発表フェイズ1:大広間1
「え、えーと、デュオは?」
バカは戸惑いながら、むつに尋ねた。すると……。
「あ、デュオさんなら分かるよ。残り10分くらいで、七香さんと戻ってきて、それから『発表フェイズには戻ってこられないかも』とか言いながら、2番アルカナルームに入っちゃった」
「ええええ……」
……なんと。デュオは、本当にギリギリまで粘ることにしたらしい!
「となると、僕の個室を使っているのはデュオ、ということか……」
海斗は『随分と頑張るんだな……』などと言いながら、自分の個室が沈んでいるのを見つめている。
……デュオに色々と聞こうと思って戻ってきたのに、そのデュオが居ないのだ。拍子抜けもいいところである!
「ええと、じゃあ、タヌキと四郎さんと五右衛門さんは……」
「うーん……分からないんだよねえ……えーと、タヌキさんについては、残り35分ごろに七香さんと一緒に10番アルカナルームに入ったのは知ってるんだけど……」
むつが『うーん』と言っているのを見て、バカは『そりゃ、全員の行き先なんて分からねえよなあ……』と大いに納得した。七香が『組み合わせはこれとこれですからおそらくこれ』とやっていたのは、異常だった!頭が良すぎて、こわい!
「そうか。じゃあ、七香さんが知っているか。ええと……」
「七香ぁー!ちょっと聞きてえんだけどぉー!」
まあ、タヌキの行き先を七香なら知っていそう、ということなら、七香に聞くのが手っ取り早い。バカが自慢のクソデカボイスで呼べば、ヤエが『うわあ』という顔をし、むつは『わっうるさっ』と耳を塞いだ。海斗は慣れたものである。そして七香は、非常に迷惑そうな顔をしている!
「……何でしょうか」
「あのな!あのな!タヌキの行き先、知らねえ?」
そして迷惑そうに七香がやってきたところへ、バカが元気に話しかける。これができるのがバカの強みなのである。
「タヌキさんでしたら、一緒に『10』のアルカナルームに入りましたが」
「そう!その後は!?」
バカが期待を込めて七香を見つめると……七香は、ふ、と小首を傾げて、答えた。
「『3』のアルカナルームに入る、と言って、デュオさんの個室を使って降りていきました」
「……『3』に?」
「ええ」
「……なんで!?」
バカは混乱した。だって、だって……『3』は、『ちょっとえっちな部屋』である!海斗とデュオが、何やら大変な目に遭ったらしいという、その部屋である!
「そうだな。奇妙だ。『3』はもう攻略済みだと分かっているはずなのに……」
……そして、海斗も首を傾げることになる。
そう。そうなのだ。もし、『3』が全くえっちじゃない部屋だったとしても、やっぱり『3』にタヌキが入ったのはおかしい。何故ならば、『3』が攻略済みだということは、エレベーターを起動させるより先に分かることなのだから!
「私もそう、尋ねたのですが。タヌキさんは、『確認したいことがある』と」
「そ、そっかぁ……」
バカと海斗、そしてむつとヤエも顔を見合わせて、首を傾げる。
……タヌキは一体、何を確認しに行ったというのだろうか。
「えーと……まあ、タヌキは『3』に入った、ということなら……当分、出てこないかもしれないな……」
海斗がちょっと遠い目で『できればあの部屋には誰にも入って欲しくなかった』とぼやくのを聞いて、バカは海斗の背中を、ぽふ、と叩いた。お疲れ様である。
「えっと、えっと、じゃあ、四郎のおっさんと五右衛門は?」
「うーん……私とヤエちゃんが一緒に『14』に入る前、五右衛門さんが1人で『じゃあアタシは1人で5番に入るわね』って別れて、それっきり。四郎さんは……ずっと見てないなあ……」
タヌキの次は、四郎と五右衛門についても気になる。が、こちらはどうも、雲行きが怪しい。
「……むつさん。五右衛門さんがどの個室を使って『5』のアルカナルームに入ったか、覚えているか?」
「あ、うん。ええとね、四郎さんの個室。……今も、沈んでるでしょ?」
むつが示す通り、今も四郎の個室は沈んでいる。
……デュオが海斗の個室を使っていて、タヌキがデュオの個室を使っていて、そして、五右衛門は四郎の個室を使っている。そういうことなら、説明はつくのだ。つくのだが……。
「五右衛門さん、ずっと出てきてないんだよね……。大丈夫かな……」
長時間、戻ってこないという五右衛門のことは非常に心配である。
そして。
「……じゃあ、四郎さんは一体、どこに……?」
……どうも、四郎が何処へ行ってしまったのか、いよいよ分からなくなってしまったようなのである!
