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頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム<Ⅱ>  作者: もちもち物質
第六章:覆水を盆に返すバカ
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多分ゲームフェイズ2:天井裏

「簡単に説明すると……『時を巻き戻す』ということがどういうことなのかが明記されていない。よって、多分これは……『使用者が考えた通りに』なるタイプの異能だと思う」

 海斗が説明してくれるのを、バカとむつの魂とタヌキが並んで正座をして聞く。タヌキとむつは物理的に正座できないので、気持ちだけ正座しているものと思われる。

「さっき、『巻き戻せるのは位置か状態か』という話をしたが……その辺りが明記されていない以上、使用者の匙加減一つ、である可能性が出てきた」

「そっかぁ……むつは大匙何杯だ?」

「匙加減の意味は分かってくれ。頼む」

 混乱を通り越して錯乱し始めたバカと、錯乱したバカに『もしかして……小匙!?』などと話しかけられてまた困惑しているむつの魂とを眺めて、海斗は『これ、説明するべきか?いや、しなくてもいいんじゃないか……?』と悟りを開きつつあった。

 まあ……世は適材適所。そして、持ちつ持たれつ。あと、バカな考え休むに似たり……なのである。




「……とても簡単に言うと、むつさんの異能は『手で触れているものか、もしくは手で触れていないもの全部の時間を前回異能使用時までのどこかの時点まで巻き戻す』ということになる」

 そうして、海斗がまとめて説明してくれるのを、バカはまた改めて背筋を伸ばして聞く。一旦、大匙のことは忘れた。忘れるのは得意なバカでよかった。

「例えば、むつさんが僕にその手で触れた状態で異能を使った場合……僕だけの時間を巻き戻すか、僕以外の全ての時間を巻き戻すかが選べる……んだと思う。或いは、むつさんがむつさん自身に触れていた場合、むつさんだけ、あるいはむつさん以外の全ての時間を巻き戻せる、らしい」

 バカは、『そっかぁ』としっかり頷いて聞き……しかし、そこで、気づいた。

「今のむつ、手、無くないか……?」

 ……そう。

 異能の発動には、条件が必要だ。

 例えば、たまは『コピー』をするのに、相手に触れる必要があった。海斗は、宣言しないと『リプレイ』が使えない。

 そしてむつは……『その手で触れたもの』が大事なのである。

 ……手が無いと、駄目なのである!


 そうして海斗ら頭脳派による審議が始まったが……。

「……その、センシティブな質問だったら、すまない。むつさんには今、手は、あるか……?」

 海斗がそう、むつに尋ねた。もう、本人に聞いちゃった方が早いよね!ということである。

 ……すると、むつの魂は、悩んだ。悩んで、悩んで……そして。

「……これが手かぁ!」

 人魂の横っちょのほうに、ちょみっ、と、でっぱりができた!手、ヨシ!

「これでいいのか……?」

「まあ……いいんじゃないかな。結局のところ、樺島君の例を鑑みるに『異能使用者本人の自覚』が結構大事みたいだし……。あははは……」

 バカは、『そっかぁ、やっぱり気持ちが大事ってことだよな!』とにこにこ納得した。海斗は釈然としない様子で、『だったら僕だって、気持ち次第で『リプレイ』の内容が変わってもいいんじゃないか……?いや、僕はそういう気持ちになれない奴だからこの異能なのか……』とぶつぶつ呟いていた!




「……さて。じゃあ、むつさんには早速、異能を使ってもらうことになるね」

 ということで、無事、むつが異能を使えるところまで漕ぎつけた。バカは、『これでやっとむつとお喋りできる!』とニコニコだし、ヤエも『むつちゃん……!』とちょっとニコニコしている!

「とりあえず、むつさんが『燕に魂を持っていかれてしまった状態』より前の状態に戻らないことには、どうしようもない。そうなってくれれば、もうちょっと相談もやりやすいことだし……まあ、むつさんにとっては、説明をまた一から聞き直すことになるけれど……」

 デュオが説明すると、むつの魂は、こくん、と頷いて、ちっちゃな手で自分自身に触れ……そして、むっ!と何やら力み始めた。

 ……なんか頑張ってるなあ、とバカ達がむつの魂を見守っていると……やがて、むつの魂の周りで、ふわっ、と、風が逆巻いた。

 燕がやった時と同じようで、ちょっと違う。燕の時は冬の北風みたいだったが、むつがやると春風みたいな具合なのだ。バカは、『性格が出てる……』とやっぱりニコニコしながら、むつを見守り……。


 ……そこからは、魔法を見ているかのようだった。

 むつの魂は、高速で揺れたり跳ねたり……今までのむつの魂の動作を全て逆再生するように動き……そして、ある一点からむつは……人間になった!

