ゲームフェイズ2:『9』隠者1
「え……ええと、そうすると、樺島さんのチーム、2人になっちゃうんじゃないかな……」
「あ、うん……どうしよぉ」
バカは困った。むつは『何故、急に同行を希望するんだろう……』というような顔をしているし、デュオと海斗も『何故急に……』という顔だし……この場の全員に、『何故……?』という顔をされている!
だが!
「ああ……樺島君、むつさんと一緒のチームになりたい、って言ってたもんね」
そこで、デュオが助け舟を出してくれた!
「そういうことなんだが……どうだろう。こいつと一緒でもいいか?こっちは2人でなんとかできるから」
海斗もちょっと困ったような顔をしてみせつつ、バカを助けてくれる。なのでバカは、『よろしくお願いします!』と勢いよく頭を下げた。こういう時にはとにかく礼儀正しくしているしかない、と学んでいるバカなのである!
……だが!
「……私は、樺島さんと一緒なのは嫌だな」
「えええええええええええええ!」
むつに!そんなことを言われてしまった!
「えええ……そ、そっかぁ……」
「うん。こっちは3人で行くから」
……バカは、『そっか、そうだよなぁ……』と、しょんぼりする。
如何なる理由がこちらにあったとしても、むつが『バカと一緒は嫌』と言ったら、そこまでなのである!これを覆すことは、流石のバカにもできないのである!
「で、でも……」
だがバカはなんとか粘ろうとした。なんとか、むつの服の裾にしがみついてでもくっついていかなければ、という気がしたのだ。
特に……これほどまでにバカを警戒しつつ、『9』の部屋に入ろうとしているのだから……何か、あるんじゃないかと思う。その『何かある』むつを、放ってはおけない!
……だが。
「そういうことならしょうがないね。……樺島君、無理言っちゃいけないよ。俺達は『1』に入ろう」
デュオが、あっさりと引いた。
「そうだな、樺島。あまりむつさんを困らせるんじゃない。お前はまた僕達と一緒だ」
更に、海斗もバカの肩を掴んでそっと引き戻してきた!
「悪かったね、むつさん。じゃあ、そっちはその3人で、っていうことで、いいかな」
「あ、うん……」
一方、むつとしては、もっとバカが粘ると思っていたのか、拍子抜けしたような顔であった。
……むつが頑なであったのは、やっぱり、何かあるからだろう。だとしたら、やっぱり、バカはそこに突入しなければならない、のだが……。
「じゃあ、俺と樺島君と海斗が『1』。むつさんとヤエさんと五右衛門さんが『9』。七香さんとタヌキと四郎さんが『18』。そういうことでいいかな」
「ええ。……では、むつさん、こちらを。タヌキさんの腕輪です」
「それで、私達がヤエさんの腕輪をお借りすればいいんですよね!あとは樺島さんの腕輪を拝借して……よーし!がんばりますよー!」
……そうして、着々と、それぞれの個室へ向かう準備が整う。バカは内心で焦りつつも、『でも、デュオと海斗が決めたことだからなあ……』と、努めて冷静でいようと心掛けた。
バカは、自分がバカだと自覚している。それ故に、自分より頭がいい人達の決定には従う所存だ。それが、バカである自分にできる最適解だと思っているし……それをやってもいいのだ、と思うくらいには、デュオと海斗のことを信じている!
「じゃあ、皆。気を付けて」
「そちらもー!またここでお会いしましょうねー!」
……そうして、むつ達のチームはむつの個室に入っていき、エレベーターが動き出す。それを見てから、タヌキ達のチームは七香の個室に入り……。
「さて!もういいですね!」
が、そこで、タヌキがぴょこぴょん、とこちらへやってきた。
「ではこちらをどうぞ。ヤエさんの腕輪です!」
「ありがとう。……よし、行こうか」
……目の前で行われたよく分からない取引を見て、バカは頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべることになる。タヌキは何故か、『では参りましょー!』などと言っていることだし、七香と四郎も、個室から出てきてこっちへ来てしまったし……。
「あー……樺島。ほら、行くぞ。四郎さんの個室だ」
「え?え?」
バカが困惑している間にも、バカ達6人でむぎゅむぎゅと1つのエレベーターに乗っかることになってしまい……そして、エレベーターが動き出す。……海斗の指が、『9』のボタンを押したからだ。
「えっ?」
「あー……ほら、このゲーム、アルカナルームには2つのエレベーターが繋がっているわけだからな。こういうことも、当然、できるんだ」
……バカは、ぽかん、としていた。しばらく、ぽかんのままであった。
「……えええええええええ!?デュオと海斗、むつに嘘吐いたのかぁ!?」
「今気づいたのか!?」
そして、バカが『すげえ!なんか、悪いことしてる気がする!でもすげええ!頭いい!』と騒ぐのを、海斗と七香が呆れた顔で見守り、デュオが苦笑し、四郎とタヌキがそっと、バカの肩を叩くのだった!
