ゲームフェイズ2:大広間3
「じゃ、気をつけてな……」
そうしてバカは、海斗とデュオと五右衛門を見送った。
……信用されていない、というのは、やっぱり、ちょっと寂しいものである。だが同時に、『そりゃそうだよなあ……』とも、思う。
いきなり、見ず知らずの人を信用できるはずがない。特に、バカはこのパワーだ。『このバカはこういうものだ』ということが分かっていない人からしてみれば、只々怖いものだろう。
「あのう……樺島さん、あんまり気にすること、無いですよ」
「うん……ありがとな、タヌキ……」
タヌキがやってきて、もふん、と尻尾でバカの脚を撫でていく。なのでバカはタヌキを抱き上げて、ちょっと撫でさせてもらうことにした。
「……ヤエさんが樺島さんの助けを拒んだのだから、五右衛門さんがどう思っているにせよ、こうするのが妥当だと思います」
更に、七香もやってきて……何やら難しいことを言い出した!が、バカは『ヤエ……五右衛門……?』と、頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべている始末である!
「あー、樺島さん、樺島さん。つまりですね、『ヤエさんが樺島さん抜きで行くことにしたんだから、五右衛門さんもそのヤエさんの意思を尊重すべきでしょ』ってことですよ。だから、五右衛門さんが樺島さんを嫌いとか、そういう話じゃないんじゃないの?と七香さんは言っています!多分!」
「そ、そっかぁ……五右衛門、俺のこと嫌いなわけじゃ、ないのかぁ……」
間にタヌキの翻訳を挟んで、バカはようやく七香の言いたかったことをなんとなく理解した。一方の七香は、『嫌っているかどうかはまた別の話だけれど』と、何とも言えない顔をしていたが……。
「あー……えーと、四郎さん、むつさん。そっちのお部屋はどんなかんじでした?ええと、『16』のアルカナルーム、ですよね?」
そうして暇になってしまったバカ達は、他にやることも無いので情報交換することになった。
「ああ。『塔』だったな。……ひたすら高い塔に登って、頂上のカードを取ったら、その瞬間から塔が崩れ始めるから走って逃げる……ってな具合だった」
四郎はちゃんと答えてくれた。……やっぱりバカのことを怪しんでいるのかもしれないが、ひとまず、タヌキには警戒心を抱いていないらしい。
「そりゃあ大変でしたねえ……。あ、こっちは吊るされました。樺島さんは縄で、デュオさんは革ベルトで、七香さんは赤いリボンで!そして私は薔薇の蔓でロマンティックに!」
「ろ、ロマンティック……?」
そしてタヌキはタヌキで、自分の方の報告をするのだが、タヌキがロマンティックに吊られていたかについては議論の余地が残るところであろう。
「あ、もしかして、七香さんが今持ってるのって、それ?」
「……ええ」
が、七香の手に、薔薇のリースがあることは確かなのである。バカはそれを見てにっこりした!
「いやー!なんか、色々と意外なことが沢山ありましてぇ!なんか私、七香さんと昔、会ったことがあったみたいで!ね、七香さん!」
「……不思議なものだけれど、そうみたいね」
タヌキは嬉しそうに尻尾をぶんぶんやっているし、七香は七香で、何やら不思議そうにしながら、でも、不愉快ではないようである。
『偶然の出会いだったと思っていたものが、デュオによって仕組まれた必然だった、と思っていたら、それは実はタヌキによる偶然だった!』という360度回転があったわけなので、七香としてはまだ心の整理が追い付かないのだろうが……『ちょっと楽しい』くらいに落ち着いてくれたらいいなあ、と思うバカなのであった。
「ところで、えーと……その、四郎のおっさんとむつは、海斗のこと、信用できそうか?」
さて。
そうして互いの情報交換が終わったら……バカは、気になっていたことを聞いてみる。
今回、海斗はむつ達のチームに行った。きっかけは、むつが『誰が信用できるか見極めるならそっちの人とも組みたい』と言い出したからである。
バカからしてみれば、海斗はどこに出しても恥ずかしくない自慢の相棒である。きっと、むつ達の信用も得られただろう、と思う。思うのだが……それでも心配には、なるのだ。
「えーと、海斗さんについては……」
バカがどきどきしながらむつ達の評価を待っていると……むつがちょっと考えて、ちょっと、にこっ、と笑って、教えてくれた。
「……私は、まあ、ある程度は信用できるかな、って、思ったよ。いい人だね、海斗さん」
「うん!うん!そうなんだよぉ!海斗、頭いいしかっこいいし!優しいし!いい奴なんだよぉ!」
さあ!嬉しいバカの出来上がりである!海斗がむつの信用を勝ち得たことを、バカは大いに喜んだ!ついでにタヌキもポンポコと喜んでくれた!
