ゲームフェイズ1:『6』恋人2
「ある種、冒涜的な光景だ」
「ですねえ……。うーん、樺島さん、すごい!失楽園しそうにない!」
「楽園を追放されても、自力で歩いて戻ってきそうだよね。あははは……」
そうしてバカは、ひたすらリンゴをしゃくしゃく食べていた!
「ここのリンゴめっちゃうめえ!すげえ!すげえ!」
バカはリンゴの木の枝の上、もいでは食べ、もいでは食べて大喜びである。リンゴがおいしい!とてもおいしい!幸せ!
「海斗も食うか?」
「……じゃあ、一つ」
幸せはお裾分けするのがバカの流儀である。にっこにこの満面の笑みで、できるだけ美味しそうな、かつ綺麗なリンゴを探して、『よし!これ!ぜったいうまい!』と自信を持てるリンゴを取り、ほい、と海斗に投げた。
海斗は何とも言えない顔をしていたが、『まあ、ゲームの文面を見る限り、1人で食べきる分には問題無いんだろうしな……』と、リンゴを食べ始めた。食べてすぐ、『あ、おいしい』とばかりに表情が綻んだので、バカは『これ、うまいよなあ!』と満面の笑みである!
「デュオとタヌキも食うか!?」
「あー……俺はいいや」
「私も遠慮しておきます!タヌキボディではリンゴ1個食べきれるかちょっと不安なので!」
一方、デュオとタヌキは食べないことにしたらしい。バカは『ちょっともったいない……』と思いつつ、しかし、タヌキがリンゴ1個でお腹いっぱいいっぱいになってしまうのは確かだろうし、無理に勧めないことにした!
……そして、バカがリンゴの木を丸裸にしかねない勢いでもりもりとリンゴを食べていると。
「あー、はいはいはい。君達は寄ってこないでね。はいそこ、タヌキを誘惑しないで」
「ああーっ!お姉さん達、遂に脱ぎ始めちゃった!キャーッ!」
リンゴの木の下では、何やら、ちょっと大変なことになっていた!
バカも、『おねーちゃんが脱ぎ始めちゃった!』という大変さは理解できるので、タヌキと一緒に『キャーッ!』となった!
が、その最中、なんだかにこにこした女性が1人、するり、と海斗の横へやってきて……ぽそ、と、何か、海斗の耳元で囁いた。
「うううううるさいうるさいうるさい!近づくな!それ以上僕に!近付くな!」
途端、海斗は真っ赤になって大声を上げた。一方の女性は、ぱやっ、と笑うばかりである!大変だ!何が起きているのか、バカにはよく分からないが、とりあえず大変だ!
「樺島ぁ!そろそろ切り上げろ!こっちの身がもたない!」
「わ、わかった!」
バカはバカでも、『おねーちゃんが脱ぎ始めちゃった!』の大変さは分かるタイプのバカなので、手に持っていたリンゴを丸呑みするように片付けて、リンゴの木から降りるのだった!
……そうして。
「服は脱いじゃ駄目なんだぞ!分かったな!」
バカは、おねーちゃん達に説教していた。このデスゲーム、服を脱ぐ女が多すぎる!バカは、『わい……わい何とか罪!』と、憤った。
「カードは貰っていくからな!」
「まあ……1つどころか、10個ぐらい、リンゴ、食べてたもんね。樺島君……」
そしてバカは、おねーちゃんが持っていたカードを受け取って、『ちゃんと服着ろよ!』と去ることにした。
「あっ。ところでここのリンゴって、この部屋を出たらもう、効果とか関係ないんですかね?だったら私、1つお土産に持っていって食べたいです!半分くらいなら食べられますし!食べたい!」
「タヌキ……君も案外、図太いよね……」
「あー……樺島!幾つかリンゴを収穫してくれ!」
……が!部屋を出る前に、お土産の収穫が先であるらしい!バカは満面の笑みで『任せろ!』と親指を立てて見せた!
ということで。
「いやー、すごい部屋でしたねえ」
エレベーターの中、リンゴをしゃくしゃくと食べるタヌキと共にリンゴをしゃくしゃくやりながら、バカは『そうだなあ』と頷いた。
「ああ……とんでもない部屋だった……。二度と御免だ、あんな部屋」
海斗は疲れた様子でぐったりしているが、バカはリンゴで元気いっぱいなので海斗の気持ちが分からない。
「あっ、でもでも、さっきの部屋ってその人の好みのタイプの人が出てくるんですよね?だったら、相手の好きな人を知るのに丁度いいんじゃないですか!?」
「そんな活用してどうするんだ……。いいか?これはデスゲームだぞ?」
疲れからか、ちょっと嫌味っぽい海斗の言葉に、しかしタヌキは全く気にした様子もなく、こてん、と首を傾げた。
「いや、でもこのデスゲーム、脱出できなくなっちゃった人達はここで暮らすしかないじゃないですか?なら恋バナとかはマストでは?」
「……成程ね。あの部屋は、そういう用途か。あ、いや、脱出した人同士で、っていうんじゃなくて……ほら、『脱出できないから、悪魔の恋人と一緒に』っていう……」
「あっ、ああー……成程ー。脱出を諦めた人は、この部屋で美女に囲まれてのんべんだらりと過ごせますよ、っていうこと、ですかぁ……?参加者同士で仲良くなる、とかじゃなく……?」
「……逆に、その状況になった時、『どんな人が好みのタイプ?』なんて会話をすると思うのか?」
なんとも気の抜ける会話をしつつ、バカ達は大広間へと戻っていく。
……そんな中、バカはふと、『七香が今、あの部屋に入ったら、デュオにそっくりな人が出てくるのかなあ』と、ちょっと気になった。
さて。
そうして大広間に到着したバカ達は、そこで待っていた七香を見つけた。
「あっ!七香!戻ってきてたのか!リンゴ、食うか!?お土産!」
七香は、ちら、とこちらを見て、それから、ふい、と顔をそむけてしまった。バカとしてはちょっぴりショックである!