 途端、当然のようにランタンがはじけ飛ぶ!そしてランタンよりはるかに大きくなったむつは、もう少しだけ逆再生して……そして。

「……あれ?ここ、どこ……?」

 きょろ、と周囲を見回して、むつが首を傾げた。

「むつちゃん!」

 ぱっ、と表情を明るくしたヤエが腕を広げてむつに寄っていくと、むつは『え……?この子は一体……?』という顔をして首を傾げつつ、とりあえず、ヤエに腕を広げてみせて、そのまま少女2人は、むきゅっ、と抱き合った!

 ……尚、その間もむつは頭の上に『?』マークを浮かべている。バカ達はそれを見守りながら……思うのだった。

 状況に流されながらもそれを受け入れてしまうあたりが、樺島剛にちょっと似たタイプだ、と……。




 ……そうして、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴った。ゲームフェイズが終わって、発表フェイズに入ったのだろう。

 バカ達が『結構時間経ったなあー』とやっている中、むつはやっぱり頭の上に『?』マークを浮かべているのだった。

 が、状況が分かっていない割に、『大変だったねえ、むつちゃん』と寄ってくるヤエが居たり、『むつさん!よかった!人間に戻れた!』と舞い踊るタヌキが居たりするので、むつも『そ、そっか……?ところでこれ、どういう状況……?』となるばかりなのである!

 ……いい加減、むつがかわいそうなので、さっさと説明をすることになった。今までの説明の繰り返しになるのだが、五右衛門や四郎、タヌキあたりは『ところでそのあたりよく分かってなかった!』という箇所が結構あったようで、むつと一緒に説明を聞き直しながら色々と整理している様子であった。

 説明は、またリンゴン、リンゴン、と鐘が鳴って、ゲームフェイズ2に突入してもまだ続き……そして。


「……ということだったんだけれど、大体、分かってもらえたかな」

「え、えーと、はい。多分……?」

 一通り説明が終わったところで、むつはぽかんとしながら『私が時間巻き戻せて、それから時間を巻き戻して……?燕がいる……?燕が悪魔……?どういうこと……?』と、頭の上で『?』マークをぐるんぐるんさせていた。

 ……なので。

「あのな、むつ。分かんない時は、ちゃんと『わかんない!』って言った方がいいぞ!俺はそうしてる!」

 バカは、むつの肩をぽふんと優しく叩きつつ、そう言ってやった。

 ……多分、むつはバカより賢いのだ。だから、頑張れば色々理解できてしまうのだろうし、理解できていないことについても、他の理解できている部分から推測して、なんとかやれちゃうのだろう。

 だが、それはよくない。やっぱり、ちゃんと分かった上で色々やった方が事故は少ない。そして何より……むつがちゃんと納得できた方がいいだろう。

 ということで、バカは、すうっ!と息を吸い込んだ!

「復唱ー!『わかんなーい!』」

 すると、むつはぽかん、としていたが……。

「……わ、わかんなーい!」

 見事、復唱してくれたのである!万感の思いが籠った『わかんなーい!』である!すばらしい!

「よし!いいぞ!その調子だ!むつ!」

「このバカ。むつさんを変な方向へ連れて行こうとするんじゃない」

 が、バカの後頭部が海斗によって、すぱん、と引っ叩かれた。無論、バカはノーダメージである。が、一旦大人しくなることにした!


「ええと、むつさんはどのあたりが分からないかな」

「え、えーと……」

 むつは、悩んでいる様子だった。バカには分かる。多分これは、『何が分からないか分からない!』という顔だ!バカ自身にも滅茶苦茶に覚えがある現象であるだけに、バカはむつとデュオを見ていて、非常にはらはらしている!

 ……だが。

「……皆さんは、燕のこと、知ってるんですよね」

 むつは、ちょっと考えて、そんなことをふと、言い出した。

「皆さんから見て、燕はどんなやつですか?」

 ……そうしてむつは、じっ、と皆を見回す。さっきまでしっかり抱き合っていたヤエのことも、見定めるように見つめる。

 だが、その目はやっぱり、燕のそれとは違った。

『こいつら、信用できない』という目ではない。……『どうか、信用できる人であって!』という目だった。


 ……そして。

「クソガキだな」

「四郎さあん!四郎さんってば!ねえ!ちょっとぉ!」

 四郎がとんでもないことを言い出したので、タヌキがその場で『あああああああああ!』と跳び上がった!バカもそういう気分!