「……俺は、信用する気はねえ」
「ええっ!?なんでェ!?」
が、一方で四郎はどうも、まだ海斗を信用してくれていないらしい!バカは大いに驚いた!タヌキは『まあそうですよねえ』とのんびりしていたが!
「何でも何もあるかよ……。上手く言い逃れしやがったけどな、現状、一番怪しいのはお前らだ。その内、頭が回る奴の方を警戒するのは当然だろうが」
「ええええ……そんなぁ……」
バカは、『俺の方警戒してもいいから、海斗は警戒するなよぉ……』としょんぼりした。
「じゃあ、四郎さんは『誰が脱出するか』っていうところは、『自分以外誰も信用できない』っていうかんじになんですか?そうなんですか?」
「……そうだな。そもそも、『誰が脱出するか』を決めること自体、バカげてると思うが」
「そっかぁー……」
バカはしょんぼりしながら、四郎の様子を、ちらっ、と見た。
……四郎は、誰のことも信用していないらしい。そしてそもそも、デュオが出した案に乗ってくれる気は、あんまり無いらしい。とはいえ、こうしてゲームのチーム分けに付き合ってくれはするのだから……悪い奴じゃないのだろう、とは思うのだが。
「……おい、樺島」
「ん?なんだ?」
そんな四郎がバカに声を掛けてきたので、バカは首を傾げつつ、ちょっと嬉しくなる。話しかけてもらえるのは嬉しいことだ。
「お前は、誰が『悪魔』だと思う?」
……が!難しいことを聞かれても困る!バカだから!
「え、ええとぉ……」
バカは考える。聞かれちゃったので考える。
だが、考えても、考えても……それっぽい答えには辿り着かないのである!だって、バカだから!
「みんな、悪魔じゃないと思う……」
なので、バカの結論はそんなことになってしまう。バカは申し訳なく思いながら、しょんぼりと肩を縮めて、そう答えるしかない。
「……はあ?」
「だって、皆、いい奴だし……」
……四郎には怪訝な顔をされてしまったが、バカはそれでもやっぱり、『誰も悪魔じゃないんじゃねえかなあ』と思うのだ。
海斗は、当然ながら悪魔じゃない。バカはそれをよく知っている。
デュオも、悪魔じゃない。デュオは陽だから。悪魔じゃない。
タヌキも悪魔じゃない。悪魔によってタヌキにされてしまった、ちょっとドジな被害者であろう。
四郎は……悪魔殺しを望んでいるのだから、悪魔じゃないはずである。
五右衛門についてはよく分からないことも多い。だが、ヤエやむつを気遣う様子が、前回以前の周で見受けられた。だから悪魔じゃない。
むつはいい奴である。皆を心配してくれるし、ヤエを気にかけて一緒に居ようとするし。だから悪魔じゃない。
七香は……やっぱり、悪魔じゃない、と思う。デュオとタヌキと色々ありそうだが、彼女の感情は、やっぱり人間のそれだと思う。
ヤエ……についても、やっぱり分からないことは多い。だが、事故で脚を失ってしまう悪魔が居るだろうか?と考えると、悪魔じゃないと思う。
……そして、ここに居ない孔雀については……彼が、きっと、たまの弟、『駒井燕』なのではないか、と思う。だから、悪魔じゃない。
……そう。結局のところ、なんだか全員、悪魔じゃないように思えるのである。
「……そうかよ」
バカが考えを述べると、四郎はなんとも嫌そうな顔で、『こいつに聞いても何の足しにもならねえ』とばかり、舌打ちした。
「おい、タヌキ。お前はどうなんだ」
バカがあまりにもアレだからか、四郎はタヌキに話を振った。タヌキは『えっ!?私!?』と戸惑っていたが……。
「えっ、えええー……うーん、私としては、樺島さんと海斗さん、デュオさん、七香さんについては悪魔じゃないなあ、と思ってます。まあ、そういうこと言っちゃうと、四郎さんか五右衛門さんかむつさんかヤエさんが悪魔だ、って言ってるようなものですから、嫌なんですけどぉ……」
タヌキはそう言って、しゅん、と耳と尻尾を垂れさせた。タヌキはいい奴だ。バカは深くそう思った!
