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09.デミ・ゲート(1)

「行くぞ、こっちだ」


 エリアスに強く腕を引っ張られる。

 しかし、数歩進んでその足が止まった。進行方向に人影が2つ現れたからだ。


「どうされましたか!? 何の騒ぎ――えっ、あっ、デミ・ゲート!?」


 シールドの制服を着ている。中央にいた人物達ではなく、完全に初対面だ。先程の連絡を受けて来たという訳ではなく、大騒ぎしていたから様子を見に来たかのような空気である。


 この後色々起こる事になる訳だが、この時のエリアスのぎょっとしたような、何か危険を察知したような表情だけは鮮明に覚えている。


 事態を察したらしいシールドの一人が駆け寄って来る。

 止まらぬまま、セリフだけを置いて横を走り抜けていった。


「早く避難を! 自分達がゲートを閉じます!」

「いや待て、お前異能力者か!? 出現したばかりのデミ・ゲート付近のクリスタル・ダストは――」


 エリアスの言葉を聞いてか、シールド隊員の足が止まる。もうあと数歩、どころか手を伸ばせばゲートには触れられる距離感だったのだが。しかし、エリアスの口ぶりからして、デミ・ゲートに近付くのは危険を伴うのではないだろうか。

 固まったように動かなくなったシールド隊員の背に、寧子は恐る恐る声を掛ける。


「あの? だ、大丈夫ですか……?」

「駄目そうだ。あんまり見ない方がいいぞ」

「え?」


 見るなと言われれば気になってしまうのが人の性と言うもの。

 エリアスがこんなバカげた冗談を言うとも思えないので、言われた通り背を向ければよかったのだ。


「う、ぎ……」

「ちょっと?」


 シールドの制服がどのような造りになっているのかは分からない。けれど、現場へ出る以上、身体を護る役目に重きを置いた制服である事は確かだ。

 なのに。隊員の身体から何かが致命的に破壊されるような――否、こんなものは現実逃避だ。人体で壊れた時にこんな音が出るようなものは骨くらいしかない。骨が強い力で無理矢理変な方向へ折り曲げられたような、酷い音が数度響く。

 やがて制服の内側から折れた骨の先端と、そして鮮血――これは何だろう。宝石のように光り輝くそれが飛び出す。まるで水晶のような輝きだ。


「廃晶病の末期症状。やがて全ての廃晶病患者は全身が結晶化する。これに関しては相当酷いパターンの末期だが。こいつは異能力者でもなければ、クリスタル・ダストの適正も最低値だったな、さては」


 体内に発生した結晶により、全身があらぬ方向へねじ曲がり、ついでに体内で生成された結晶が飛び出したその様は――


「うえ……」

「だから見るな、と言ったのに。人の忠告は聞くもんだ。座っている場合じゃない、立って足を動かせ。ここからが問題だ」


 胃の内容物がせり上がって来る感覚に堪らず座り込む。が、エリアスの冷えた声がそれを許してはくれなかった。

 もう彼は見るなとは言わず、先程とは逆の指示を飛ばす。


「見ろ。あれは俺達目掛けて襲い掛かってくるぞ」

「ええ!?」


 全身が結晶化し絶命したシールド隊員を核に四つん這いの――まるでトカゲの化け物のような、生物型をした何かが形成される。それは無機物であるにも関わらず、何とかと言う島に生息している大きなトカゲのように動き始めた。


「こいつらは人を襲う。生き物なのかは分からん。生きている人間へ優先して襲い掛かるから、狙いは当然俺達だ。行くぞ、逃げ――ああ?」


 振り返り、反対方向へ逃げようとしたエリアスが困惑したように声を上げた。

 見れば、もうひとりいたシールド隊員は石畳に突っ伏している。意識があるようには見えないが、呼吸はしているようだ。


「こいつも異能者じゃなかったのか。どうなってんだ、シールドは」

「こ、この人はまだ助かるんですか!?」

「まあ、数段飛ばしで末期症状には行かなかっただけで、廃晶病にはなっていそうだな。廃晶病対応の病院に辿り着ければ生き残る可能性はある。ただ、ここで5分も寝転がっていれば医療施設に辿り着く前にもう一人と同じ末路を辿るだろう。だがその前に――」

「あっ」


 エリアスが視線で結晶化した化け物を指す。


「こいつに襲われてお陀仏だろうな」

「わ、私の事は大丈夫なのでどうにかならないんですか!?」

「ハァ……。俺もこの結晶濃度の中に長時間居座る訳にはいかないんだがな……。シールドの隊員を見殺しにも出来ないか。離れていろ。だが、すぐに合流できるところにいてくれ」

「はい」


 やはり当然のように武装しているエリアスは、ロングコートに上手く隠していた銃器を取り出した。


「こういう謎の生物、どういう動きをするのか分からないな。面倒な相手だ」


 ――ルーシャさんや、ジャレッドさんはどのくらいで駆け付けるんだろう?

 3人で囲めば被害が少なくて済みそうな気がする。


 どのくらい離れれば安全なのか分からず、辛うじてエリアスが見える場所にまで避難する。というか、ジャレッド達を呼びに行った方が良いのだろうか。連絡はしていたようだが、現れる気配がない。


「――ここにいたら危ないよ」


 耳元。

 クスクスと笑いを含んだような少女の声が全く唐突に吹き込まれるように耳へと入ってきた。

 ぎょっとして硬直し、眼球だけを動かして右側を見やる。

 まるで急に湧き出したかのように、まったく見た事のない少女が立っている。何もない所から現れたかのようだ。


「え? えっ!?」

「驚いててカワイイ! こっちだよ」


 既に密着状態の少女が囁く、と同時に視界が切り替わった。遠くでエリアスの「何だお前!?」のような怒号が聞こえたが、それすら視界と同時にぶつりと途切れてしまった。


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