ゲームフェイズ2:ダァトの部屋
……そうして。
「まあ、案の定と言うべきか、俺達が一番乗りだったみたいだね……。あははは……」
「部屋の攻略自体には1分と掛からなかったからな……」
バカ達が大広間に戻ると、誰も居なかった。当然と言えば当然である。何せ、バカ達は女教皇の『協力』によって、ここまで猛スピードで駆け抜けてきてしまったのだから!多少、話し合いをしたところでそれにかかった時間など、大したことは無かったのである!
「まあ、これなら問題ないね。俺達が屋根裏へ上がるにあたって必要な『ハシゴ』はどっちかのチームが用意してくれることだろうし」
「次に動いた方のエレベーターの屋根に乗って移動、ということか。……間に合うか?」
「大丈夫!俺が海斗とデュオ抱えて走る!」
「それなら問題ないな。よし。頼んだ」
……ということで、バカ達は、他2チームのいずれかが大広間に戻ってくるタイミングを待つことになる。彼らのどちらかがエレベーターを動かした時、そのエレベーターが屋根裏へ続く道となるのだ!
「……いや、よく考えたら、今大広間にあるエレベーターの側面を上っていけば、天井裏に行けるね。俺達は難しくとも、樺島君1人なら十分に可能そうだけど……あー、天井を破壊することにはなっちゃうか」
「止めよう。破壊するものはひとまず、少ないに越したことは無い。それに、準備しなければならないものもある」
デュオがふと、とんでもないことを思いつきかけたが、海斗がそれを止めた。デュオは『準備?』と首を傾げたが……海斗はすぐ、『これだ』と、その手に持ったものを見せてくれた。
「明かりだよ。天井裏は暗い様子だったから……小さくても、光源はあった方がいいだろう」
海斗が持っていたのは、個室に置いてあったキャンドルランタンである。火は消えているが……。
「樺島。これに火を付けてくれ」
「おう!任せろ!」
……バカは、火の消えた蝋燭を手渡されると……それの灯心部分を、指で『むにむにむにむにむに!』と擦り始めた。
凄まじい速度でむにむにやられた灯心は、やがて、摩擦熱で発火した。
「ついたぞ!」
「ああ、ありがとう。これでよし」
「つくづく思うんだけれど、海斗君、よく樺島君のそれを上手く利用できるよね……。はははは……」
今回も美しき筋肉解法であったが、デュオには何とも言えない顔をされてしまったのであった。已む無し!
ひとまず、空いている個室からランタンをもう2つ持ってきて、それらにも着火した。こうして3人が1つずつランタンを持つ状態になったところで……。
「あ、動き出した」
「樺島!走れ!」
「おう!」
エレベーターが1つ、動き出す。
……恐らく、むつとヤエと五右衛門が帰ってくるところであろう。だが、そのエレベーターの上に、バカは海斗とデュオを抱えて駆け込んだ!
ごうん、とエレベーターが上昇していき、バカ達がのっかった屋根部分も当然、上昇していく。
そうしてバカ達は無事、天井裏へと運ばれていったのだが……。
「……案外、光源が弱いね」
……キャンドルランタン3つ程度では、明かりが足りないのであった!
だが。
「樺島。発光しろ」
「えええええええええ!?俺、発光!?するのぉ!?」
「よく分からないが、お前のことだから気合いを入れたら光るくらいはしそうだろう。とりあえずやるだけやってみろ」
海斗にとてつもない信頼を寄せられてしまったバカは、『ええええ……』と困惑しながらも、とりあえず、『光る!俺は、光る!』と念じつつ、全身に力を入れてみた。
「光った……?」
「……ぼんやり発光しているね」
「光源には足りないが……まあ、遠くからでもお前が見つけやすいのはいいかもしれない」
……そうしてバカの羽が、ぼんやりもっふりと光ることになった。
やる気があれば、案外色々とできるものであるらしい。バカはまた一つ、変な方向に賢くなった!
さて。バカが眩く光り輝くことはできなかったが、それでもひとまず、光源が無いわけではない。デュオが『こういう向きにしたらいいかんじかも』『あ、樺島君、もうちょっと羽広げておいて』などとやって、無事、それなりに周りが見えるようになってきた。
「あー……『ダァト』の部屋に、むつさんは居るかな」
「前はいなかった!」
「そっか。うーん……まあ、一応見ておこうか」
ということで、まずはダァトの個室を覗く。とはいえ、前回同様、上り階段があって、その先には多分、カードを悪魔に提出する場所があって、あと、エレベーターの操作盤があるだけだ。
「……まあ、居ないか」
「上も一応見ておくか」
「あっ!でも、上に行くと悪魔が願いを叶えようとしてくるからちゃんと断らなきゃダメだぞ!」
「そういう注意をしてくる人は、後にも先にも樺島君だけのような気がするなあ」
……更に、全員でやいのやいの言いながら階段を上り、いつか七香が悪魔に願いを告げていたその空間にやってきた。が、やっぱりむつは居ない。
『よくぞここまで辿り着いた』
「あっ、ごめんな!俺達、探し物してるだけだから!」
『えっ……』
ついでに、悪魔と思しき声にはなんとも悲しげな反応をされてしまったが、仕方がない。バカ達は悪魔に願いを叶えてもらうためにここへ来たのではなく、あくまでも、むつを探しに来ただけなのだ!
