ゲームフェイズ1:『15』悪魔
「すげえ!すげえ!うわあー……」
バカは、目をキラキラと輝かせて宝石を見つめる。
宝石はそれら1つ1つが精緻にカッティングを施され、磨き上げられたものだ。バカはバカだが、このカッティングには素晴らしい技術が詰まっているのだ、ということは分かる。バカは宝石を通して、その向こうに居る宝石職に敬意を表する!
「うわーっ!すごい!すごいですよ!絵に描いたようなお宝!すごい!こんな絵に描いたようなお宝、初めて見ましたよ!」
タヌキもぴょんぴょこ、と飛び跳ねて興奮を露わにしている。確かに、『絵に描いたようなお宝』である。中々こんな光景は見ないだろう。
「……これが業物だということは、僕にも分かる」
海斗は、見事な短剣が飾ってあるのを見て、ほう、と小さく息を漏らしていた。バカは、『刃物の職人さんってのもすげえよなあ!』とにっこにこである!
だが。
「あ、でも結構怖いこと書いてあるわよォ……?」
五右衛門が『ほらぁ、これこれ』と示す先には、看板がある。
どれどれ、と、バカとタヌキもそちらへ向かって、全員で看板を覗き込むと……。
『全員が好きなだけ宝を持ち出してよい。最も荷物が軽かった者の荷物の重さを引いた分がそれぞれの取り分となる。ただし、最も荷物が軽かった者の次に荷物が軽かった愚か者の頭上には、その宝の重さの1000倍の重さの錘が降る。知を持たぬ者は、せめて無欲であれば悪魔に狙われない。』
……よく分からない文章がそこにはあった!
「か、海斗ぉ……これ、どういう意味だ……?」
「……待て。僕も考えてる」
バカはおろおろしながら看板の周りをぐるぐる回り、海斗は看板の正面でじっと考え込む。
タヌキは『どういうことなんでしょうかねえ……』と言いつつ首を傾げており、五右衛門はタヌキと一緒に悩み、そしてむつは……。
「ふーん。つまり、全員何も持たずに先へ進めば全員助かる、ってことなんじゃないかなあ」
むつはそう言って、ふんふん、と頷いていた。……かしこい!
「えええ……折角色々あるのに、なんだか勿体ない気がしますよ!」
一方、タヌキは強欲である。さもしい!
「とはいえ、命が一番じゃない……?」
「それはそうですが!それはそうですが……」
むつの言葉に、タヌキはもじもじしながら、ちょっぴり身を縮めて答えた。
「……もしかして、この中にはお金が欲しい人も、居るのでは……?」
「……そぉねぇ。アタシ、できるんだったらお金は欲しいわよ?」
すると、五右衛門がそう、声を上げる。
「これ、金のインゴットじゃない?これ1つで百万くらいにはなるでしょうし……」
「ひゃくまん……」
バカは大変びっくりした。バカはバカなので、金のお値段は知らない!ただ、『金っていうのはなんか、高価な金属なのだ!』ということしか知らない!
「……なんだかんだ言って、お金って大事でしょぉ?」
「うん……」
バカはちょっぴりしょんぼりしながら、こくん、と頷いた。
バカはバカだが、ちょっぴりは知っているのだ。貧しいということは、やっぱりしんどいことなのだ、と……。
「あのぉー……全員が同じ重さのお宝を持って出たら、駄目……なんですかね?」
そうしていたら、タヌキがそんな提案をしてきた!やっぱりさもしい!
「……難しいだろうな。ここには天秤も無い。重さを正確に量る手段は無いが、1gでも誤差があったら、それは1㎏の錘になる、ということだろうから……まあ、降ってくる高さによっては、死ぬことになる」
誤差1g。それは中々に厳しい話だ。バカにはそれがよく分かる。
……優秀な先輩達ならきっと、手で持っただけで正確な重さを把握することができる。だが、バカはまだ、その域には到底及ばない。『俺も重さ量るのやっとけばよかった!』と嘆いても、遅い!
バカは、『ならやっぱり、誰も何も持たずに行くしかねえよなあ……』と、しょんぼりして……。
「だが、それは樺島が居ない時の話だ」
……そこで海斗がそう言ったので、『おやっ!』と元気になった。
そして。
「樺島。お前、仮に高さ10mから降ってきたとして……何㎏のものまでなら、支えられる?勿論、ギリギリは狙うな。『余裕で』できるラインを答えてくれ」
海斗がそう聞いてくれたことを心底嬉しく思いながら、バカは元気に、答えるのであった!
