表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

01.予定外イベント(1)

 セラフ本社に間借りを始めた、その1日目。

 寧子は自身に割り当てられた、見慣れないその部屋を見渡した。


 正直、広さは前の1区自宅の方が広い。そりゃそうだ、一軒家である。

 ただし設備が最新なのはセラフから与えられたこの一室だろう。今年に発売されたばかりのエアコンによく分からないがクリーンな空気にしてくれる空気清浄機。高級ホテル仕様なので、風呂も洗面台も全て備え付けである。

 何よりベッドがふかふかなのが一番嬉しかった。警戒心など塵程度にしか持ち合わせていないので、すぐに爆睡出来て健康状態もむしろ良好である。


 それと同時に普通ならば部屋の中にあるはずではない物も多数存在している。

 ボタン一つでセラフ職員を呼べる大掛かりな装置に、医療器具が詰まっている部屋の主である寧子さえ触ってはいけない戸棚。どこからともなく匂っている消毒液のようなそれは恐らく気のせいではないだろう。

 結論としては高級ホテルと病室を足したような部屋。それがここだ。


 ――私は快適に暮らしてはいるからいいけれど、1区のみんなはどうしているんだろう?

 それも心配事の一つだ。

 セラフに保護されているのは寧子自身だけで、1区の他の皆は姿さえ見えない。ご近所とはいえ連絡先を交換している訳でもなく、安否確認は容易ではなかった。

 加えて1区で起こった襲撃事件――というか最早テロ――は巷では大きなニュースにはなっていないようだ。テレビを観ていたが、ニュースキャスターがチラッとこの事件に触れただけで、大したことでもなかったかのような扱い。翌日になれば大半の人間の頭から忘れ去られているだろうと容易に想像できる。

 1区といえば、水やりする約束をした件の鉢植えも気掛かりだ。

 今日は流石に水をあげられないかもしれない。どうにかできないだろうか。1区の様子見もしたいので、現場へ戻れるのなら非常に有難いが。


「……あ!」


 コンコン、とドアをノックされる音で我に返る。

 朝、迎えを寄越すとアーディ先生にそう言われているのでその迎えとやらが来たのだろう。セラフ本社内がどのような構造になっているのか全く分からないので助かる。


「はーい!」


 返事をしながらドアを開けた。

 立っていたのは気怠そうな表情を浮かべたエリアスその人だった。まだアーディに雑用を押し付けられているらしい。若干不機嫌そうにも見える態度がそれを物語っている。


「おはようございます……」

「ああ。おはよう。飯の時間だ、行くぞ」


 一瞥くれたエリアスは寧子の格好を観察しながら端的に用件を告げた。

 迎えが来るというのは事前に知っていたので、勿論支度は済んでいる。急に出掛けると言われても問題ないレベルだ。

 そうだ、と思い出したようにエリアスがぽつりと言葉を漏らす。


「朝食の前に研究室へ連れて来るよう、アーディ先生に言われていたんだったな」

「け、研究室ですか?」

「そうか、お前知らなかったんだな。アーディは医者でもあるが、それ以前にそもそも研究者だぞ」

「そうだったんですね。え、朝から何をされるんですか、私」

「採血だろうな」


 それだけならば慣れたものなので特に思うところはない。

 昨日の夕食もそういえばかなり早かった上、自宅でも無いので言わなかったが間食の類は出来なさそうな設計になっていたような。

 思い出を掘り起こしていると、エリアスはさっさと廊下を進み始めてしまった。慌ててその背中を追う。


「……」


 ――気まずい沈黙。

 こちらにとってみれば本日は最早オフ、お休みのようなものだがエリアス達は絶賛仕事中。私語は注意対象なのだろうか。

 それにしたって気まずいので、恐る恐る口を開く。お喋りNGなら途中で遮ってでも黙れとそう言いそうだし、大丈夫だろう。


「あの、そういえばエリアスさんってセラフで何をしているんですか?」

「荒事」

「荒事……!?」

「俺が医者や研究員に見えるのか? 脳味噌が溶けてる馬鹿とお話したり、昨日のほぼテロリストみたいな連中を追い払うのが俺の仕事だな」

「まあ、物騒ですからね。最近」

「――だが……お前のおかげで、ガキのお守が仕事に変わりそうだ」


 おかげ、だなんてこれっぽっちも思っていなさそうである。

 確かに小娘の面倒を見る仕事を満足してこなすようには見えない人物だ。現在進行形で相当にストレスを溜めていそうで申し訳ない。

 というか――


「……研究室ってあとどのくらいで着きます? 遠くないですか」

「はぁ。居住スペースと研究室が隣接した設計になっている訳がない。まだあと5分くらいは掛かるな。本社は広すぎる」

「不便だなあ……」

「まったくだ。先生に研究室の隣に部屋を移せって交渉してくれよ。毎朝迎えに行かないといけないのは面倒だ」

「研究室の近くに人が住める部屋、ちゃんとあるんですよね……?」


 言っちゃ何だが、こちとら現代に飼いならされた女子高生である。

 何もない部屋で犬猫のように飼われても生きていけないだろう。

 少し考える素振りを見せたエリアスが肩を竦めた。


「研究員の連中は住み込みで籠っている事もあるからな。泊まり用のスペースくらいならあるんじゃないか? 空きがあるかは知らないが」

「駄目そう……」


 文系なのでさっぱりだが、やはり研究職は大変そうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