開始前:大広間1
「ああ、残り時間5分か……。まあ、ここまでの話がなんとか時間内に収まったのは幸運だった、と言えるかな……」
そうして残り時間をモニターで確認して、バカはほっとした。『よかった!時間内に収まった!』と!
「私はまだ、聞きたいことが山のようにありますけれど……」
「あー……まあ、それは追々、やろうか。ひとまず、俺とタヌキと小百合さんと、3人で組んでゲームに参加してみよう。そこで話す時間は得られると思う」
一方、七香の納得の為にはもうちょっと時間が必要なのだろうが……逆に言えば、それだけである。バカは、『じゃあ頼んだ!』と、そこはデュオに任せることにした。
……そして、デュオに七香とタヌキの話を任せるならば、その間、バカと海斗の仕事は決まっている。
「じゃあ、俺と海斗は五右衛門とヤエを狙っていこうな!」
今度こそ、上手くやるために。或いは、『次』こそ、上手くやるために。必要な情報を手に入れるべく動くのである!
「ああ、そうだな。……しかし、そういうことならお前の腕輪はまた、破壊しておいた方が良さそうだな」
「えっ!?なんでぇ!?」
が、海斗がなんとも不思議なことを言い出したので、バカは大層驚いた!前回、それで仲違いしてしまったバカ達と四郎達であったのだ。バカは腕輪を壊さない方がいいんじゃないだろうか!
「いや、五右衛門さんとヤエさんは合計すると13だ。お前が10なら、足して23になってしまう。僕1人で五右衛門さんとヤエさんのチームに入ってもいいが……僕は、人に心を開かせるのが上手い性質じゃないから、お前が居た方がいいと思う。となると、まあ、お前は『0』で居た方がいい」
「あ、そっかぁ……」
バカはようやく理解した。自分の腕に嵌っている腕輪、『10』の数は、でっかいのだ。そして、数がでっかいということは……あんまりいっぱいの人とは組めない、ということなのだ!
「だが……そうなると、説明が面倒だな。なら……」
が、海斗としても、『前回、バカが腕輪を破壊したことが発表フェイズでバレて海斗が問い詰められていた』ということは気になっているらしい。ちょっと考えて……。
「自己紹介の後に破壊しよう」
……バカは、『なるほどな!実演ってやつだな!』と、納得した。タヌキが横で『えええええええええ!?』と慄いていた!
さて。
「……じゃあ、俺と小百合さん……いや、『七香』さんは、それぞれ個室に戻るけど。タヌキはどうする?」
「あっ!私も戻ります!流石に皆でぎゅうぎゅう詰めだと不審ですもんね!」
「それを言うと、タックルで開けられた部屋は全部不審だろうが……」
色々とありそうだし、今回も上手くいかないこともあるだろうが……全員がこうして、それぞれの個室へ戻っていくのを見送って……さて。
「……樺島。お前は戻らなくていいのか?」
「え!?戻った方がいいかぁ!?」
「いや……いや、まあ、もういいか……。タックルでドアを開けてしまったのは、見れば分かることだしな……。お前という犯人があからさまに分かっていた方がいいか」
海斗はため息を吐きつつ、『今回も怪しまれることは間違いないな……』とぼやいた。バカは『怪しまれるのぉ!?』とびっくりしたが、さもありなん。
「樺島。残り3分程度だが、何か気になることはあるか?」
「へ?」
「えーと……俺、今回、何分に目ェ覚めたっけ?」
「……お前が僕のところに来た時、残り時間は74分だったが」
「そ、そっかぁ。じゃあ、やっぱり残り75分ぐらいで俺、起きるんだなあ……うーん……」
「……何か気になるのか?」
「あ、うん……俺、最初の1回だけ、起きるの、遅かったみたいなんだ……」
バカはバカだが、覚えている。あの時は、部屋の中を見て、色々と確認して……それで、残り25分だった。
あの時は『そういうもんかぁ』と思ったが……今ならば分かる。『部屋の中を見て回って、それだけで45分も使ったわけはない!』と。
「……最初の1回だけ何か違った、というと、『孔雀』もそうか」
「うん……。孔雀も、最初の1回きり、見てねえんだ……」
バカは首を傾げて、『うーん』と唸る。……やっぱり、最初の1回だけ、色々と違ったのだ。
「なら……『孔雀』が居るかどうかは確認しておいた方がいい、か……。よし、樺島。行くぞ」
「わ、わかった!」
確認するなら急がなければ。バカは大慌てで、海斗と一緒に個室を出て、そして、『9』の個室へと向かった。
『9』の個室は、バカの個室から海斗の個室までの直線上にある。バカの個室からすぐのところが孔雀の個室なのだ。
だが……。
「こんにちはー!」
バカが部屋のドアをノックしても、返事は無い。
「おへんじ、無い!」
「……そりゃあな。残り3分を切ったところでノックされても警戒されるのが関の山だろう……」
バカは『そっかぁ!』と納得しながらも……それでも、『でも孔雀が居るかどうかは確認しなきゃ』と思い直し……そして。
「お邪魔しまぁーす!」
バキイ。……タックルで、孔雀の個室のドアも破壊したのであった!
