開始前:ケテルの部屋1
うっかり、昨日(1月14日)に執筆途中の『ゲームフェイズ2:ダァトの部屋』を投稿しており、本日完成版の『ゲームフェイズ2:ダァトの部屋』を投稿していたようです。
ということで、昨日投稿分を完成版に差し替え、本日更新分は正しく3章に入ったものに変更しました。
ということで、前話を既にお読みの方に置かれましては、一旦前話をお読み直し頂くことを推奨します。
また、本話を1月15日の20時20分から20時42分までの間に読んでしまった方は本話をもう一度お読みください。
……そうして。
「……分かった、ような、分からないような……あー……えーと、君は本当に、宇佐美光、なのか?」
「……まあ、そうだね。そういう君は、海斗、か……。すごいな、人って、こんなに変わるものなのか……いや、俺も人のことは言えないな……」
なんとか、海斗とデュオに諸々の説明が終わった!バカは『俺、やったよぉ!』と、誇らしく胸を張る。バカなりに頑張ったのだ!
「ええと……それで、君達は、つぐみの弟を助けに、ここへ来た、と」
「おう!そうなんだ!」
デュオの確認に、バカは元気よく答えた。今回こそ!今回こそ、『駒井燕』を助けるのだ!そのためにもまず、燕に会いたいのだが……。
「あ、それから、デュオ。お前に、『俺が人を殺すのを止めてくれ』って言われた!」
「へ?」
バカは、『そうだ!忘れない内に!』と慌てて声に出す。声に出しておけば、自分以外の人が覚えていてくれるので、バカはさっさと声に出しておくことを学んだ。
電話対応では受話器を置いた瞬間に『……あれ!?なんだったっけ!?』となりがちなバカは、周りの人から『3時からって言われてたぞ』『お前、復唱してたぞ』と教えてもらって助かっている。バカライフハック!
「だから駄目だぞ、人殺しちゃ!」
「え、あ、うん……まあ、君達と組むなら、そういうことになるのか。参ったな」
デュオは呆れたような困ったような顔をしていたが、はあ、とため息を吐いて『分かったよ』と応えてくれた。これでヨシ!
「……それで、『前回』のデュオは、一体誰を殺したんだ?」
「へ?」
……だが。
「……わかんねえ!」
そういう質問には答えられないバカなのであった!
……ということで、こちらについても頭のいい2人に全部投げることにした。バカにできるのは、情報を齎すことだけだ。
前回説明した前々回のことは、大分上手に説明できるようになった、と思われる。そして、『こういう風に説明したらわかりやすい!』ということを学習したバカは、まあ、前回よりは、説明が上達した。
おかげでなんとか、残り時間15分を切った頃には説明が終わり……そして。
「成程。話を聞く限り、実際に殺していたのは七香さんの方だったらしいな」
「えっ!?そうなの!?」
「だろうね。俺もそう思うよ」
……頭のいい人達が、そう、結論を出してくれた!すごい!
百聞は一見に如かずと言うが、バカが一見して分からなかったことを、バカの説明百個分で理解できるというのはすさまじい技能なのである!バカは心から、海斗とデュオのことを尊敬する!
「まあ、彼女の異能は強力、ということなんだろうね。生憎、俺の異能は攻撃にはほとんど使えないから……」
「天城の爺さんは無敵時間でカニの鋏ぶっ壊してたぞ!」
「……成程ね、そういう使い方はできるか。でも結構命知らずな使い方だよな、それ」
デュオは『俺、将来そうなるのか……』と、何とも言えない顔をしている。だが、そうなのだ。実際、そうなのだ。天城は……人殺すことを躊躇わず、自分の命を擲ってしまえる人なのだ……。
「まあ、前回のデュオの殺人については、七香さんとデュオの共謀、ということでいいんじゃないか?」
そうして、海斗がそう結論を出したので、バカは『成程!』と納得した。
……何せ、デュオの異能は『無敵時間』だ。陽や天城と同じで……つまり、攻撃には使えない異能。その異能しか持っていないデュオが誰かを殺そうと思ったら、ナイフなどの凶器を調達してくるか、はたまた、七香などの異能だけで人を殺せるような人と組むしかないのである。
「問題は、死んでいたはずのタヌキがどうやってエレベーターのボタンを押したのか、というところだな。……死ぬ間際にタヌキ自身がエレベーターのボタンを押した、ということか、或いは……」
ところが、海斗は頭がいいので、まだ引っかかる部分があるらしい。何やら考え込んでいる。
考え込んでいる、のだが……。
「……七香の異能でエレベーターの外からエレベーターのボタンを押すことが可能なんじゃないか?」
……なんと!デュオ本人が、そんなことを言い出したのである!
