開始前:ケテルの部屋1
そうしてバカは、海斗に怒られつつなんとか説明した。
海斗も怒りつつ、なんとかバカに色々と質問して必要な情報を引き出してくれたのである。……流石の海斗は、バカの使い方も手慣れたものなのだ。
「……はあ。大体は、分かった。お前が説明してくれた分だけは、な!」
「ごめぇん……」
「本当に……僕がセフィロトや大アルカナの知識を持っていなかったら、まるで理解できなかったところだぞ!」
「うん、ありがとう……俺、海斗がいてくれてほんとによかったよぉ……」
バカは、『ありがとう!ありがとう!』と海斗を拝む。拝まれた海斗はちょっと居心地悪そうにもぞもぞしていたが、一つ咳払いをして話を勧めた。
「……まあ、いい。とにかく、お前が話してくれた情報だけでも、不審な点が山ほどあるが……まず1点目は、『四郎さんの身に起きた事件』だな」
バカは『よしきた!』と、靴を脱いで、ベッドの上に正座して海斗の話を聞く。こういう時には正座。正座なのである。
「四郎さん自身は、『デュオと一緒に6番アルカナルームに入った記憶が無い』んだったな?となると、大広間でデュオに何かされた、と考えるのが妥当だが……となると、デュオの異能は、催眠だとか、相手を瞬時に気絶させるだとか、概ねそんなところ、か……?」
海斗はベッドの上のシーツを指で弄りつつ、考えながら喋っている様子である。尚、海斗はバカの部屋に遊びに来た時も、こうしてベッドのシーツをもそもそ弄っていることが多い。多分、癖なのだろう。
「……となると、今度は、『じゃあ、何故デュオはそれを最後の最後、タヌキや僕、お前相手に使わなかったのか』という問題が発生するか。デュオと共犯だと思われる七香さんの異能は……サイコキネシス、というのか、見えざる手、というのか……まあ、そういうものだったんだろう?」
「うん……めっちゃ力、強かった……。うちの事務のおばちゃんぐらい強かった……」
バカのタックルを一度は止めたあの七香の異能について、バカは『あれは強い』と頷く。海斗は、『事務のご婦人、そんなに強かったのか……!?』と慄いた。でも強いのである。キューティーラブリーエンジェル建設の事務のおばちゃんは、強いのである!
「……まあ、事務員さんはさておき……その、七香さんの異能は、ほぼ確定したと見ていいだろう。あと、四郎さんが氷を生じさせる異能、か……。だが、そうするとやはり、デュオの異能は『四郎さんの意識を瞬時に奪える異能』ということ、か……?それも、四郎さんに気付かれることなく、という……うーん」
海斗は少し悩んで、それから、はた、と気づいたような顔をする。
「或いは……記憶を消す異能、なのかもしれないか。……厄介だな」
海斗は苦い顔をして、それから、少し考えて……ため息と共に、バカの方を見る。
「樺島。ひとまず、デュオの異能に注意した方がいい。お前にとって最も脅威となるのは、デュオの異能である可能性が高い」
「えっ、そうなのか!」
「ああ。『遠隔で意識を奪う異能』だとしても、『記憶を消す異能』だとしても、お前にとっては脅威だろう。特に、記憶を操作されるのであれば……お前の『やり直し』で積み上げてきたものが全て消える可能性すらある」
バカは、『はえええ……』と感嘆のため息を吐きつつ、『やっぱり海斗って、頭いいんだなあ……』と感心していた。
そう!海斗は頭が良い!少なくとも、バカよりはずっとずっと、頭が良いのだ!
「そして2点目は、孔雀、だな」
続いて、海斗の話はデュオから孔雀へと移る。
「……その、結局、孔雀が『駒井燕』だったのか?」
「わかんない……」
「……なんで確認しなかったんだこのバカ」
「ごめん……」
……そう!孔雀については、最重要事項であるところの『誰が駒井燕なのか』を知る大きな手掛かりであったのだ!なのにバカがバカなばっかりに!全く確認しないままなのである!
