ゲームフェイズ1:大広間1
「まずいな。ええと、前回の俺は多分、このタイミングで七香に挨拶していたんだよね?」
「……その可能性が高い。七香さんの個室のドアが2回開いていたのは、デュオが入って出た、ということだろうから……ん?だとすると、前回の君はどうやって七香さんの場所を知ったんだ?」
「ああ、それは事前に。……『前回』デスゲーム優勝者だからね、俺は。それくらいの融通は利かせてもらえる」
デュオが焦り、海斗が何やら考え、デュオが自嘲気味に笑って答える。……頭のいい人達は、すごい。バカは、前回を経験しているにもかかわらず、『ゲーム開始前にデュオが七香に会いに行っていたのだ!』というところにさえ推理が及んでいない!バカだから!
「ああくそ、今回のドアの開閉、見ておくのを忘れたな」
が、海斗がそう言って嘆くのを見て、バカは胸を張った!
「あっ!それなら俺、見てたぞ!今回も前回と一緒だったぞ!でも、四郎のおっさんのところのドアが開いてる時間が長かった!」
「……よく見てたな」
そう!バカはバカだが、自分の得意分野をよく熟知したバカである!
考えるのは苦手だが、見ておくだけとか、そういうのは得意なのだ!
「まあ、そういうことなら前回同様、ということか……?」
海斗がそう言って首を傾げる横で、バカは『ということは、もしかして、また孔雀が居ない……?』と首を傾げた。
……また居なかったらどうしよう、とも思う。だが、どのみち居ても居なくても、どうしようもないバカなのである……。
「さて、残り5分だけれど、急いで作戦を決めようか」
そうして、バカが削りに削ってしまった時間で、3人で最後にこんなことを決めることになる。
「君達の目標は、『誰も死なない』こと、そして『駒井燕の救出』なんだったね。なら、俺と七香が何もしなければ、死者は出ないんじゃないかな。俺が七香の方は何とかする」
「じゃあ、七香さんはデュオに任せるとして……後は、積極的に殺害を宣言しているのは、四郎さん、か。まあ、彼の場合は『悪魔殺し』が目的なわけだから、少し事情が違うが……」
「悪魔殺し?そうか、となると、一応は協力できる相手ではあるんじゃないかな」
デュオと海斗が喋っているのを聞いて、バカは『すげえ!』と目を輝かせた。やはり頭のいい人が2人も集まってしまうと、すごいのだ。あっという間に作戦っぽいのができてしまった!
「悪魔殺しを目指す相手を味方に付けるなら、悪魔の正体は知っておきたいんだが……うーん、樺島。何か目星はついてるのか?」
「俺、最初はデュオが悪魔かと思ってたんだよぉ……。タヌキの体、持ってっちゃったって聞いてたからぁ……」
一方のバカは、こういう時にあんまり役に立てない。この中で一番情報を持っているのはこのバカであるのに!
「生憎、俺は悪魔じゃないし、七香も悪魔じゃないな。彼女は人間だ。入れ替わっている、っていうことも、まあ、前回の様子を聞く限り、無いだろうし……ははは……」
「そして、僕と樺島も当然違う。タヌキも、『魂をタヌキに入れられてしまう悪魔』が居るとは思い難いしな……。四郎さんは、悪魔殺しを目指している以上は悪魔ではない、のだろうし……」
デュオと海斗は指折り数えたり、何か考えたりしつつ、どんどんと推理していく。バカは『こういうの、かっこいいよなあ……』と憧れるばかりである。
「……となると、五右衛門さんかむつさんかヤエさんか、孔雀、ということになる、か……?」
「でも、前回は『孔雀』が居なかったんだよね?それでも『悪魔が1人居る』っていう文面は変わらなかったんだったら、孔雀は悪魔じゃない、っていうことにならない?」
「いや、まあ、それについては『誰も脱落していなくても脱落者のお知らせが入るアナウンス』を前回デスゲームで聞いているから……」
「えっ……その、前回デスゲーム、そんなにひどいことになったのか……」
バカは、ちょっぴり前回デスゲームを思い出して、ふへへ、と笑った。あの時は木星さんが事前にアナウンスを録音しておいてから流していたから、色々とおかしなことになってしまったのだったが……。
「まあ、今回もその可能性はあるから……その、孔雀が悪魔で、そして、悪魔が早々に悪魔殺しされてしまった、という可能性も、無いわけでは、ない……とは、思う……うーん、自分で言っていても『そんなことあるか?』という気持ちにはなるが……」
「そうだね。タヌキが色々と嘘を吐いている可能性もあるし、四郎さんが『悪魔殺し』を名乗る悪魔である可能性もある。まあ、可能性は捨てないでおこう」
「……となると、現状、何か新たな情報を引き出せそうで、かつ、悪魔の正体について何か知っていそうなのは……タヌキ、か……?」
「ああ、俺もそれでいいと思うよ。少なくとも、俺はタヌキと一度、話してみるべきだろうし。……その、七香対策としてもね。あはは……」
何はともあれ、作戦は決まったようだ。
今回のバカ達は、タヌキをロックオン!そういうことなのである!