「ええっ!?それ、ナイショにしなきゃいけない奴じゃないのか!?」
「え?うん、別に……いや、だって、俺達、協力するんだよね?」
「うん」
「なら言っておいた方がいいだろうと思ったんだけれど……」
バカは慄き、デュオは『逆に言わない理由、ある……?』とばかり、首を傾げている。
「……前回の陽は、『アドバンテージが無くなっちゃうから、どうやって殺したのかは言わない』って言ってたぞ?いいのか?大丈夫か?」
「あ、前回の俺、そんなかんじだったんだ……」
デュオは『参ったな』というように頭を掻き……それから。
「……まあ、アドバンテージ、は、無くなるかもしれないけれどね。だからといって、言わないままで居て、君達が見落としちゃいけないことを見落とす方が問題だろうし」
「そ、そっかぁ……」
デュオは、前回よりも話しやすい。バカはそれをちょっと不思議に思いつつ、首を傾げて……それを見たデュオが、苦笑した。
「……それに、俺は『まだ』人を殺していないからね。君達とは全面的に協力し合える関係だと思ってる。それに加えて、後は、俺は既に君達に恩があるから」
「へ?」
「小百合……ああ、ええと、七香の目的だ。それを確認してもらったのは、よかった。ファインプレーだよ、樺島君」
「ほんとぉ!?」
バカは褒められたので嬉しい。また……前回はバカ達を警戒していたデュオが、今はこうして警戒を解いてくれているのも嬉しい。
……『間に合った』んだなあ、と、思うから余計に嬉しい。
「さて……そうなると、どうしようかな」
が、問題は山積みである。デュオが悩み始めたので、バカも一緒に悩んでみることにする。何に悩むのかは後から考える。
「七香がそこまで、その……俺のことを想ってくれている、となると……厄介、だな」
「……そうだな」
デュオと海斗が何とも言えない顔をしているのを見て、バカも『そうだな!』とよく分からないながらも頷いておく。
「……七香がこのままとなると、もし樺島君が全てを上手くやって、誰も死なずに樺島君か海斗君かが脱出することになったとして……その時、七香が全部ぶち壊しに来ると思う」
「えええええええ!?」
が、よく分からず頷いている場合ではない。なんだかとんでもないことをデュオが言い出したのだから!
「彼女に『やり直し』のことを教えて諦めさせる、という手はあると思う。だが……そうしたら、今度は樺島君を殺しに来るんじゃないか……?」
「ええええええ!?なんでェ!?」
「そりゃ、やり直されちゃったら、俺の心を永遠に奪えないから。……自分で言っていて、なんだか妙な気分になってくるね、これ……」
デュオが説明してくれるのを聞きながら、バカは『七香をどうにかしねえと、永遠に任務達成できねえ!』というところだけは理解した。女心の機微は全く理解できていない!
……だが、バカにも分かるものはある。
あの時、『17』のアルカナルームの中で見た、七香の表情。
『恋をしてみたかった』と言った七香は、真剣だった。
……そのために、七香はデスゲームに参加した。それくらい、七香にとっては、これが大事なことだったのだ。
バカには『恋』など、よく分からない。なんだか聞いていてむずむずそわそわしてしまうなあ、というくらいにしか、分からない。
分からないが……分からないからといって、馬鹿にしたり、軽んじたりはしたくないな、と、思う。
七香にとっては大事なこと。バカにとっては分からないこと。……逆のことだって沢山あるだろう。それがどんなに大切で、どんなに辛くて、どんなに愛おしいかなど、その人本人にしか分からないのだ。
だから、バカはただ……『七香も幸せになれればいいのになあ』と、祈るように思うのだ。
「……ところで、陽……いや、デュオ、に聞いておきたいんだが」
海斗はふと、『聞いていいんだろうか』というような顔をしながら、ちら、とデュオを見て……言った。
「七香さんが惚れているのは、その体の持ち主か?それとも、『宇佐美光』自身?」
……すると、デュオもなんだか『答えてもいいんだろうか』というような顔をしながら、答える。
「……どちらでもあり、どちらでもない、んじゃないかな。七香は、俺がタヌキの体を奪っている奴だ、っていうことを知らない訳だし……過去にデスゲームに何度も参加している、っていうことも、知らないから」
「成程。『騙しているから、本当の宇佐美光を好いているとは言えない』と。そういうことか……」
成程、バカにはよく分からない話である。困った。
「……だったら、七香にちゃんと全部話して、それで謝ったらどうだ?タヌキにも体、返してやったらいいんじゃないか?」
なので、バカは馬鹿正直な案を出すことしかできない。女心の機微は、バカには難しすぎるのである!
