ゲームフェイズ2:大広間7
「……そうだね。『今回』は、情報伝達だけでかなり時間がかかってしまった。『次回』は、今回の分も情報を足さなきゃいけないから、それどころじゃないだろう。……まずはそのあたりから詰めるべきかな」
デュオは、『最悪、七香の協力が得られなくてもこっちはやっておくべきだ』と割り切ったらしく、バカに向き直って座った。
「まずは、最初からデュオを連れてきてもらった方がいいだろうな。樺島。僕の部屋に来る前に、さっさとデュオを捕まえてきてくれ」
更に、海斗もバカの隣にどかりと座る。……海斗がこういう座り方をするのは珍しい。多分、海斗は海斗なりに、『やるぞ!』という気分になっているのだろう。
「じゃあ、俺達に伝えてほしい情報だけれど……『今が何周目か』と、『今までの回それぞれの、やり直し直前の状況』を教えてほしい」
「わ、分かった!」
バカは頭の中で『ええと、次は4周目……』と確認する。
それから、『1回目はヤエと七香が死んじゃって、あと、海斗が孔雀を……』『2回目は七香がヤエを殺しちゃって、デュオと七香でタヌキと四郎のおっさんと五右衛門も殺しちゃってて、それで、むつも死んじゃって……』『で、今回は、ヤエが1人で死んじゃって、四郎のおっさんと五右衛門が襲い掛かってきて……』と考える。
……ぶつぶつ言いながらまとめていたら、ひとまず、『よし』と海斗とデュオに頷いてもらえた。これでいいらしい!
「それから……ええと、ゲームの内容については、説明しないでくれていい。それはルール説明を見てから俺達が考えればいいことだから」
「そうだな。まあ……うん、いい。樺島が覚えていなければならないことは極力減らそう」
バカは、『ありがたい!』と大いに感謝した。……海斗が気遣ってくれて、とても助かる。バカの頭は既に、大分いっぱいいっぱいなのである!
「あ、でも、人についてはある程度、説明しておいてもらった方が……いい、んだけれど」
……そこで、デュオと海斗は、ちら、と七香を見た。が、七香がまだ俯いてタヌキを見ているのを見て、『ちょっと保留』というような顔をして2人で頷き合った。
「……あー、その、ひとまず気になるのは、五右衛門と四郎さんの素性、か。それぞれ、何か思うところがあるらしいが……」
「四郎さんが言っていたことも気になるね。『悪魔の勝利条件は全てのカードを集めること』って言ってたけれど……それを、どうして彼は知っているんだろう。そもそも、あの話、信憑性はあるのかな」
そして海斗とデュオはまず先に、七香以外の人の話をすることにしたらしい。
「むつさんの情報は、今回、ほとんど得られなかったな。……ええと、むつさんの異能について、何かその片鱗でも見たことはある?」
「ん?無い!……と思う!」
「……ということは、本当に見ていないか、はたまた、樺島が見ても気づかない類の異能、ということか。まあ、アルカナルームだけで異能を発揮している相手だったら、異能を見る機会なんて無いしな……」
バカは、『そういや、むつの異能って何なんだろうなあ……』と首を傾げつつ思い出してみるが、思い出してみてもやはり、むつが異能を使っていたような様子は無かったように思える。
七香に殺されてしまった時のことや、今回、四郎や五右衛門の戦いに参戦していなかった時のことを考えると、戦えない異能なのだろうが……。
「まあ、情報が少しでも出ている四郎さんか五右衛門さんのことを調べた方が良いだろうね」
だが、まあ、むつは後回しになりそうである。バカとしても、とっかかりがあんまり無いむつについて調べるのは中々に荷が重い。先にちょっとでも分かっている人について知った方が、多分、楽である。そしてその途中で、むつについて……或いは孔雀についても、情報が出てくることがあるかもしれないのだ。
さて。となると、四郎と五右衛門、どちらを先に調べるべきか、ということになるが……。
「うーん……俺としては、五右衛門さんが先がいいと思う」
「そうだな。僕もそう思う」
「なんでだ!?」
なんと。デュオと海斗の意見は一致してしまった!バカは、『なんでぇ!?』と慄くばかりである!頭がいい人達って、答えもぴったり揃ってしまうものなのだろうか!
「いや、ほら。どうも、ヤエさんに何か、思い入れがあるみたいだから」
「五右衛門さんについて調べていったら、ヤエさんについても情報が得られるかもしれないだろう。逆もあり得る。……まあ、彼女の異能はなんとなく、今までのお前の話を聞いていて、想像がついているが……」
「ああ、そうだね。俺もなんとなく、『こういうことかな』と思うものがあるよ」
更に、デュオと海斗はヤエの異能についても見当がついているらしい!バカはびっくりした!
