ラストフェイズ:地上
バカ達は、歩いていく。
ヒバナのブルドーザーは、ヒバナの異能によって生まれた燃え盛るブルドーザー。よって、光源になってくれて非常によろしい具合なのだが……そんなヒバナのブルドーザーよりも強い光が、道の先から差し込むようになる。
「外だぁ!」
「外だな。はあ、やれやれ……これでようやく脱出か」
「うーん、俺が思ってた脱出とは色々と違ったな……ははは……」
……そう。バカ達はいよいよ、外に出るのだ!
そうして。
「おい!ヒバナが戻ってきたぞ!」
「ってことは樺島もか!」
「海斗も居るな!ヨシ!」
「人員は、1、2、3……アッ!?なんか報告より多いぞ!?まあ多い分にはいいか!ヨシ!」
ざわめきの中へ、バカ達は進み出る。
そこには、黄色と黒のしましまロープで囲われた工事現場があり……そして、羽と輪っかを身につけたムキムキ達が、待機していた!
「えっ……天使……」
「ええっ……天使、って……本当に皆、樺島さんとか四郎さんみたいなかんじなんだぁ……」
……見渡す限りのムキムキを見て、ヤエと真理奈は何やらちょっとショックを受けてしまった様子であったが……バカは只々、にこにこしながら『せんぱーい!ただいまー!』と元気なご挨拶をしているのであった!
その時だった。
「燕!」
燕を呼ぶ声がして、同時に、燕が『あっやべ』という顔をした。
……そしてその直後!
「おかえり!」
すっ飛んできたのは、たまである!たまは、燕にタックルかます勢いで突っ込んできて、そしてそのまま、燕にむぎゅう!とくっついた!
「え、うわ」
その勢いに燕は倒れかかったが、そこは横で見ていたバカがすかさず、『おっとっと』と支えて事なきを得た。
……そうしている間にも、たまは燕に、ぎゅう、むぎゅう、とくっついている。むぎゅ、とやられる度に、燕が何を言えばいいのか分からないような、そんな顔になってきて……。
「……おかえり、って、言ってるのに」
……そんな燕を見上げて、むう、と、たまが頬を膨らませた。
それを見て、燕はきょとん、として……そうして。
「……た、だいま?」
燕がそう言うと……たまは満足気に、また燕のことを『ぎゅう!』とやるのだった!
「つぐみさーん!私も!私も!」
「真理奈ちゃんも。おかえり」
「ただいま!きゃー!」
更に、そこに真理奈も加わって、3人がむぎゅむぎゅやるようになってしまった。……というよりは、燕が2人の女の子にむぎゅむぎゅやられている状態なのだが。だが……燕もその内、たまと真理奈をまとめて、『きゅ』くらいはやるようになった。これには、たまも真理奈も、にっこり!
さて。そうしてむぎゅむぎゅやっていた3人だったが。
「あー……姉さん。俺、もう死亡届出てるよね」
ふと、燕がそんなことをたまに聞く。すると、たまはちょっと寂しそうに、こくん、と頷いた。
「出てる。……何、そこ、悪魔にお願いしてどうにかしなかったの」
「うん。してない」
「そう……うん、そっか。まあ、燕がそうしたかったなら、それでいいけど」
たまはそう言ってから、じっ、と、燕を見つめた。
「でもちゃんと、家には顔、出して」
「うん。……年末年始とゴールデンウィークと盆は顔、出す」
「シルバーウィークも出して」
「ああ、うん。分かった。出す。出すからそろそろ放して」
「やだ」
たまは『やだ』の一点張りであるので、燕はため息を吐きつつ、どうすることもできない。更に、真理奈も『むぎゅう!』を継続中であるため、どうしようもない!
……が、まあ、燕はこれでいいのだ。バカは、そう思う!
「あー、じゃ、たまとかにたま。こちらが依頼の『駒井燕』さんってことで、いいんだな?」
そこへやってきたのは、親方とかにたまである。燕のぎゅうぎゅう詰めをにこにこ眺めていたバカも、ぴゃっ!と姿勢を正した。親方の前では常にいい子で居たいバカである!
「はい。どうもありがとうございます」
親方の質問に、たまもかにたまも、ぺこん、と頭を下げた。
そう。これは、『駒井つぐみ』からの依頼であった。燕が無事にこうして出てきた、ということで……バカはちゃんと、お仕事を達成できた、ということになる!
