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異能「幸運」らしいのですがトラブルが尽きません  作者: ねんねこ
1話:幸運とは何だったのか
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04.ストレスフル健診(3)

「興味深いな」


 言いながら、とうとう医者はタブレットを机の上に放った。

 足を組み、こちらは緊張しているのに完全にリラックスしたような姿勢だ。


「異能力が開花する為の条件は、廃晶病に感染しそこから生還する方法しかない。だが、君達のような先天性の能力者はその順序を必要としない」

「はあ……」

「先天性の異能力者に何人が接触したが、君のようにホイホイとセラフの言に従って診察を受けに来た協力的なサンプルはいなかった。リスク管理が甘くて助かるが、心配になるな」

「サンプル……」


 成程、この言葉が全てだ。珍しかったから呼ばれたのだ、今ここに。

 理由が判明すれば少しだけ肩の力が抜けた。何か痛い事さえされなければ、人類の為に質問攻めされるくらいならば受け入れようと思う。


「シンクロ率をはかりたい。採血しても?」

「大丈夫です」

「よろしい。君は――採血するのに、気分が悪くなるタイプか?」

「いいえ」


 最初からそのつもりだったのだろう。多くの看護師がそうであるように手際よく注射器に似た器具を組み立てた医者が、ついでにシンクロ率の説明をしてくれる。何度も聞いた話ではあるが、沈黙は気まずいのでそのままにしておいた。


「我々が便宜上シンクロ率と呼んでいるこの数値は異能力と言う異物がどれだけ身体に馴染んでいるのかを表している。高ければ高い程、自在に異能を制御できる状態にあるとういう訳だ。大抵の異能力者は70%以上の数値をキープしている」

「はい」

「そして君の数値は79~85%の間を行き来しているとカルテに記載がある。これは一般的な数値よりやや高めだが、生まれ持った体質と考えれば当然なのかもしれないな」

「……!?」


 話をしている間に、いつの間にか採血が終わっていた。痛みも何も無かった、手練れである。フレディ先生はあり得ないくらい採血が下手だったので、毎回鈍痛のようなものが奔っていた。


 筒のような器具に入った血液を数滴、よく分からない機械に垂らす。これもセラフの技術なのだろうか。結果は確かすぐに出るはずだ。


「……ん?」


 ここでトラブルが起きた。恐らく滅茶苦茶レアだと思われる、医者の酷く狼狽し困惑したような表情が全てを物語っている。

 それもそのはず、例の測定器から出て来たレシートのような結果には「シンクロ率:0%」などという見た事のない数字がぽつんと鎮座している。

 やがて先に現実へ復帰したのは医者だった。

 頭を振り、小さく溜息を吐く。


「0%は流石にないな。機器の故障だろう。バニラ、受付に交換機を持ってくるよう依頼」

『承知いたしました』

「悪いが、もう少し待て」


 気まずい沈黙再び。

 仕方がないので、寧子は試しに無難な話題を目の前の医者先生に振ってみた。


「あの、私、先生のお名前とかお伺いしていないのですが?」

「アーディ・クラインだ。それで、名前など聞いてどうする?」

「え、まあ、円滑なコミュニケーションの一環というか」

「成程。ふむ、セラフとしても君のような珍しい異能者とは末永く付き合いたい。ではコミュニケーションとやらに乗ろうか。他に何か質問は」


 ――他人と親睦を深めた事ないのかな、アーディ先生。

 なんて機械的なやり取りなのだろう。周囲にはいなかったタイプだが、人間など様々なのですぐにどうでもよくなった。


「私の事を色々と調べて、それで何の役に立つのですか?」

「それこそ様々だな。急を要するのは廃晶病の治療方法だろうか。今の所、不治の病だ」

「異能が開花したら治るって言ってませんでした?」

「それは君達が勝手にそう理解しただけで、セラフはそのような事は言っていない。完治はしていない。症状が治まっただけで、何かを切っ掛けに再進行する恐れがある。事実、幾つか症例がある」

「そうなんですか。あ、そういえば先生も異能者なんですか?」

「ああ。……こちらからも聞きたいのだが。君はデミ・ゲートに接触した事があるのか?」


 ゲートのミニ版である。

 そんな稀有な場面には遭遇した事がないので、寧子は首を横に振った。


「いいえ。ないです」

「本当に? シンクロ率がおかしかったから、他の数値もあてにならないが君の血液からは僅かにクリスタル・ダストを吸い込んだ兆候が見られる」

「ええ!? いや、本当に知らないです」

「デミ・ゲートとは関係のないところでクリスタル・ダストが漂っているのであれば、大問題なのだがな……。いやいい、本体であるゲートが目の前に聳え立っているのだから原因はこれしかありえない」


 ――それにしても、意外と世間話に応じてくれるな……。

 最初の印象はかなり苦手な人類、という感じだったが段々慣れてきた。言い方は淡々としているが聞きたい事も教えてくれるし、多分悪い人ではない。

 少しばかり緊張が抜けたタイミングで、先程の受付お姉さんが予備機を持ってきてくれた。代わりに故障機を返し、仕切り直す。


「さて、今度は正常に作動するといいのだが。ああ、もう血は要らない」


 言いながら、最早血液の提供者には興味を失ったかのようにアーディの視線は機器が弾き出す結果に釘付けとなっていた。


「……いや、やはり0から変動がないな」

「ええ!?」

「では、これは正常な数値……? シンクロ率以外に不審な数値は無い」


 沈黙した寧子の背に嫌な汗が伝う。

 1区の居住条件にあるシンクロ率は70%以上だ。0など論外も良い所である。

 そして治安が僅かに悪い2区も不可、3区も無理だろう。何なら治安最悪と噂の4区にも入れない。どころか、強制連行施設と名高い5区送りにされる可能性さえある。そもそも、3区以下に住む能力はない。異能バトルが勃発しようものなら最初に死ぬ。


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