ゲームフェイズ1:『11』正義
ということで、先程の『13』の部屋の骸骨騎士よりもさっさと解体されてしまったこの部屋は、バカと海斗のお喋りルームになった。
邪魔してくる者が居なくなったので、のんびりカードを拾いつつ……適当に像の破片の大きいのを拾ってきて椅子にして、お喋りの準備は整った!
「さて。じゃあ早速で悪いが、お前が知っている限りのアルカナルームの情報を教えてくれ」
「おう!えっとな、えっとな……最初、『1』の部屋は、えーと、ぱずる?って海斗が言ってた。俺達と一緒に入ったんだけど、海斗1人で挑戦して、それで、1人で大丈夫だ、って言ってた」
「そうか。前回の僕はそれなりに考えていたらしいな」
最初に話すのは、『1』の部屋だ。これは、バカにとって『ちゃんと海斗に伝えなきゃ!』という印象の強い部屋だったので。
……そう。前回も海斗はちゃんとしていた。次回のことをちゃんと見据えて、色々と準備してくれていたのだ。バカが『やり直し』をした先で、上手にできるように、と。だから、覚えている。そして今、ちゃんと伝えられたのでバカはちょっぴり誇らしい!
「あとな、あとな、えーと、『3』の部屋は、ちょっとえっちな部屋……」
「……うん。まあ、『ちょっと』で済んだんだから、まだよかったな……」
……バカは、反省している。大いに反省している!
「それから、えーと、『4』の部屋はな、四郎のおっさんが入ったんだけど、その後で、海斗とタヌキが迎えに行ってぇ……なんか、『記憶がどうこうなるような仕掛けじゃなかった』って言ってた。多分、戦うかんじのやつだったみたいだった!あと、『5』も、なんか、偉そうな人ぶっ飛ばす部屋だったって!」
「5……ええと、何だろうな。皇帝か、教皇か……そこらだった気がするが。まあ、うん。とにかく、僕はあまり入らない方がいい部屋だろうな……」
『4』と『5』については、バカ自身の目で見たわけではないので、どうしても情報が薄い。自分が実際に見たことはあまり忘れないバカなのだが、聞いたことは割とすぐ忘れるバカなのである。
「『8』は……なんか、植物がいっぱいあって……その、皆、死んじゃった部屋だ」
……そして、次にバカが知っている部屋は、『8』の部屋だ。植物いっぱいの……皆が死んじゃった部屋だ。
ちょっと思い出して、それから、バカは改めて思う。今度こそ、あんな状況にはさせないぞ、と……。
「え、ええと、それから……俺と海斗と2人で入った部屋が、天秤があって、カードと頭蓋骨、両方同時に取らないとでっかい剣もった人が襲い掛かってくるやつ」
「つまりここ、『11』だな。……そうか、本来なら、ここはそういう部屋なのか……」
海斗は何とも言えない顔をしていたが、本来はそういう部屋である。だが、一度でもバカに突破されてしまった部屋は、概ねこうなる運命にあるのだ!
「うん!あっ、あとな!あとな!ここの剣が、結構いい工具でぇ……天井に穴、開けられるんだぜ!」
「……前回は天井に穴を開けたんだな?」
「うん!……あっ、でも結局、天井に行く前に色々あって、やり直しちゃったから……天井裏、見てないんだよなぁ……」
バカは前回を思い出し、ちょっぴり反省した。
折角なら、天井裏も覗いてくればよかった!
「あと、海斗だけじゃなくてタヌキも一緒だったやつが、なんか、水槽にコップいっぱい同時に沈めるとクリアできる部屋だった!」
「……『14』か。聞く限り、それは正攻法じゃないんだろうな」
海斗は、バカがバカであるがために記憶から消えている部分を推理しながら聞いてくれる。なのでバカとしては大変ありがたい。
「それから、えーと、俺と海斗とタヌキと四郎のおっさんとで最初に入ったのが、なんか、月の上?で、宇宙飛行士が旗ぶっ差そうとしてくるやつ……」
「『18』だな?月面、というと……『月』のアルカナか」
「多分それぇ!」
バカは、自分で拾ったカードの絵柄はなんとなく覚えている。確か、月のカードだった!