「えーと……ここにも居ないね」
「そもそも本当にこのフロアにむつさんが居るのか?」
「わかんねえけどぉ……ちゃんと探してみねえと何もわかんねえだろぉ……?」
「まあそれはそうだが……」
バカ達は、『えっ、えっ……』と戸惑う悪魔の声を置き去りに、ダァトの個室を出てしまうことにした。
「じゃあ、もうちょっと探すかぁ」
「そうだね。まあ……何か、むつさん以外にも見つかるものがあるかもしれないし」
デュオの言葉に頷いて、バカは前向きに頑張ることにした。人生、前向きであることはとても大切なのである。
……ということで、バカ達は一生懸命、本物のむつを探しに探した。
それぞれの個室があったあたりを探し、しかし何も見つからない。
個室があったあたりから離れて探してみても、やはり何も見つからない。
結局、天井裏の隅から隅まで全部探してみたが……やっぱり何も見つからない!
「居ねえ!」
バカは嘆いた!本物のむつや燕がどこかに隠れているんじゃないかと思ったのに!なのに、影も形もありはしないのである!
「うーん……天井裏、というか、『ゲーム開始前に行ける範囲』に何か手掛かりがあるんじゃないかと思ったんだけれどね」
バカが嘆いていると、デュオがそう言って、ちょっと首を傾げた。
「ほら、少なくとも、『一周目』は、むつさんも孔雀も居たんだよね?なら、天井裏が一番何かありそうだと思ったんだけれどな」
デュオの言うことはよく分からないが、ひとまず、『天井裏に何かありそうだと思っていた』というところはデュオも同じであったらしい。バカは、『だよなあ……』と思いながら、また首を傾げた。
「……となると、天井裏、じゃないのかもしれない」
すると、海斗がそんなことを言う。
「逆に考えよう。むつさんはゲーム開始前の時点で、『どこになら行くことができる』か、と」
「成程ね」
デュオも頷いて、ちら、と辺りを見回した。
「あっ!だったら、さっきの部屋をエレベーターにしたら、『21』と、あと、腕輪壊せる部屋に繋がってるんだ!そこじゃねえかなあ!」
「まあ……そういうことなら、ダァトの部屋の操作盤を動かして『21』の部屋へ行く、っていうことも可能、なのかな。或いは、『→0』の部屋に行ったとか?」
「一応、見てみるか?」
「あー……そうだね。一応、見ておこうか。ただ、『21』の方は、最後の手段にしたいな。どうせそこって、『出口』だろ?となると、今行ってももう手遅れ、っていう可能性の方が高いんじゃないかな」
バカの提案を聞いたデュオと海斗は何やら相談しながら、『じゃあまずは腕輪を破壊する部屋の方で』などと言いながら探索を始めた。やっぱり、この2人は頭がいいのである……。
「あ、この操作盤、特に何も留めるものは無いみたいだね。カバーの板を自動的に外す仕掛けはありそうだけれど……ということは、ゲーム開始前にここへ来ても、エレベーターを操作することは可能、っていうことか」
「早速行くか。こっちのボタンだな。よし……押すぞ」
そうして、バカ達は『→0』の部屋へと向かうことにした。
……とはいえ、バカにとっては一度、既に見た部屋だ。特にどうということはない。そこに燕が居ないことは、もう知っている。
だが、何はともあれエレベーターは上昇し、無事、『→0』の部屋へ到着した。バカが前回見た通り、腕輪の宝石を砕くための機械があって、それだけだ。
「ふーん。成程ね……。何も無い部屋、か」
「ここで腕輪を破壊できる、ということなんだろうけれどな」
デュオと海斗にとっては初めての部屋であるので、2人ともランタンを掲げつつ、しげしげ、と機械を見て、部屋の中を見て、しっかり色々と確認している。
「……このあたりかな」
が、そこでデュオは、何やら色々と部屋の中を探し始めた。壁を叩いたり、ドアを確認してみたり……。
すると、海斗も『ああ、そういうことか』とばかりに、色々と探し始めた。バカは『何だろうなあ』と思いながら2人を見守っていると……。
「……やっぱりな!あったぞ!」
海斗が嬉しそうな声を上げたので、そっちを見に行く。
すると。
「隠し扉だ!」
なんと……エレベーターから『→0』の部屋までの間の廊下に、セフィロトの模様があったのである!
セフィロトの模様は、腕輪を翳せば開く。デュオが自分の腕輪を翳すと、ただの壁であったそこがぽっかりと開く。
バカを先頭にして、その先へと進む。
「暗いな……」
キャンドルランタンを掲げて照らせば、どうやら、隠し扉の先は小さな部屋になっている様子であった。
……そして。
「……孔雀だ!」
そこに、見覚えのある少年の姿がある。
一周目以来、ずっと見ていなかった……孔雀が、そこに倒れていた。
「孔雀!」
バカはすぐさま駆け寄った。だが、孔雀は動かない。
「孔雀!孔雀、おい、しっかり……」
バカが孔雀の肩を掴んで揺すると、孔雀の顔からメタルフレームの眼鏡が滑り落ちた。
……そうして、バカは悟る。
「孔雀……死ん、でるの、か……?」
やっぱり、孔雀は動かない。