「さて、樺島」
そんな中、海斗は少し緊張した表情で、バカに向き直る。
「……むつさんだって、自分のやり方が不審だということは分かった上で、ああいうやり方をしたはずだ。何せ『彼』はきっと、賢いんだろうから」
うん、とバカは頷く。
……そうだ。バカだって、知っている。『彼』は、とても賢い。それは、1周目の時点でなんとなく分かっていた。
「こっちの正体にも、ある程度は察しがついているだろう。少なくとも、僕のことはもうバレているんだろうし、デュオの素性だって分かっているのかもしれない。その上で、彼は僕らと敵対しようとしているという訳だ」
バカはちょっと、悲しくなる。
……本当なら、もっと上手くやりたかった。敵対なんてせずに、上手くやる方法があったのかもしれないのだ。だが……今は、それができない。『次』に上手くやるために、『今』、できる精一杯をやるしかない。
「彼は、『9』の部屋に入ることでこの状況をひっくり返そうとしているのか……はたまた、『9』の部屋で目的を達成できる、という状況にあるんだと思う」
「うん」
「だから、いいな?樺島。お前はとにかく、最速で動け。もうこの際、羽を出してしまってもいいから」
バカは、きゅ、と唇を引き結ぶ。……なんとなく、バカにも分かる。ここが決戦の場になるかもしれない、ということは。
「……それで、『駒井燕』を、止めろ」
「……うん」
バカは静かに、エレベーターのドアを見つめる。そうして間もなく、エレベーターは止まり……さあ、エレベーターのドアが、開いた。
エレベーターのドアが開いてすぐ、バカは走り出した。そして、躊躇うことなく、『9』のドアを蹴破るようにして開けて……。
「えっ?あ、アンタ達、どうしたの!?」
ドアを開けると、そこは暗い暗い部屋だった。そして、部屋の向こう側に五右衛門とヤエの姿があって……むつが1人、迷路の途中に居るのが見えた。
むつは、はっとしてバカ達を見ると……だっ、と走り出す。
そう。走り出したのだ。この、暗くて、碌に何も見えなくて……なのに穴だらけの、危険な迷路を!
「む、むつちゃん!?危ないよ!?」
「どうしたの!?むつちゃん!?」
ヤエと五右衛門が悲鳴を上げるが、むつは止まらない。
走って、走って……そして。
……跳んだ。
むつの手が、カンテラに向けて伸ばされる。そしてその指先が、カンテラの持ち手に届いて……しかし、それだけだった。
……むつはカンテラと一緒に、重力に引かれて落ちていく。
暗い暗い、闇に満ちた穴の底へ。
だが。
「燕ぇええええええ!」
それと同時に、バカもまた、床を勢いよく踏み切っていた。
海斗から許可を貰っていたバカに、迷いは無い。バカの背からは大きく大きく翼が広がり、力強く、空気を打つ。
限界まで研ぎ澄まされたバカの意識は、むつが落ちていくその瞬間を、一コマ一コマ、全てはっきりと捉えていた。そして……そのむつまでの距離が縮んでいく一瞬一瞬をも。全て。
バカは、躊躇なく穴の底に向かって羽ばたく。そして……今まさにむつを穴の底へ連れ去ろうとしていた重力から、むつを奪い返す!
「よし!樺島!でかしたぞ!」
……そうしてバカはその腕の中にむつを捕まえて、むつが手放しかけたカンテラもなんとか捕まえて……穴の底から戻ってきたのであった!あっぱれ!
「ふぃー……焦ったぁ……」
そうして戻ってきたバカは、極度の緊張感から解放されるのを感じながら、へのへのへの……と、床に座り込んだ。すると、海斗が『よくやった!』とバカの背を叩いて褒めてくれたので、バカは、にへ、と笑う。……褒められると、嬉しい!
また、横からデュオがそっとやってきて、バカの手からカンテラをそっと回収していった。同時に、七香と四郎がやってきて、むつを守るように……或いは、むつ『から』守るように、むつの左右に立つ。
……そして、そのむつの一番近くに居るのは、むつを運んできたバカ自身である。
バカが顔を上げれば、ぽかん、としたむつの顔が、間近にあった。だが……見開かれた目には、恐怖よりも焦りが、そして、この状況を打破すべく動く理性が見て取れる。
むつはまだ、考えている。『落っこちかけた、危なかった、怖かった』なんて思っていない。只々、『これからどうすればいいか』を、必死に考えている。
……その様子を見てしまえば、『ああ、やっぱりそうだよなあ』とバカは納得するしかない。
「なあ」
バカは、むつに話しかけた。……そして。
「お前……燕、だよな?」
そう尋ねてみれば、むつは……むつの体の中に居るのであろう『駒井燕』は、じっと、険のある目でバカを睨んできた。




