ゲームフェイズ2:大広間2
エレベーターが上がってくる。
それを見て、バカはいよいよ、覚悟を決めた。
……海斗が無事かどうかすら分からないこの状況だ。そして、海斗がどんな嘘を、或いは真実を話したかも分からない状況である。そんな中で、バカは1人、上手く立ち回らなければならない。……海斗の相棒として、胸を張るためにも!
やがて、エレベーターのドアが開いて、むつ達が降りてくる。
……そして。
「海斗ぉ!」
海斗も、降りてきた!……無事だ!ちゃんと、無事だ!バカは大いに喜び、海斗に駆け寄った!
だが。
「おい」
そこに、四郎が割って入ってきた。
……その手に握った氷の刃を、海斗の喉に付きつけながら。
ぴた、とバカは足を止めた。バカはバカだが、流石に……分かる。
今、海斗は人質にされているのだ、と。
「……海斗。忘れちゃいねえだろうな」
「ああ、勿論」
海斗は『やれやれ』と言いつつ両手を上に挙げてみせた。……余裕ぶって見せているが、海斗は今、緊張している。細く吐き出された息が震えているのを、バカの無駄に良い耳が聞き取っていた。
「よし。……おい、樺島」
「うん」
そして四郎に睨まれつつ、バカも若干緊張して、答える。ついでに海斗と同じように、両手を上に挙げておく。敵意は無い、というアピールだ!
「……こいつの命が惜しけりゃ、話してもらうぞ。『お前の数字について』だ」
……バカは四郎を見下ろしながら、『本当にこの話になった……。デュオ、すげえなあ……』と、只々、デュオに感心していた!
「数字……」
「ああ。……お前、『10』だったんだな?それがどうして、『0』になってる?ついでに、『9』の奴をどうしたのかも話して貰おうか」
バカは、考える。……これは、どう答えればよいのだろうか、と。
正直に話すとなると……バカがやり直しをしている、ということも、話してしまうことができるだろう。
だが、それはあまりにも危険だ、ということは、分かっている。だって、この中に悪魔が居るのだ。天使の羽だって、見せない方がいいらしいのだ。だからバカは、そのあたりの話はまだ、できない。
……それに、今の状況だ。バカが『やり直し』をするのを嫌がって、バカを殺そうとする人達が何人か生まれてしまったら……その時、バカはちゃんと、戦えるだろうか。
それから……バカは、海斗が言っていたことを思い出す。
『何があっても、お前は生き残れ。たとえ、僕を見捨てることがあったとしても、お前だけは生き残らないと駄目だ』と。
……そして、バカは、海斗を信じている!海斗が自分のことを信じてくれていると、信じている!
よって。
「ごめん!俺、腕輪、引き千切ったァ!海斗がそうした方がいいぞって言ってくれたからァ!」
バカは、海斗が『樺島はバカだから……』と正しく理解していることを信じて、そう、言い切ったのであった!
自信満々、威風堂々、どこまでも突き抜けて明るく澄み渡るバカのバカすぎる回答は、今度こそ、四郎の思考を止めてしまったらしい。しばらくそのまま、両者共に沈黙することになってしまった!
「……引き千切った、のか?」
そして、ようやく言葉を発した四郎は、まず、そこが気になったらしい。
「うん……ごめんなぁ……あ、四郎のおっさんのも、引き千切っとく……?」
「やめろ」
「あ、うん……」
……バカが『こう掴んで、こう!』と、ジェスチャーをしてみるも、反応は薄い。それはそうである。
「俺が聞いてんのは、『どうやって』腕輪をぶっ壊したかじゃねえ。『なんで』についてだ。だが、それは……」
「うん。海斗に言われて、千切った!」
更に、バカはもう一度繰り返す。
……説明は、海斗がしてくれる。そして、バカは『バカだから何も分からない』。
これが、バカと海斗のバディの在り方なのだ。バカは自分の役割を、正しく理解しているのである!
……ということで、暫し、全員が沈黙していた。だが、海斗が少し嬉しそうな顔をしているのを見て、バカは、『やっぱり俺、これでよかったんだな』と分かった。なので嬉しい!
「あー……成程ね?じゃあ、海斗に言われて、腕輪を引き千切った、ってわけね?」
「うん!あ、五右衛門のも千切るか?」
「千切らなくていいわよ……」
バカは五右衛門にも腕輪千切りセールスを持ちかけたが断られた。『俺も何かの役に立てたらよかったんだけどなあ……』と、ちょっぴりしょんぼりした。
が。
「……千切った後の腕輪、なんで捨ててきたのよ」
五右衛門が更にそう続けてきたので、『あれっ!?そういえばそうだった!』と気づく!気づくが……。
「えっ!?腕輪、使うんだったか!?……あっ!?確かにそうだよなぁ!?腕輪があったら、『10』の部屋に俺、1人で入れたんだぁ!?」
「……今気づいたのぉ……?」
バカは慄いた!なんか、よく思い出せないが腕輪は引き千切ったし、その腕輪は……天井裏に、捨ててきちゃったのである!だが、バカはバカなので……なんで捨ててきちゃったのかは、覚えていなかったのである!バカだから!バカだから!
