ゲームフェイズ2:大広間4
それからバカは、五右衛門と海斗とデュオと一緒に、『8』の部屋へ向かった。
……道中、無言であった。全員が。
重苦しい空気の中、バカは事態が何も分からないながら、それでも何か、よくないことが起こったことだけは分かっていて……そうして、エレベーターが到着する。
五右衛門が無言でドアを開けると、そこは……。
「……花、だぁ」
バカは、あれ、と思った。部屋の中には、木が一本生えていて、その根元に花がちょっと生えていて……それだけだ。いくらか、木の枝が折れたり、切れたりして散らばっているが……。
……最初の周でバカがここに来た時とは、大分様子が違う。あの時は、部屋中が植物だらけだったのに……。
「こっちよ」
バカが、木と花を眺めて『ほええ』となる中、五右衛門がバカを案内していって……そして。
「……じゃあ、ヤエちゃんのこと、よろしくね」
……木の裏に寝かせてあった、ヤエの死体を発見することになったのだった。
ヤエの死体を見るのは、3回目である。毎回、ヤエは死んでしまうのだ。
「ヤエ……」
あまりにも悲しく寂しい光景を前にして、バカは、動けない。
今回のヤエは、あちこちを骨折しているように見えた。血を吐いたのか、頬に血の跡が見える。誰かが拭って綺麗にしようとしたのだろうな、とも、見て取れた。
「……僕達が到着した時、ヤエさんはこの木に絡めとられるようになっていたんだ」
そこで、海斗が説明してくれる。海斗もまた、ヤエの死に動揺している様子だった。
「恐らく、木に締め上げられて、そして、亡くなった、んだと、思う……」
「そ、そんなこと、あるのかよぉ……」
木がそんなに急成長した、ということだろうか。バカの知る限り、そんなことができるのはキューティーラブリーエンジェル建設のご近所にお住いの豊穣神くらいである!
「まあ、そういう部屋の仕掛けだった、んだと思うけれどね。……いいや。考察は後で。今は、ヤエさんを大広間に連れて帰ろう」
デュオはそう言うと、バカの背を、ぽん、と叩いた。
「『8』のヤエさんを乗せてしまうと、エレベーターが動かせない。かといって、ヤエさんだけもう1つのエレベーターに乗せても、誰かが入らないことにはボタンを操作できないから……結局、『0』の樺島君が居ないと、ヤエさんを連れて行けないんだよ」
「そ、そっかぁ……」
バカには難しい話だが、『死体だけでエレベーターは動かせない』ということ、なのだろう。死体の代わりにエレベーターを動かそうと思ったら、その人の数字も合計されてしまう。
そう。だからこそ、腕輪を引き千切ったバカの出番、という訳だ。
「よし……じゃあ、抱っこでいいか……?」
バカは、よいしょ、と、ヤエの遺体を横抱きにする。死んじゃってても、女の子である。丁重に運ばなければならない。女の子は土嚢とか生コンの袋とかみたいに運んじゃいけないのだ。ちゃんとこういう風にお姫様抱っこにして、しゃなりしゃなりと歩かねばならない。
ということで、バカはヤエをひょいと抱き上げて、自分が乗ってきたのとは反対のエレベーターへ向かう。
「じゃあ……よろしくね」
「おう!任せろ!」
五右衛門と海斗とデュオは、また元来た方へ戻って、そっちのエレベーターを使う。……バカは、『このエレベーターの仕組み、ちょっと不便だよなあ……』と改めて思いながら、まだ少し温かさが残る気がするヤエの遺体を、ちゃんと抱え直すのだった。
バカ達のエレベーターがそれぞれ大広間に戻ってきて、全員が合流した。
合流、したのだが……。
「ヤエちゃん……」
……むつは、大層ショックを受けている様子であった。ヤエとは齢が近いからか、仲良くやっていたようだったし……余計にショックが大きいのだろう。
バカ達は全員、黙ったまましばらくずっと、ヤエの傍に居た。
……バカは、『上手くいかないなあ』と、しょんぼりしながら、ただ、ヤエを見つめていた。……バカは、どうすればよかったのだろうか。
「……俺は次のアルカナルームに向かう」
そんな中、最初に動き始めたのは、四郎だった。
「あと、残ってんのは……0、1、2、3、10、11、19、20、21、か」
四郎が立ち上がるも、他にすぐ動く者はいない。四郎は少し、苛立ちと気まずさが混ざった表情で視線を動かして……それから、ヤエの傍で座り込んだままのむつに、声を掛ける。
「……おい、むつ。動けるか」
むつは、ちょっと四郎を見上げて……だが、ふる、と首を横に振った。
「……ちょっと、駄目かも」
「……そうかよ」
四郎は小さくため息を吐いて、『どうすっかな』とぼやく。
……すると。
「アタシ……いけるわよ」
五右衛門が、立ち上がった。彼もまた、ひとまず動くことにしたのだろう。尤も、四郎と目は合わせないままだったが……。
「そうか。だが、俺とお前じゃ、『9』だ。なら……」
「でしたら、私が」
が、更にそこに、七香が進み出る。これにはバカもビックリした!七香が自ら、誰かのために出ていくなんて!
