ゲームフェイズ2:『1』魔術師
「えっ、1人で……?」
バカはちょっぴり戸惑った。てっきり、また自分が何か破壊するのだと思っていたので。
「ああ。……僕1人で解決できるようにできているのだとしたら、当然、僕にはこれが解けるはずだ。試してみたい」
だが海斗の意思は固いようである。
「その、樺島が破壊した方が早いだろうが……」
……意思が固いようでいて、ちょっぴり遠慮がちである。なので、バカは大いに頷いて、ぱふ、と海斗の背を叩いた。
「うん!だったら俺、タヌキと四郎のおっさんと待ってる!タヌキ!四郎のおっさん!いいよな!?」
「はい!折角ですし、待ちますよ!他2チームだって、そんなに早くは出てこないでしょうし!」
「まあ、なんだって構いやしねえが……」
タヌキと四郎の同意も得られたので、バカはにこにこしつつ、海斗にガッツポーズしてみせた。
「じゃ、俺達、そっちで待ってるから!海斗!頑張れよ!」
「……ああ。任せろ!」
そうして、海斗がパズルを解き始めたのを見て、バカとタヌキと四郎は、そっと部屋の隅っこへ移動することにしたのであった!
「海斗、頑張ってるなあ……」
「頑張ってますねえ……」
そうして、バカ達はそっと、海斗を見守りながら小声で話す。
海斗は、1人でじっと問題文を見つめて、ああでもない、こうでもない、と考えながら何事か、やっているらしい。
こうなるとバカには何もお手伝いできない。海斗もお手伝いを望んでいないようだったから、ただ、『がんばれ!がんばれ!』と密やかに応援することしかできないのだ。
「……まあ、いい。この後のこともある。少し、話さねえか」
が、バカは応援に集中してもいられないらしい。
「アルカナルームが全部開いて、『ダァト』とやらが見つかったとして……その後、誰がここを出る?願いを叶えるのは誰だ?ついでに俺は悪魔を仕留めてえが、どいつが悪魔だ?」
……四郎が、そんなことを言い出したので。
「この後については……ええと、まずは『ダァト』を見つける必要があると思います。じゃないと、出口が無いんですよぉ……」
「……へ?」
「ほら、大広間に出口っぽいもの、なかったでしょ?」
「……そういえば、そうだ!」
バカはようやく思い出す。
そういえば大広間に、『出口』って、無かった!バカ、うっかり!
「そ、そしたら俺達、どこから出たらいいんだ!?どこから出るのが正解なんだ!?やっぱ壁破るしかねえよなぁ!?」
「おい、落ち着け。……俺はてっきり、カード7枚持った状態でどっかの個室に入ったら、出口に繋がるもんだと思ったんだが……」
「え、ええと、そうですねえ……『ダァト』があるとしたら、海斗さんの個室とむつさんの個室を結ぶ直線状の真ん中あたり……の、天井裏か床下ってことですよねえ?セフィロトの図形からしたらそうなりますし。となるとやっぱり、個室で移動する、んじゃないですかねえ……?」
バカは、『成程!つまり破るんだったら壁じゃなくて、天井か床ァ!』と覚えた。
「まあ、いざとなったら天井か床を調べるってことでいいんじゃねえか?俺はセフィロトだかなんだか、知らねえが……っていうか、ここに集まった連中はなんだってそういうのに詳しいんだよ」
そうして、四郎はため息を吐いた。四郎はこの手の話をほぼ知らない人であるらしい。バカは親近感を覚えた!
「あっ、私もほとんど知りませんでした!でもデュオさんと海斗さんと孔雀さんはご存じだったようで!」
「でも海斗も、全部は覚えてる自信ないって言ってたぞ!」
「……となると、やっぱりデュオさんと孔雀さん、ものすごい雑学王ですねえ……。あ、七香さんもご存じだったかも。あんまり喋ってくれませんからよく分かりませんけど……」
バカは『だよなあ』と頷く。七香のことはよく分からないが、とりあえず、デュオと孔雀はものすごく頭がいい。バカは覚えた!
「……ってことは、デュオか孔雀が悪魔か?」
が、四郎がそう言い出したので、バカは『あっそうなるのか!?』と慄いた!
「色々知ってる奴が悪魔、ってのは安直か?」
「いや、うーん……それでも私はやっぱり、デュオさんだと思いますよ?でも、証拠には欠けますしぃ……何とも言えないですねえ」
四郎とタヌキが首を傾げる。なのでバカも首を傾げておいた。会話についていけていなくても、まずは形から入るのだ。
「悪魔だったら、人間の魂をぶん取るために画策してるんだろうからな。できるだけ多くの人間が死んだ方が嬉しいんだろうが……現状、誰も死んでねえ。こいつはおかしくねえか……?」
「た、確かに、そう、です……かねえ?」
四郎とタヌキが眉間に皺を寄せる。バカは、『人が死なないのはいいことだよなあ』と思ってまた首を傾げるのだが……確かに、変、なのかもしれない。
前回のデスゲームでも、人が死んでしまうことばかりだったし……それと比べると、今回はとっても上手くいっているように見える。
もしかしたら、バカはここから一度も『やり直し』せずにこのデスゲームの解体を終えられるかもしれない、と思えるほどに、何もかもが上手くいっているのである!