「く、そがき……!?」

 むつは、四郎の評を聞いて、ものすごい衝撃を受けたような顔をしていた!それはそう!バカだってそう!

「おお。クソガキだろうがよ。ったく、何画策してんだか知らねえが、誰かを頼るってこともしねえで、1人で突っ走ってやがる。挙句、あんたのことも……その、なんだ?魂だけの状態にしちまって……うん、まあ、その、あんたらにも色々あるんだろうが……」

 四郎はちょっと苛々とむつに色々言ってから、その途中で『ああ、このお嬢ちゃんも被害者側なんだよな……』と気づいたのか、急に言葉の切れ味が落ちてきた。やっぱり四郎はいい奴なのである。

「あっ、あのっ!クソガキっていうのは流石に言いすぎかなあ!って思いますけども!でもまあ、ちょっと怖い人ではありました!あっ、でもでも、多分、頭いいんですよね!?私にはよく分からない理屈を、多分、燕さんは全部理解してたんですよね!?なら頭いい人ってことですよね!?」

 更に、四郎の『クソガキ』をフォローしようと、タヌキがぽんぽこやってきた。むつは『ところでなんでタヌキが喋ってるの……?』と気になってきたらしいが、タヌキ自身は『怖い人だった!でも褒めなきゃ!フォローしなきゃ!ああああああ!』といっぱいいっぱいになっているため、それに気づいていない!

「そ、そうねえ……?その、むつちゃん達にも色々事情があった、っていうのは、なんとなく聞いてるのよ。でも、詳しいことはアタシ達、よく分かってなくて……だから、アタシは燕君に対しては、『知りたい』って、思うわ」

 そんなタヌキの横からやってきた五右衛門が、なんともスマートにそう言って、むつに笑いかけた!バカは、『五右衛門、すごい!』とぱちぱち拍手した!

 ……そう。バカ達は、『知りたい』のだ。

 だって、燕とこれから、仲良くなりたいのだから!


「あのな、むつ!」

 バカは、堂々とむつの前に立った。

「俺、燕のこと、助けに来たんだ!燕は、俺の友達の弟で……でも、そんなのなくったって、俺、燕のこと、助けたい!だから俺達のこと、信じてくれ!」

 バカは、自分の信念を思い出し、元気いっぱいに宣言した。

 多分、むつが聞きたいのはコレであったのだろう、と思ったのだ。

 だって多分、むつは、『自分が全てを完全に理解する必要がある』とは、思っていない。

 むつは……『自分が信用できる人が全部分かっていてくれるなら、自分はそれに従えばよい』と分かっている。だって、むつは燕と友達なのだから!


「……あの、一応、確認、なんですけど……」

 むつは、そんなバカ達を、きょろ、と見回して……言った。

「……皆さん、いい人、ですよね……?」

 ……嗚呼!海斗が『なんてこった!本当に樺島タイプだ!』と愕然としている!

 だがバカは満面の笑みだ!

「おう!皆、すっげえいい奴らで、頼りになる仲間達だ!」

 バカは、むつを見つめて手を差し出す。

「だから……よろしくな!一緒に燕のこと、助けようぜ!」

 すると、むつもまた、バカを見つめて……にぱっ、と笑って、バカの手を握った!

「……うん!決めた!私、あなた達のこと、信用する!よろしくお願いします!」

「うん!よろしく!よろしく!」

 ……かくして。

 バカはようやく、むつと友達になれた。

 1周目以来、初めてのお喋りであったが……人生、何とかなるものである!




 ということで。

「じゃ、燕を生き返らせに行くかぁ……」

「『20』の部屋、でしたっけ……?ああ、なんかもう、私、何が何だか……」

「あの、私も何が何だか分かってないんだけど……ああもういいやあ……」

 バカ達は全員で、『20』の部屋へと向かうことにした。

 ……そこでようやく、燕とむつが、再会することになる。


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― 新着の感想 ―
なるほど本人の自覚や認識の具合に合わせて柔軟に運用されてくれる異能………そうか、樺島の異能もそうだったのか………全体的な「異能」の感覚としてストンと腑に落ちたぞ………個人の魂に紐付くものだけあるわ………
四郎さん燕をクソガキとは言っているけどちゃんと子育てをしていた親目線だなあ…。悪態ついてる風だけど内容は実質一人で悩むな相談しろである。 もしバカ君が海斗と幼なじみだったらむつちゃんみたいになっていた…
もうすぐ終わり?と思いつつ、悪魔の試験を突破せずに出られるのかとか、燕が目指すエンディング大団円じゃなかったときまずいなとか!この後の展開も見逃せませんね!!
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