そうしてバカ達が『皆、戻ってこねえなあ……』とやっている間に、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴る。
中央のモニターには、現在の所持カード数が表示されることになった。バカと海斗、それにむつとヤエと七香、という5人でモニターを見に行くと……。
1番……つまり、海斗が0枚。
2番……デュオが2枚。
3番……タヌキが0枚。
4番……四郎が0枚。
5番……五右衛門が0枚。
6番……むつが2枚。
7番……七香が3枚。
8番……ヤエが1枚。
9番……本来なら孔雀が居たはずの番号だが、まあ、0枚。
そして10番のバカは、2枚である。
「……タヌキさんも四郎さんも五右衛門さんも、0枚なんだ……」
ヤエが小さく、そう呟く。心配そうに震える声で。
「……おかしいな」
そして海斗もまた、小さく呟く。
「5番のアルカナルームは、攻略済みになっているんだ。……だから、少なくとも、五右衛門さんが1枚以上カードを持っていないと、おかしいと思う。それから……7番のアルカナルームに最初に入ったはずの、タヌキと四郎さん。このどちらかも、カードを持っていないのは、おかしい、か……」
海斗は少し考え、それから、むつとヤエの方を向いた。
「そう、だな……うーん、むつさん、ヤエさん。そちらのチームでは、どのカードを誰が所有することになったか、可能な限り教えてほしい」
「わ、わかった!」
急に海斗に尋ねられて、女子2人はあわあわしながらも答え始めた。頑張れ!
「ええと……最初、私とヤエちゃんと五右衛門さんで19番に入った時は、ヤエちゃんが19番のカードを持つことになって……それから、私とヤエちゃんと、タヌキさんと四郎さんの4人で21番の部屋に入った時には、私がカードを持つことになって……」
「それで、私とむつちゃんが14番の部屋に入った時は、むつちゃんにカードを渡しました。……むつちゃんのおかげで、水のパズルが解けたから、むつちゃんが持つべきだと思って……」
「あ、ええと、そんなにすごいことはしてない、んだけど……えへへ……ちょっと、あの手のパズル、友達が好きだったから、私もちょっと、やったことあって……」
14番、と言われるとよく分からないバカであったが、『水のパズル』と言われると、分かる。恐らく、バカが水タンクを『バキィ!』して、そこにコップを『ざばぁ!』したところであろう。
……あそこのパズルは、非常に難解であった。確か、海斗も最初10分くらい、タヌキと一緒に悩んでいた部屋である。バカがパズルを解こうと思ったら、100分かかっても難しい部屋である。
とはいえ、その後結局、バカが脳筋解法でやってしまったため、そこから残り5分程度で解決してしまい、結局、20分くらいで済んだのだが……。
「私、結局20分ぐらい悩んでた気がするなあ……。ヤエちゃん、ごめんね、私ああいうの遅くて……」
「ううん、私も苦手だから……むつちゃんがやってくれて、よかった……」
……むつとヤエは、もじもじまごまごしながら、2人仲良く『一緒でよかった』『一緒でよかった』とやっている。
なんだかちょっぴり平和である!
「そう、か。となると、2人が入った部屋では、必ずむつさんかヤエさんかのどちらかがカードを所有した、ということか」
「そういうことになる、ねえ……。うーん、悪いことしちゃったかもしれない」
むつが、ちょっぴり凹んだような顔をしているので、バカは『気にすることないぞ!俺も2枚持ってるぞ!』と励ましておいた。
「ええと、五右衛門さんが1人で部屋に入った、というのは、むつさんとヤエさんとタヌキと四郎さんが4人で『21』の部屋に入ることになった時、ということだろうか」
「あ、うん。そう。次のゲームどうしようか、って話してて、大広間に戻ったら丁度、タヌキさんと四郎さんが居て、それで、『じゃあアタシが抜けるわぁーん』って五右衛門さんが、1人で……」
むつは、五右衛門の真似がちょっと上手である。バカはちょっぴり感心した。
「確か……残り時間50分ごろ、だった、と思う……」
ヤエは時間をちゃんと覚えているらしい!バカはまた感心した!
