ゲームフェイズ1:『17』星3
「つ、つまり、デュオが浮気野郎ってことか……?」
バカは、蚊の鳴くような声でそう発した。バカはもう、何に対して何を言ったらいいのかも分からない状態だ!
バカには、この手の話は難しすぎる!難しすぎるのだ!
「いいえ……まだ、彼は婚約者じゃないもの」
「あ……ちがうのか……?」
更によく分からなくなって、バカは頭を抱えて唸って……そして。
「……七香の片思い、っていうことか?」
「……まあ、そういうことでしょうね」
バカが考えて出した結論は、どうやら合っていたようである!よかった!ただし、七香にはちょっと呆れられたが!
「そっか、デュオ、浮気野郎じゃないのかぁ。よかったぁ……」
「酷い人、ではあるけれど。私の気持ちなんて、とっくに知ってるでしょうに」
バカがほっと胸を撫で下ろしていると、七香が自嘲気味に笑うものだから、バカはまた混乱する。『デュオは酷いやつなのか!そっか!』とまた認識を改めた。バカの中で、デュオの評価がぐりんぐりん回転中である。結局酷いのか酷くないのかよく分からない!
「彼にとってこちらの資産は魅力的なのでしょうし、立場もきっと必要なのね。だから思わせぶりなことを言って、でも、決定的なことは言わないの。きっと、好きな人が他に居るから」
七香の言うところが具体的にどういうものなのかは、バカには分からない。分からないが……七香が辛そうだな、ということだけは、バカにも理解できた。
「いつの間にか、私ばかり夢中なんだもの。本当に……」
……七香はそこで言葉を途切れさせて、黙った。
バカも黙って、そのまましばらく、2人で泉の水面を眺めていた。水面に映る星空が、綺麗だった。
「……その、デュオが酷い奴なんだったら、他の奴にしといた方がよくないか?そういうもんでもないのか?」
それからしばらくの沈黙の後、バカは一生懸命考えて、そう口にした。
……多分違うんだろうなあ、とは思うのだが、それでも何か、言葉をかけたくて。
すると案の定、七香は呆れたように笑った。……でも、笑ってくれたので、ちょっとだけ嬉しいバカである。
「そう割り切れるならその方が賢いと思うけれど。でも、恋とは愚かしいものでしょう?」
「そ、そうなのぉ……?」
バカには難しい話である。つまり、『愚かしい』というのは、多分、『バカ』より賢いのだ。言葉の響きからして、そうだ。『愚かしい』の方が『バカ』よりなんとなく賢そうだ、とバカは納得した。
そうして、七香は水面の星空を見つめたまま、呟いた。
「……親が決める結婚でも、どうせなら恋がしたかったの。愚かね」
……バカはそれを見て、『わああ……』と、畏怖とも尊敬とも感嘆ともつかないため息を吐く。
なんというか……七香が、あんまりにも綺麗で。
……バカは、ふと、思い出していた。キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部に遊びに来ていた陽が、かにたまとたまのガールズトークの場面を見て、『女の子って、恋をすると可愛くなるんだよ』とにこにこしていたのを。
バカは、『陽!あれ、ほんとみたいだぞ!』と、心の中で陽に報告しておいた!大発見!
