ゲームフェイズ1:『14』節制2
ヤエはここから脱出できなくてもいい、という。
バカは、『でも、脱出しないと願いって叶えてもらえないんだよなあ……?』と首を傾げた。
……ちょっと考えたバカは、『考えても分かんねえやあ』ということが分かった。潔い。
そして、潔いバカはとても潔いので……。
「……あの、俺、ヤエは脚を治すためにここに来たんだと、思ってたんだけど……違ったか?」
「え?」
ストレートに、そう聞いてしまうことにしたのだった。
聞かれたヤエは、ぽかん、としていた。……まるで、『その発想は無かった』とでも言うかのような。
「あ……それ、いい、んですか……?」
「え……?いや、わかんねえけど……できるんじゃ、ねえ、かなあ……?え、どうなんだろ。海斗ぉー、そういうのって、できるのかぁ?」
「知らん。悪魔に聞いてくれ」
海斗も知らないとなると、バカには分からない。『そっかー、聞いてみるしかねえかぁ』とのんびり嘆けば、ヤエは益々、ぽかん、としてしまった。
……が、バカにとって『悪魔』というのは、バターをくれたり、ミニストップのソフトクリームが大好きだったり、とんかつ揚げるのが得意だったりする奴らなのだ。『聞いてみるしかねえ』も已む無しである。
「だが……その、僕は『傷を治す異能』については知っているんでね。悪魔も、同じようなことはできるんじゃないだろうか、と思うが……」
「き、傷を治す異能!?」
「あ、ミナのことだな!?」
五右衛門は驚いていたが、バカにとっては馴染みの深い異能である。何せ……前回のデスゲームで一緒だった人、ミナが持っている異能が、『傷を治す異能』だったからだ!バカもやり直しの中でお世話になったことがあるから、その強さは知っている。
ついでに、現在のミナは社員食堂でアルバイト中であるが、バイト中には『1日限定1名!怪我や痛み、治します!』をやっている。おかげでフローラルムキムキ支部内には、膝だの腰だのが痛い人はもう1人も居ない。怪我も無い。まあ、基本的に怪我の類は『1日ぐっすり寝れば大体治るよなあ』というバカ達ではあるのだが……。
「そんな異能もあるの……?」
「そうだな。まあ、今回も1人くらい、そういう異能の人が居るんじゃないか?」
海斗はさらっとそう言ったが、現時点で、今回のデスゲームに『回復』の類の異能の人はまだ見つかっていない。
海斗は『リプレイ』だし、デュオは『無敵時間』だし、四郎は『氷を生み出す異能』だし、五右衛門は『手が鋏になる異能』だし、七香は『見えない強力な手を操る異能』だ。……戦う異能の人が、多い!その中で海斗が、あまりにも……弱い!
だが、まだ異能がよく分かっていないタヌキとむつ、孔雀については希望が残る。……とはいえ、タヌキが『治す異能』だったら、前回、自分に使っていたはずなので……厳しいが。
……そして。
「あの、私、植物を生やして育てる異能です」
「ほぇ?」
……ヤエからは、そんな風に自己申告をもらってしまった。
「や、ヤエちゃん……それ、言っちゃってもよかったの?」
「え……」
「あ、いえ、ナイショにしておきたいんじゃなかったら、別に言ってもよかったと思うわ!」
五右衛門は慌てていたが、ヤエは『まずかっただろうか』という、ちょっとぼんやりおろおろした顔である。バカは、『ちょっと親近感……』とにっこりした。多分、バカも海斗相手によくああいう顔になっている!
「生やして育てる……というと、何でも生やせる、のか……?」
「え、あ、ええと、植物、だけ……」
海斗は『興味深いな』と頷いている。そしてバカは……。
「すげえーッ!なんでもお花、生やせるんだったら、ヤエ、お花屋さんになり放題なんだなあ!」
バカは目を輝かせて、『いいな、いいな!』と小躍りし始めた。……こんなナリだが、お花を美しいと思う心はあるバカなのである。
「お花屋さん……?」
一方、ヤエは何か思うところがありそうだったが……バカも、それにはちょっと気づいたが……今は、そっとしておくことにした。
ヤエが話したくなったら、話してもらう。そしてヤエが、話してもいいな、と思ってくれるくらいに、仲良くなる!バカの目標はやっぱり、変わらないのだ!