「あー……一応、確認しておこうか。海斗君」
更に更に、デュオがそんなことを言い出したので、『確認できるのぉ!?』とバカは慄き……。
「ああ、分かってる。……『リプレイ』だな?」
「ご名答」
海斗までもが何やら分かっている様子なので、バカはいよいよ、『俺、なんにもわかんなぁい!』とひっくり返ってしまった!頭がいい人の相談は、バカにはスピーディーすぎるのである!
「あー……樺島君。ちょっと、『8』の部屋に行ってこようか。そこで『リプレイ』を使えば、少なくとも、ヤエさんがどうして死んだのかは分かると思う」
……そんなバカにデュオが説明してくれたので、バカはようやく、『そういうことか!』と理解できた!よかった!
そうしてバカは、五右衛門の腕輪を破壊して持ってくると、海斗とデュオと一緒に『8』のアルカナルームへと向かった。
……一応、七香にも声を掛けた。が、返事は無かったので、七香はそのまま、置いてきた。彼女には心を整理する時間が必要だろう。少しの時間程度で、心が整理できるかは分からないが……。
「よし。じゃあこのあたりでいいか。頼める?」
とにかく、今は『リプレイ』である。バカはそわそわしながら、海斗が異能を使うのをそっと待った。
「……では。リプレイ!場所はこの樹を中心として設定!時間は、『ヤエさんがこの樹に絡めとられる50秒前から』だ!」
……そうして『リプレイ』が始まる。
リプレイは、ヤエがこの部屋に入ってすぐから始まった様子であった。
ヤエは、部屋の中にあったらしい何かを見て、唖然としていた。……だが、その『何か』は、リプレイで再生されないらしいので分からない。
……しかし、ヤエの口が動いているのが見えた。『何か』と喋っていたのだろう。そして、ヤエの表情に少しばかり、嫌悪の感情が見て取れた。バカは、『ヤエ、こういう顔もするんだなあ……』とぼんやり思った。
そして……そうしている間に、戦闘が始まった。とはいえ、ヤエ自身はほとんど動かない。
動かないまま、さっさと若木に絡めとられて、義足が引っかかって抜けなくなって……そうしている間に、締め上げられてしまったのだろう。……だが。
「あ、ヤエ、今、異能使った……?」
……木に絡めとられながら、ヤエが何か、異能を使った、ように見えた。床に向かって何か、手を伸ばして……。
「……彼女、何をしたんだろうな」
ヤエは床を見て、小さく微笑んだ。
……そこで、『リプレイ』は終わった。
「……これ、かな」
デュオが、そっと若木の根元に屈む。
「ヤエさんが異能を使ったのは……恐らく、これだと思うよ」
「花……咲いてる、なあ」
バカも一緒に屈みこんで、木の根元に沢山咲いている花を見つめた。
花の名前などあまり分からないバカだが、『かわいいなあ』と花を愛でる心はある。下手に触ると花を潰してしまうかもしれないので、そーっと、触らないようにしながら眺める。
花は、素朴なものが多かった。それらが木の根元に固まって咲いている様子は、なんとなく健気で、いじらしく見える。
「これ、ヤエが咲かせたのかあ……」
バカは、花を眺めながらちょっと寂しくなってきた。……ヤエは、自分を締め上げる木をどうにかするわけじゃなくて、ただ、花を咲かせたらしい。だとしたらそれは、どんな気持ちだったのだろうか。
「ヤエさんの異能は、『花を咲かせる』異能、ということか……?」
「うーん……いや、多分、『植物を生み出す異能』とか、『植物を急成長させる異能』とかじゃないかと思う」
「え?しかし、そうなるとこの樹は……」
一方、海斗とデュオは頭のいい会話をしている。バカは、寂しい気持ちを抱えたまま、でも、ちゃんと2人の会話も聞いておくことにした。
「……『8』のアルカナは、『力』だ。そして、『力』のカードには、『汝自身を知れ』という意味があるんだよね。だから、この部屋……もしかすると、『自分のコピーと戦う』とか、『自分の異能と戦う』とか、そういう部屋なんじゃないかな」
「そ、れは……」
デュオと話していた海斗が、さっ、と青ざめる。青ざめて……がし、と、バカの両肩を掴んで、真正面からバカの目を見つめて、滾々と言った。
「……樺島。お前、絶対に、『8』の部屋には入るな。絶対に!頭脳以外の何をコピーされても恐ろしいことにしかならない!」
「ん?うん!分かった!」
……よく分からないが、バカは『8』の部屋に俺は入っちゃ駄目らしい!と学んだ。ヨシ!
