表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

12.1区での事件(2)

 ――逃げなければ。

 歳が同じくらいの少女と油断していたのは否めない。アンセムなどという物騒極まりない組織の構成員だとは全く思わなかった。

 寧子の顔色が急速に悪くなった事に気付かず――或いは気付いた上で、ロラが上機嫌に勧誘の続きを始める。


「私達の目標はこの世界を異能力者だけの世界に変える事……全員同じになってしまえば、差別も何もないでしょう? だから一緒に世直ししようよ、寧子ちゃん」

「あっ、そういうのは……えっと、間に合っているんで」

「でも君も、1区の異能者しかいない空間が心地よいと思った事、あるんじゃない? 全員が異能力者ならさあ、異能力者である事を理由に攻撃されないんだよ? それに――」


「そこで止めておきなさい」


 それまで黙って寧子の異能を調査していたヨッシーが、ふとロラの言葉を遮った。少しばかり慌てているようにも見える。

 そんな仲間の様子を見たロラが、初めて狼狽えたような声を出した。


「え、顔色悪いよ? 大丈夫?」

「……撤退しましょう。これ以上、ここで得られるものはなさそうです」

「了解。じゃあ、行こうか寧子ちゃん。私から離れちゃ駄目だよ?」

「いえ、彼女は置いて行きましょう」

「ええ!? 使える能力ではなかった? でも、異能者なのに変わりは――」

「置いて行ってください。本人が嫌がっているので」

「いつもそんな事、言わないじゃん! ど、どうしたのさ……」


 ヨッシーは頭を振り、更に強い口調で意外にも寧子の望む通りの展開になるような言葉を吐き出した。


「駄目です、無理です。準備不足でしょう、彼女は危険――」


 瞬間、頭上から複数名の足音が聞こえた。

 流石のロラもぎょっとした顔で天井を見上げる。


「嘘、もうバレた!? ここ、完璧な隠れ場所だと思ったのに! よっしー、寧子ちゃんはこのまま連れて行くから」


 シェルターの扉が凄い勢いと音を以て蹴り開けられた。

 現れたエリアスは既に銃口を誘拐犯へと向けている。


 ***


 エリアスが地下シェルターに辿り着く十数分前。


 アーディから電話が掛かってきたことに舌打ちしつつ、エリアスはスマホを耳に押し当てた。


「もしもし。今はアンタと会話している場合じゃないんだが、重要な用件か?」

『トラブルが起きた事は分かっている。その件で、子羊会からの助力――フリアという女性が1区へ向かった。寧子を捜しているそうだな。居場所へ案内するそうだ』

「はあ?」

『以上。では早めに帰社するように』


 本当に用件だけ告げたアーディから一方的に通話を終了される。

 ――と、今度はシールドからの借り物であるルーシャが困惑気味に声を掛けて来た。


「エリアスさん。えー、セラフからフリアさん? という方が今丁度いらっしゃいましたが、お知り合いなんですよ、ね?」

「……」


 今名前を聞いたフリアその人――と思わしき女がルーシャの隣で含みのある笑みを浮かべている。子羊会は気難しい集団だが、どんな風の吹き回しなのだろうか。


「こんにちは、エリアスさん。今、アーディさんから紹介に預かったフリアよ。さ、寧子ちゃんを迎えに行きましょう。大丈夫。既に彼女等の拠点は一つに定まっているのだから」

「お前、まさか誘拐犯の一派でしれっとセラフに潜り込んだスパイ――とかじゃないだろうな」

「いいえ。セラフも、それ以外の組織も……純粋な真なる異能力者はいないもの。私にとって用があるのは寧子ちゃんだけよ。さあ、こっちへ。彼女を救出するという目的だけは、少なくとも一致しているでしょう」


 子羊会の構成員は先天性異能力者のみ。

 寧子に興味を持つのは順当な流れと言えるし、アーディの保証もある。寧子を捜さねばならないので一先ず案内に従う事にした。


 ***


「何なんだここは」


 連れて来られたのは石造りの簡素な建物――内部にある、階段だった。

 エリアスの問いにルーシャが応じる。


「これは恐らく、1区の地下に2つある避難用シェルターへの階段ですね」

「へえ。まさか、シェルターから外に出られる造りになってないだろうな」

「出られますよ」


 心配しないで、とフリアが笑う。


「まだ寧子ちゃんも、彼女を攫った連中もシェルターにいるわ」


 ルーシャがやや不安そうに眉根を寄せた。


「ここには私達3名と、途中で合流した隊員の合計7名しかいません。この人数で中にいる犯罪者を制圧できるでしょうか?」

「大丈夫よ。寧子ちゃん以外に、2人しかいないもの。恐らくどちらも戦闘に関する異能は持っていないわ」

「俺が先に入る。移動能力で寧子を連れて行かれたら困るからな」

「ええ。良い考えだと思うわ」


 尤も、先行できるのはエリアス本人とルーシャしかいない訳だが。

 こういう切羽詰まった状況でシールドのメンバーを先行させると、発砲許可がどうのと揉めるのは請け合い。奴等は規律に厳し過ぎる。


「え!? ですが、セラフは一応一般人――」


 迷う素振りを見せるルーシャを置き去りに、エリアスはシェルターへと乗り込んだ。

 不用心な事に、施錠もされていないドアを蹴破り、室内の様子を瞬時に把握。


 こちらへ背を向けている移動能力者。うっすら身動きを封じられている寧子、知らない男――フリアの言った通り、誘拐犯の内訳はたった2人だ。

 ――まずは移動能力者を封じる。

 ぎょっとしたように振り返った少女へ銃口を向け、そして引き金を引く。下手して寧子に当たってはいけない為、狙いは足。

 寸分の狂いなく銃弾は少女の太腿辺りに命中した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