ゲームフェイズ1:『18』月
「うわわわわ!ここ宇宙!?宇宙ですか!?」
「こ、こんな部屋もあるのか……」
「すげえーっ!綺麗だなあ!」
タヌキと海斗が慌て、四郎が静かに驚く中、バカは大はしゃぎである。
部屋は実に美しかった。壁と天井は、どこまでも続くかのようにも見える黒。部屋中に、星めいた光がいくつも灯り、そして……。
「月!俺、月の上に居るよぉ!」
月。
……そう。部屋の床は、写真やらなにやらでしか見たことのない、月面めいた、そんな代物だったのだ!
月面にも似た床の上、バカ達4人は大いに戸惑った。
月面の床がまた、とても見事なものなのだ。乾いた岩のかんじも、どこか寂しい色合いも、とても『月』っぽい。バカは『これ作ったの、誰だろう!いい職人だ!』とにこにこ顔になってしまった。
そして。
「樺島。向こうに何かが浮いている。見えるか?」
海斗が指さす方。そちらには……。
「うん!月の絵描いてあるカード!あとなんか数字もある!18って書いてある!」
「流石にそこまで見えるとは思っていなかったんだが……」
……月面から2m程度。そこに、光り輝きながらぽやんと浮かんでいるものがある。
どうやらアレが、『カード』らしい。
「帰り道は……一応、確保されているみたいだな。そうか、アルカナルームは出入り自由なのか……」
海斗は真っ先に、退路の確認をしていた。バカは『海斗は頭いいなあ!』とにこにこした。尚、バカは1人でこの部屋に入っていたら、間違いなく喜び勇んでカードに向かってダッシュしていたであろう。
「じゃあ、他のアルカナルームで、もし『入ってみたけれど駄目そうだった!』ということがあったら、すぐにお部屋を出れば大丈夫なんですね!」
「まあ、そういうことかもしれない。……なら、積極的にアルカナルームに入ってみた方がいい、ということか……?」
海斗は念入りに色々と調べている。タヌキも海斗にくっついて色々と見て回っているところだ。タヌキも海斗よろしく慎重派なのだろう。
「……じゃあ、さっさとカードを取っちまっていいな?」
が、一方で四郎は慎重派ではなさそうである。さっさと、カードに向かって歩き出した。
「俺もカード見る!」
ということで、バカも四郎と一緒にカードに向かって歩く。
……四郎はちょっと迷惑そうな顔をしつつ、スタスタと歩き、カードに手を伸ばした。
その瞬間。
「危ない!」
バカは、四郎にタックルをかますようにして、彼ごと横に跳んだ。
……その瞬間、さっきまで四郎が居たその月面に、ズガン、と何かが突き刺さる。
そして、ばっ、と振り向いたバカは、『それ』を見ることになった。
「……旗ァ!?」
そこには、巨大な星条旗が突き刺さっていたのである。
バカも流石に、『月面に宇宙飛行士がアメリカの国旗を立てた時の写真』は知っている。その写真を社会科の教科書で見た時、『すごいなあ』と目を輝かせていたバカであるが……そのちょっぴり憧れの星条旗が襲い掛かってくるとなると、流石にそんな悠長なことは言っていられないのであった。
「次、来るぞ!」
四郎の声にはっとして見ると、星条旗が月面から引き抜かれるところであった。それを見たバカはまた、横に跳ぶ。すると再び振り下ろされた星条旗が、バカが先程まで居たところに突き刺さった。
それを無事に躱したバカは、改めて、星条旗の先……その旗を『振り下ろした者』を見た。
「ひ、ひええええええ!?でっかい!でっかい化け物ぉおおおおお!」
タヌキの悲鳴も已む無し。
星条旗を握っていたのは……宇宙服めいた装甲に身を包んだ、異形の巨人であったのだ。
「海斗ぉ!こいつ、やっちまっていいかぁ!?」
が、この程度で怯むバカではない。後ろでタヌキを抱えている海斗の方をちら、と見ながら確認してみれば……。
「やれ!樺島!」
海斗からも許可が出た。ならばバカにはもう、迷いは無い。
「うおおおおおおおおおお!」
バカは愚直なまでに一直線、真っ直ぐ駆け抜けて巨人に迫る。三度振り下ろされた星条旗に追いつかれるより速く駆け、そして全く減速することなく、ただただ巨人へと迫り……。
「だぁああああああああああ!」
……ゴシャア!と、そのタックルを以てして、巨人の胴体を大きく凹ませたのであった!