「いや、まあ、仕方がない。これについては、また今回にでも確認すればいいことだ。最悪の場合、『あなたは駒井燕ですか?』と聞いて、相手の反応次第では即座に『やり直し』してもいいのだし……ただ、最後の最後に僕を刺しに来たというのなら、警戒は必要、か……。やれやれ」
バカは『今度こそ、孔雀が燕なのか確認しよ!』と心に決めた。前回も、心に決めていたはずなのだが……。
「そもそも、孔雀はどうやってアルカナルームに入ったんだ?」
「へ?」
が、『孔雀は燕かなあ……』と考えていたバカは、海斗の言葉に引き戻されて、また別の疑問にぶち当たってしまう。
「お前の話だと……ほら。アルカナルームには、2つの個室エレベーターで入れるんだったな?」
バカは『うんうん』と頷く。その認識は間違っていないはずだ。だから、前回の最後の方は『いざという時に救助に行けないと大変なので、このチームはこの個室を使って……』というところまで決めていたのだから。
「……それで、その、最後は『8』のアルカナルームに、集結したんだったな?」
「あ、うん。そうだぞ。ヤエが『8』の腕輪で入って……そこに、俺達が追っかけていって……あれ?」
が、そこでバカも気づいた。
「……孔雀がどうやって入ったのか、覚えてるか?」
……そう!
よく考えたら、あの場に孔雀が現れたのは、おかしなことだったのである!
「お、覚えてない……。俺、デュオのこと押さえるのでいっぱいいっぱいだったし、もう、何が何だか、わかんなかったし、皆、死んじゃうし……わ、わわわわわ、よく考えたらどうしてあそこに孔雀が居たんだ!?」
バカは『わあああああ!?』と混乱し始めた!もう、分からないことでいっぱいなので、バカはもうどうしようもないのだ!
「落ち着け。まあ、考える方向としては2パターン……1つは、『孔雀の異能はそういう異能』というもの。もう1つは、『この会場にはお前が知らない仕掛けがまだある』というものだ」
「……アルカナルーム回りに何かある、ということは十分にあり得るんじゃないか?例えば、アルカナルームとアルカナルームが繋がっていないとは限らない。ああ、あとは天井裏か?前回は結局、天井裏は見なかったんだったな?」
「あ、うん。真っ暗で、全然見えなくてぇ……あれ?よく考えたら、ここがその天井裏か?」
「成程な。となると、スタート地点は『天井裏』で、大広間がその下にあって、さらにその下にアルカナルームがある、ということになる、のか。……うーん、まあ、『ダァト』が全てのアルカナルームに繋がっている、といった可能性はありそうだ。調べてみたいな」
海斗が喋るのを見つめつつ、バカは『ほやあ』と感嘆のため息を吐き出した。やっぱり海斗はすごい。バカが全く思いつかなかったことを、見てもいないのに、バカからの拙い情報だけで、こんなにも色々思いつくのだから!
「じゃ、じゃあ、個室の外、見てみるか?暗いけど、床に光るラインがあるからちょっとは見えるんだ!」
海斗は頭脳労働担当だ。ならば、その頭脳労働に報いるためにも、バカはその分、肉体労働しなければならない。早速やる気と元気でモリモリになってきたバカは、散歩を待ちわびて尻尾を振る犬か何かの如く、『外行く!?外行く!?』と騒ぎ始めた。
「うん。行くか……いや、ちょっと待て」
が、そんなバカに『ステイ』と指示を出しつつ、海斗は……ドアに近付いて、首を傾げた。
「……このセフィロトの図、光るんだな」
つ、と海斗の指が、セフィロトの図をなぞる。
ドアの内側に描かれたこの図、時々光るのだ。バカはそれを知っている。
そして……。
「……10番のセフィラが、光りっぱなしだが」
「あ、うん。それ、俺の個室!」
……何故か、セフィロトの一番下……バカの個室が位置するそこは、ずっと、ぺかーっ、と光り続けているのである。
海斗はちょっと考えて……そして、ふむ、と頷いた。
「……確認してみよう。樺島。そのドア、開けてくれ」
「ん?こうか?よっこいしょっと」
めきょ、と、バカはまたドアを外した。
……ところでこのドア、最早バカにしか開閉できなくなってしまっているのだが、いいのだろうか。まあいいか、とバカは開き直った。やっちゃったものは仕方がないのである。それに、この会場はどうせ全部解体されるから、多少破壊しても大丈夫なのである。二度目のデスゲームともあって、バカは落ち着きが違うのだ!