「……そういう訳で、先程の幻は恐らく、私の望みを反映したものだったのでしょう」
バカが七香を見つめていたら、七香がそう言ったので、バカは『ああ、さっきの影……』と思い出す。
デュオの隣に居た、女性の影。はっきりとした姿は分からず、しかし、デュオの隣に居て、デュオが幸せそうに紹介してきて……そして、七香の異能とバカのタックルによって霧散させられた、あの影だ。
「嫉妬に狂った醜い女の願望が、あれだったということ。くれぐれも、内密に」
七香は少々渋い顔でそう締め括ってため息を吐いた。……ので、バカは、頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべて首を傾げる。
「みにくい……?七香、綺麗だと思うぞ……?」
……すると、七香はきょとん、としてしまった。バカは、『七香ってこういう顔もするんだなあ……』とちょっと不思議に思った。
だが、それもほんの3秒程度のこと。七香はすぐ、呆れたような顔になってしまった。バカは、『七香ってちょっと海斗に似てるのかもしれない……』と思った。海斗もこういう風に、きょとんとした後に呆れ顔を作ってみせることがあるので……。
「……とにかく、他言無用です。あなたは海斗さんに伝えなければならないようですけれど、それ以外の人については……」
「分かってるよ!特に、デュオにはぜってーに言わねえ!約束だもんな!」
そうして、七香に念押しされたバカは、元気に返事をする。
七香の話は難しくて、よく分からないことも多かった。だが、『海斗以外にはナイショ!特に、デュオにはナイショ!』というところは理解できているバカである。
「……俺、約束は守るよ。ほんとだよ」
「……そう」
くす、と笑う七香は、バカのことをバカにするような、呆れたような、そんな様子であったが……なんとなく、バカは嬉しい。
難しい話ではあったが、それでも、『七香はどうやらデュオに恋をしていて、それでなんか辛いようである』ということは、分かったので。
……『七香ってちゃんと人間なんだなあ』と分かったので、なんだか嬉しいのであった!
そうして、バカと七香は大広間へ戻ることにした。
七香は丸太椅子から立ち上がって、バカのハンカチを拾って、ぽふぽふ、と木屑を払って、きちんと畳んで返してくれた。バカは自分のケツに敷いていたハンカチを適当に丸めてポッケに突っ込んだ直後であったので、『ああ、ちゃんとしてる人って、こういうところもちゃんとしてる……』と感心した!
「大広間……もう、海斗とデュオ、戻ってきてるかなあ……」
エレベーターに乗り込み、『大広間』のボタンを押したバカは、ふと、今まですっかり頭からすっぽ抜けていたことを思い出す。
……そう!海斗とデュオは、『3』のアルカナルームに入っているのである!
「……そういえば、心配していましたね」
「うん……。海斗、大丈夫かなあ……」
バカは、そわそわ……としながら、天井を見上げる。天井には特に何も無いが、なんとなく、大広間があるであろう方を向いておきたくて……。
……心配なのである!
「海斗ぉー!」
そうして、個室のドアが開くや否や、バカは勢いよく大広間へ駆けだしていった。
……だが。
「……まだ戻ってきてない!?」
「そのようですね」
そう。海斗とデュオが使っていたデュオの個室が、まだ、沈んだままなのである。……まだ、戻ってきていないのだろう。
「残り時間は45分、ですね。彼らが出発したのは残り70分より少し後でしたから……もう、25分出てこないことになりますね」
七香はそう呟くと、ふ、と周囲を見回して、小首を傾げた。
「使用中の個室は、デュオさんの個室、四郎さんの個室、そして9番の個室、ですね。……私達が『17』のアルカナルームに入る時には、デュオさんの個室、タヌキさんの個室、9番の個室が使われていましたから……他2つのチームも、一度は戻ってきていることになりますね。恐らくは」
「そうなのか!?」
バカは『俺、どこがどうで誰がどこだか全然わかんねえのに!七香すげえ!』と尊敬の眼差しを七香へ送った。七香には無視されたが。
「……四郎さんの個室は『5,8,9』のアルカナルームに、9番の個室は『17,19,21』のアルカナルームに繋がっていますから……タヌキさん、四郎さん、五右衛門さん、むつさん、ヤエさんの組み合わせで実現可能なのは、『5番と21番』と『9番と17番』の組み合わせしかありません」
そして七香が何か、結論を出したので、バカはぱちぱちと拍手を送る!よく分からないが!
「となると、『五右衛門さんとそれ以外』に分かれた、と考えるのが妥当でしょうね。今、ここに誰もいないわけですから……」
バカはまた、ぱちぱちと拍手を送る!よく分からないが!
