ゲームフェイズ1:『11』正義2
樺島剛には、辰美開斗以外にも友達がいる。
……半ば、勝手に『俺達、友達!』とやってしまった仲ではあるが、前回、デスゲームに参加した仲間達は全員友達だと、そう信じて疑わない。
その中の1人……否、『2人』が、宇佐美光。
1人は『陽』として参加していた19歳の青年で……そしてもう1人は、『天城』として参加していた老人。
同じ人物が、異なる時間からやってきて、1つのデスゲームに参加していた。それが、陽と天城……つまるところの、『宇佐美光』だったのである。
そしてその『宇佐美光』……『陽』と『天城』の間の彼が、ここに居たのならば。
……きっと、手段など択ばず、ただ、最愛の『たま』を……『駒井つぐみ』を救うためだけに、デスゲームへ身を投じていたはずなのだ。
「……そうか。やっぱり、そう思うか」
そして海斗もまた、同じ結論であったらしい。海斗は、ほっとした様子でゆるゆると息を吐き出した。
「僕も、そう思っていたんだ。ただ、どうにも、思い違いなんじゃないか、という気がしていて……自信がなかったから」
「お、俺もあんまり自信、無いよぉ……?」
バカはちょっとおろおろ、あわあわ、としながら、ほっとしてしまっている海斗をつつく。だが、海斗はちょっと笑って、ぽふ、とバカの背中を叩いた。
「いや、お前の直感はきっと正しいよ。……いや、どうも、変だと思ったんだ。『デュオは悪いやつだ』とは、お前は言わなかったから」
「へ?」
バカが首を傾げていると、海斗は苦笑しながら、また、ぽふ、ぽふ、とバカの背中を叩いて教えてくれる。
「……その、お前の話だと、タヌキを人質にとったり、僕を殺そうとしたり、していたんだろう?デュオは」
「あ、うん……」
バカは、思い出してみる。……デュオと七香は、前回、酷いことをしていた。
特に、デュオは……海斗を殺そうと、したのだ。結果、タヌキに助けられた訳だが……。
……だというのに、バカはデュオのことを、どうも、悪い奴じゃないんじゃないか、と思っていたのだ。
勿論、バカは知っている。どんなにいい人だって、追い詰められたら……そういう状況になったら、人を殺すことだってある。酷いことを、幾らでもするのだ。だが、それがその人の全てではない。
前回のデスゲームで一緒だった、ヒバナとビーナス。彼らは、状況によっては人を殺すことだってあった。だが……それが、彼らの全てではない。
いつも優しく、社食で働いているミナだって、ビーナスを殺したことがあった。だがやっぱり、それがミナの全てではない。
海斗がミナを突き飛ばしたことだってあった。天城がヒバナを殺したことだってあったし……そんなの、挙げていったら数えきれない。
……まあ、つまり、デュオについても、そうだと思ったのだ。なんとなく。
悪いことをしない方が、いいに決まっている。悪いことをしない人の方が、偉い。
だが、悪いことをしたかどうかだけが、その人の全てではない。
……そう思っている。
「まあ、つまり、お前はきっと、デュオの善性を信じられるんだろうな、と思ったんだ。だからきっと何かある人なんだろうな、と思って……僕も、彼を信じてみることにした」
「……海斗ぉ」
海斗もそう思ってくれているのだろうなあ、ということが、嬉しい。バカはなんだか嬉しくなってきてしまって、羽を出してぱたぱたし始めてしまった。
海斗には『風を起こすな!』と怒られた。でもやっぱり、ぱたぱたやってしまうバカなのであった……。
「……まあ、一つ、これで謎は解けたな」
「なぞ?」
「ほら。ちょっと、デュオが僕に対して、どうも興味を持っている様子だっただろ」
「きょうみ……?」
……海斗はどうも、何かに合点がいっているようなのだが、バカはそもそも、『そんなんあったっけ?』と思う。デュオが、海斗に興味を示している場面など、あっただろうか。
が、海斗は『あっただろ』と半眼でバカをじっとり見つめてくる。
「特に理由もなく、僕と組もうとしてきただろ」
「え?あれ、なんか理由なかったっけ……?」
バカはバカなりに、思い出す。確かに、デュオは真っ先に海斗を指名してきた。だが、その理由として、『小さい数同士で集まった方が有利』というようなことを言っていなかっただろうか……。
「小さい数同士で組んだ方が得だ、というようなことは言っていたな。まあ実際、そういう面もある。だが、僕にはお前が居るし、デュオには七香さんが居る訳だから……言い訳に過ぎないな、アレは」
が、海斗にとっては、アレは『言い訳』らしい!バカはびっくりした!
「それに加えて、まあ、『9』に入りたくない、というのも言い訳じみていた、と思う。そこまでして、僕と2人きりになりたい理由があるんだろうな、と思って……あの時、僕はかなり緊張しながらデュオと2人で『3』に入ったんだぞ……?」
「そ、そうだったのぉ……!?」
バカはますますびっくりである!バカの知らないところで、海斗がそんな風に思っていたとは!
