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第四話 芽の記憶



暗闇——

それが永遠に続くと思ったのは、ほんの一瞬だった。


土の中は、暗くも重くもない。

むしろ柔らかく、ぬるい液体のように体を包み込み、体温と同化していく。

直志は自分の手足の感覚を探したが、そこにあるのは“茎”だった。

指はなく、掌もない。

代わりに、柔らかく弾力のある繊維が土の粒を押し分け、静かに外へと伸びていく。


——俺は、芽になったのか?


驚きはあったが、恐怖はなかった。

体を動かすほど、土から甘く温かい“記憶”が染み込んでくる。

それは自分が知らない誰かの人生の断片。


・小さな手で、母の袖を掴んで歩いた道。

・古い井戸に小石を落とす音。

・夏祭りの夜、暗闇の中で聞こえた笛の音。


それらは鮮やかすぎて、まるで自分が経験した記憶のようだった。

——いや、もしかしたら本当に自分のものなのかもしれない。


やがて、根の先が何か硬いものに触れた。

骨。人間の。

そこに触れた瞬間、激しい映像が流れ込む。

見知らぬ女の顔。泣きながら土を掘る小さな少年。

そして——その少年の右肩が、少しだけ落ちている。


「……俺だ」


直志はようやく気づいた。

ここはただの庭ではない。

“誰かを戻すための庭”なのだ。

芽は、土に還った人間の記憶と形を吸い上げ、再び地上に送り返す。


——では、今地上にいる“俺”は、何者だ?


その疑問が芽吹いた瞬間、地表から光が差し込んだ。

いや、光ではない。

“呼び声”だ。

茎のすき間から風のような囁きが降りてくる。


「おかえり」


その声は、母だけではなかった。

複数の声が重なり、土の底の直志を引き上げようとしている。

同時に、地上の“もうひとりの直志”が、玄関から外に出て庭の中央に立つ姿が見える。

手にはシャベル。

笑っている。


——どちらかが、根を切る。

そうすれば、片方だけが生き残る。


土の中で、直志は自分の“芽”を固く締めた。

選ばなければならない。

生きるか——残るか。




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