……だが。
「あれ……誰もいない……」
バカは、個室の中に入って首を傾げた。
孔雀の個室の中には、誰もいなかったのである。
「……誰もいないし、『異能』について書かれた紙も無い、か……。うーん」
海斗もそっと個室の中に入って、首を傾げている。個室の中は、バカ達の個室と大して変わらないのだが、やっぱり『何も無い』のだ。
……どうやら今回も、『孔雀』は居ないらしい。
「ああ……もう時間だ。まずい。残り1分を切ったぞ、樺島」
「あ、うん。じゃあ、俺の個室に入ろ!」
「やれやれ……そうだな。そうしよう」
そうして、バカと海斗は一緒にバカの個室へ入ることにした。
……孔雀のことは気になるが、しょうがない。バカと海斗が個室に入って『さあ来い!』と身構えている内に、すぐ残り時間はゼロとなり……そしてまた、個室が動き始めたのであった!
……そうして、全員がまた、大広間に集まった。
バカは全員の顔を見て……そしてやっぱり、そこに孔雀が居ないのを見て、しょんぼりする。孔雀はどこに行ってしまったのだろうか……。そもそも、孔雀が居た、最初の1回がなんか変だったのだろうか……。
孔雀が居ないのはさておき、また、前回同様に自己紹介が終わって……そして。
「ルール説明、か。一応、全員で確認しようか」
モニターが出てきたのを見て、デュオが皆を促す。……前回同様のルールをバカもまた律儀に読み、律儀に『そうかぁ』とふんふん頷き……そして。
「成程な。つまり、数が小さい方が有利、と。そういうことか」
海斗はそう言うと……バカに向き直って、言った。
「なら、樺島。その腕輪は破壊していいぞ」
「ん?あ、そっかぁ!うん!分かった!」
バカは、『そういえばそういうことになったんだった!』と思い出してにこにこしながら、フンッ!と力を入れて、腕輪を引き千切った!バキイ!
「えっ……え?う、腕輪……千切っ……?えええええええええええ!?」
そんな光景を見て『キャーッ!』となっているのはタヌキである。タヌキは『引き千切った!ホントに引き千切った!』とびっくりしたあまり、その場でくるくる回り始めてしまった。ちょっとかわいい。
そんなタヌキは、『落ち着いて』とデュオに宥められ、そして、ため息を深々と吐き出した七香によって、そっと抱き上げられてしまった。
……七香がタヌキを優しく抱っこしている様子を見ると、バカはなんとなく、にこにこになってしまう!益々輝く笑顔を見て、しかし……事情を知らない面々は、やはり慄くしかないのだ。
「あ、アンタ……引き千切った、の?腕輪を?」
「おう!あっ、五右衛門のも千切るか?千切って欲しかったら言ってくれたら、俺、いくらでもやれるぞ!」
「要らないわよぉ……こっわ……」
五右衛門が一歩、バカから距離を取るのを見たバカは、『怖がらせちゃった……』としょんぼりした。自分の特技を喜んでもらえない状況というのは、悲しいものである……。
だが、バカはここで引き下がれない。今回は何としても!五右衛門と仲良くなるのだ!ここで怖がられていたとしても、諦めずにアタックしていくのみ!
……ということで。
「あの、五右衛門!五右衛門!」
バカは、ひょいひょこひょい、と五右衛門に近付いていく。
「次、俺と一緒に組まないか!?俺、役に立ってみせるからぁ!」
……そして、ドストレートにお誘いをかけるのであった!小細工一切無し!バカだから!