……が、それだけでは終わらない。
「ああそうだ。樺島。もう、この際だ。お前の腕輪、最初から破壊しておいてくれ」
「へ?」
「その方が、タヌキと組みやすいし、もし『孔雀』が居なかった場合にもお前が疑われにくい」
……どうやら、海斗には海斗の考えがあるらしい。なのでバカは、『バキィ!』と、腕輪を粉砕した!
……そうして。
バカと海斗は海斗の個室に入ったまま。デュオはデュオの個室に戻って、ゲーム開始を迎えた。
エレベーターが下降していき……。
そこに集まってきた人々を確認して、バカは『あああ……』としょんぼりした。
「……全部で『9人』か。まあ……うん……」
海斗とバカは、顔を見合わせて『どうやらまた、こっちらしい』と頷き合う。
また、孔雀は居ないようだ。
前回同様、バカ達は自己紹介をした。
孔雀は居ないので、9人分。バカと海斗の関係もしっかり説明して、そして……。
「ところで、樺島には見ての通り、腕輪が無い。つまりこいつの数字は『0』だ。よろしく」
……海斗は、バカのことをこう、説明したのである!
「『0』だと?」
そこへすかさず、四郎が訝しんできた。バカは『えっ!?怪しまれちゃうのぉ!?』と内心でびっくりしつつ、そのびっくりはちょっと顔に出すだけにしておいた。
「そいつは……おかしくねえか?」
四郎の追求は終わらない。じろ、とバカを睨みつつ、海斗のことも睨んでいる。
「つまり1人だけ、何の制約も無い奴が居る、ってことだ。……おかしいだろうが」
「そ、そうかぁ……?」
バカが『これってそんなに疑われるほどおかしいことなのかぁ!?』とびっくりしている。海斗の作戦なのだから、きっとこれは正しいことなのだが……。
「……しかし、『0』が居ることについては、『0』のアルカナルームが存在するのだからおかしくはないと思う。むしろ、樺島が居ないなら、この『0』のアルカナルームに入る手段は無いことになるからな」
一方、海斗は弁が立つ。スラスラとそれらしいことを言ってのけるものだから、バカは『ほえええ』と感心しきりであった。
「まあ……確かに、『腕輪が無い』というのは不可思議な状況ではあるから、疑われるのは無理もない。だが、こちらは『悪魔ではない』と言わせてもらおう」
海斗は堂々と、ちょっと偉そうにも見える態度でそう、四郎に言い切った。
……海斗はちょっと、演じているのだ。堂々としていて、それ故にちょっぴり怪しく見えるように。できることなら、四郎にも情報を出してもらいたいから。だから、わざと四郎に興味を持たせるような素振りをしているのだ!
……なのでバカはバカで、『そうだそうだ!』と言っておいた。騒がしくするのは得意である。怪しそうかと言われると、そうでもないが!
