ゲームフェイズ1:『20』審判
「なんもない部屋だぁ……」
「何も無い部屋、だな……」
バカと海斗が、『わあー……』と声を上げつつ見回してみるも……部屋の中には、何も無いのであった!
「真白い部屋、か。……何か、意図があるんだろうけれどな」
床も天井も壁も、全てが真っ白な部屋には、本当に何も無い。ただ、部屋の中央に、カードが一枚、ぽつんと落ちているだけだ。
バカは早速、てってけ、と駆けていき、カードを拾った。拾ったら何か起こるか、と思って身構えたのだが、何も起こらない。やっぱりここは、『なんもない部屋』であるらしい!
「……『ジャッジメント』か。となると、いよいよ部屋の意図が分からないな」
バカが持って帰ってきたカードを見て、海斗は首を傾げる。
カードには、バカには読めない英語が書いてある。これが『じゃっじめんと』であるらしい。バカが『じゃっじめんとって、何……?』と頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべていると、海斗が『審判、という意味だ。ほら、スポーツとかでもジャッジ、という言葉は出てくるだろう』と教えてくれた。バカ、理解!
「デュオさん。タロットカードには詳しいですか?」
そして海斗がそう尋ねると、デュオは曖昧に笑った。
「……そうだね。まあ、少しは知識がある、という程度でしかないよ。番号に対応する大アルカナを粗方把握している、というだけだ。占いができるほどじゃないかな」
デュオがそう言うのを聞いて、バカは『こういうのって、どうやって覚えておくんだろうなあ……』と不思議に思う。海斗が『セフィロト』を『一応覚えているぞ』とやっていたのもびっくりだが、デュオはなんと、22枚あるというタロットカードを全て覚えているらしい!びっくりである!
「ただ……『審判』のカードには、『復活』『覚醒』『敗者復活』なんかの意味合いがあった、と思う」
が、更にそこでデュオがそんなことを言うので、バカは更に驚いた!
「歯医者復活!?俺、歯医者さん苦手なんだけどぉ!?歯医者さんが復活するのぉ!?なんでぇ!?」
「何故デンタルクリニックの話だと思った!?」
そして即座に、海斗に後頭部をすぱしん、と叩かれた。いつもの如く、バカの後頭部にはノーダメージである。海斗の手にはちょっとダメージが入っているかもしれない。これを常々申し訳なく思うバカである!
そうして、バカは海斗から『敗者復活戦、というものがあるだろう?それのことだ』と解説されて無事、物事を正しく認識した。恐らく、正しく認識した。
「……そうか、樺島君はこういうタイプか」
そんなバカと海斗を見ていたデュオは、苦笑いしている。バカに慣れた海斗ならともかく、初見のデュオには理解しがたいバカさ加減であったらしい。
「あ、うん……俺、バカだからぁ……ごめんなぁ……。多分、いっぱい迷惑かけるからぁ……」
バカは、しゅん、としながら先に謝っておく。バカはバカなので、そういう迷惑をたくさんかけるのだ。海斗には既に、大いにかけているところである。
「ああ……まあ、なんとなく、樺島君と海斗君の関係が理解できたよ」
「そういうことだ。こいつは僕が居ないとまともに活動ができそうにないから……できるだけ、僕と一緒に組ませてもらえると嬉しい」
「俺も、海斗が一緒じゃないと色々やっちゃいそうだから、海斗が一緒だと嬉しい……」
「まあ、そういうことなら」
だが、こうしてデュオの理解を得られたようなので、これはこれで良かったのだろう。
バカは海斗と一緒に居ないとまずいのだ、ということは、大いに知らしめていきたいところであるバカなのだった……。
「さて。じゃあ、カードは手に入っちゃったけれど……それは、樺島君が持つ、っていうことで、いいのかな」
「えっ、いいのか?」
そうしていると、デュオがカードの取り扱いについて言及してきたため、バカはまた驚いた。今回は驚くことばかりである!
