ゲームフェイズ2:『3』女帝1
デュオは困惑していた。というよりは、この場の全員が困惑していた。『そもそも、腕輪って引き千切れるの!?』という点において、困惑していた!
だが、引き千切っちゃったものはしょうがない。バカは『千切っちゃったけど、海斗が引き千切れって言ったんだし間違いは無いだろ!』と、堂々と構えていた。
「……ええと、つまり、樺島君は腕輪を引き千切れる、っていう、こと……なんだね?」
「おう!パワーで解決できるモンは俺、大体なんでも解決できっから!任せろ!」
そうして、バカはまた堂々と胸を張った。パワーには自信がある。タックルのキレと声のデカさと素直さにも自信がある。あと、いっぱい食べることにも自信がある!そんなバカなのである!
「あ、あの、この腕輪って、千切っちゃっていいものなの!?壊れてない!?」
「まあ、大丈夫そうだが……ほら、反応する」
海斗は、自分の『1』の腕輪を持っていって、ぽい、と海斗の個室に放り込むと、そこで個室内のモニターで、『1』のボタンが反応しているのを見せてくれた。
「じゃあこの状態でボタン押したら、『1』のアルカナルームに行けるってことかな……あ、駄目だ」
デュオがそこへ入っていって、『1』のボタンを押したが、それは反応しない。デュオが個室内に入った瞬間に、個室内の数字の合計が『3』になっちゃうからである!
「……まあ、この仕様はなんとなく、分かっていたけれど」
デュオはため息を吐きつつ、『やれやれ』と首を振った。
「これはデスゲームだからね。人を殺すデメリットよりは、メリットの方が大きくなるように作っておくだろうと思ったよ。……殺した人の腕輪を奪えば、1人でも入れる部屋が増えるからね」
「殺した、人、の……」
デュオの言葉に、ヤエが、さっ、と青ざめる。……それを見て、デュオは『まあ、そういう可能性もあるだろう、っていうだけだよ』と、ちょっと申し訳なさそうに笑ってみせた。
……こういう気遣いは、あるらしい。だからバカはやっぱり、デュオのことを根っからの悪人だとは、思えない。
「まあ、そういう訳だ。僕の腕輪はもう外した。後は、デュオさん。あなたがどうするかを決めてくれ」
「そう、だな……」
デュオは、少し考えている様子だった。
つまり、1人で『ちょっとえっちな部屋』に入るのかどうか、という……。
……だが、バカはちょっと心配になる。
「あの、もしタヌキが『3』に入って、1人で動けなくなってるんだったら、その……デュオが1人で行くのも、危ないんじゃ、ないか……?」
……ミイラ取りがミイラになる、という言葉がある。
キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部では、『食堂に行ったっきり帰ってこねえ奴らを呼んで来い!』と命じられたバカが食堂に行って、そしてそこで『お味見!おいしい!』となって帰ってこなくなってしまうパターンでおなじみである。尚、バカはその度にしこたま怒られている。
……まあ、つまり、今回もそうなってしまうのでは、とバカは危惧しているのだ。
「1人で行くのって、危ないんじゃないか?その、こういうのはさ、『つーまんせる』がいいんだろ?」
「……こういう時に限って絶妙に反論しづらい意見を出してくるんじゃないこのバカ」
バカが真剣に悩んで出した案は、海斗の苦い顔に出迎えられてしまった。バカはちょっと悲しい!
「だが……その、確かに、それも一理ある。ありはする、が、しかし……うん……」
しかし、海斗はバカの案に『一理ある』と思ってくれているらしい!バカはちょっと嬉しい!
「あー……俺はどっちでもいいけど、できたら、人間と一緒に行きたいかな……。ほら、その、タヌキが1匹で困っていて、そこに俺が入って、それで、『じゃあこのお二人で』って、なると、多分俺は……出られなくなると思うから……」
「……確かに。その、タヌキ、って……あの、どうなんだ?その、僕もタヌキの生態には詳しくないから、その……」
更に、デュオも悩み始め、海斗もまた、どうも別方向から悩み始めたらしい!バカは『俺が投じた一隻がハモンを呼んでる!』とにこにこである。尚、こいつは平気で一石どころか一隻をも投げるタイプのバカなのである。波紋生じまくりである。
「……あの、だったら、私、行ってきます、か?」
が、ここで船一隻どころか大陸一個ぐらいをぼしゃんと投げ込んでくるのがヤエである。
「腕輪、壊してもらえば……その、いいんだったら、私、行きます」
きゅ、と唇を引き結び、緊張した面持ちで……極めて真剣に、そして健気にも申し出てくれたヤエを見て、バカと海斗とデュオは……。
「いや駄目だ!ヤエさん!自分を大切にしてくれ!あの部屋は駄目なんだ!本当に!」
「駄目だぞヤエ!女の子はな!その、駄目なんだぞ!こういうのは男がやればいいんだって親方もいっつも言ってるし!な!な!」
「そ、そうだね……女の子は、止めておいた方がいい、かな……。あははは……」
……必死に止めた。
ヤエを、必死に、止めた。ちょっと不審だったかもしれないが、この瞬間、間違いなく、バカと海斗とデュオは、三者一体となっていた。
ヤエは『そ、うですか……?』と困惑していたし、むつは『え、あの、どういう部屋なの……?あ、聞かない方がいい……?』と困惑していたし、七香はただ黙っていたが。
だが……今、この瞬間、男共は、心を1つにしていた!