「……まあ、ヤエちゃんがカード要らないんだったら、アタシが貰っちゃうけどいーい?」
さて。
そうしてヤエの話をちょっと聞いていたバカ達であったが、一旦、カードに話を戻す。
やっぱり五右衛門はカードが欲しいようだ。バカは、『じゃあ、前に脱出できなくてもいいって言ってたの、何だったんだろうなあ……』と首を傾げた。
「はい。どうぞ。……あ、でも、その、海斗さんと、樺島さんは……」
「ああ、僕はいい。樺島も……まあ、いいだろう。五右衛門さんが持っていっていいと思う」
そして、ヤエと海斗も同意したので、カードは五右衛門のものになることになったのだが……。
「え?ちょ、ちょっとぉ……まさか、アンタもここから出られなくてもいい、っていう……?」
「……いや、脱出はするつもりなんだが、その、樺島さえ脱出できれば、僕も脱出できるからな……その、僕らのことは気にしないでもらっていい」
五右衛門は『そーお……?』となんとも不思議そうな顔で首を傾げていたが、まあ、バカも海斗も、ここはナイショにしておくしかないのだ。『このゲームはキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部によって解体予定です』ということを説明すると、長くなりそうなので……。
だが、代わりに他の話はしたい。
「なあ、五右衛門。五右衛門はなんで、ここに来たんだ?」
……そう。特に、五右衛門の動機については……彼が何を思って、『脱出できなくてもいい』のに『カードを集めたい』のか。それは、聞かなければなるまい。
何せ前回、四郎が『悪魔の勝利条件はカードを22枚集めきることだ』と言っていたことだし……。
「アタシ?アタシはねえ……」
五右衛門はちょっとたじろいで、それから、ちら、とヤエのことを見た。ほんの、一瞬だけ。ヤエすら気づかないくらい、本当にちょっとだけ。バカの動体視力でようやく確認できる程度に、ちょっぴりだけだ。
「……あんまり話したいことでもないのよねぇー」
「そっかぁ。じゃ、いいやぁ。気が向いたら教えてくれよな。その、俺、できることならなんでも協力するからさぁ……」
……五右衛門の話は是非とも聞きたいところなのだが、五右衛門に話す気が無いということなら仕方がない。そうなってもらえるように、仲良くなるまでである!
或いは……五右衛門は、ヤエが居るところだと、話しにくいのかもしれない。
やっぱりこの2人、何かありそうではある。
「さて、次のチーム分けはどうしようか。一応、考えてから大広間に戻った方がいいだろうから……」
海斗も『五右衛門とヤエを離した方がいいかもしれない』と思い至ったのだろう。早速、チーム分けの話をしてくれている。
「あー……そぉねえ……どうしようかしら。このチーム、バラしにするんなら、アタシはヤエちゃんと組もうかしら。樺島君と海斗君、友達同士なんでしょ?」
が、五右衛門がそんなことを言ってきたので、バカは『俺はお前と組みたいのにぃ!』と心の中で嘆いた!
「……僕が1人で『1』の部屋に入る、ということはできる。まあ、『1』は僕が1人で入ることしか想定されていないんだろうから、僕1人で十分に攻略できるだろうしな。一方で、五右衛門さんとヤエさんを足すと『13』だ。これは、最大で……えーと、4人が入れることになるのか。となると、危険も大きいんじゃないか?」
そして、こういう時にもそれっぽく理論立てて意見できるのが海斗である。バカは、『俺の相棒、頭がいい!』とにこにこ顔になった!