「……ああ、そうかよ」
結局、四郎は一つ舌打ちをして引き下がることにしたらしい。海斗はそれを見て悠々と笑ってみせている。
……が、海斗はものすごく緊張しているはずだ。海斗はそんなに肝っ玉の大きい方じゃないのだ。だが……それでもちょっぴり無理をして、こうして振る舞ってみせることができるのが、海斗のすごいところだと、バカはそう思う。
「さて……じゃあ、早速で悪いけれどチーム分けしようか」
さて。そうしてデュオが動き始める。
「そうだな……できるだけ、数が大きい人と組みたいんだけれど。七香さん、ヤエさん、俺と組まない?」
七香は『構いませんよ』とあっさり了承した。そしてヤエも、『あ、はい……よろしくお願いします』と、了承したことにより、このチームは『17』のアルカナルームに入ることが決定した。
ここまでは、打ち合わせ通りだ。一旦、デュオは七香への説明タイムが必要なのだ。だからまずは、タヌキではなく、七香と組む。ついでに、他のメンバーが下手に入り込むと面倒なので……数が大きいヤエ1人を入れることで、五右衛門以上の数の人が入れないようにしてしまう、ということらしい。
バカにはよく分からないが、ひとまず、デュオと七香とヤエのチームができたのでこれでヨシ!
「……どうする?残り全員の数を足しても『19』だ。いっそ全員同じチームに、というのもアリだと思う」
続いて、海斗は海斗で動く。バカは『ええと、俺と海斗とタヌキと四郎のおっさんと、五右衛門と、あとむつ……』と一生懸命足し算して、『19!』と叫んだ。遅いが誠意はたっぷりである。
「全員一緒、かぁ……。うん、私はそれでいいよ」
そして、真っ先にOKを出してくれたのはむつであった。バカは『よろしく!よろしく!』と握手した。むつには苦笑されつつも『よろしくね!』と元気な挨拶を貰えたので、バカはますます元気いっぱいである。
「そうねぇ……なら、アタシもご一緒しようかしら」
「では私も!タヌキもよろしくお願いします!」
更に、五右衛門も一緒に来てくれることになったし、タヌキも来てくれることになった!バカはそれぞれにまた握手である!
「四郎のおっさんは!?」
そして、バカが期待を込めて四郎を見つめると……。
「……一旦、1人で『4』に入る」
……なんと!フられてしまった!
「なんでぇええ!?」
折角、全員一緒になれると思ったのに!思ったのに!バカは大いに嘆いた!
「怪しすぎるだろうが。信用できねえ奴と組む趣味はねえ」
が、四郎の言うことは尤もである。バカは、自分が怪しいということは重々承知の上なので、『はい……』と頷いて、しょんぼりとうなだれた。
「……まあ、どのみち、1人で入れる部屋は1つだけだ。僕らのチームか、はたまたデュオのチームか、どちらか、四郎さんとタイミングのあった方が四郎さんと組みなおすことになりそうだな。仕方ない。そちらはそちらで、誰が信用できそうか見定めてくれればそれでいいさ」
海斗も『やれやれ』という顔ではあるが、これ以上四郎を無理に引き留めることはしないらしい。
……まあ、こういうルールのゲームなので、また四郎と組むこともあるだろう。バカは、しょんぼりしながらもひとまず、この場は収めておくことにした……。
「ええと……じゃあ、改めて確認だ。俺と七香さんとヤエさんが、『17』の部屋に入る。樺島君、海斗君、タヌキさん、五右衛門さん、むつさんが『15』の部屋に入る。そして四郎さんは1人で『4』だね?」
「ああ、それでいい」
……こうして、チーム分けが終わり、それぞれのチームがそれぞれに個室へ向かっていく。
四郎と離れてしまったのはちょっと残念だが……いいのだ。今回の、バカ達の目的は、タヌキ。タヌキをロックオンしているバカは、精一杯、タヌキを観察し、タヌキと話して、このデスゲームの攻略に臨むのである!
「じゃあ、また無事にここで会おう」
デュオがそう言うのに頷いて、バカ達は、エレベーターを起動させる。
……そして、『15』の部屋へと向かい……。
「……うわあー!すげえー!綺麗だぁ!」
……『15』の部屋の中には、なんと……色とりどりの宝石や金銀細工といった宝物が、沢山置いてあったのである!




