ゲームフェイズ1:大広間2
デュオが海斗に声を掛けるという驚くべき事象を前にして、バカは大いに混乱している。そんなこと、前回は起こらなかったのに!
……だが、バカは記憶をたどってみて、『あ、もしかしたら前回、孔雀が最初にチーム分けの話、し始めたんだったかも……』とぼんやり思う。記憶は定かではないが、少なくとも、孔雀が場をリードしていたことは、なんとなく覚えている。
その孔雀が何故か居ない今、デュオが先陣を切った。そういうことなのだろう。
「……何故、僕と?」
だがそれでも、『何故、海斗?』という疑問は残る。バカもそうだが、海斗自身も、大いに戸惑っている様子であった。
……すると。
「え?一番数が小さいから……」
デュオは、『まさかそこを聞かれるとは』とでもいうかのような表情で、そう答えたのである。
……バカは、『数が小さいとなんかあったっけぇ!?』と、頭を抱えた。バカなのである。バカだから、戦略も何もかも、分からないのである!
「数が小さい者同士で組むことにはメリットがある。より多くの人数を確保できる、ということに直結するからね。……それに、まあ、君と組むと樺島君も付いてくる。そういうことだよね?」
「そうだぞ!俺は海斗と一緒だからな!」
だが、バカは『俺と海斗は仲良し!』というところだけは分かっているし、そこを大いにアピールしていく所存でもあるので、ここは胸を張って答えられる。単純明快なバカなのであった。
「……まあ、構わない。勿論、僕は樺島と一緒に動く。少なくとも、最初はそうしたい。それでいいなら、組もう」
海斗も、少し迷った様子だったが、OKを出した。となると、バカは次はデュオとも一緒、ということになる。
デュオ、よろしく!
「俺もそれでいいよ。となると……腕輪を見る限り、俺は『2』だ。海斗君は『1』だったね。それに樺島君の『10』を足して、13、か。……となると、あと1人は入れられるけれど。どうしようか」
デュオが、ちら、と他の面々を見渡したのを見て……バカは、『確か、最初はできるだけいっぱいの人と組んでチームになった方が、ゲームクリアした後、すぐに次の合計の数を作ってアルカナルームに行けるから、便利……なんだったよな?』と思い出した。バカにしては、非常に頑張った!
そして。
「でしたら、私が」
……七香が、手を挙げた。
七香が……七香が!前回、1人でいることしか無かった七香が、ここで!手を挙げたのである!
バカ、重ね重ねびっくり!
「……まあ、それで合計は『20』か。……そういうことなら、それで構わない。となると、僕達のチームは4人で打ち止めだな」
そうして、バカ達のチームができてしまった。
……バカと海斗、そして、デュオと七香、というチームである。
デュオと七香は、恐らく、なかよしだ。隠してはいるようだが……七香の、あの時のあの表情を……デュオに向けた笑顔を思い出すと、どうにも、バカはそわそわ落ち着かない気分になってきてしまう!
そんなデュオと七香だから、一緒に組むのはちょっと、緊張する。
前回、デュオがタヌキを人質に取ったことを、バカは忘れていない。
前回、七香が恐らく、ヤエを殺した。それも、バカは忘れていない。
……だが、これはチャンスでもある。
孔雀が居ない以上、次に調べる予定だった七香について調べなければならないのだ。危険はあるかもしれないが、それでも、チャンスであることは間違いないのだ。
「えっと……よろしくな、デュオ!七香!」
「ああ。よろしく」
「よろしくお願いします」
……そうしてバカは、デュオと七香と、握手した。……七香とも、握手した!前回は無視されたのに!
バカは、『なんか、前回とは色々違うなあ……』と思いつつ、しかし、『前回とは違うんだから、もしかしたら、前回仲良くなれなかった奴とも仲良くなれるかもしれない……』と希望を胸に抱く。
前向きなことは、このバカの美点の1つなのだ!
「えー、とぉ……そうなると、残ったアタシ達は、どうする?5人だけど」
続いて、残る5人のチーム分けが始まる。
「えーと、えーと、私が『3』でぇ……四郎さんが『4』で、五右衛門さんが『5』で、むつさんが『6』でヤエさんが『8』ですから、合計すると26になっちゃいます、ねえ……。2チームに分かれる必要がありそうです!」
タヌキが一生懸命にそう主張すると、『まあ、足し算の結果、そうなるわよねぇ』と五右衛門も頷き……そして。
「……これ、誰も触れないから、言っちゃうけどさ。絶対に、本来なら『9』の腕輪の人が居た、わよねェ……?」
……五右衛門が、そう、緊張気味に切り出してきたのである!
「ゲーム開始前に脱落、ってこと、かしらぁ……?えっ、やだ、あの個室、そういう仕掛け、あったぁ!?」
「あっ!そういえば、個室で待機する時間の間、個室の外からなんだか、誰かの絶叫みたいな、そんな音が微かに聞こえてきていました……!」
タヌキと五右衛門が怯えているが、それはバカの遠吠えである。
「……俺も聞いた。それで、物音の少し後と、更にそれからしばらく後と、2回ほど外を覗いたんだが……暗いばっかりで、何も見えやしなかった」
四郎も眉間に皺を寄せているが、それはバカの遠吠えなのである。そして、四郎が実は、バカと海斗が見ていなかった間にもう一回、ドアを開けていたことが判明した!
