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07.自宅(4)

 ――このガラス容器の中なら、例のクリスタル・ダストとかいう有害物質は漏れ出さないんだよね?

 持ち運ぶにあたり、絶対に容器から花が飛び出さないように気を付けなければならない。行儀は悪いが、ガムテープか何かで蓋が開かないように接着してしまおうか。


 などと寧子が鉢植えの持ち運びについて思案していると、その横を通り抜けてエリアスが鉢植えの容器へ手を伸ばした。


「だ、駄目です!」

「ハァ? この期に及んで、まだ隣人との約束を守るつもりか?」

「え? いや、そうじゃなくて……。エリアスさん、クリスタル・ダストを浴び続けたら駄目なんでしょう? 私、運びます! 具合なんて悪くなったこと無いので」

「それはそれは。素晴らしい度胸だ」


 肩を竦めたエリアスはなおも何か言いたそうな顔をしたものの、その手を引っ込めた。その会話により、ようやくガムテープの所在を思い出した為、棚からほぼ使われずにしまい込まれていたアイテムを入手。


「これで、容器が開かないように固定しましょう! 危険物ですから」

「へえ? いいのか、約束の鉢植えをそんなぞんざいに扱って」

「仕方ないです。私以外にも迷惑の掛かりそうな物だし」

「成程」


 ――品定めでもされているかのような会話だ。

 漠然とそう思ったものの、何故にそうして品定めされる側になったのかが不明だ。ここで倫理から外れたような発言をしたら、何をされるのだろうか。少しだけ恐い。


 蓋が簡単に開いたりしないようにガムテープで固定した。容器がガラス製なので、そこの強度だけが心配だが移し替え出来るような容器などないので仕方がない。


「――寧子。俺は先にアーディ先生にこれからそのヤバい鉢を持ち帰る事を連絡する。戻るまでに荷物をまとめておけよ」

「分かりました」


 言いながら、エリアスはスマホに視線を落としつつ、外へと出て行ってしまった。


 ***


 話は少しばかり遡る。

 セラフ本社、自身の研究室にてアーディは少しばかり頭を抱えていた。


 ――やる事が多いな。それも、研究本題ではない作業が。

 幸野屋寧子の世話に多くの時間が割かれている。危険物のような少女なので致し方ない訳ではあるが、これこそまさに研究者の仕事ではない。

 早く人を立てて、この辺の仕事を丸投げしてしまいたい。

 イデリナは寧子の面倒を見る程度ならば業務としてこなせるが、彼女はなかなか適当だ。生きた爆弾が爆発しないようにフォローするのは不得手だろう。それに、双子の護衛は一人でも欠けるとアーディ自身の外出に支障をきたす。エリアスを連れ歩くのはごめんだ。奴は護衛にあまり向く性能ではない。


「アーディ先生! ただいま戻りました!」


 この頭が痛い状況の中、何一つ普段と変わらない様子で護衛のイデリナが帰還した。1階に届いた荷物を受け取りに行かせていたのだ。


「ご苦労。私宛の荷物は何だった?」

「いつもの研究用機材とかでした。あ、それと別件で。子羊会の綺麗なお姉さんが、先生に会いに来ていますよ」

「――何……? そんな物騒な組織に所属している知り合いはいない」

「やだな、先生! 知ってますよ、そんな事は。上層部のお偉いさんが、必ず会うようにと釘を刺してきたので会わないわけにはいかないみたいです!」

「それは、私が会うのか? 研究員ならば誰でもいいという訳ではなく、私が」

「はい。先生を名指しです! ちなみに拒否権がないので、もう表に連れてきていますよ。私ってばシゴデキ!」

「……。……分かった。中へ入れてくれ。誰か――そうだな、茶でも淹れてくれ。2人分」


 室内で様子を伺っていた別の作業者にそう声を掛け、デスクの椅子に深く腰掛ける。煩わしい事が多い上、適当にあしらっていい相手ではなさそうな人間の訪問。ストレスは尽きないものだ。


 やがて、すぐさまイデリナが研究室の外に待たせていた女を連れて戻って来た。

 癖で相手の出で立ちを確認してしまう。

 歳の頃なら30代前半か半ば。軽く癖のあるプラチナブロンドの長髪に不思議な色を湛えた双眸。子羊会構成員の特徴である、どこか浮世離れした空気感も当然健在だ。


 含んだように笑みを浮かべた女がゆったりと口を開いた。


「こんにちは。私は子羊会の一人、フリアよ。末永くよろしくね、アーディさん」

「末永く? 最初にその申し出を断ったのは、お前達だったと記憶しているが。まあいい、適当な椅子に座ってくれ。見ての通り、ここは研究室……客を迎えるような部屋ではない」


 子羊会――ゲートが現れる前から存在している、古い組織。何をしているのかは分からない。

 ただ一つ、先天的に異能者である者だけを構成員に加えるという性質を持つ。

 故に目的も凡そ分かるというものだ。寧子についてだろう。彼女も先天性の異能力者であり、子羊会の会員に招かれる要素がある。


「私が貴方の目の前に現れた以上、目的はもう分かっているのでしょうね。そう、寧子ちゃんの事よ」

「そうだろうな。要求は?」


 この情報はどこから洩れたのか。或いは幸野屋寧子は既に子羊会の御手付きで、勝手に連れ出したが為にこうなっているのか。


「遠い未来の話をするのであれば、私達の目的は寧子ちゃんを子羊会の構成員にする事――だけれど、それを言ってしまうと争いに発展するわね。だからもっとマイルドに、そう、彼女を見守るのが私の御役目なのよ」

「つまり?」

「私、子羊会の一員として貴方達の研究に貢献するわ。協力し合いましょう? 事が済めば、安全に彼女を勧誘できるはずだもの」


 ――事が済む、それは何を意味しているのか現時点で不明瞭だがな。

 考えられるケースはいくらでもあるが、さてどうだろうか。


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