ゲームフェイズ1:大広間1
そうして時間がやってくる。
バカは、海斗と一緒に海斗の個室……『ケテル』の個室の中に居る。
『俺、元の部屋に戻らなくていいのかなあ』とバカは心配になってくるのだが、海斗は『ああ、これでいい』と言っていた。なので多分、いいのだろう。バカは一応、海斗から『作戦』を聞いているのだが……バカはびっくりするほど嘘が吐けないバカなので、この件は海斗に全て任せることにしている!
……なのでバカは、ただドキドキしているのだが……。
「……結局、光ったのは『コクマー』と『ケセド』と『ティファレト』と『ネツァク』か」
「へ?」
……だが、海斗はまた別のところに心配があるらしい。
「ドアのセフィロトの図だ。……つまり、デュオと四郎とむつさんと七香さんが、ドアを開けたらしい」
思ったよりいっぱい、ドアが開いていた!バカはびっくりしている!
「そ、そっかぁ……デュオと四郎と、むつ……?え、なんか、不思議な組み合わせだな……」
「時間はバラバラだったけれどな。うーん……ドアの開閉のタイミングを見るに、四郎さんと七香さんはちょっと外を見て、すぐ閉めた、というくらいか。四郎さんは1回、七香さんは2回、ドアを開いていた。むつさんとデュオは、少し外の様子を見て回ったかもしれない。ドアが開いていた時間が、そこそこ長かった」
海斗はよく見ている。バカは、『ほええ』と感嘆のため息を吐いた。海斗はやっぱり、すごいのである!
「まあ、僕らも今回、全てを見ていたわけじゃない。ドアの仕組みに気づいてから今までの間しか、見ていないからな。……樺島。もし、『前回』、どのくらいのタイミングでどのあたりが光ったかを覚えていたら、教えてくれ」
「うーん……」
バカは、海斗の期待に応えるべく、思い出す。バカなので、覚えていないことは思い出せないが、だが……。
「俺、えーと、覚えてる。残り25分25秒よりも後だ。何回か、光ってた。でも、全部が光ったわけじゃ、なかったけど、どこが光ったかは、覚えてねえ……」
バカの記憶力はこんなもんである!
だが、25分25秒の印象だけは強かったので、それだけは覚えている!奇跡に近い!
「25分25秒?……つまり、起きてから随分経ってから、ということか」
「ん?いや、俺、前回はもうちょっと寝坊したみたいで……起きて10分もしないくらいだったと思う!」
バカは前回、部屋の中でかなり大人しくしていた。バカとしては、かなり大人しくしていたのだ!だから、起きてからもそんなに時間は経っていなかったはずなのだが……。
「僕らがさっき、作戦会議を始めた時に残り25分だったよな……?そして、その前にお前の説明を聞いている。それは間違いなく、5分や10分じゃ、なかった。……おかしいな。やはり、お前は前回、寝坊した、というか……今回、早起きした、のか」
海斗は、ふむ、と考える。その間にもエレベーターは下降していた。もうすぐ大広間に到着するのだろう。
「そして、僕らが作戦会議をしている間に、4人がドアを開閉している、と。まあ、そういうことになるのか……」
海斗はそう言って……バカを見つめて、苦笑いした。
「……タックル以外でこのドアを開ける方法があることが明らかになったな、樺島」
「あうううう……どうやるんだろぉ……。」
「まあ、それは参加者達に聞けばいいことだ」
……だが、バカの困惑は他所に、個室の下降が止まった。
「さあ、時間だぞ、樺島。……下手は打つなよ?」
海斗の声と共に、個室のドアが開く。
……どうやら、ゲームスタート、ということらしい。
個室を出ながら、バカは自分の顔をぺちん、と両手で挟むようにして叩き、気合を入れる。
……下手は打てない。海斗の足を引っ張る訳にはいかない。信頼を裏切るようなことは、絶対にしない。
バカがそんな思いを胸に個室の外に出ると、そこでは前回同様、全員が全員、それぞれに戸惑いながら周囲を見回している様子であった。
……そして。
「みんなー!こっち来てくれー!」
バカは、海斗と目配せした後、前回同様、呼びかけた。すると全員が、ぞろぞろ、と集まってくる。
……皆が、集まってきた、はずだ。
……バカは、固まっていた。海斗も多分、混乱していた。
だって、『9人しかいない』。
バカは、人数を数える。『あれ!?俺、もしかして自分のこと数え忘れた!?』と心配になって、ちゃんと数え直す。
……だが、数え直しても、数え直しても……9人だ。
海斗。デュオ。タヌキ。四郎。五右衛門。むつ。七香。ヤエ。
……そして、バカだ。
孔雀が居ない。
バカは混乱した。混乱しながらも、それでも海斗が何も言わないから、何も言わず立っていることにする。
海斗は海斗で、混乱していたが……だが、海斗は賢い。バカよりも賢い。すぐに考えるのを止め、この場での最適解を叩き出したらしい。
「あー……すまない。集まってもらったのは、状況を把握したかったからだ」
海斗はそう、皆に呼び掛けた。……全員、少し不安そうな顔をしていたり、じっと海斗を見つめて、海斗の言葉の真意を探ろうとしていたり。反応は様々だが……全員、『前回』同様だ。孔雀が居ないことを除けば、本当に、前回同様なのだ。
「メンバーは……9人か。少し気になるが……まあ、いいだろう」
海斗は少し思わせぶりなことを言いつつ、ちら、と、個室の方へ視線をやった。今のも何か意味があるのかなあ、と思いつつ、バカは首を傾げることしかできない!