「……樺島君と、海斗も。ありがとう」
「ううん!いいんだ!えへへ……」
たまにお礼を言われて、バカは益々笑顔になってしまう。『ああ、やっぱり仕事って、いいな!』という気分だ!バカは、人の役に立てた喜びでいっぱいである!
「さあて。だが……依頼の『駒井燕』は、どうも……悪魔になったみてえだな」
……一方の親方は、燕をじっと見つめて、そんなことを言う。
燕は、明らかにすごい天使である親方を前に、緊張気味であったが……。
「ん。大した度胸だなあ」
親方は、にや、と笑う。
「ちゃんと悪魔として大成してるんだ。それに見合う能力もある、ってことだな。ついでに……きちんと、善性ってモンを持ってるんだろ?」
親方は『よしよし』とばかり頷きつつそう言って、ぽふ、と燕の頭を撫でた。
「だが、お姉さんだの友達だのに心配かけたんだ。キッチリ頭下げて、そこんとこはケジメつけとけ。な」
「あ……はい」
燕は親方相手には流石にちょっとしおらしい。しゅん、としている燕を見て、親方は呵々として笑った。
「もしお前さえよけりゃ、うちに来るか?うちは悪魔も歓迎してる職場だ。一緒に働くってんなら、歓迎するぞ。どうだ?」
燕は、ちょっと迷っていた。迷って、迷って……でも、首を横に振った。
「……他でやらなきゃいけないことが、あるので」
「そうかぁ。ならしょうがねえなあ……」
親方はちょっと残念そうな顔をしていたが、にや、と笑った。
「……ま、そういうことなら、さっさとでっかくなって、目的果たして来い。な」
「はい」
「だが、いつでもうちは歓迎するからな。ま、困ったことがあったら、いつでも相談すりゃあいい。泊まるところがなけりゃうちの社員寮を使えばいいし、社食に飯食いに来るだけでもいい。美味いぞ?うちの社食はよ」
親方はそう言って、親方の羽を一枚、燕に渡していた。これから悪魔として色々頑張ることになるのであろう燕にとっては、大きな意味を持つアイテムであろう。それを手に、燕は決意を新たにしたようであった。
「……で、えーと、なんか……俺、3人になってない?」
「あー……どうやら、そうらしいね。あははは……そうか、『天城』って、こんなかんじか……」
「ふむ……これは奇妙なことになったな」
さて。一方、陽とデュオと天城が集まって、『どうしようね』『困ったね』という顔になっている!
「私も増えたね」
……そして、たまはたまで、デュオが抱えている自分を見て『増えてる』と何とも言えない顔をしているし、かにたまも『かにかに』とデュオのたまをつついている!
「……えーと、これ、どうしようか。俺とタヌキと七香さんは多分、ここから10年後の人なんだよね……あー、天城さん、は、当時、どうしてた?」
「正規の手段で脱出してしまったのでな。恐らく、悪魔の力で元の時間、元の位置に戻ったんだろう。まあ、少なくともデスゲーム会場に穴を開けてどうこうした覚えはない」
「あー、やっぱりそういうかんじか……うーん、俺はいいし、タヌキも気にしなそうだけど、七香さんがなあ……うーん、彼女だけでも帰したいんだけど」
……デュオが頭を抱えていると、ふと、かにたまが、かにかに、とデュオをつついて……それから、そこらへんにいた燕を、かにかにかに、と引っ張ってきた。
「……そうだったね」
「成程……高位の悪魔になったのか。ならば、デスゲーム参加者を元の時間に戻す程度はできるか」
「え、あ、うん……」
急に連れてこられた燕はなんとも言えない顔をしていたが、陽とデュオと天城、そして、たまとかにたまの頷きを見て、『ああ……そういうことか』と納得したらしい。
「えーと、一応、できる。……ちゃんとした準備があった方が確実だとは思うけど」
「準備?具体的には、どういう……」
「儀式用の祭壇があった方がいい。あとは……誰かの絶望とかがあった方がいいけれど、それは何とかする」
燕は『祭壇は……デスゲーム会場にあったかもしれないけど、埋もれてるからな……』とぶつぶつ言いつつ、何やら考え始めていたが……。
「祭壇……造るか!」
……ここには、建設業の気のいい天使達が揃っているのである!
