ゲームフェイズ2:『4』皇帝
結局、部屋の中を色々と探してみたのだが、五右衛門に繋がるようなものは何も見つからなかった。
強いて言うならば……部屋の中、柱に刻まれた切り傷のようなものや、床の血だまり、そしてそこに散らばった細かな肉片や、服の一部だったと思しき布片などはあるが、それだけである。
「大アルカナの『5』は、『教皇』なんだけれどね。……まあ、『法を遵守せよ』はそれにぴったりだ」
「ほえー」
デュオは何やら、詳しい。バカは、『これ、次回からデュオが最初から居てくれるから、めっちゃ楽なんじゃねえか……?』と気づいた。気づくのが、遅い!
「意味深ではあるけれどね。まあ……俺がここに入ったら、『罰』を与えられかねない、かな」
が、デュオが何やら、そんなことを言って苦笑するものだから、バカはちょっと気まずい。
「俺は、もう人を殺しているからね」
「……デスゲームの外でも?」
「……それはまだだけど」
「そっか。なら、うん……」
バカは、ちょっと頷いた。
……デスゲームの中でのあれこれなら、いつか、バカが巡り巡って解体しにいけるかもしれないので、いい。バカは『仕事、がんばるぞ!』と決意を新たにした!
「まあ、『法を遵守せよ』『法に背いた者には罰を』ということなら……デュオがここに入ると、『罰を』下される、ということかもしれないな」
海斗はバカよりも割り切るのが上手なので、そう言って頷いている。……だが。
「……僕にも軽微な罰はありそうだ」
「海斗、何かやったことあるのぉ!?」
海斗の言葉に、バカは『ええええええ!?』と慄いた!だって、海斗は人なんか殺したことがないだろうに!
「道交法を破ったことならある。……自転車右側通行だ」
「あ、そ、そっかぁ……」
バカは、海斗の言葉を聞いて、反省した。
「……俺も、赤信号渡っちゃったこと、ある……」
「……そうだな。僕もやったことがあったかもしれない」
バカと海斗が『罰……』とちょっぴり縮こまっているのを、デュオは『君達、仲いいね……』と、生暖かい目で見ていた!
「しかし……まあ、『法を守らなかった者が罰せられる』ということなら、恐らくは、この部屋の『教皇』自身が罰せられた、ということにならないか?」
「だろうね。金刺繍の服、となると、まあ、地位の高い人物の服としてありがちだし」
そうして、海斗とデュオは、2人で頭のいいかんじの考察を始めた。こうなるとバカは何も分からないので、『ほげえ』と待機するしかない。
「……血が出ている、ということは、刃物で切り付けられた、というかんじかな」
「ギロチン、とかではなさそう、だな……?衣類や肉が千切れ飛ぶくらいには何度も、ということだろうし……見ていて気分がいいものじゃ、ないな……」
デュオと海斗の会話は分からない。分からないのだが……バカは、『そういえば、前回は五右衛門が、なんか戦った、って言ってた気がする……?』と首を傾げた。
確か、『教皇殺してきたわよー!』だったと思う。『そんなにノリノリで言うことかぁ!?』と思ったし、『教皇、成仏しろよ……』とも思ったのだが……もしかしたら、今回もそれなのかもしれない。
……となると、この惨状は、五右衛門がやった、ということなのだろうか。
バカはなんだか不安になりつつ、また『成仏しろよ……』と、恐らく教皇のものだったのであろう血だまりに向けて、手を合わせるのだった。
それから、バカ達は部屋の探索を終えた。
……さっきはタヌキの死体とエレベーターがあった反対側の入り口だが、今回はそこにも、何も無かったのである。
「……ということで、一旦引き返そうか。次は『4』を確認しよう。次は『9』だ」
ならば仕方がない。何も無いところを探しても何も無いので、バカ達は、むつとヤエを待たせていたエレベーター前へと戻る。
「あ、お帰りなさい……五右衛門さんは?」
「見つからなかった。……彼のものじゃなさそうな血だまりや、彼のものじゃなさそうな衣類の切れ端はあったんだけれどね。まあ、恐らくはここで戦闘があったんだろう、という程度しか分からなかったな」
「そっか……」
むつとヤエは、顔を見合わせて、しゅん、とする。……五右衛門が心配なのだろう。バカもそうだ。なのでバカも一緒に、しゅん、とした。
「そういう訳で、次は『4』を探したい。そこに四郎さんが居たら、五右衛門さんはいよいよ行方不明で、危険だ。そうじゃなかったら……2人で『9』に居ると考えた方がいいだろうから」
「うん。分かった。私も一緒に行く」
「わ、私も……」
……そうして、バカ達は次のアルカナルームに向かって、再度出発することにしたのであった。
一度、大広間へ戻ったバカ達は、早速、『4』の部屋へ向かうべく準備を始める。
七香が出迎えてくれて、それから、デュオが状況説明をして……そして、七香が、『ではどうぞ』と、海斗の腕輪をくれた。デュオは代わりに、デュオの腕輪を七香に預けていくことになる。バカは、『女子の手首よりは怖くない!』と、思い切り腕輪を破壊できた。バキイ!