「エッ!?個室のドアって開けられたんですか!?私、そんなの知りませんでしたよ!?一体どうやって!?」
「あ、私も開けたよ。なんか、ドアとか部屋の中とか色々、ガチャガチャしてたら開いた!」
「ガチャガチャしてたら!?そんなお行儀の悪いことを!?このタヌキはお行儀よく、ちゃんとベッドの上で正座していたというのに!?」
「ちょっとぉー、タヌキあんた、正座、できるのぉ……?その脚でぇ……?」
むつからは『なんかドアとかガチャガチャしてたら開く!』という情報を得られ、タヌキからは『タヌキはお行儀よく待っていました!』という情報を得た。
……前回はバカもお行儀よくベッドの上で正座していたので、タヌキにいよいよ、親近感が湧いてきたバカであった!
「……ま、『9』の奴のことは気になるが。今は組み分けだな。どうする、五右衛門。俺と組むか?」
「えっ、あー、どうしましょ……うーん、女の子が1人になるようなことには、したくないのよねぇ……。ねえ、むつちゃん、ヤエちゃん?あなた達、どうすんの?」
四郎が五右衛門に話を振ると、五右衛門はちょっと困ったように、むつとヤエとを代わる代わる見つめる。……五右衛門は、いい奴なのだ。多分。バカは、そう思う。前回は、ちょっと、怖かったが……あれもきっと、事情があるのだろう。
「あっ!じゃあヤエちゃん!私と一緒に組もう!ね!私とヤエちゃんとで、えーと……『14』の部屋!」
そうしている間に、むつがヤエの手を取っていた。
ヤエは少し困惑した様子だったが、『私で、よければ』と頷いた。むつは、にこーっ!と笑って、『ヤエちゃんよろしく!』と元気に握手していた。バカはむつにもちょっと親近感を覚えた!
「えっ、だったらアタシもそこに入れて!女子会ってことにしましょ!ね!」
が、そこへ入っていくのが五右衛門である。すごい。バカにはできない所業である!だってバカは……そして五右衛門も多分、女子では、ない!
「……え、えーと……ヤエちゃん、どう?五右衛門さんも一緒でも、いい?」
「あ、うん……」
むつとヤエは困惑気味ではあったが、一応、五右衛門と一緒でもよし、ということにしたらしい。こうして、五右衛門とむつとヤエのチームが完成した。このチームは、『19』の部屋に入るのだろう。
「……ってこたぁ、俺はこのタヌキと、ってことになんのか……」
「はい!そういうことです!どうぞよろしくお願いします!」
……そして、四郎はタヌキと組むことになった。前回、タヌキと四郎は仲良しになっていたので、今回もきっと上手くいくと思われる。バカは大いにニコニコした!
「おい、七香。それでいいか?悪いが、俺とタヌキとで組むことになっちまったら、あんたが1人で入れる『7』を潰すことになる」
が、ここですぐさま即決しないのが四郎である。バカは、『やっぱり四郎のおっさんって、ちゃんとしてるんだなあ……かっこいいなあ……』と、ますますニコニコ顔になってしまった。
……そして、七香は。
「構いません。1人で入るのはリスキーだと、思っていましたから」
……なんか、前回と、やってることと言ってることが、違う!
バカは大いに驚きまくっているが、七香は涼しい顔をしているし、デュオが横で『成程ね』などと頷いている始末だ。
「まあ、2人以上で入れる部屋は、2人以上で入ることを前提にしていると思うよ。……つまり、危険が大きい、っていう風にね。そういう意味では、『7』の部屋はタヌキと四郎さんに入ってもらった方がいいかもね」
デュオもそんなことを言ったものだから、いよいよ、七香は『7』の部屋は譲る、ということになってしまった。あの七香が、である。
……バカは、思った。
『今回、頑張って七香のことよく知らねえと……』と。
七香は……やっぱり、何かある!バカの勘と、そもそもの今までの出来事がそう告げている!
「じゃあ、皆、無事で。……発表フェイズに、また会おう」
そう海斗が言う中、皆、それぞれの個室へと入っていく。
『7』に向かう、タヌキと四郎のチームは、タヌキの個室へ。
『19』に向かう、五右衛門とむつとヤエのチームは、本来孔雀の個室だった個室へ。
『20』に向かう、バカと海斗とデュオと七香のチームは、バカの個室へ。
……いよいよ、ゲームが始まるのだ。
今回、バカ達が入る部屋は……『20』。前回のバカが入らなかった部屋である。
バカは、『何があるのかなぁ……』と緊張しながら個室に入り、エレベーターを起動させる。
……そして、全員が無言のまま、エレベーターは到着し、ドアが開く。
「じゃ、いくぞ……?」
バカが確認すると、海斗が、そしてデュオと七香が、頷く。
それを見て、バカは決心を固めて、『20』と書かれたドアを開き……。
「……なんもない!?」
……そこは、何も無い部屋であった。
バカは、ぼんやり思い出す。
そういや前回、むつが『何も無かったのー!』と言っていた部屋があったなあ、それ、『20』だったかもしれねえなあ、と……。