女の子は!えっちな目に遭わせちゃ!駄目!
……ということで。
「あ、あの、海斗ぉ……」
バカはおずおずと手を挙げ、そして、海斗にいそいそと近づき、もしょもしょ、と耳元で囁く。
「ほら、デュオに聞きたいこと、あるだろ?だから、その……」
「……まあ、それは、そうなんだが」
……そう。バカ達は、デュオに聞かなければならないことがある。
『お前は宇佐美光ではないのか?』と、聞かなければならない。
「それに、ヤエもむつも七香も、行かせちゃ駄目だろ?」
「うん」
そして、女の子達には、無事でいてほしい。
そうだ。『寒い仕事と力仕事とえっちな仕事は男がやればいいのだ』と、偉大なる先輩社員もそう言っていた。営業のお姉ちゃんの代わりに牛柄ビキニを着こなしながら。尚、その営業のお姉ちゃんはその先輩の代わりにラップバトルに挑んで勝ってきた。世の中、持ちつ持たれつである。
……つまり。
「フンッ!」
バカは、自分の腕輪を粉砕した!
「俺の腕輪、置いてくから!」
「わああああ……もう輪じゃないよこれぇ……」
むつとヤエと七香の前に、バカは粉砕した自分の腕輪を『ぱらぱら……』と置いていった。もう輪じゃない。破片である。
「じゃ、海斗!デュオ!行こうぜ!2人だったら気まずいけど多分、3人なら大丈夫なやつだろ!?」
そしてバカは、小脇にデュオと海斗をひょいと抱えた!
「いやそういう訳でもないんだぞ樺島ァ!」
「だったら俺1人の方がマシかもしれないなあ樺島君!」
小脇に抱えた2人から絶望の声を聞きながら、バカはスタコラスタコラ、タヌキの個室へ進んでいく!
「でも女の子行かせるよりはマシだろうがァ!腹括れェええええ!よく分かんねえけどぉおおお!」
「本当に!バカ!お前!本当にバカだ!あああああああ!」
「ごめん、海斗君、樺島君っていつもこういうかんじ?」
「ああ!いつも!こういうかんじだ!あああああ!もぉおおおおお!」
……そうして、諦めの境地に至ったデュオと、『このバカぁあああ!』と嘆く海斗、そして『キューティーラブリーエンジェル建設ぅー!あああー!キューティーラブリーエンジェル建設ぅー!ああああああああああ!』と社歌を熱唱するバカを乗せたエレベーターは、ふぃーん、と下降していくのであった……。
そうしてバカ達は、エレベーターを降り、『3』と書かれたドアの前に立つ。
「……タヌキは居ないなぁ」
「それはそうだろうね。こっち側のドアは、タヌキの個室に繋がっていたわけで、でも、タヌキは俺の個室から『3』の部屋に入ったみたいだから……」
デュオはバカに抱えられたままそう言うと、『ところでそろそろ降ろしてくれないかな……』と言ってきた。が、海斗が『いや、降ろすな。逃げられるとまずい。ここまで来たなら全員道連れにしろ』と冷静に酷いことを言い出したので、バカはデュオを降ろすのを止めた!
「……部屋の中、か?」
「だろう、ね……。いや、まだ、タヌキと五右衛門さんが一緒に『8』に入っている可能性が捨てられないんだっけ……?だとすると、完璧に骨折り損になる可能性もある訳だけれど……?」
……まあ、ここまで来たなら、進まねばなるまい。バカはよく分かっていないのだが、腹を括った。『恥なら俺が全部かく!』という決意で。具体的なところは何も決まっていないが。
「じゃ、いくぞー!」
ということで、バカは威勢よく、ガチャッ!とドアを開け、『3』のアルカナルームへと侵入したのだった!
「……わ、わぁあ……」
そして。
部屋に入って数歩で、バカはその威勢を全て失った。
……えっちなビデオでしか見たことがないものが、なんか、いっぱいある!
「……おじゃましました」
バカは180度キッチリターンし、威勢よく開けたドアをすごすごともう一度開けようとし……。
「あ、あれ?あかない……?」
「だから言っただろうが……。僕は言ったぞ。言ったんだからな、樺島ぁ……」
……なんと!この部屋、一回入ると出られなくなる部屋らしい!大変だ!大変だ!