「そうか……」
四郎は、タヌキが言う分にはこの理屈もちょっと分かるらしい。嫌そうな顔をしつつ、ちょっと申し訳なさそうでもある。
「私は」
……だが、そんな四郎も、七香が喋り出したので、驚く。『このおねーちゃん喋るのか』と言わんばかりであるが……。
「あなたが悪魔だと思っています」
……七香が真っ向から四郎を見つめてそう言うものだから、流石の四郎も、凍り付いた。
「……おい、そりゃ、どういうこった。俺は悪魔を殺す側で……」
「仲間内で争うことも、あるのでは?或いは、そもそも本当に『悪魔殺し』が目的なのかも分からないでしょう」
七香の言葉は、涼やかでさらりとしている。……そして、冷たく、鋭い。
「あなただって、吐き出された言葉は全て真実であるはず、だなんて、思ってらっしゃるわけじゃないでしょう?」
……四郎が何か言おうとしてか、口を開きかけた。だが。
「七香さん、七香さん!まあまあ!そんな風に疑い合ってもしょうがないですから!四郎さんも!ね!」
タヌキがそう言って、もふーん!と割って入ったため、七香と四郎の睨み合いは立ち消えとなった。
「ひとまずは、協力しないことにはカードが手に入りません。カードが少なかったら、助かる人が減っちゃいます。だから、私達は協力しなきゃいけない!そういうことのはずですよ!」
「……そうね」
「……まあ、そうなんだがよ」
タヌキが堂々と『仲良くしましょ!』とやったら、七香も四郎も、毒気を抜かれてしまったらしい。それきり、『それもそうだ』とばかり、タヌキを見つめるばかりとなってしまう。……タヌキって、すごい!バカは、タヌキを心の底から尊敬する!
「まあ、うん、そうだよね。私もそう思うよ、タヌキさん!」
「むつさんも分かって頂けますかぁ!ですよね!ですよね!悪魔が居たとしても、まあ……カードは欲しいんでしょうし!だったら、ギリギリまでは仲良くしてくれるでしょうし!その後も仲良くできる悪魔だったらいいですけども!」
「あ、意外と先のことまで考えてるんだ……」
むつとタヌキが手を取り合っているのを眺めつつ、バカは『そっかぁ、悪魔もギリギリまでは仲良くしたいのかぁ』と、なんだかちょっと面白いような気分になってくる。……同時に、タヌキの言う通り、『仲良くできる悪魔だったらいいなあ』とも、思うのだ。
「よし!皆、仲良くしてヤエ達が帰ってくるの、待とうぜ!な!」
「うん……そうだよね!タヌキさん!撫でさせて!」
「はいどうぞ!あっ!四郎さんもよろしければどうぞ!私、毛並みには自信がありますので!是非!是非!」
「……ったく」
結局、そうしてバカ達は、皆でタヌキを撫でる会を開催することになった。むつと四郎が手を伸ばしてタヌキのお腹を撫でると、タヌキは『どうです!ふわふわでしょう!』と自慢げにする。
……そして。
「七香さんもどうぞどうぞ!尻尾も自信ありです!」
「……そう」
七香もタヌキを囲む輪の中に入って、タヌキのしっぽを、ふさ、ふさ、と撫でることになった。
……平和である!タヌキを中心として、平和が生まれたのである!
さて。
そうしてバカ達がタヌキセラピーによってにこにこしていると……。
「あっ!」
ふぃーん、と、個室が上がってきた。なのでバカは大いに喜び……喜んだ、のだが……。
「個室が1つしか、上がってきませんね……」
……七香はそう言って、目を眇めた。
やがて、個室が1つだけ、戻ってきた。そこにバカとタヌキが駆け寄って、そして、後から四郎とむつと七香も寄ってきて……。
……そこで、個室から出てきた五右衛門とデュオと海斗を出迎える。
だが、彼らの表情は、暗い。
「……樺島君。来てくれるかしら」
その中で殊更に表情が暗いのが……五右衛門だった。
「ヤエちゃんを……連れてくるの、手伝ってくれる?」




