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10.デミ・ゲート(2)

 ***


「ああ、クソ!」


 エリアスは悪態を吐きながら目の前にいる化け物と対峙していた。

 護衛対象である寧子に避難指示を出したのは良いものの、まさかこの状況で第三者的な手合いが現れるとは考えていなかった。まんまとよく分からん小娘に小娘を誘拐される失態に頭が痛くなってくる。


 ――まずはこの変異体をどうにかしなければ、寧子を捜す事すらままならない。

 誘拐犯は移動系の異能力を持っているようだった。この変異体を相手取りながら、更に寧子を捜すのは困難を極める。もうここまで来たら、いっそデミ・ゲートも閉じてしまおう。

 開けたままにしておくと、運が悪ければ更に変異体の数が増えてしまう。ゲートの向こう側からも正体不明の化け物が稀に現れるからだ。


 意外にも素早い動きで右へ左へとふらふら動く変異体の――恐らくは眉間だと思われる場所に銃口を合わせる。外皮の結晶は銃弾一発程度で破壊できるのだろうか。


「俺は――対人向きの性能だぞ、人選ミスが過ぎる……」


 引き金を引く。

 狙いから少し逸れたものの、およそ頭部と呼べる部位に命中した。明らかに人体に銃弾が命中した時には発生しないであろう、金属質な音が鼓膜を打つ。

 額に明確なヒビが入ったのを見て、もう一発撃ち込めばどうにかなりそうだと心中で安堵の溜息を漏らした。全く物理攻撃が効かないのであれば、シールドの面々にこいつをぶつける必要性が出て来るところだった。

 飛び掛かって来た変異体の前足を躱し、距離を取る。素早い動きではあるものの、やはり結晶を身体に纏っている弊害か小回りは利かないようだ。石畳を嫌な音を立てて結晶化した前足が滑って行く。


 化け物がこちらを振り返ったところで二発目の弾丸を放った。

 今度は落ち着いていたからか、狙い通りの位置に命中。変異体は剥がれた結晶と、核になった人間の肉片を撒き散らしながら倒れ、そして動かなくなった。


「もう少し早く駆け付けられなかったのか? シールド」


 化け物の討伐が終わったタイミングで、煙草の匂いが鼻孔を霞めた。

 こんなに堂々と仕事中に煙草を吸う男など、先程であった責任者・ジャレッドぐらいしか思いつかない。

 エリアスは胡乱げな瞳を駆け付けたジャレッド、そして部下のルーシャへと向けた。


「悪いね。俺達も呼ばれてすぐ出て来たケドさ。ちょっぴり遠かったよね、拠点にしていた中央からさ」

「エリアスさん、ご協力感謝いたします! 彼等は……」


 煙草を吹かすジャレッドを他所に、ルーシャは即座に絶命した1名の隊員と、倒れ伏す生存者に視線を移した。

 ――が、優先順位を考えたのか頭を振る。


「いえ! デミ・ゲートは私が閉じます! ジャレッドさん、現在の時刻は――」

「それは良いが、アンタはちゃんと異能者なんだろうな。もう変異体の相手なんざしていられないぞ」

「はい、問題ありません」


 そう言い切ったルーシャは成程、手慣れているようだった。

 日時をはっきりと上席に告げた後、小走りでデミ・ゲートの元へ。開き切っていた門をあっさり閉ざして戻って来た。足元がふらついている様子もない。


「任務完了しました。問題はないですね? 先輩」

「はい、ご苦労さん。……つか、あれ? 寧子ちゃんは? 待てよ、こっちの彼は廃晶病対応医療施設に運び込まないとまずいし、殉職した彼誰だったっけ? タグを見たいな……」

「寧子は――」


 正直、エリアスの最優先事項は寧子の捜索だ。

 だが死亡者はともかく、廃晶病に罹患しているであろう隊員Bも人命という観点では放っておけないだろう。

 捜し物はシールドの専売特許だ。どうにか捜索に協力してもらわねばならない。

 故に、早口で寧子の状況をジャレッドへと伝えた。

 報告を受けたシールド現場責任者は酷く遠い目をして煙を吐き出した。


「あーっと……煙草吸ってる場合じゃないわけか。そっか……。ルーシャちゃんさあ、セラフの彼を連れて寧子ちゃんを先に捜し始めといてくれる? 俺は他の連中に指示を出してから参加するからさ」

「承知しました。さあ、行きましょうエリアスさん」

「ああ」


 どうやら優秀な後輩を貸し出してくれるようだ。

 シールドの捜索はかなり有用だが、プランを決めるのにそこそこの時間を有する。ジャレッドが早めに部下へ指示を出して活動に当たってくれるのを祈るしかない。

 ――それにしてもあの小娘、運が良いんじゃなかったのか? あっさり連れて行かれたが……?

 1区は広すぎる。捜すのに時間が掛かりそうな上、誘拐犯の異能を鑑みるに既に1区から出ている可能性さえある。


「――あ?」


 スマホが不意に着信を告げた。見れば、アーディからである。

 緊急事態ではあるが、出ない訳にもいかない。というか、研究以外に興味のないあの研究員からの電話はシンプルにもっと悪い事が起こっている予兆の可能性がある。

 舌打ちしたエリアスは、ルーシャへ一言断ってスマホを耳にあてた。


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