ということで、バカ達は早速、『4』の部屋へ向かう。
全員でエレベーターに乗り込み、ふぃーん、と下降していき……そして。
がちゃ、と、『4』のドアを開けて、バカは……。
「……何故閉めた」
「え……なんか、居たから……」
「なんかって何だ!?」
「ええ!?なんか、偉そうな人ぉ!」
……開けてすぐ見えたのは、何やら……偉そうな人の姿、であったのだ!
「えーと、大アルカナの4番は、『皇帝』だね。……樺島君が見たのは、『皇帝』じゃないかな」
「あ、多分それぇ!」
デュオの説明を聞いて、バカは『それだ!』と満面の笑みである。偉そうで、なんか冠なんか被っちゃって、偉そうな人だったので正に、皇帝であった!ぴったり!
「えーと……それは、戦うような内容か?」
「えー……かもしれない。どうだろぉ」
「うーん、『皇帝』のカードの意味は、支配、とか、行動力、とか、権力、とか……後は、意思や責任感の強さ、男性的であること、闘争本能……なんかだけれど。となると、まあ、戦う羽目になるかもね」
バカは『わあ……』と声を漏らした。支配しようとしてくる相手とは、戦わねばなるまい。確かに。……バカは早速、ドアの奥に居た偉そうな人のことがちょっと嫌になってきた!
「……まあ、そういう訳だから、ここは樺島君に任せた方がいいかな、と思うけれど。どう?」
「おう!俺、1人で行ってこられるぞ!」
バカが『がんばる!』と屈伸運動を始めたところで、海斗に『床を凹ませるな』と怒られた。……そして、むつとヤエからも特に反対は出なかったので……。
「じゃ、行ってくる!」
「気を付けてねー!」
バカは、皆に見送られながら、『4』の部屋の中へ、改めて入っていくのだった!
「……ほう」
バカが部屋の中央へ進み出ると、目の前の偉そうな人……恐らく、これも人ではなく、悪魔なのだろうが……その人は、その手に握った杖で、かつん、と床を打ち鳴らした。
「挑戦者よ。汝の名は?」
そして、玉座の上から、バカを見下ろしてくる。……偉そうである!
「俺、樺島剛!お前は!?」
が、バカは極めて元気にご挨拶した。ちゃんと名乗るのは大事である。親方にもよく言われる。
「……無礼な奴だ」
だが、目の前の相手としては、バカのご挨拶は気に食わなかったようである。
「おう!で、お前は!?」
一方のバカは全くそのあたりを気にしない。バカなので!
……という、噛み合わないやり取りの後、偉そうな皇帝は、びし、と、杖の先をバカに向け、言った。
「頭が高い!平伏せ!」
「っ!?」
その瞬間、バカの体に、ずしん、と重さが圧し掛かる。
それはまるで、重力が2倍になったかのような感覚。ぎろり、とバカを見下す皇帝の目が、より重圧感を生んでいる。
……まあ、つまり。
「ひれふすのは……お前だァーッ!」
この程度の重圧、生コンの袋10個積まれながら腕立て伏せさせられつつ親方にお説教されている時よりは、ずっとマシであった。よってバカは圧し掛かる重さなどものともせず、タックルをかませるのだった!