「えええ……ごめん、そっか、腕輪使うんだって、俺、今気づいた……なんで気づかなかったんだろぉ……」
「……ルールを知ったのは後だからだろ」
「あ、そっか……?そっか、四郎のおっさん、頭いいなあ……」
バカがあまりにおろおろしているからか、四郎がちょっと助け船を出してくれた。なのでバカは、よく分からないながらも『四郎のおっさんは俺より頭、いいみたいだ……』と、ちょっと四郎を尊敬した。四郎は、なんとも複雑そうな顔をしていた……。
「……で、最後の質問だが」
が、そんな四郎が、質問を重ねてくる。バカはまた『よし!さあ来い!』と身構える。身構えたところで何にもならないが。
「『9』の奴は、どうした?お前が……いや、『海斗が』目論んだのは……『9』の奴が存在しないことを隠すために、お前を『10』じゃなくて『0』にする、ってことだったんじゃ、ねえのか?おい」
「えええ……」
そして、『そういえばそれも聞かれてたなあ……』と思いつつ、バカは困ってしまう。
「そんなこと言われてもぉ……俺、知らないよぉ……。そもそも、9番の奴が居ないのも知らなかったし……居るもんだと思ったのに、居ないし……」
「居るもんだと思った、ってのはどういうこった」
「だって、部屋はあったしぃ……なのに、居ないしぃ……」
バカは『なんで孔雀、居なくなっちゃうんだろう……』としょんぼりしているのだが、そのしょんぼりは今一つ、四郎達には伝わらない。ただ、『まあ……確かに、個室はあるんだから、9番が居たであろうことは後から推測できるし、腕輪を引き千切った時点で9番の奴が居なくなることが分かっていたわけじゃねえのか』と納得されているだけである!
……バカの説明は下手なので、バカの説明を聞いた者は、自分の頭で説明を補足して考えるしかなく!それ故に、勝手に納得できる理屈を思いついて、勝手に納得してしまうのであった!
「……そういう訳だ。樺島は、その……まあ、バカだからな。特に何も考えていない。分かっただろ」
そして海斗がそう言うと、四郎は一つ舌打ちして、海斗の喉から氷の刃を離し、海斗の背中を軽く突き飛ばすようにして海斗を解放してくれた。なのでバカは今度こそ、『海斗ぉ!』と海斗に駆け寄って、海斗の手を取ってぴょこぴょこドスドス、跳ね回る。
「ったく……言っておくが、疑いが晴れた、だなんて思うなよ」
「ああ、分かってる。だがそれは、『そっちこそ』といったところだな」
……四郎と海斗はちょっと睨み合っている。バカは、『睨むなよぉ……仲良くしようよぉ……』と気が気じゃないのだが、これはバカにはできない戦いを海斗がやっている、ということなのだろうから、あまり強くも言えない。
ただ……。
「あー、樺島」
ちょいちょい、と海斗が『こっち来い』とばかりに手招きしてきたので、『ナイショ話だな!』と即座に理解したバカは、海斗の口がバカの耳に届くように身を屈めた。すると。
「……信じてくれてありがとう。いい判断だった」
……海斗が、そう言って笑ってくれたので……バカはいよいよ、嬉しくなってにっこにこの笑顔になるしかない!
バカは、『ああ、俺、海斗の相棒として相応しい行動ができたなあ!』と、幸せいっぱいなのであった!
「あー……ちょっといいですかぁ?」
そして、そんなバカ達、そして四郎達に、タヌキが声を掛ける。
「ヤエさんが戻ってきていないのが、心配なんですけれどぉ……」
……そう。まだ、ヤエは戻ってきていない。
『8』の部屋に、1人で入ったきりだ。
「……時間経過は、20分か。なら、まだ戻ってきていなくてもおかしくはない、とは思うけれどね」
「で、でも……」
デュオが冷静にそう言うも、五右衛門はそわそわと落ち着かなげである。
……そして、五右衛門はちらり、とタヌキの方を見た。タヌキは色々と挟まったので、『私が社長……』のしょぼしょぼからは一旦立ち直っている。
「……ねえ、タヌキちゃん」
「あっ、はい。なんでしょう!」
タヌキはきょとんとしていたが、そんなタヌキに、五右衛門は思いつめた表情で、持ちかけた。
「悪いんだけど……アタシと一緒に、『8』のアルカナルームに行ってくれない?」
「まあ、待って。それだったら、他にも方法はある」
タヌキと、タヌキを誘った五右衛門の間に割って入ったのは……デュオである。
「『8』をできるだけ多い人数で作ろうとするなら……『0、1、3、4』の組み合わせになる。或いは、五右衛門さんが入ることを前提としても、『0、1、2、5』ということになるかな」
デュオはそう説明すると、ちら、と海斗とバカのことを見た。
「……五右衛門さんが、四郎さんや海斗君を信用できるならその方がいいと思うよ。海斗君は頭が切れるから、頭脳戦をする必要があっても助けになるだろうし。それに、樺島君は……まあ、とにかくパワーが強い。海斗君か俺、それに樺島君が居れば、大抵の状況には対応できる」
バカは、『手伝う!』とやる気いっぱいの顔でアピールしておいた。海斗は、『まあ、僕にできることがあれば』と頷いて見せた。
「あ、そうですねえ……。あの、五右衛門さん。でしたら、私よりも、海斗さんとデュオさんを連れて行った方がいいかもです。私、タヌキボディですので、できることがかなり限られちゃうんですよぉ……」
更に、タヌキまでもがそう言い出したので……五右衛門は、ぐっ、と言葉に詰まった。
「……勿論、あなたが樺島君を信用できない、っていうことなら、樺島君は抜きでもいいとは思うよ。合理的じゃないな、とは思うけれどね」
更に続いたデュオの言葉には、若干の棘があった、かもしれない。バカには今一つ、分からなかったが。
「……分かったわ」
そして、五右衛門はため息を吐いて、言った。
「海斗とデュオ。付いてきて頂戴。……樺島君は、悪いけれど、留守番しててくれる?」
……どうやら、やっぱりバカは信用が無いようである。




