ゲームフェイズ2:大広間5
……ということで、まずは孔雀がエレベーターを下ろした。
そしてここで、バカ達は大変なことを知る。
「……外した腕輪がありゃ、個室は動かせるのかよ」
「人じゃなくて腕輪が重要なんですねえ……」
四郎もタヌキも、『うわあ』という顔をしているが……実際、そうなのだ。
今、孔雀はむつと一緒に、孔雀の個室を床下に格納してくれている。……つまりこれがどういうことか、というと、腕輪を既に破壊済みの2人が、やはり破壊済みの『9』『7』『3』の腕輪を両腕に装着して個室に入り、『19』のアルカナルームを選択できるかどうか試した、ということである。
……そして、その目論見は見事、成功したのである!見事、エレベーターは動き出し、バカ達は拍手でこれを見送った。
同時に、海斗は『いいか?樺島。これで、腕輪を破壊しても大丈夫ということが証明された。次にやり直す時、腕輪は破壊してもいいぞ』と教えてくれた。バカはしっかりこれを覚えた!
さて。そうして、孔雀とむつのエレベーターが下がったところで……さっきまで、孔雀の個室がくっついていた部分の天井を見上げて、バカ達は唸る。
「一応、開閉するような仕組みにはなっていそうだな」
「あー、確かになんとなく、穴が開きそうなかんじになってますよねえ……」
下から見上げて海斗とタヌキが相談している通り、天井には円形に、溝が見える。つまり、あの円形の部分が、パカッ、と開くようになっているのであろう。
「となるといよいよ、四郎さんが言っていた通りの可能性が高いな」
「本当に天井裏があって、そこに『ダァト』がある可能性ですね!?うわー、すごいなあ!私、なんかワクワクしてきましたよ!」
海斗は『いや、しかしどういう風に天井が開くのか分からないし、ただ少しくぼむだけかもしれないし、危険であることに変わりはない……』とぶつぶつ呟き、タヌキは『すごい!すごい!秘密基地みたいです!』とぴょんぴょこ跳ねた。
「……ま、穴開けとけるっつうんなら、開けといた方がいいだろうな。……おい樺島。お前、開けられるのか?」
「うん!でっかい剣使ったら届くんじゃねえかなあ、って思う!」
そして四郎と会話して、バカは『やれる!』と意気込んだ。もし、この会話を天井が聞いていたら、きっと青ざめていたことであろう。だが生憎、天井に意思は無い。ただ天井はそこにあり……破滅の時を待っているのみである!
バカは『正義』の部屋から持ち出してきたでっかい剣を『よっこらしょ』と抱えた。
そして天井を見上げて……。
「よいしょォッ!」
ぶん、と振りかぶり……剣を天井へぶん投げた!
「……刺さっちゃった!貫通しなかった!」
「あっ!私、この光景知ってます!ホウキ振り回して遊んでた中学生が、うっかり天井にホウキ刺しちゃった時のやつですよこれ!」
「おお……大したもんだな、おい」
天井に刺さってしまった巨大な剣を見上げて、バカとタヌキと四郎が口々に騒ぐ。
それを見て海斗は頭を抱え、五右衛門は『あらぁー』と呆れた顔だ。
「じゃあちょっと剣、もいでくる……よいしょっと」
バカはしゃがむと、そのまま脚をバネのようにして、ばしゅ、と跳躍する。そして天井に突き刺さった剣の柄に『よっこいしょ』と捕まると、鉄棒で逆上がりをする時のように、剣の柄を軸にしてくるりと体を回し……そのまま天井を蹴って、剣を引っこ抜きつつ落ちてきた!
ころん、と一回転して床に着地を決めたバカが、まるで器械体操でそうであるようにポーズを決めると、タヌキが拍手してくれたのだった!
……さて。
「天井が破壊できると分かったのは大きいな」
「だな!前回みたいに、滅茶苦茶硬い壁だったらどうしようって思ってた!」
「或いは、この剣が特殊なのか?まあ、使い勝手は良さそうだな」
「うん!この剣、デカくて長くて丁度いい!」
バカと海斗は話しながら、バカが剣をぶっ刺し、そして引っこ抜いて生じた穴を見上げる。
「穴の先、何か見えるか……?」
「んー……?いや、なんも見えねえなあ……」
バカの視力は10.0を超えるものなのだが、そんなバカの目にも、穴の先の様子は分からない。海斗も揃って見上げてみるが、何も見えないのであった!
「……まあ、もう少ししたら、むつさんと孔雀がエレベーターを上げてくれるだろうから。そうしたら天井裏を見に行こう」
「うん!」
バカは、孔雀の個室が沈んでいる地点の床の上に、お行儀よく体育座りしておくことにした。背筋を伸ばしたバカの体育座りは『とても元気が良さそう』『とてもお行儀がよろしい』と評判なのである!