「100キロぉ!」
「よし、分かった。皆。好きなだけ宝とやらを集めてくれ。僕は何も持たないで出る。そしてこのバカは50gくらいまでに抑えて何か持って出る。それでいいはずだ。ああ、くれぐれも、樺島よりも軽い荷物になるのはやめてくれ」
海斗がそう宣言したので、全員がそれぞれ、わっ、と動き出した。
「むつちゃーん!これ、似合うんじゃない?どーお?」
「わぁー……すごい、これ、シルク?肌ざわりいいねえ……」
五右衛門とむつが、何やらシルクのストールのようなものを巻き始めたり。
「金って今、いくらなんでしたっけ……?1グラム20000円ぐらい……?」
「いや、今はもう少し高かった気がするが……」
タヌキと海斗が真剣に何やら話していたり。
……そんな様子を見守りつつ、バカはバカで、『ええと、50gぐらいにしなきゃいけないらしいから、この石1つにしよっと……』と、綺麗な石を手に取ってにこにこした!
……そうして。
「一応、確認だ。……全員、荷物を出してくれ」
海斗がそう言うと、全員がその場に、宝物の山をごそっと置いた。
……五右衛門はとりあえずいっぱい金のインゴットを持っていくことにしたらしい。重そうである。
タヌキは、宝石や指輪やネックレスなどを風呂敷包みにして背中に括りつけてもらっており、更に、頭にはぴかぴかの冠を被っている!王者の風格である!が、タヌキ!
そしてむつは、『私はあんまりこういうの似合わないと思うんだけど……』と苦笑しつつ、綺麗なティアラを頭に載せている。あと、『ヤエちゃんと七香さんにお土産!』と、ブローチや指輪やネックレスなどのうち、小ぶりなものを選んで持ってきたようだ。
そして。
「僕は何も持っていない。そして樺島は……樺島。その石、何だ?」
「わかんねえ!綺麗だから俺、これにする!」
海斗は手ぶらで、そして、バカはというと、綺麗な石を1つ、握りしめている!
……バカが握りしめていた石を、海斗はちょっと見て……そして、『ダイヤモンドか……!?』と目を丸くした。この石はダイヤモンドらしい。なんかかっこいいのでバカは余計にこの石を気に入った!
「……まあ、これなら50gを切っているだろうな。よし、樺島。準備はいいか?」
「おう!任せろ!なんか、アレだろ?100㎏ぐらいの重いのが降ってくるんだろ?」
「恐らくは、な。いけそうか」
「よゆー!」
ということで、確認も終わったバカ達は元気に次の部屋へと向かう。バカは、るんたった、るんたった、と非常にご機嫌である。自分の筋肉が役に立つのはうれしいことなので!
「次は……これに入るのか」
続いて、次の部屋の中にはカードが入ったケースがあり、そのケースを取り囲むように、細長い個室が10個並んでいた。
それぞれ透明だ。電話ボックスくらいの狭さだが、高さについては非常に高い。天井まで続いている。
「あっ、書いてありますねえ。『1人1つの檻へ入れ』ですって!これ、檻らしいですよ!嫌ですね!」
「あー……なーるほどね。アタシ、この後どういうことが起きるのか、大体分かっちゃったわァー……」
バカは全く何も分かっていないが、海斗が『……まあ、樺島なら大丈夫だろう。上に気を付けて』と言って個室に入っていったので、バカもお隣の個室に入った。
……そうして、タヌキと五右衛門とむつも、それぞれおっかなびっくり、それぞれに個室に入る。
すると、がちゃり、と個室にロックが掛かり……そして。
「んっ!」
バカの頭上から何かが落ちてくる。
……それは、でっかい綺麗な石であった!
「ふんぬっ!」
バカはごく当たり前に、落ちてきた石を受け止めた。50㎏ぐらいあったかもしれないが、まあ、これくらいは何ということもない。バカ達は、これくらいの重さのものなら平気で投げ下ろすし、キャッチしているのだから。
「……え?これで終わり?」
バカが更に『さあ来い!』と身構えていたところ、ぷしゅ、と音がして、個室のロックが外れた。
……バカが尚も身構えていると、海斗が隣の個室を出て、バカの個室のドアをガチャリと開けた。
「おいバカ。終わったんだぞ。出てこい」
「えっ!?終わったの!?重いの降ってくるんじゃなかったのぉ!?」
「それが『重いの』だ!重いだろう!どういう感覚なんだお前のそれは!」
「ええええええええ!?これは軽いよぉ!重くないってぇ!」
バカは『なんか拍子抜けしたぁ!』と嘆き、海斗は頭痛を堪えるような顔である。そんな2人を見て、タヌキは『樺島さんって……すごい!』と、畏怖の表情を浮かべていた!