「うおおおおおおお!」
更にバカは、巨人をボコボコにした。
「うおおおおおおお!」
更にボコボコにした。
「うおおおおおおお!」
「樺島!そろそろ止めていいぞ!」
「どうだ!?やったか!?」
「これでやれていなかった方が怖いな……」
……そうして、巨人は完膚なきまでにボコボコにされ、完全に沈黙した。
かと思えば、ふっ、とその姿は掻き消えてしまったのである。
後に残ったのは、カード1枚だ。……若干、ひしゃげているのはバカがボコボコにしすぎたせいかもしれない。バカはカードに『ごめんよぉ!』と謝った。
「さて、これでカードが1枚、か……」
だが、問題はこれからなのである。
「……誰がこれを所有する?」
海斗がちょっと困った顔でそう言うのを聞いて、バカは、このゲームが中々に意地悪であることを、ようやく実感したのであった!
「……俺はいらん」
が、真っ先に四郎がそう言い出したのである!
「さっきの化け物を倒したのは樺島だ。なら樺島がそのカードを持つべきだろうな」
バカは、『このオッサン、かっこいい……!』と深く深く思った。
「しかし、その、四郎さんも、ここを脱出しないわけにはいかないのでは……」
「……元々、俺の目的は悪魔殺しだ。悪魔さえ殺せるなら、その後自分がどうなろうと構わねえ」
海斗の問いにも、四郎はそう言ってのけた。
……どこか自棄的にも見えるその表情に、バカはちょっとだけ、ヒバナのことを思い出す。彼もまた、自分の目的の為に自分が死んだって構わない、と言ってのけてしまうような人だったから。
バカは、できることなら……四郎とも、一緒に脱出したい、のだが……。
「悪魔……ええと、あの、四郎さんは、悪魔を探してるんですよね?」
そんな折、ふと、タヌキがそう声を上げていた。
「……ああ、そうだが」
四郎が怪訝な顔でタヌキをじろりと見つめ返すと、タヌキは……しゃん、と胸を張った!
「ならば、我々……共闘できるかもしれません!」
四郎が『詳しく話せ』と言ったので、タヌキが話し始めることになった。海斗は『時間は惜しいんだが、これは聞いておかないとまずい気がする』と一緒に聞くことになったし、バカも気になるので正座しつつタヌキの話を聞くことにした。
「私はタヌキですが、元は人間です。魂をタヌキに入れられちゃったので、今、こうして喋るタヌキをやっているという訳なんですね」
「そっかぁ……」
バカは納得した。何せ、バカの身近にも『魂を蟹型ロボットに入れられてしまったので、そのままかにたまとして生活している奴』が居るのですぐ納得できる。
「悪魔というものは、全員『人間の魂を動かす能力』を持っているそうなんです。だから、人間の魂を人間から抜き取ったり、別のものに入れたりできちゃうんだとか」
これについても、分かる。前のデスゲームで、抜き取られた魂がカンテラの中でもぞもぞしていたことは記憶に新しいので。
あれと同じことを、全ての悪魔ができる、と。そういうことなのだろう。バカは、『天使が全員空飛べるようなもんかぁ』と納得した。悪魔にも『魂抜き取り講習』とかあるのかもしれない……。
「私の望みは、元の体に戻ることです。ですからそのためにも、悪魔にお願いして魂を移動させてもらわなきゃいけません」
「……成程な。それで、悪魔を殺したい俺と組めないか、って訳か」
「はい!そうなんです!いかがでしょう!?」
タヌキがきらきらと期待の籠った眼を四郎に向けると、四郎は少し考えて……首を横に振った。
「……一考の余地はある。だが、確約はできねえ」
「そんなぁー!」
タヌキはひっくり返った!バカも『そんなぁー!』とひっくり返った。海斗は『何故お前までひっくり返る……?』と何とも言えない顔をしていた!
「俺は悪魔を殺したい。お前は悪魔を利用したい。同じようで、決定的に違う望みだろうが。誰が悪魔かも分からない内に、そんなところで手を組むメリットが薄すぎる」
四郎がそう言うと、ひっくり返っていたタヌキは、もそもそ、と姿勢を戻して、ちょこ、と座り直した。
「あ、あの、でしたらお役に立てるかもしれません。私、手がかりは持っているんですよ」
「……なんだと?」
四郎が身を乗り出す。バカも身を乗り出す。
『悪魔が1人参加している』のならば、その情報はバカも知りたいところなのだ!
……すると。
「……実は、元の体は、ここにあるんです」
「元の体?」
「タヌキになる前の、人間の私の体です」
タヌキは、驚くべきことに……こう言ったのだ。
「デュオさん……あれ、私なんです。私の体に、誰かの魂が入っているんです!」




