ゲームフェイズ1:大広間2
「四郎さん。氷でマラカス、作れる?」
「は?」
……そして、四郎とバカとデュオと、3人での内緒話が始まった!
むつとタヌキと七香が3人で何やらお喋りしている一方、こっちはこっちで男3人集まって、相談である。
「マラカスだぁ……?」
「うん。こういう奴!」
ということで、バカが未だに手の中でシャカシャカやっていたマラカスを見せる。……バカがずっと握っているものだから、大分融けてしまったが!
「ああー……まあ、できなか、ねえけどよ。ほら」
……そして、四郎は四郎で、ぽん、と、氷のマラカスを作ってくれた。
バカは、4本になったマラカスを振った。シャカシャカシャカシャカ、大変に騒がしい!
「なんだ。そっちのは、むつが作ったのか」
「うん。……四郎さんとの異能の相違を調べてるところなんだけれどね。どうにも、尻尾が出てこない」
「まあ、そうだろうな。相手も警戒してんだろ、多分」
四郎は『参ったな』と頭を掻きつつ、ちら、とむつの方を見る。……むつは今、タヌキから『でっかい天秤がありましてねえ!で、その天秤持った、やっぱりでっかい像が!剣を!』などと、『11』のアルカナルームの説明を聞いているところである。臨場感たっぷりなタヌキの説明は、聞いているだけで楽しそうだ。
「……そういうことなら、もう、『やり直し』しちゃってもいいのかもね」
「ええ!?もう!?」
が、タヌキの説明の方にばかり意識を向けてはいられない!デュオが随分と、性急なことを言い出したからだ!
「うん。警戒されている以上、相手は情報を隠してくる。その中で情報を探すのは難しいだろうし。効率化を図っていかないと……その、樺島君が覚えることが、増えちゃうからね……」
「そ、そっかぁ……そうだった……」
デュオの苦笑と共に出てきたアドバイスに、バカは『そうだった、俺が説明ヘタクソすぎて、今回、時間ギリギリだったんだった……』と思い出した。嗚呼、バカがもうちょっとバカでなかったなら、こうはなっていなかったのだろうが!
「あー……まあ、もうちょっと粘ってみてもいい、とは思うけれどね。それこそ、取り返しがつかないくらいのことをやってみてもいいとは思う」
「へ?取り返しがつかないくらいの、こと……?」
「うん。むつさんを殺しにかかる、とか」
「えええええええええええええ!?」
バカは驚いて、叫んだ。すると遠くでタヌキが尻尾を『ぼんっ!』と膨らませて、『うわあああああ!びっくりしたああああ!樺島さあん!そんな急に大声出さないでくださいよびっくりしたあ!びっくりしたあ!』と抗議してきたので、バカは『ごめえん!』と謝った!
「……むつを!?」
改めて、小さな声で聞き返してみるが、デュオは確かに頷いた。
「あ、うん。まあ……やってみてもいいかな、とは思ってるよ。本気でね」
「な、なんでぇ……?」
「死ぬような状況にならないと、異能って本気で使わないんじゃないかな。まあ……嘘を吐いている状況じゃないところまで追いつめる、っていうのはやってみてもいいんじゃないかな。どうせ『やり直し』するんだし」
バカは、『おおお……』と感嘆とも狼狽ともつかない呻き声を上げるしかない。デュオは……思い切りが、良すぎる!
「……まあ、やってみてもいいんじゃねえか?」
更に、そんな案に四郎は賛成らしい!
「えええ……ダメだろぉ、そんなことぉ……」
「つってもな。あいつが本当に悪魔だとしたら、あいつは俺達を殺すつもりでいるんだろうよ。じゃなきゃ、カードを独占するってことは不可能だろうからな」
四郎が諭すようにバカにそう言う。『気持ちは分かるけどよ』と、バカの背をぽふん、と叩く。……バカも、分かってはいるのだ。このゲームに参加している悪魔とやらが、昇格試験のために頑張っているのだとしたら……そいつは間違いなく、こちらを殺すつもりなのだろう、ということくらいは。
「うーん……うーん……」
「樺島君がやる必要はないよ。俺と四郎さんがやる」
バカが尚も悩んでいると、デュオは苦笑しながらそう言った。
「七香さんあたりを誘ってみてもいいけど……俺に協力してくれるかな……」
「七香、デュオのことも好きだと思うぞ……。タヌキのことだって好きなんだろうけど……」
「……そういうものかな」
バカの言葉に、デュオはちょっと苦笑いを浮かべて……それから、ふ、と顔を上げた。
「まあ……こっちの相談は一時中断かな。できるなら、次は俺と四郎さんとむつさん、っていう組み合わせにして、むつさんを殺しにかかってみたいところだけれど……それは追々考えよう。最後のチームも戻ってきたみたいだし」
デュオの言う通り、エレベーターが『ふぃーん』と動いている。……ヤエと五右衛門と、海斗が帰ってきたのだ!