「それから、タヌキさんも」
「えっ……え?私ですか……?え?」
更に、七香はそんなことを言ってタヌキのことを、ひょい、と抱き上げてしまった!タヌキに拒否権は無いのである!
「……成程。これで合計、『19』か。行けるな」
「じゃ、早速、行っちゃう?」
タヌキの意向は確認されないまま、四郎と五右衛門は了承したらしい。タヌキは変わらず、七香の腕の中で『え?え?』とやっている。ワンテンポ遅い!
「それから……」
だが……七香は更に、バカの方を、振り向いた。
「……樺島さん。ついてきて」
「えっ、俺?」
バカは、きょとん、とした。まさか、七香に指名されることがあるとは思っていなかったのである!
「ちょ、ちょっと。そんなのアタシは……」
「樺島さんが一緒でないなら、私とタヌキさんも行きません」
五右衛門は何か言おうとしていたが、七香の言葉は冷たい。
「えっ!?そうなんですか!?……あ、はい。じゃあそういうことに、しますぅ……?」
そしてタヌキの言葉は生温かい。
「……どうするよ」
「どう、って……」
四郎と五右衛門は、顔を見合わせて何やら悩んでいる様子だ。そんなにバカが嫌なのだろうか……。
「……デュオと七香とむつと俺、って手もあるにはあるが」
「その場合でも、私は必要ですね。私はあなた達と組むなら必ず、樺島さんの同行を求めます」
「えええええ!?俺ぇ!?なんでぇ!?」
バカはますますびっくりしている!七香に、そんなに執拗に指名されることになるとは思っていなかったのだが!
「ここで決めてください」
七香は、四郎と五右衛門に言い放った。
「私達と協力するか……協力しないのかを。さあ」
四郎も五右衛門も、咄嗟に返事は出せなかったらしい。2人とも、バカの方を見て、海斗を見て……そして、じっ、と七香を睨んでいる。
「……四郎さんと五右衛門さんがむつさんと協力したとしても、合計は『15』。19、20、21の部屋には入りようがありません。それらに入りたい場合も、どうしても私が必要になりますね?」
すると七香は何か、頭の良さそうなことを言い始めた。多分、説得の類なのだろう。バカはついていけないので、『ほげえ……』となるばかりである。タヌキも『ほやあ……』となっている。バカはタヌキに親近感を覚えた。
「……それはそっちも同じことだろうが。海斗とデュオとタヌキと七香。4人足しても数は『13』だ」
「ええ。……でも、0、1、2、3のカードが、まだこちらには残っていますから」
七香は変わらず冷たい視線を四郎へ送っている。ちょっと怖い!
「その4枚に、樺島さんが持っている4枚のカードと、私が持っている1枚、デュオさんが持っている1枚を足せば、合計10枚。……私達の内、4人は脱出できる」
「……ああくそ。つまりそっちは、『あと1枚』ってことかよ」
「そうよ。或いは……誰かを諦めるなら、その限りではありませんが」
バカは、七香の言葉の意味がよく分からない。海斗の方を振り向いて、『今の、分かったぁ!?』と聞いてみると、『ああ、まあ、分かったが……?』と海斗は何とも言えない顔をしていた。バカは、『海斗が分かったんならいいやぁ!』と、また元気に四郎と五右衛門の方へ顔を戻した!
「……どうなさるおつもり?私は、あなた達に協力しても、しなくても、どちらでも構いません。……『10』と『11』に入るだけなら、あなた達の助け無しでも入れるのですもの。それでこちらは、カードを集め終わる。……そして、あなた達が脱出する機会は永遠に失われます。ならば、協力した方が利があるでしょう?」
バカはバカだが、今のこの状況が『七香が四郎と五右衛門、そしてむつにチェックメイトをかけている』という状況なのだとは、理解できた。
……そして。
「俺はな……知ってんだよ……」
四郎が、じろり、と七香を……そして、海斗を、デュオを、タヌキを、そしてバカを、睨んだ。
「今回参加していやがる悪魔の勝利条件。それは、『カード22枚を集めること』だ。……そうなんだろ?」
バカは咄嗟に、何も分からなかった。ただ、『へ?』と、頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべるばかりであった。
だが……四郎が続けた言葉の意味は、分かった。
「だったら俺の行動は決まりだ!……この期に及んで協力なんざ、してられっかよ!殺される前に、殺す!殺せば腕輪は、奪えるんだろうからなァ!」
……どうやら、今回も駄目だったらしい。