……が、流石に、七香も『どうせこれは理解していないだろうな』と察したらしい。はあ、とため息を吐いた。バカはちょっとしょんぼりした……。
「……人を余らせてもよいなら、『5番と17番』の組み合わせで四郎さんが残るものも考えられます」
が、七香はなんと、分かっていないバカのために、より深く説明してくれるらしい!バカは嬉しくなった!
「しかし、今、この場には誰も残っていません。……どこかに隠れているのでもない限りは、人が余ることなく分かれた、と考えるのが妥当です。それならば、『5番と21番』に分かれたと考えるしかありません。『17』のアルカナルームは、私と樺島さんが攻略し終えていますから」
ふんふん、とバカは頷く。……見回す限り、人はいない。ちゃんと、それぞれの個室や陰になっている部分もテケテケと走り回って確認してきたが、やっぱり人は居ない。なので七香の言う通り、『五右衛門とそれ以外』に分かれたのであろう。
「私と樺島さんが『17』のアルカナルームを攻略し終える前に部屋に『17』に入ってしまった、と考えるなら……『9番と17番』の組み合わせも考えられますが、部屋が攻略済み表示になる瞬間が 『カードを会得した瞬間』にあるのであれば、私と樺島さんがカード会得までにかかっていた時間を考えると……無理があるかと」
「えっあっ、俺、もうわかんない……」
「……そうですか」
……七香は色々と説明してくれたのだが、結局、バカの理解は追い付かない!とにかく、いっぱい可能性はあるのだ、ということは分かった。同時に、それらの中で一番可能性が高そうなのが、『五右衛門が5番に入り、タヌキ、四郎、むつ、ヤエの4人で21番に入った!』であるらしい!
「……七香って、頭いいんだなあ」
「そうでしょうか」
「うん……」
バカは、『やっぱり七香ってすげえなあ』と思いながら、『一方で俺はバカだなあ……』とも思って、またしょんぼりしてしまう。
「樺島さんは……」
七香は、そんなバカを見て、少し考えて……それから、ふっ、と笑った。
「……きっと、それも美徳の内よ」
「……そうかなあ」
「ええ。きっと」
そうかなあ、そうかなあ、美徳かなあ、とバカはもそもそ口の中で呟いて……そしてやっぱりなんだか、美徳のような気がしてきた。
海斗も、同じようなことを言ってくれたことがある。だからバカはバカでいいのだ、と思っている。
そう思い出したら、バカは元気になってきた!
「変な人」
「うん!それはよく言われる!」
明るく楽しく、変な奴!そしてバカなので風邪ひかなくて、健康!バカはそういうバカでありたい!
なのでしょんぼりしている暇など無い!バカは早速、元気いっぱい、社歌を歌い出した!
……社歌を聞いていた七香は、はじめこそ『ああ、建設会社の社歌か何かかしら』という顔をしていたが、歌がサビに入り、『おおー!キューティーラブリーエンジェル建設ぅー!あぁあー!キューティーラブリーエンジェル建設ぅー!』という歌詞が出てきてからは……『一体何の歌かしら』と眉を顰めていた。
そしてバカはそんな七香には全く気付かず、元気に社歌を歌い続けるのであった!
……そうして、バカ達が大広間に到着して、5分ほど経った頃。
ふっ、と、デュオの個室が上がってきた。なので、バカと七香はそれぞれに走って、デュオの個室へと向かい……。
「……海斗ぉ!無事だったあああああ!よかったぁああああ!」
「ああ……まあ、一応、無事……うん、そうだな、無事だ……」
海斗とデュオが、無事に戻ってきたのだった!よかった!
ただし。
「樺島……」
海斗は、疲れた様子でふらふらと歩いてくると、じと、とバカを見上げてきた。
「……次回以降の僕に伝えてくれ。『3』のアルカナルームには、極力入るな、と……」
……ああ!海斗の元気が、無い!
やっぱり『3』は、こう……ちょっとえっちな部屋だったのだろうか!