「あっ!海斗ぉー!」
エレベーターから海斗が降りてきたのを見て、バカはすぐさま、海斗へ駆け寄っていった。海斗は、上着を脱いではいるが、特に怪我などはなさそうである。……上着のことといい、ちょっとほかほかしているところといい、もしかして、海斗はあったかい場所に居たのだろうか。
「ただいま。そっちはどうだった」
「塔が勝手に解体された!そっちは!?」
「こっちはヒマワリ畑だった」
「ヒマワリ畑!成程なあ!」
そしてバカは、海斗の説明を聞いて納得した!海斗達が入った部屋は、例のヒマワリの部屋だったらしい!
バカは、『あの部屋、結構暑かったもんなあ』と思い出しつつ……海斗の後ろで楽しそうに話している五右衛門とヤエの姿に目を留める。
「あれっ、ヤエ……ヒマワリ、持ってきたのか?」
そう。何せ、ヤエは……その手に、大輪のヒマワリを抱えていたからである!
「わー、すごく綺麗なヒマワリだねえ」
「うん。むつちゃんにも見せたくて」
ヤエは、持ってきたヒマワリを『はい』とむつにプレゼントしていた!むつは、『わあい!ありがとう!』とにこにこしながら、ヒマワリを抱えてみたり、ちょっとふりふりやってみたりして喜んでいる。ヤエもにこにこしている。仲良しなのは良いことである!……むつの正体が分からないことは置いておくとして!
「七香さんも。どうぞ」
「あら……」
そして、ヤエは七香にもヒマワリをプレゼントした!七香はヒマワリを受け取ると、『ありがとう』と微笑んだ。……七香が優しく微笑んでいるのを見ると、バカはなんだか嬉しくなる!タヌキも嬉しいと見えて、『よかったですねえ、七香さん!』と喜んでいる!
「では……お返しに」
すると七香は、タヌキをそっと抱えてきた。……タヌキは七香に抱えられたまま、もそもそもふん、とお腹のあたりで何かやると……。
「はい!むつさんの分と、ヤエさんの分です!」
なんと!タヌキは、品のいいブレスレットとネックレスを取り出して、それぞれ、ヤエとむつにプレゼントしたのである!
「さっき入った部屋にあったの。よかったら、どうぞ」
七香が微笑んでそう言えば、むつもヤエも『わあー!』と目を輝かせて、それらを受け取った。『きれいだね……』『きれいだねえ。わー、私には大人っぽすぎるかなあ、これ……』などと話しながら、なんとも和やかな女子会の様相である。タヌキも居るが。女子じゃないはずの、タヌキも居るのだが!
「私、もらってばっかりだなあ……」
そうしていると、むつはちょっと、悩み始めた。……そして。
「えっと……じゃあ、えい!」
むつが気合いを入れると、きし、と、むつの手の中で氷が軋む音が聞こえて……そして。
「わあ……」
「あら」
むつの手から、氷が伸びる。伸びて、それらは枝になって……その先に、大きな花を咲かせた。
なんと!むつは異能を使って、氷細工の花を生み出したのである!
……が、バカにはそれが何の花なのか、分からない。薔薇でも桜でもチューリップでもないことは、分かる!あと多分、百合でもない!
「じゃあ、はい!これ、プレゼント!すぐ融けちゃうかもだけど……」
むつが氷の花を手渡すと、ヤエは目を輝かせ、七香は少し笑って、タヌキにそれを見せた。タヌキは『わあ!綺麗ですねえ!いいですねえ!ガーベラですか!可愛い花ですよねえ!』とぽんぽこ喜んだ。……どうやらこの花は、ガーベラというらしい。バカはまた一つ賢くなった。
「むつさんの異能は、氷を生み出す異能なのね」
「あ、はい。そうなんですよ。えへへ……」
七香が氷のガーベラを手に尋ねると、むつはちょっと照れたように笑った。
「それにしてもこのガーベラ、いい出来栄えですねえ!ガーベラというチョイスもまたなんとも素敵!とってもいい!」
「春っぽくていいでしょ。桜にするか、ちょっと迷ったんだけどねー」
タヌキからも絶賛される氷のガーベラは、透き通った氷の花弁が光に煌めいて、なんとも美しい。
美しいのだが……バカは、ちょっと不思議に思った。
「なあ、むつ」
「ん?どうしたの、樺島さん」
気になったバカは、むつに声を掛けてみた。
「その……チューリップじゃないのか?」
「え?」
「花……その、チューリップに、しなかったんだなあ、って……」
バカが何と言っていいものか分からないまま、おろおろと言葉を紡ぐと、むつは、こて、と首を傾げた。バカは、自分が言っていることがよく分からない言葉になっていることも分かっているので、余計におろおろするばかりなのだが……。
「むつはチューリップ、嫌いか?」
……そう、聞いてみることにした。
だって、最初にむつと話した時……『孔雀』が居た、あの唯一の回で、むつは話していたのだ。
『チューリップが好き』と。『孔雀がじゃんけんで勝ち取ってくれた球根から育てた思い出があるから』とも。
「ん?別に嫌いじゃないよ。好きな花の1つだけど……あ、樺島さん、チューリップ、好きなの?チューリップも春っぽくていいよねえ」
……だから多分、彼女はむつじゃない。
樺島は、そう気づいた。