「残り50分……つまり、僕とデュオも、樺島と七香さんも、まだゲーム攻略中だった頃、か。そうか……」
海斗も時間を覚えているらしい!……まあ、覚えていないのはバカだけなのである!
それからまた、海斗は考えて、そして、よし、と頷いた。
「……となるとやっぱり、五右衛門さんが心配だな。様子を見に行きたい、ところ、だが……」
が、頷いた割に、海斗は困った顔をすることになる。
「……困ったな。『5』のアルカナルームに入る手段が、今、無い」
……どうやら、そういうこと、らしい。
「え、あ、入れない……のか?」
「考えてみろ、樺島。『5』になる組み合わせは、『1+4』と『2+3』と『5』だけなんだぞ。そして今、四郎さんもデュオもタヌキも居ないんだ」
「あ!そっかぁ!」
バカも足し算はできる。ちゃんと足し算して、『ほんとだ!』と確認した。バカはバカなりに頑張っているのである。
「……と、なると、四郎さんを探すのが一番か?いや、しかし、どこに居るか分からない人を探すというのは難しいか……」
海斗がぶつぶつ呟いているのを見て、バカは『四郎のおっさーん!』とそこらへんに呼びかけてみた。が、当然ながら四郎は出てこなかった!
「いや、待てよ……?五右衛門さんとタヌキ、或いは五右衛門さんと四郎さんが一緒に、『8』や『9』に入っているとすれば、説明は通る、か……?ああくそ、だがその場合でも、『3』と『4』は確認しに行きたいが……」
「だよねえ……。あの、2人一緒でもどうにもならないような部屋って、その、確認しに行くの、ちょっと怖い、よね……」
海斗が頭を抱え、むつが困ったように視線を彷徨わせる。ヤエが不安そうに俯き、そして七香は……。
「海斗さんとデュオさんで『3』のアルカナルームを確認するのが一番よいのでは?どのみち、3番の腕輪が無いと、『4』の個室は確認できません。それに、丁度、お戻りになったようですから」
……七香がそう言う後ろでは、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴り響き……そして、海斗の個室が、ふぃーん、と上がってきて、ドアが開く。そしてそこから、デュオがのんびり現れたのだった。
七香はデュオに笑顔で駆け寄っていった。それを見たむつが、『わっ……七香さん、笑うんだ……』と慄いていた。バカはむつに親近感を抱いた!
「ええと……これはどういう状況かな」
「タヌキさんと四郎さんと五右衛門さんがお戻りにならない状況です。3人とも、カード0枚の状態だそうで、不審だ、となりました。主なところは以上ですね」
七香はデュオにそう説明して、2人で一緒に戻ってきた。仲睦まじいようで、よろしいことである。人間誰しも、なかよしな方がよい。バカはそう思う。
「そういう訳で、『3』のアルカナルームに、あなたと海斗さんのお二人で確認に行って頂くのが良いのでは、ということになりました」
「えっ……あ、ああ、そ、っか……うん、成程ね……?」
……だが、七香の説明に、デュオは顔を引きつらせる。
「あの、デュオさん、海斗さん。タヌキさんを探してきてくれないかな。心配だし、タヌキさんが居ないと、『5』の部屋に居るんだろう五右衛門さんも、探しに行けないし……」
「……そうだな。ああ、それがいい、んだろう。うん……僕も分かってる。分かってる、んだが……」
更にむつにもお願いされ、海斗も顔を引き攣らせている。
……そう。
この2人、また『ちょっとえっちな部屋』に入る羽目になりそうなのである!
「また、あの部屋に……?いや、しかし、必要なことで、でも、もう、アレは……」
海斗はぶつぶつ呟きながら頭を抱えていた。むつは『私、何かまずいこと言っちゃったかな……』と真剣に悩んでいた。そしてバカは、『海斗ぉ……』とおろおろしていた。
そして。
「いや!やっぱり駄目だ!」
悩みに悩んだ海斗は、そう叫び……腕輪の嵌った左腕を、バカの前に差し出した!
「樺島ァ!僕の腕輪を破壊しろ!」
「えっ!?あっ、うん!分かった!」
そうして、バキイ!と、海斗の腕輪が引き千切られた。
引き千切った腕輪を海斗に『ほい』と返すと、海斗はそれをバカから受け取り……そして。
「……そういう訳で、デュオさん」
海斗は、千切れたばかりの腕輪を、デュオに差し出した。
「1人で、行ってきてもらえますか……?」