「でも、俺がカード貰っちゃったら、デュオの分が……」
バカは、おろおろ、としながら、海斗とデュオを代わりばんこに見つめる。……すると。
「……そうだな。ここはレディーファーストだ。七香さん、どうぞ」
「え?」
海斗が、すっ、とバカの手からカードを取って、七香に差し出した。
「……私、ですか?」
七香は、困惑している。……七香も困惑することがあるのだなあ、とバカはちょっと嬉しくなった!
「その代わりと言ってはなんですが……この次の部屋、僕達と組んでください。できたら、樺島と僕と一緒に、『18』をお願いしたい」
「……そうなると、デュオさんは1人になってしまうのでは?」
七香は少し、考えてからそう言った。更に、七香がちらりとデュオを見ると、デュオは笑顔で『大丈夫』と頷く。
「それなら俺は『2』に1人で入るよ。1人でしか入れない部屋なんだから、まあ、そういう前提で作ってあるんだろうし……」
デュオがそう言うなら、と、七香はカードを受け取った。……だが、そこでデュオは『あっ……いや、でも』と声を上げたので、バカも海斗も七香も、デュオを見つめることになる。
……すると、デュオは。
「……あー、でも、できれば1人で入るのは、他のアルカナルームの様子を見てからの方が嬉しいかな……。この部屋はあまりに何も無くて、何の参考にもならないし……」
至極当然のことを言うのであった!それはそうである!いきなり1人でアルカナルームに入るなら、『そもそも他のアルカナルームってどういうものなの?』というのが分かってからの方がいい!
だというのに、今回のこの『20』の部屋は……何も無かった!何も無いんだから、何の参考にもならないのである!
「あっ!そういうことなら、俺とデュオで組むか!?それで、海斗と七香で組む……のは、ええと、どう……?」
なのでバカはそう提案した。流石に、デュオ1人がのけ者になってしまうと可哀想であるので……。
「いや、『8』は頭脳派の海斗君と、女性の七香さんには辛いんじゃないかな。確か『8』番は、『ストレングス』……『力』のアルカナだ」
が、デュオはデュオで、また別のところが心配であるらしい。頭がいい人は沢山の情報が見えているから、沢山心配事があるのだろう。
……それに、バカとしても、海斗と七香を『8』に送り込むのは、ちょっと、怖い。
前回の最後に入っていたあの植物まみれの部屋が、『8』のアルカナルームだったことは、鮮明に記憶されている。
「そう……だな。生憎、僕は力にはそう自信がある方じゃない。それに、七香さんも、まあ、女性であることだし……僕ら2人で、というのは、得策じゃないかもな」
そして海斗もそう頷くので、バカも『だよなあ』と頷いた。
……バカも海斗も、七香が『女性だったとしても、そんじょそこらの男より強い力を異能で発揮することができる』ということは、分かっている。
だが、分かっているからこそ……そんな七香と海斗を2人きりにするのは危険なのである!バカは、そう判断した!
「でも、俺と七香さんで組んで『9』に入るのも……ちょっと、できれば避けたいね」
続けて、デュオはそう言い出す。どうやらデュオは、『バカと海斗』『デュオと七香』の分け方も、嫌であるらしい!