「あと……ヒマワリいっぱいの部屋があった……」
「……ヒマワリいっぱいの部屋?そ、それは一体、何番だ……?」
「わっかんねえ……えーと、確か、いっぱいの人で入ったから……腕輪ぶっ壊して、それで色々やってた時でぇ……デュオとヤエと海斗と俺だったんだけどぉ……
」
「……単純に合計すると、21だな。だが、確か大アルカナの最後は、『世界』だったはずで……それがヒマワリ畑、というのはちょっと……うーん」
海斗は、『世界がヒマワリ……どういう意味だ……?』と悩んでいた。バカはおろおろするばかりである!
「……すまない。僕が、大アルカナの番号と意味を暗記していればよかったんだが」
「い、いや、それ言ったら俺が何番がどこか覚えてればよかったからぁ……」
バカはおろおろしつつ、『俺がバカなばっかりに!』と嘆いた!
「そうか……ヒマワリ畑、か……」
……だが、海斗は何か、思い当たることでもあるのか、ちょっと首を傾げていた。バカが齎す情報が、何かの役に立てばいいのだが!
「えーと、えーと……あと、番号忘れたけど、海斗がデュオと一緒にどこか入った時に、『崩れる塔から走って逃げた』って言ってた」
「ああ、『塔』か。確か、大アルカナの中にあったな。……まあ、僕が生き残れるくらいなら、そう恐ろしい部屋でもないんだろう」
バカは『そんなことないと思うよぉ……』と思いつつ、でも、海斗やデュオが走って逃げられたのだから、まあ、少なくとも『100mを5秒で走れる人しか生き残れない!』というようなことはないのであろう。
「……それから、あの、さっき、七香と2人で入った部屋、なんだけど……」
そして最後にバカが喋るのは、『17』の部屋だ。
……七香と約束した、『ナイショ』の話だ。
「ああ……その、さっきデュオに、『ナイショ』と言っていたが、いいのか」
「あ、うん。海斗はいいんだ。七香が、『海斗以外には喋るな』って言ってたから」
ちょっと気遣うような顔の海斗ににこにこ顔でバカが返せば、海斗は『何故!?』という顔になってしまった。それはそうである。
「……待て。僕には喋ってもいいのか?何故?」
「え?俺が、海斗にも喋っちゃ駄目か?って聞いたら、海斗には喋ってもいい、って」
海斗はちょっと考えて……それから、天を仰いでため息を吐いた。
「……成程な。お前が挙動不審になって、僕に妙な勘繰りをされてしまうと、余計に『内緒』にできない、ということか。成程、七香さんは中々に聡明な人らしい……」
……バカにはよく分からないが、とりあえず、海斗は頭がいいし、七香も頭がいい。そういうことらしい!
「まあ、いい。それで、『17』の部屋には何があったんだ?」
「えーと、森の中で、綺麗な星空で、湧き水があってぇ……で、その池に七香が触ったら、水が、ぐわーっ、て来て、七香も俺も飲み込まれちゃってぇ……それで、なんか、気づいたら霧がいっぱいで、それから、あの、デュオが出てきて……」
バカの説明は上手くない。だから海斗は、全く話が見えないだろうに……それでも、真剣に聞いてくれる。なのでバカは、一生懸命思い出して、喋るのだ。
「ええと、多分、幻、だった……?いや、あの、偽物のデュオ、だったんだ。でも、そいつがいきなり出てきて、それで、よく分からないけど、女の人みたいな影みたいなの連れてきて、『恋人だ』って七香に紹介して……それで七香は、その女の人の影を、ぶちのめし始めてぇ……」
「異能で、か。ええと……確か、七香さんの異能は、不可視の手を操るようなもの、だったな?」
「うん。それで、俺も加勢してぇ……そしたら、タックルで偽物のデュオ、轢いちゃってぇ……」
ふと思い返せば、バカは今回、なんでもかんでもタックルで解決しがちである。像も骸骨の騎士も馬も偽物のデュオも、全部タックルで解決している。タックルは万能なのかもしれない。
「……それで、七香が、えーと……デュオに片思いしてる話、してくれた!」
「ま、待て!流石に話が急すぎる!何がどうなってそうなったんだ!?」
……が、この説明ばかりは、タックルでは解決できない!バカは頑張って、『七香、なんでいきなりそういう話、してくれたんだっけぇ……?』と思い出す羽目になったのだった!
「……成程な。つまり、どうも、七香さんはどこぞの社長令嬢で、どこかの会社を経営しているデュオと婚約関係になるかもしれない間柄、と……。その上で、七香さんの方が、デュオとの婚約に乗り気で、一方のデュオは他に思い人が居るらしい、と……?」
「多分それぇ!」
……そうして、バカの説明を海斗が懸命に紐解いて、ようやく、それらしい結論が出た。バカは、『伝わった!』と心から歓喜した!海斗、ありがとう!
