重荷だったみたいだ。周囲の期待も、『向いているからやらなきゃ』というプレッシャーも……厭わしかったんだろうな。だから、まあ……妙な言い方になるが、脚を失ったことは、彼女にとって必ずしも悪いことではなかった、のかもしれない」
五右衛門は、『そんなこと』と言いかけて、けれど、海斗の顔を見て口を噤んだ。……海斗が、決して無遠慮や軽薄を理由に『脚を失ったことは必ずしも悪いことではなかった』と言ったわけじゃないのだと、分かったのだろう。
「だからヤエ、これからなんか趣味探すんだ!な!そうだよな!」
「僕に聞くな。だが、まあ……一応、それを勧めてはおいた。……彼女の好きなもの、見つかるといいな」
バカと海斗の言葉を聞いて、五右衛門はちょっと、考え込んでいる様子だった。
……バカは、思う。
五右衛門も、何か、好きなものがあるといいなあ、と。そして、それに邁進できるといいなあ、と。
……ヤエは、あんまり気にしてないよ、と、言ってやれれば良いのだろうが、それを言っていいのはバカではなくて……きっと、ヤエ本人だけなのだ。
ヤエだけが、五右衛門を救えるのだ。
そうしている内に、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴り……発表フェイズが始まる。
発表は、いつもの如くモニターに表示される。
1番……海斗が、0枚。
2番……デュオが、2枚。
3番……タヌキが、0枚。
4番……四郎が、2枚。
5番……五右衛門が、2枚。
6番……むつが、2枚。
7番……七香が、1枚。
8番……ヤエが、0枚。
9番……孔雀が居たはずのその番号は、また0枚。
そして10番のバカが、1枚である。
「……合計が10枚、か……?おい、カードが足りねえぞ。どういうことだ?」
四郎が眉間に皺を寄せて、訝しむ。だが、これは簡単なことである。
「あー……アタシ達、『17』の部屋で、カード、取り損なってるのよねぇ……」
「あっ、そっか!そうでした!すみません!私、自分が池に落ちそうになったのを回避できたっていうそれだけで頭がいっぱいで!カードのこと、すっかり忘れてました!」
「は?」
……そう。バカ達は、あの『願いを映す泉』の部屋で、カードを取らないまま出てきている!
ヤエの願いが無い、ということにびっくりするあまり……カードをそのままにしてきているのである!
……ということで、四郎とデュオとむつと七香に、『17番アルカナルームで何が起きたか』をタヌキが説明した。
「まあ、そういうことでぇ……『泉に触れた者の願いを映す泉』が何も映さなかったので、多分、カードも無かった、ってことだと思うんですよねぇ……」
「あ、その、カード、ありました、けど……」
が、タヌキが『むむむ……』と悩みながら説明していたところ、ヤエがそっと、控えめに主張した。
「……え?カード、あったんです?」
「はい。泉に、浮いてました」
「浮いてたのぉ!?ええーッ!?私、全然気づかず来ちゃいましたよ!?」
「あ、ごめんなさい……」
ヤエは『やっぱり言えばよかった』と思っているのだろうが、ヤエにしたって、『願いが無い』ということに自分で衝撃を受けていたのだろうから已む無しである。特に、ヤエ自身はカードが要らない、という人なのだから……。
「そ、そうねえ。アタシ達……おマヌケだったってこと、よねえ……?」
「どうやらそのようですねえ……!ああーん!私、マヌケのタヌキーッ!よく謎解きで見かけるやつを自分で実践しちゃったぁーっ!ああーん!」
五右衛門が目を泳がせ、タヌキがひっくり返ってワアワアやっているのを眺めつつ、バカは『俺も五右衛門とヤエのことばっか気にして、カードのことすっかり忘れてたなあ……』と反省する。バカは1つに集中するともう1つを忘れてしまいがちなのだ!バカなので!
……と、バカ達がやっていると。
「……どういうことだ?『願い』が無い、だと?」
四郎が、なんとも険のある目で、ヤエを見ていた。
……そして。
「……お前、さては悪魔なんじゃねえだろうな」
「え」
ヤエを睨んで、四郎はそう、凄むのだった。