「……まあ、その、なんだ。僕らはどうやら、『悪魔のデスゲーム』に参加する者同士、ということらしいが……一応、自己紹介くらいは、しておこうか。不便もあるだろうし」
海斗がそう言うと、前回同様に自己紹介を始めていく。海斗は今回も、『海斗』だ。
そしてバカは今回も『バカ』である。バカが元気に自己紹介をすると、皆、何とも言えない顔をした。『そうか、バカなのか……』という顔である。だが本当にバカなんだから仕方がないのである!
……そして、バカと海斗の自己紹介が終わって、海斗が補足を入れてくれる。
「僕達は元々、知り合いだ。このデスゲームには一緒に参加している。まあ、そういうことで、概ね一緒に行動することになると思うが、よろしく」
海斗がそう言ってくれたので、バカも『俺と海斗は友達!よろしく!』と元気に宣言した。知り合いではない。友達である!いや、相棒なのである!でも相棒なのはナイショだ!何故なら、ナイショの方がなんかかっこいいから!
「……海斗君と、ええと、樺島君、か。2人は……ちら、と見えたかんじだと、2人一緒の個室から出てきたみたいだけれど……」
……そして、海斗が『ああ、来たな』というような顔をした。質問をしてきたデュオは、少し警戒するように海斗を見つめている。
だが、海斗はもう、これに対して対策済みなのだ!
「ああ、それについては深く聞かないでくれ。このバカの異能に関わるところだが……まあ、簡単に言ってしまえば、このバカは僕の居場所が分かるんだ」
そう。海斗は……海斗は、『これこそがバカの異能である』と嘘を吐くことにしたのである!
「居場所が?異能で?」
デュオは勿論、他の面子もこれには少し驚いている様子であった。それはそうだろう。『異能』の存在を開示するのが早い早い!
「へえ……異能のヒントを出しちゃってよかったのかな?」
「仕方ない。僕らが予期せぬ勘繰りをされるよりはいいだろうと思ったまでだ。その、このゲームがどういうものなのかも、まだよく分かっていないからな……。どういう疑いをかけられるかも分からないのだから、それよりは、先に事情をある程度は説明しておいた方がいいと判断した」
海斗がそう説明すると、デュオはじっと海斗を見つめる。やはり、デュオは海斗を警戒している様子であった。
「……よく分かっていない状況で、よく異能を使う気になったね」
「僕らは合流を最優先事項にしていたからな。そして……その」
海斗は、如何にも気まずそうに言い淀んでみせる。だがこれもまた海斗の演技なのだから、海斗は本当にすごい奴である!バカはまた1つ、海斗のことを尊敬する部分が増えてしまった!増えっぱなしである!
「……このバカは、バカだからな……!」
「え、あ、ごめん……」
……演技であっても、真実は真実。バカがバカなのは、動かしようのない真実である。なのでバカは謝った。海斗はそれに『やれやれ』とため息を吐いて見せて、そして、デュオは『まあ、こういう人達なのか……』と納得してくれた様子である。
バカがバカだということが分かりやすいために成り立つ言い訳と誤魔化し。それが、ここに完成したのであった!
「えーと……このゲームって、何すればいいんだろ……」
そうして海斗とバカの言い訳タイムが終わった後。むつが、ちょっと心細そうに、それでいて気丈に、そう発言して、きょろ、と周囲を見回した。
……そう。今、孔雀が居ないこの状況で、むつはひとりぼっちなのだ。
これではさぞかし心細いことだろう。バカがむつのことを心配しつつおろおろしていると、皆、『そういえば案内も何も無いね』というようにきょろきょろと周囲を見回して……。
「おい、見ろ。どうやらお出ましみたいだぜ」
前回同様、四郎がモニターを発見する。
……ルール説明を見に行く時間だ!
バカ達は全員揃ってルール説明を読む。ルールは前回同様だ。それはそうである。
そしてやはり前回同様、『このデスゲームには悪魔が1人参加している』という文言もあるのだ。
……バカは結局、誰が悪魔なのか分かっていない。そもそも、参加者の中に悪魔が居るのかもよく分からないではないか。なのでバカは、『まあ、俺が考えてもしょうがないしなあ……』と諦めつつ、この状況を見守ることにした。
「悪魔、ねえ……。そいつは丁度いい」
すると、四郎がにやりと笑う。
「自己紹介でも言ったが、俺の目的は悪魔殺しだ。悪魔が居るっていうんなら、ありがたいこった」
「わあ……すごいね、四郎さん……」
むつがぱちぱち、と小さく拍手をする一方、空気は張りつめている。やはり全員、緊張しているのだろう。
「さて……早めに動いた方がいいかな。時間は限られるみたいだし」
だがデュオがそう言えば、全員、そわそわしながらも動き始める。互いに互いを見て、『どいつとなら組めるか』と考えている様子で……そして。
「海斗君。俺と組まない?」
……何故か。
何故か……デュオが、そんなことを言い出したのである!
バカは、混乱した!なんでデュオが!?なんで海斗!?