「そうだな!だったら俺、ヤエと五右衛門と一緒に行く!」
なのでバカもここぞとばかりにそれに乗っかって、『次もよろしく!』と元気にご挨拶しておいた。
「え、いいの?だって海斗君と友達なんでしょぉ……?」
「おう!海斗は親友で、相棒だ!海斗は頭いいから、大丈夫!俺、海斗のこと信じてるから!」
バカが胸を張ってそう言うと、五右衛門は『あ、そう……?ならいいんだけど』と、ちょっと小首を傾げつつ、ちょっと笑った。
「まあ……その、僕はどちらでもいいんだ。樺島と一緒でもいいし……他のチームが解体されて、例えば、ここに七香さんが足されて合計『21』になったなら、それはそれでいい」
バカは、『そういや、デュオとタヌキと七香のチーム、大丈夫かなぁ……』と心配になってきた。あの3人が『12』に入っているということは……3人で吊るされているところであろう。まあ、七香が居るのでゲーム自体は問題無いだろうが。
「あー、まあ、そうよねぇ。『1』の海斗君としては、数が大きい部屋を先に開けておきたい、っていう?」
が、そこで五右衛門がバカには難しすぎる話を始めてしまった。バカは、『そうなの?』と思いつつ海斗を見つめてみたが、海斗は『お前には難しすぎる話だが、まあ、そういう戦略はアリだろうな』と頷いた。バカは『そういうもんかぁ』とまた1つ賢くなった!
「そういう意図が無いわけじゃないが……僕も樺島と同じだ。全員が生きていた方がいいし、全員が願いを叶えられるならそれに越したことは無いと思っているから」
「え?そうなのぉ……?なんか、デスゲームに似つかわしくないこと言うのねぇ……?」
バカは『そうなの!』と胸を張る。海斗は『デスゲームに似つかわしくないことは承知の上だが……』と何とも言えない顔をした。
……そして、ヤエは。
「願い……」
……やっぱり、何か考えている様子だった。けれど、特にそれ以上何も言わずに、ヤエは視線を床の方に落としているばかりだった。
さて。そうしてバカ達は、一旦、大広間に戻った。
……するとそこには、四郎とむつが既に戻ってきていたのである!
「おおー!2人とも、無事だったか!よかったぁ!」
「あっ、樺島さん達も全員無事!?よかったー!」
バカは、むつと笑い合って、『よかった!』『よかった!』とやり合った。ついでに、そこに五右衛門も入ってきゃいきゃいやった。更に、むつがヤエを『ヤエちゃんも!』と引っ張ってきて、4人できゃいきゃいやった。……四郎と海斗が何とも言えない顔をしていたが、こういう時には、きゃいきゃいできた方が、楽しい!
「あー……その、そっちはどうだった」
そして、きゃいきゃいの輪から外れてしまっている四郎は、同じくきゃいきゃいし損なっている海斗に話しかけることになった。
「パズルでしたよ。水を均等に分岐させる為に開閉する蛇口を選ぶ、というような。……まあ、樺島が全部破壊してクリアしました」
「はぁ?」
が、海斗の話はこんな具合なので、四郎はぽかんとするしかない。一方のバカはきゃいきゃいやっているので、四郎はますますぽかんとするしかない!
「そちらは?」
「……『運命の輪』だな。ま、輪が回ってたのを止めて、カードもぎ取ってきたぜ」
バカは遠巻きに四郎の話を聞いて、『そういえば、前にも四郎のおっさんがなんか輪っかを止めたっての聞いたことあった気がする!』とにこにこした。四郎は今回も、元気!
「……となると、部屋ごとにゲームの難易度や方向性のばらつきがかなり大きい、と……。うーん」
海斗はちょっと考える様子を見せていたし、四郎も同じように難しい顔をしていた。アレは多分、『パズルは苦手』みたいな顔であろう。バカには分かる。同じくパズルは苦手な者として!
……そして。
「……さっき、むつと話してたんだがよ。まあ、もう1つのチーム次第でもあるんだが……ま、誰か1人、こっちにくれ」
四郎がそんなことを言い出したので、バカ達は『おお!さっき話していたことが現実に!』とにこにこしたのであった!
更に。
「あっ、皆もう戻ってきてたか。俺達が最後だったみたいだね」
「みなさーん!ご無事ですかー!」
デュオとタヌキと七香も戻ってきた!
……ということで、チーム分けが始まるのだ!