更に。
「……2度も訪れるとは、どういった魂胆だ?」
でっかいベッドの上、気だるげに寝そべる美女が、呆れたような顔でこっちを見ていた。
尚、その美女は、全裸である。
……それを見てしまったバカは、いよいよ、キャパシティを超えて襲い掛かってきた情報に、パンクしたのであった!
「うわあああああ!服着ろよぉおおおお!」
「なっ、何をするか!この無礼も……本当に何をするのだ!?」
なので全裸のおねーちゃんは、バカの手によってシーツでぐりぐりに梱包されたのであった!しょうがないね!
バカの梱包術が火を吹いた。
先輩達に教えてもらった技術の全てを駆使して……そこらへんに何故かあった麻縄も使って、おねーちゃんをしっかり梱包した。
『こうやって結ぶと解けなくていいんだぜ!』『へっこんでる部分に縄が掛かるようにするんだぜ!』『中身を傷めないように、力加減して結べよな!』という先輩達の教えが全てキッチリ反映された結果、全裸だったおねーちゃんは、『シーツと麻縄でしっかり梱包されたおねーちゃん』になった。これでよし!
「……説明せよ。何なのだ。お主ら、何なのだ」
全裸ではなくなってしまった謎のおねーちゃんは、何とも言えない顔であった。
「俺、樺島剛!こっちは相棒の海斗!で、こっちはデュオ!で、なんでおねーちゃん服着てなかったんだ!?女の子はちゃんと服着てなきゃダメだぞ!男はパンイチまではいいけど、それ以上脱いだら駄目なんだぞ!捕まるぞ!」
更に、『全裸のおねーちゃんは居なくなった!』と元気になったバカの元気いっぱいな挨拶を聞いて、梱包済みおねーちゃんは益々何とも言えない顔になってしまった。
「……そこのバカよ。あの看板を見なかったのか?」
「ん?」
「書いてあるであろうに。この部屋の説明が」
何とも言えない顔の梱包済みおねーちゃんは、くい、と顎で部屋の一角を指し示す。……すると。
「……樺島。見なくていい」
海斗が、すっ、とバカの目の前に手を出してきたので、バカはそっちを見るのを止めた。海斗が止めとけと言うのだから、多分、止めといた方がいいのだろう。多分。バカにしては賢明な判断である。が、この光景を見て梱包済みおねーちゃんは益々げんなりした顔になってしまった!
「な、なあ、そこのおねーちゃん……あの、タヌキ見てねえ?これっくらいのサイズのぉ……しっぽフサフサで、茶色いやつ……」
一方のバカは、『じゃあ本来の目的を……』ということで、さっさと話題を変えてしまった。まったくえっちにならない部屋のできあがりである。
「見ておらん。この部屋にはお主ら、そこの2人以外には誰も訪れておらぬよ」
ちょっとむくれた様子の梱包済みおねーちゃんはそう言って、ふいっ、とそっぽ向いてしまった。
「ええー……タヌキ、ここに来てねえのかぁ……?」
「だとするといよいよ、タヌキと五右衛門さんが『8』のアルカナルームに入った可能性が高くなってきた、のか……参ったな。本当に骨折り損か……」
海斗が頭を抱える一方、バカは『タヌキ、居ねえなあ……』と、きょろきょろする。
……が、きょろきょろするには、あんまりにもあんまりな品が多すぎる。それらを見ていると、ちょっと変な気分になってきてしまう。バカは、もじもじしながらその場に体育座りすることにしたのだった……。
「それで、どうする?妾にこのような無体を働きおってからに。……言っておくが、妾をどうしようと、この部屋の性質は何も変わらんぞ?妾をこのようにしたということは、お主らが余興をやって見せてくれるのであろうな?先程のアレもまあ、悪くはなかったが、折角なら……」
「いや、結構だ。それはこちらでどうとでもなる」
一方、海斗はすっかり開き直ったと見えて……目が据わっていた。覚悟を決めた人間の目である。非常に格好いい。状況が状況でなかったならば。
そして海斗は……言った。
「デュオ。取引をしよう」
「……質問に答えてくれるなら、この部屋を『何もしなくても出られる部屋』に改造する」
「え?」
「樺島になら、それが可能だ」
海斗はそう言って、バカの背中をぽふんと叩いた。バカは『なんかよくわかんないけどやれる気がする!』と頷いた。
「ただし……答えてくれないなら、さっき僕がやらされたことを全てやってもらう。いや、もっと過激なことをしてもらってもいいな」
「……え?」
デュオは、ひく、と顔を引き攣らせながら、ちら、とバカの方を見た。なのでバカはよく分からないながら、にっかりと笑いかけておいた。笑顔と挨拶は大事である。
「さて……当然、異能は使わないでくれ。尤も、あなたの異能は使ったとしても、この状況を打破できないだろうが……」
海斗の言葉に、デュオは目を見開いた。……そして。
「……話をしてくれるな?『陽』」
……海斗がそう呼びかければ、いよいよ、デュオは『何故知ってる』と呟いたのだった。