「……それはアリだなあ」
が、何故か、デュオにはそれでなんとなく納得されてしまった!海斗も『それが一番いいか……』などと言っている!バカは、『本当にぃ!?』とびっくりした!
「俺がこういう人間だって分かったら、七香も幻滅してくれるだろうし……その埋め合わせは、必要だとは思うけれどね」
……どうやら、デュオは『七香に嫌われることで七香に願いを諦めてもらう』という作戦に出るらしい。バカはバカなりにそう理解した!
と、同時に、『でも、デュオもいいところいっぱいあるしなあ……悪いところがあっても、すぐ嫌いにならないんじゃないかなあ……』とも、思ったのだった!
更に。
「だが……うーん、タヌキはタヌキで、今体を返されても困る、んじゃないかと思うよ」
デュオがそう言うので、バカも海斗も首を傾げたのだが……。
「だってこの体、癌に侵されてるからね」
……そんなことを聞いてしまって、バカも海斗も、ぎょっとするしかない!
「がん」
「うん。……あ、タヌキはそれ、言ってなかったのか」
バカは『聞いてないよぉ……』と呟きつつ、ただ、ショックを受けていた。
……バカはバカだが、『がん』が、死んでしまう病気だということくらいは知っているのだ。
「それ……その、デュオ、君は大丈夫なのか?」
「うーん……まあ、結構、痛むよ。ある程度は、耐えられるけれど。でももうじき、モルヒネ無しじゃやってられなくなるだろうね」
バカは『もる……?』と首を傾げたが、海斗は何のことか分かったらしい。『そうか』とだけ言って、沈鬱な顔で俯いた。
「……タヌキは、自分の病気を治すために、デスゲームに参加したのかもね」
デュオはそう言って、ため息を吐いた。
「それで、悪魔へのお願いの仕方を間違えた、っていう訳だ。多分、『病の無い体をください!』とか言ったんじゃないかな……」
「……成程。そうすると、悪魔は『じゃあ病の無いタヌキの体に魂を入れてやる』となるのか」
「そういうこと。悪魔っていうのは本当に『悪魔的』だよ。悪魔にとってより面白い方にできるだけ捻じ曲げて願い事を叶えるんだ。……俺も、『別人の体をバックアップ用に1つくれ』と言って、この体を与えられてる。『健康な体』っていう条件を付けるべきだった」
デュオは、はあ、とため息を吐いた。
「……そもそも、本当ならあの時、つぐみを生き返らせろと言うんじゃなくて、つぐみの魂を寄越せと言うべきだったんだ。それをあの場でしなかったから……」
……バカは、悪魔に対して、またちょっぴり腹が立ってきた。いじわるするんじゃねえ!と言ってやりたい気分である!
だが、悪魔というものはそういうもの、なのだろう。天使が『いじわるしない!』という生き物ならば、悪魔は『できる限りの意地悪をしよう!』という生き物なのだ。そういうものだから、しょうがない、のである……。
「……デュオぉ。俺達、一緒にがんばって、たま、取り戻そうなぁ……」
「……ああ。そうしてくれると嬉しいよ」
バカがデュオの背をぽふぽふと叩くと、デュオはちょっと嬉しそうに、笑った。
「君達に出会えたんだから、俺は今回のデスゲームに参加した甲斐があったな」
……と、やっていると。
「……しまった。残り5分だ」
海斗が愕然として、呟く。
……そう!バカの説明で大分時間を食ったせいで、時間が……時間が、足りないのである!