「……まあ、結果として、『ちょっとえっちな部屋』だったせいで、それどころじゃなくなったんだが」
「そうだったのぉ!?」
そしてバカはますますびっくりである!ちょっとえっちな部屋のおかげで海斗がちょっと助かっていたとは!
「……で、ええと、なんで、デュオは海斗のこと、一緒のチームにしようとしてたんだ?」
バカは大いに驚きつつも、軌道修正する。結局のところ、デュオは海斗のことが気になっていた、ということらしいが……
「それは当然、デュオが『陽』として、『前回』のデスゲームに参加していたからだ」
海斗の答えに、バカは首を傾げる。……すると。
「思い出せ、樺島。本来、前回のデスゲームでは、『駒井つぐみ』は死んだんだ。そして多分……『辰美開斗』も、だな」
「えっ……?あ、ああ、そ、っかぁ……」
……そこでようやく、バカは理解した。『そっか、つまり、デュオが陽で天城の爺さんにこれからなる奴なら、海斗のことは知ってるんだよなあ』と……。
「……つまり、『デュオ』からしてみれば、死んだはずの人間がここに居ることになる。さぞかし不気味だっただろうな」
「うわあ……それ、怖いなあ……」
デュオの立場なら、それはそれは、怖かったことであろう。『海斗』と名乗る、死んだはずの男そっくりの奴が居て、しかもそいつが、謎の筋肉ムキムキを連れているのだから……。
「まあ、そういう訳で……その、『3』の部屋の中では、『お前が悪魔か』って聞かれたよ」
「わ、わああ……」
それはそうである。死んだはずの奴が生きていたら、概ね悪魔であろう。
「……まあ、その、色々あって、『悪魔じゃない、ということにしておこうか』ということにはなったんだが……」
「そ、そっか……お疲れ、海斗……」
一体、どういう『色々』があったのかは分からないが、きっと大変だったのだろう。バカは海斗を大いに労った。
ぽふ、と海斗の背中を叩いてやると、海斗はちょっと落ち着いた様子で、ぽふぽふ、とバカの背を叩き返してくれた。
……相棒同士、お互い色々と大変だが、お互いに労い合いながらやっていきたいものである!
「まあ、そういう訳で、僕はやはり、デュオは陽だと思う。……そう考えると、タヌキの本来の体に入っている理由も、なんとなく推察できるしな」
「そうなのぉ!?」
「大方、他のデスゲームで『別人の体』を望んだんだろう。まあ、一時的に使って捨てる予定だったのかもしれないが……」
バカは『大変だぁ』とおろおろしながら、タヌキのことを思う。ああ、体を奪われた挙句、その体を捨てられてしまったらタヌキもやるせないだろう……。
「うーん……じゃあ、早くタヌキの体、返してやれよ、って、デュオに言った方がいいよなあ……」
バカは真剣に、そう考える。
タヌキは困っていると思うので、早く体を返してあげてほしい。タヌキのボディだとチョコレートを食べられないと聞いた。バカはチョコが結構好きである。美味しいものを食べられないのは、かわいそうである!なので、タヌキが早く人間に戻れるようにしてやりたい!
「……まあ、お前が言うなら、もしかしたら本当に、それが一番早いかもしれないな……」
海斗はちょっと呆れた顔をしていたが、バカはやる気である。デュオが陽だというのなら、きっと、話せば分かるはずである!だって陽も天城の爺さんも、いい奴なので!
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「おう!」
そうして、バカと海斗はエレベーターへと戻る。
「デュオに……いや、『宇佐美光』に、会いに」
「……おう!」
海斗は緊張気味だったし、バカもちょっと、緊張してきた。
だが……迷う必要はないのだ。
陽は仲間だ。天城だって、仲間だ。ならばきっと……デュオとも、すぐに分かり合えるはずである。
……少なくとも、取引までは、できるはずである。
だってバカも海斗も、デュオの願いのことは、よーく知っているので……。
そうしてバカと海斗が大広間に戻ると。
「わっ、ギリギリだったね、樺島さん、海斗さん。残り5分切ってるよ」
近くに居たむつが、話しかけてきた。
むつが居たあたりにはヤエも居て、どうやら、2人で話していた様子である。バカは、『やっぱり女子同士、仲いいんだなあ』とにこにこした。
……だが。
「男の人、誰も戻ってこないかと思った!皆、ギリギリまで粘りすぎじゃない?」
「へ?」
……むつの言葉を聞いて、きょろきょろ、とバカは周囲を見回す。
すると……海斗の個室、デュオの個室、四郎の個室の3つが沈んだままになっていて、少し離れた位置に七香が1人、ぽつん、と待っているだけなのである!
……そう。
どうやら……かなりのメンバーが、戻ってきていないようなのだ。
デュオも、含めて。