「異能と戦う、ということなら、海斗君が入るのが分かりやすくていいかな。ははは……」
「ただ、人同士の戦いになるなら……誰が入っても、基本的には酷いことになるのか」
「本当に『汝自身を知れ』の部屋なんだとしたら、この部屋が一番、攻略難易度が高いことになりそうだけれど……他の部屋を見る限り、1人でも十分に攻略できることが前提になっている気は、するんだよね。ヤエさんも、やる気なら本来、1人で対処できたのかも」
デュオと海斗が喋るのを聞きつつ、バカはふと、咲いている花を見て……うん、と一つ頷いた。
「ヤエ。お花、貰うぞ……」
お花を摘んでしまうのはかわいそうな気もするのだが、バカは『ごめんよぉ』と謝ってから、お花を3本、摘んだ。名前は分からないが、白くて、ふわっとした花びらの、かわいい花だ。
「樺島。それ、どうするんだ」
「うん……ヤエと七香に、お土産……あと、タヌキ……」
「……そうか。うん、それがいい」
……どうせ、やり直してしまうのだ。それに、七香はともかく……ヤエもタヌキも、もう、死んでしまった。それは、バカも海斗も、分かっている。
だがなんとなく、こうしたい。……花を供えるというのは、供えられる人じゃなくて、供える人のための行為なのかもしれない。バカはそう思う。
そうして、バカ達はまた大広間へ戻ってきた。
出ていった時と変わらず、七香はタヌキの傍でじっとしている。
「七香ぁ……これ……」
そんな七香に近付いていって、バカは、そっと、花を一輪渡した。七香はぽかんとしていたが、バカがそっと七香の手に花を握らせると、その花に視線を落とす。
「その、タヌキにも、あげるんだ……。タヌキ、お花、好きだから……」
バカは七香の膝の傍の、タヌキの亡骸の上にそっと、花を一輪乗っけた。タヌキだったら『わぁー!お花だぁー!』と喜んでくれたのだろうが、今のタヌキは何も言ってくれない。それが酷く寂しい。
「ヤエにも……」
……そして、ヤエにも、持ってきた花をそっと握らせた。
ヤエも、花が好きな人、なのだろうか。だとしたら、タヌキと気が合うのではないだろうか。
「俺、もっとヤエと話してみたいなあ……」
……ヤエとは、あまり話したことがない。陸上部だったけれど事故で脚を片方失ってしまった、ということしか知らない。それから……花は、好きなのだと思う。今回は花を咲かせたようだし、ヒマワリにも笑顔を見せてくれたし……。
だから次は、もっとお喋りしてみよう。バカはそう、心に誓った!
さて。
「ヤエさんについては情報がある程度、集まってるね。異能は植物に関係するもの。そして願いについては……推測になるけれど、脚関係じゃないかな」
「ヤエ、陸上部だったんだって言ってた。スポーツ推薦?を目指してたらしいぞ!」
「ああ……そういうことなら、脚を取り戻す、というのは十分な動機になり得るね。まあ、実際のところは確実じゃないから、確かめなきゃいけないけれど……」
そうして、『リプレイ』でヤエの異能の推測も進んだところで……いよいよ、『作戦会議』は大詰めとなる。
「じゃあ、次回はひとまず、五右衛門さんについて調べようか。むつさんと四郎さんは、一旦後回しになっちゃうけれど……まあ、一度に色々やろうとすると手が足りなくなるから。『次回』も多分上手くいかないだろう、と思って挑もうね」
「わ、分かった……」
デュオに『多分次回もダメ』と言われてしまうと、バカとしては『そんなぁ……』という気分になってしまうのだが……だが、バカはバカだが、流石に分かる。準備って、大事なのだ。ちゃんと準備してから本番に挑まないと、事故が起こりやすい!それはよくない!ご安全に!
「そういうわけで……問題なのは、どうやって次回の俺達に説明してもらうか、だよね……。というかそもそも、『次回は誰を味方にするか』っていうところから、考えた方がいいのかもしれないけれど……」
「……僕1人では手に余る、ということは分かっている。少なくとも、デュオには声を掛けてほしい」
「ああ、俺としては、タヌキにも声を掛けてもらえたら工数を省略できるかな、と思うんだけれど、どうかな」
「だったら、七香さんも……あー……いや……」
が、そうして話していたデュオと海斗は揃って、ちら、と七香の方を見た。
七香は……七香は、バカ達の『作戦会議』を見て、『この人達、一体何の話をしているのかしら』という顔をしている。タヌキの死があったのにコレなので、不謹慎だ、と思っているかもしれない。ちょっと非難がましい目だ。
……だがここで、七香の協力が必要なのだ。バカはなんとしても、七香を協力させなければならない。