……だが。
「その前に……『リプレイ』だな。先に見ておきたいものがある」
そんなバカの横にそっと体育座りしながら、バカだけに聞こえるように、海斗がこそこそ、と囁いた。
「四郎さんの記憶がどうも、おかしくなっていることについて、だ」
「……四郎の?」
バカは、きょとん、とした。海斗の『リプレイ』が勿体ないから使っておこう、というのは分かるのだが……『四郎の記憶がおかしいところ』は分からないのだ!バカはバカなので、さっき聞いた話もすぐに忘れがちなのである!
「樺島。発表フェイズで発表された、デュオのカードの枚数を覚えているか?」
「ん?……何枚だっけ?」
「2枚だ。だが、これはおかしい」
バカが何も覚えていなくても、海斗は覚えているので話が進む。バカは体育座りを正座に切り替えて、ふむふむ、と頷きながら聞く。
「最初、デュオはむつさんと孔雀と一緒に『17』のアルカナルームに入ってる。その後、『2』を攻略したことは間違いない。彼が1人で挑む以外に、『2』を攻略する手段は無いからな」
バカも、そこまでは分かる。『1+1=2』だが、海斗は2人も居ないので、実質、『2』の部屋に挑戦する方法は、デュオ1人で挑むことだけなのである!
「……だが、孔雀は発表フェイズ時点で、カードを3枚持っていたんだ。孔雀は『17』の他に、むつさんと一緒に『15』に入って、その後、むつさんを置いて『9』に入った。これで3枚だ」
「つ、つまりどういうことだ!?」
「……デュオと孔雀とむつさんが入った『17』の部屋のカードは、孔雀のものになっているはずなんだ。だから、デュオがもし、『17』と『2』のアルカナルームしか攻略していなかったなら、彼がカードを2枚持っているのはおかしいだろう?」
バカはちょっと考えた。考えて……愕然とした!
「……カードが増えたってことか!?」
「素直に考えてくれ。恐らくデュオは、四郎さんと一緒に『6』のアルカナルームに入って、そこのカードを手にしているんだ」
「えっ、でも、四郎のおっさん、『6』には入ってないって言ってた……」
バカが頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべて首を傾げていると、海斗は少し笑って……じっ、と、タヌキの個室を見つめた。
「だから、それを確かめるんだ。……さて。じゃあ『リプレイ』の本領発揮、といこうか」
「デュオと四郎さんが『6』のアルカナルームに入ったとしたら、使ったのはタヌキの個室だ。『6』に繋がる個室は、タヌキの個室『ビナー』と、むつさんの個室『ティファレト』の2つだけ。そして、むつさんの個室は僕達が『14』『11』のアルカナルームを攻略するために使っていたから、少なくともその間は使えなかったはず」
海斗はそう言うと、少し考えて……よし、と頷いた。
「この場に居るのは、僕とお前と、タヌキと四郎さんと五右衛門さん、か。まあ、問題無い、か……いや、タヌキに五右衛門さんの相手を頼んでおくか。樺島は四郎さんを連れてきてくれ」
「わ、分かった!」
バカは、『海斗のリプレイ、あんま他の人に見せない方がいいもんなあ……』と分かっているので、そそくさ、と四郎のところに行って、『ちょっと来て……』と四郎をひっぱって、そそくさ、と戻ってきた。非常に不審である。四郎自身にさえ、『なんだおめぇ……』と不審がられた!
そして、そうしている間に海斗とタヌキの話もついたらしく、タヌキが五右衛門と何か話して、五右衛門の顔面に、『もふんっ!』と乗っかったのが見えた。
……五右衛門の顔面に、タヌキが、乗っている!
バカ達が『あれ、いいんだろうか』と見ていると、タヌキはその状態で、『ささ!どうぞどうぞやっちゃってください!』とばかりに親指を立てて見せてくれた。とはいえ、タヌキボディのちっちゃな手のサムズアップはほぼ、誤差である。バカの視力でやっと見えるレベルである。
が、バカはそれにサムズアップと笑顔で返し、海斗は、『じゃ、じゃあ、早速……』と準備を始め……。
「『リプレイ』だ。場所は、タヌキの個室を中心に設定。時間は……『この個室が6番アルカナルームから出てきた時』だ!」
……そして、そこに『リプレイ』によって生まれた海色の光が、人の形を生み出していく。それを見て海斗は、『少なくともこの個室が『6』のアルカナルームに入ったことがあるのは間違いない』と緊張気味に呟いて……そして。
「……こいつはどういうこった?俺は、一体……?」
四郎が、愕然として呟く。
バカも、ぽかんとしていた。唯一、海斗だけは、少しだけこうなることが分かっていたような、そんな苦い顔をしていた。
……『6』のアルカナルームから出てきたのは、デュオと……デュオに担がれた、動かない四郎であった。