「あー……七香さん、七香さん。ちょっと、今はお喋りしたくないご気分です……?リンゴの気分でも、ないです……?」
「……ええ」
タヌキが七香の足元に近付いていくも、やはり七香はお喋りの気分ではないらしいし、リンゴの気分でもないらしい。
「そうですか……。じゃあ、お喋りはしないでおきますね……。リンゴは、食べたくなったら樺島さんに言ってください……」
そうしてタヌキは、すごすごふさふさ……と七香の足元をしっぽで撫でつつ戻ってきて……。
「……でもそれですと七香さんが退屈でしょうから」
そんなことを言って、ぴたり、と足を止めて……。
「私、歌いますね……!」
そんなことを言い出したのである!
「……結構よ」
「ではお聞きください。ドビュッシーの『喜びの島』です!」
「ま、待て。『喜びの島』?『喜びの島』だと?それ、歌うのに向く曲じゃないだろう……?」
……そしてタヌキは、七香の困惑も海斗の心配もさておいて……。
「てれーれれーれれーれれーれ、れれれれれれ、れれれれれれ」
歌い出した。
「れーれれーれれーれれーれれーれれーれれーれれーれ」
特に歌詞も何も無い曲を、タヌキ独唱にて、歌い出した。
「ふふふふふふ、ふふふふふふ、ふふふふふふ、ふふふふふふ……ぷはぁ!息が!息が続かない!」
……が、歌い出したものの、早々に挫折した。それはそうである。ドビュッシーの『喜びの島』は三連符続きである。基本的に息継ぎのタイミングは無い。そもそも歌う曲ではない。
「私がタヌキだから!肺活量が!足りない!私がタヌキだから!タヌキなばっかりに!」
「人間でもそうそう間に合わないと思うが……」
バカは、『俺だったら足りるかなあ……』と思ったのだが、残念ながらバカは曲を知らない。社歌ぐらいしか歌えるものが無い!
「やっぱり別の曲にします!」
「そもそも、歌わなくていいんじゃないか……?」
「いえ!それだと七香さんが退屈でしょうし!あと!私が!なんか!気まずいのでぇ!」
タヌキのよく分からないやる気が空回りしまくっている。タヌキは『ああん!気まずい!気まずいよぉ!』と叫びながら、床の上でごろんごろんしている。バカは、『大丈夫か!?俺も一緒にごろんごろんするか!?』と心配し、そして、『お前がごろごろしたら床が抉れるからやめておけ』と海斗に止められた。
「じゃあ、ハチャトゥリアンの『剣の舞』を!」
「それは止められるのを待っているのか……?さっき以上に歌う曲じゃないだろう、それ……」
「ぼんちゃ!ぼんちゃ!ぼんちゃ!ぼんちゃ!」
「冒頭のティンパニとスネアの部分を1人で表現しようとするのは無謀じゃないか?」
……と、タヌキが騒がしくやっていたところ。
「……はあ」
七香は、一つため息を吐いて……それから、タヌキを、よっこいしょ、と抱き上げた。
タヌキが、『わわわわわ!』とびっくりしている中、七香はタヌキを抱えたまま、個室へ入り……。
……個室のベッドに腰掛けて、膝の上にタヌキを乗っけて、タヌキを撫で始めたのであった!
「……七香さぁん。ちょっとは暇潰しにいいかんじですかぁ?」
「……そうね」
そうして七香がタヌキで暇潰しし始めたのを見て、バカと海斗、そして、ひっそりとデュオも……にっこりするのであった!
「あっ!皆もう居る!?ただいまー!」
「おー!むつぅ!ヤエと四郎のおっさんも!おかえりー!」
そうしている内に、むつのチームも戻ってきた。3人とも無事だったようだ。バカはにっこにこで、『お土産のリンゴ、食うか?』とリンゴを勧めた!
更に。
「あら、もしかして、アタシが最後ぉ……?」
五右衛門も戻ってきて……無事、全員が集合したのだが!
「いやあああああああ!五右衛門さん血まみれェーッ!」
「あ、ごめんなさいねぇー、ちょっと、『5』の部屋、色々あってぇー」
……五右衛門が、物騒な見た目で戻ってきた!バカもタヌキと一緒に『キャーッ!』となった!