「そうか……うん、成程な……。ええと、これで情報は全部か?」
「あ、うん。俺が覚えてるの、これで全部だ。なんか、分かることあるかぁ……?」
バカは、『俺がもっと賢かったらなあ……』とちょっぴりしょんぼりしながら、何やら考える海斗を見つめていた。
海斗は、バカが出せた情報を元に何か考えているらしい。やっぱり頭のいい人は一味違うのだ。バカは、『海斗は頭良くてかっこいいなあ……』と思いつつ、じっと海斗を見つめ続け、海斗はそんなバカを気にせず、じっと考え続け……。
「……樺島」
「うん?」
海斗は顔を上げて、何か……迷うような、少し怖がるような、そんな顔をした。
「1つ、僕の中で、ある仮説ができた。だが……自信が持てない」
「えっ、自信持っていいぞ!海斗は頭いいんだぞ!」
「……そう言ってもらえるのはありがたいが、そういう話じゃない」
そういう話じゃなかったらしい。バカはしょんぼりした!
「その……1つ、何かを思いついてしまうと、それに囚われて、思い込みに引きずられた思考しか、できなくなるだろう?」
「ほえ……?」
バカは、考えた。
……考えて、考えて、はっとする。
「……俺、それ、なったことないかも……」
「ああそうだろうな……!お前はそもそも思考するということをあまりしない奴だったし、思い悩むことなどほぼしない奴だった!」
海斗はげんなりとした顔で天を仰いでいたが、『ああくそ』と首を横に振って、それから苦笑する。
「まあ……そういうお前だからこそ、もしかしたら、僕とは違うものの考え方ができるかもしれない。そういう訳で、少し、僕の方の情報を聞いてくれないか」
……そして。
「実は、お前が今話してくれた部屋の情報を、僕は既にいくつか知っていたんだ」
海斗のいきなりの告白に、バカは大いに驚いた!
「え、あの、つまり、海斗も、やり直し、て……?」
バカが『どういうことぉ……?』と混乱していると、海斗は苦笑して、教えてくれた。
「ああ、違う。やり直しや記憶の保持ができた訳ではなくて……天城さんから聞いていたんだ」
「へ?」
「ほら。彼は『陽』の時から『天城』になるまでの間に、色々なデスゲームに参加して来ているだろう?だから、どんなルールの、どんなゲームがあるところに参戦したかを聞いておいたんだ。木星さん曰く、同じ会場を手直ししながら何度も使い回すのは恒例らしいし、なら、何かは参考になるだろうと思ってな」
バカは『ほえええ……』と感嘆のため息を吐いた。
海斗は、すごい。バカが『デスゲーム解体に向けていっぱい食っていっぱい寝ておこ!』とやっていた横で、予習に余念がなかったということであるらしい。海斗は、すごい。本当に、すごい!
「それで、『詳しいルールは忘れたが、タロットカードとセフィロトをモチーフにしたデスゲームがあった』ということは、聞いていたんだ。ついでに、お前がさっき言っていたものの中のいくつか……『ヒマワリ畑』や『骸骨の騎士』の部屋の話もあった」
海斗はそう言って、それから少し、考えた。
「まあ……つまり、恐らくは、天城さんになる前の陽は、今、僕達が居るこのデスゲームの会場に居たことがあるんだろう」
「そ、っかあ……天城の爺さんが、この会場に……」
バカは、なんだか不思議な気持ちできょろきょろと辺りを見回す。
この部屋にも、もしかしたら、かつての天城……であり、『そうならなかった未来』の陽が、居た、のかもしれない。そう考えると、なんだか不思議な気持ちになってくるのだ。
「……と、まあ、僕はそう思っていたんだが」
だが、海斗はふと、そう言って唇を引き結び……そして、バカを見つめた。
「なあ、樺島。もし……もし、かつての天城さんが、今、この会場に参加者として存在しているなら……誰だと思う?」
バカは、ぽかんとしていた。
……ぽかんとしたまま、ぼんやりと考え……そして、『ああ、そういうことかぁ』と、なんだか納得してしまっていた。
頭がいいんだなあ、と思った。
話し方がちょっと似ている気がした。
『デスゲームの解体』に、興味があるみたいだった。
そして、彼には、命を賭しても……そして、他の誰をも踏み躙ってでも、救いたい人が居る。
「……デュオだと思う」
バカは、するり、と、そう結論を出していた。