「一度、ちょっと危うい雰囲気にはなったんですけれど……孔雀さんが、『隠されたセフィラやアルカナルームの攻略を優先した方がいい』って言ってくれて、それで今に至ります!」
「そうか。孔雀が、か……」
バカも思い出す。……あの時、バカと海斗で、『キューティーラブリーエンジェル建設』の解体予定の話ができず、皆を説得できなかったのだ。
五右衛門は『ここを出なくてもいい』と明確に言っていたし、五右衛門の隣で、ヤエも少し、そんな素振りを見せていた。
……もしかしたらあの場で、殺し合い、になっていた、のかもしれない。
そう考えると、バカは胸の奥がざわざわするような気分になってくるし、そうならなくてよかった、と本当に思うのだ。
……そして同時に、上手く皆を誘導してくれた孔雀への感謝の念が溢れてくる。バカは心の中で、『ありがとう!』とお礼を言うことにした!
「ってことは、孔雀は悪魔じゃねえ、ってことか……いや、それも安直か」
「どうなんでしょうねえ……。私はデュオさんだと思います。というかですね、デュオさんが悪魔本人じゃなかったとしても、何か知ってはいると思うんですが……」
「ここを出たら、『0』の部屋を見るより先に、デュオにカマかけてみるか」
「そうですねえ……。心配事は少ない方がいいでしょうし……うわー緊張しますねえ!」
結局、四郎とタヌキの話は『ひとまずデュオに聞いてみるしかないなあ』というところに落ち着いたようである。
バカとしても、デュオが何を考えているのかは気になるので、話を聞いてみたい。それにやっぱり、タヌキの体を使っているというのならば非常に気になるところだ。
バカは、『これが終わったら、デュオに話!』としっかり覚えた!
……そうして待っていると、海斗が小さく『よし』と言うのが聞こえた。
小さな声ながら、嬉しそうな響きのその声を聞き逃さなかったバカは、てけてけと海斗の元へ駆け寄った。
「できたのか!?」
「ああ、できた。……ほら、『魔術師』のカードだ」
そうして海斗は、嬉しそうにカードを取り出して見せてくれた。
カードには、あまり魔法使いっぽくない人の絵が描かれている。バカが『魔術師……?』と首を傾げていると、海斗が『奇術師、手品師、と訳されることもある』と教えてくれた。成程、手品をやる人の絵だということなら、確かにそれっぽいかもしれない。
「じゃあ早速戻ろうぜ!」
「ああ。……そうだ、樺島」
そして海斗の手を引いて戻ろうとしたバカを、海斗がちょっと遠慮がちに引き留めた。
バカが『ん?』と首を傾げていると……海斗は、そっとバカの耳元で囁いた。
「もしお前がやり直すことがあったとして、やり直した先の僕に伝えてくれ。『1』の部屋は僕1人で十分に攻略できる、と」
「……海斗ぉ」
「やり直ししたら、カードが必要になることがあるかもしれない。そうなった時、僕とお前だけで入手できるカードは1枚でも多い方がいいだろ」
……バカはここでようやく、海斗がこの部屋の謎に1人で挑んだ理由を理解した。
海斗は、『やり直し』の後のことまで考えているのだ。
「まあ、今のところ誰も死んでいないし、このまま終わるならそれに越したことは無いんだが……何があるか、分からないからな。特に、『0』のアルカナルームは本当に……」
「……うん。分かった」
バカは、気を引き締めて頷く。
今のところ、何も無い。本当に、何も無い。誰も死んでいなくて、大きな怪我も無くて……だから、このままデスゲームが終わればいいな、と思っているけれど……。
とにかく、バカは気を付けなければならないのだ。
本当に、このデスゲームが平和に無事に終わるように。……そして、平和に無事に終わらなかった時、もう一度、上手にやり直せるように。
バカ達は再びエレベーターに戻ってみる。
……そして、そこで四郎が『大広間』のボタンを押そうとして……『んー』と唸った。
「……おい。お前ら、今、カード何枚持ってる?」
「へ?俺、3枚!」
「私は2枚です!」
四郎の問いかけに首を傾げつつ、バカとタヌキは元気に答える。……そして、ワンテンポ遅れて、海斗は何かに気付いたような顔をした。
「僕はさっきの『魔術師』のカードだけで……四郎さんは……2枚、ですか?」
……海斗がそう問いかけると、四郎は、ゆっくりと頷いた。
「ああ。つまり、ここに居る4人のカードを合わせると、8枚だ。7枚はもう、超えてる」