「……成程な。1つ、覚えておいた方がいいことが増えたぞ、樺島」
そして、そんなドアを見て、海斗は少し笑った。
「個室の中に居れば、『今、どこの個室のドアが開いたか』が分かるらしい。もしかしたら、『どの個室がエレベーターになって動いているところか』も分かるのかもな」
「……へ?」
そうして、海斗はバカに解説してくれた。
「ほら。ドアが閉まると、この個室……『ケテル』の光が消えるだろう?そして、ドアが開くと、ほら、光が灯る」
バカがドアをひょいひょこやって開けたり閉めたりすると、セフィロトの図のてっぺん……海斗の個室であるところの『ケテル』に光が灯るのだ!
「おおおおお!すげええー!」
なんだか楽しかったので、バカはドアを開けたり閉めたり開けたり閉めたりして遊んだ。海斗に『そろそろやめておいてくれ。目がチカチカする』と言われたので止めた。
そして。
「いいか?樺島。これは重要な情報だぞ。こういう風に、個室の中で待機していれば……他の個室の稼働状況が分かる。つまり、待ち伏せや待ち合わせがある程度可能、ということだ」
「えええええええ!?」
海斗の説明に、バカは愕然とした。……とんでもないことを聞いてしまった!
「まあ、お前の話だと、その七香さん、という女性が個室から出てきてすぐ、笑顔になって恐らくデュオに駆け寄っていった、ということだったが……最初に個室の中に居たのは、すなわち、デュオの個室のドアの開閉を確認していた、ということだろう」
「す、すげええええええ!海斗お前、やっぱり頭いいんだなあ!」
「……頭脳労働担当だからな。これくらいはできて当然だ」
バカは『そっかぁ!あの時の七香の行動がちょっと分かったぞ!』と、にこにこ笑顔である。謎が解けるって、素晴らしい!
「ん……?でも、ここが光るとドアが開いてる、ってことは……あれ?」
が、バカは同時に、思い出して、考えて、頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべることになってしまった。
「最初、ここ見てたら、何回か光ってたんだよぉ……」
「……は?」
「大広間に到着する前!ドア見てたら、光ってる時、あった!」
……そう。
海斗の説明が正しいのならば……前回のゲーム開始前。丁度、今の時間あたりに……個室を出入りしていた人が居た、ということになってしまうのだ!
「……ということは、タックルする以外に、この部屋のドアを開閉する方法がある、ということだな……?」
「そうなのぉ!?全員タックルしてたんじゃないのぉ!?」
「タックルでドアを開けられるのは多分お前だけだぞ、樺島」
海斗は呆れつつ、部屋の中をもそもそと探し……途中で諦めた。
「……まあ、今回は僕の部屋もお前の部屋も、既にタックル済みだからな。壊れたドアの開け方を調べるのは、無駄か……。機能が壊れている可能性もあるしな……」
「そ、そっかぁ……」
バカはちょっとしょんぼりしながら、思った。
……次回は、タックルせずにドアを開ける方法を探そう!と……。
「……まあ、いい。残り時間は有益に使おう」
そこで、海斗が、ちらりとモニターの時計を見て、笑う。
「残り25分か。……次、僕達はどう動くべきか。誰の情報を集めるべきか。今、考えておこう。さあ、作戦会議だ」