「えっ、なんで?」
「……五右衛門さんが言っていたけれど、本来なら、『9』の腕輪の人が居たんじゃないかと、思うんだ。だから、まあ、『9』に何かあるんじゃないか、ってね。特に、『9』のアルカナは『隠者』だ。丁度、それらしいアルカナでもあることだし……」
成程。どうやらデュオは、『9』のことを……つまり、本来居るはずの孔雀の番号のことを、警戒しているらしい。
「そういうの分かるの、ほんとすげえなあ……」
「まあ、お前は苦手だよな、こういうの……」
バカは、『はええ』と感嘆しつつ、デュオを褒め称えた。やっぱり頭がいい人っていうのは、すごいのだ。
「そういう訳で、俺と海斗君で組んで、樺島君と七香さんで組む、というのはどうだろう。その後、七香さんと樺島君と海斗君の3人ということなら、俺も1人で『2』に入るのは気が楽だし。そうすれば、君達は3人で『18』に入れる」
「そう……だな。タヌキには悪いが、まあ、タヌキと四郎さんに七香さんの『7』の部屋を渡していることだし……2人以上で入れるなら、2人以上で入った方がいいんだろうし……」
海斗も何やら納得した様子であるので、バカもふんふんと頷いた。海斗がいいなら、バカはそれでいい。……デュオと海斗の2人組、というのも、少し危ない気がするが……でも、どのみち、危険を冒さなければならない場面では、ある。
七香とデュオが前回、あのように立ち回ったことを考えれば、やはり、今回はこの2人の情報を手に入れたい。孔雀が居ない分、バカは七香にアタックしていかねばならないのだ!
ということで、バカ達はすさまじい速度で『20』の部屋を攻略し終え、大広間へ戻った。
「当然だが、誰も戻ってきていないな……。やれやれ」
バカは、ひょこひょこ、と部屋のタイマーを確認しに行った。……残り時間68分。この部屋を全員が出たのが残り時間75分ぐらいだったから、5分くらいで出てきちゃったことになる。史上最速である!
「まあ、何も無い部屋なんて、他には無いだろうから……他のチームが戻ってくるのは、10分か20分か……そのくらいは先なんじゃないかな。一部屋30分目安くらいにゲーム設定されてるんじゃないか、と俺は思うけどね。まあ、分からないか」
デュオの言う通り、この状況で他のチームを待つのは時間の無駄であろう。となると……先程、デュオが言っていた通りの組み合わせで、次のアルカナルームに挑むことになるのだろう。
「じゃあ、行ってくる。そっちも、気を付けて」
「お、おう……気をつけてなー!」
そうして、バカと七香は、海斗とデュオを見送った。
……バカとしては、不安である。デュオは、タヌキを人質に取ったし、その前は海斗を狙っていたわけだし……。
と、考えて、ふと、バカは気になってくる。
「そういえば、デュオって、海斗のこと、気になるのかなぁ……」
……今回、デュオの方から海斗に声をかけて、このチーム編成になった。デュオ曰く、『数が小さい者同士で組むメリットが大きい』ということだったし、バカには『そうなのか?』としか思えないのだが……それ以外にも何か、理由があるのだろうか。
バカはちょっと考えてみたのだが、結局、何も思いつかなかった。『同じ頭脳派っぽいから気になってるのかなぁ……。孔雀が居なかったら、頭脳派、デュオと海斗だけだもんなあ……』などと思ったが、答えらしいものには辿り着かない。まあ、バカの考え休むに似たり、なのである。
「では、私達も参りましょうか」
「お、おう。よろしくな!」
そして何より、バカはバカで、頑張らねばならない。
……今、目の前には七香が居る。やはり七香は前回同様、表情らしいものをあまり浮かべてくれない。否、前回よりは、言葉も表情も反応も、多いような気もするのだが……気のせいかもしれない!
「え、えーと、俺達、何番に入るんだっけ?」
「海斗さんとデュオさんが、『3』のアルカナルーム、私と樺島さんが『17』のアルカナルームですが」
七香は、『まさかもう忘れたのか』と言わんばかりの目をバカに向けてくる。だが実際、本当にそのまさかで、すっかり忘れていたバカは『その通りです……』としおしおするしかないのである。
「そっか。海斗達が『3』で、俺達が、『17』……」
……そしてバカはそう確認して……ふと、脳裏に引っかかるものを覚える。
『3』の部屋に何か、あったような気がして……。
「……樺島さん?」
「あっ……」
……七香が不審げな目をバカに向けるようになった頃、バカはようやく、思い出した。
そういえば『3』のアルカナルームって、タヌキが『ちょっとえっちな部屋でした!』と言っていた部屋だった!と!