「おいお前ら!仕事が来たぜ!」
「悪魔が使う祭壇かぁ!腕が鳴るなあ!」
「材料は何だ!?木造!?鉄骨!?俺のおすすめはね、鉄骨!夏場涼しいから!」
「いやいや、やっぱりここは大理石でエレガントにつくるかんじでいこうぜ!」
……たちまちのうちに、燕は天使達に囲まれてしまった。そして、燕が囲まれるということは、当然、3人の宇佐美光と3人の駒井つぐみも、囲まれるということである。全員、大いに困惑している。かにたまだけは、かにかに、と満足気であったが!
「絶望かぁ!藁人形納豆でなんとかならねえかなあ!」
「なんかちっちぇえ悪魔がいるけど、そいつ絞ったら出てこねえかなあ!」
「絶望を醸造すると美味しくなるらしい!俺はそれの味が気になる!」
「醤油みてえなもんか!?悪魔の醤油……うん!悪魔の醤油焼きおにぎり!これは絶対にいける!いけるぞ!うおおおおお!」
更に、燕の胸ポケットに入れられているジャンガリアンハム悪魔は『我、絞られちゃう……!?』と絶望していたが、それを見て燕は、『あ、これでいける気がする……』と、何とも言えない顔をした!
「じゃあ早速、祭壇だな!」
「だな!あ、でも新規の依頼、今日はもう受け付けないぞ!」
「明日改めて依頼を聞くからな!よろしくな!」
「あ、はい……」
……そうして、燕が困惑している横で、どんどんと話が進んでいき……そして。
「じゃあ、燕は明日、樺島君のところに行かなきゃいけないんだね」
たまがやってきて、燕を捕まえた。
「じゃあ、今日は一旦、うちに帰ろう」
たまがそう言うと、燕はちょっと迷うような様子を見せた。……だが。
「いいじゃん!いいじゃん!燕、一回帰っておきなよ!ね!私のお母さんも燕のこと心配してたし!顔見たら安心するだろうし!」
「いや、死亡届が出た奴が出てきたら安心はできないだろ……」
「うん!そっか!でもいいじゃん!私、出汁巻き作るよ!それで、お母さんは多分、きんぴら作るよ!」
「あ、うん……」
燕は『本当にそれでいいのか……』という顔をしていたが、真理奈はいよいよ全く気にしていない様子である。そして、真里奈とたまに捕まってしまった燕は、もう、逃げられない!逃げられないのである!
「それで、一泊してから明日の朝、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部に行こう。決まり」
「は?」
「キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部」
「キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部……?」
……燕は、『本当に、これで、いいのか……?』という顔をしていたが、まあ、仕方がないのである。
この、益荒男達……エンジェルズが集う素敵な建設会社の名前は、キューティーラブリーエンジェル建設なのである。『なんとなく不安……』みたいな顔をしたって、もう仕方がないのである!人生、諦めが肝心!
……尚、燕の胸ポケットの中では、ジャンガリアンハム悪魔が『とっても!不安!』という顔をしてめそめそ泣いていたが、こっちこそもう仕方がないのである!人生、諦めが肝心!
「ところで、その、燕さんの死亡届とかの話、聞いてて、思ったんですけど……」
さて。そうして、デュオと七香とタヌキのための祭壇建設の話が出ている一方で……ヤエが、難しい顔をしていた。
「私、脚の説明、どうしよう……」
「あーっ……そうよねえ、急に脚が生えちゃった、ってことになる、ものねえ……」
そう。……燕が『死亡届が出て正式に死んだことになっているのに戻ってきちゃう奴』ならば、ヤエもまた、『片脚を切断して正式に治療とか色々やったはずなのに何故か脚が生えている奴』になってしまうのである!
「やだ、アタシ、その辺りぜんっぜん考えてなかったわ……現ナマじゃ解決できない、わよねえ、これ……」
五右衛門はヤエの言葉を聞いて、『アタシ、こっちをお願いするべきだったのに……』と青ざめている。
……だが。
「……僕にいい考えがある」
そこへ、海斗がやってきて……ちょっと『本当にこれでいけるかは分からないが……』という顔で、言った。
「それは義足だということにしよう」




